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農林水産省

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affインタビュー CLOSE UP 仕事人 Vol.04

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炭焼き職人
大野長一郎さん

石川県内で唯一、専業で製炭業を営んでいる大野長一郎さんに、仕事への思いをうかがいました。
大野長一郎さん
4基ある窯のうち最も小さなこの窯で1回に600kgの炭が焼ける。
4基合わせると大野製炭の年間生産量は24~25トン。
植林活動など、製炭以外の活動が忙しくなり、炭焼きに専念できないことが悩みのタネ。
年間30トンペースに戻したいという

おおの・ちょういちろう
おおの・ちょういちろう
昭和51年、石川県珠洲市に生まれる。高校卒業後4年間勤めたのち家業を継ぎ、大野製炭工場代表に就任。現在、珠洲市木炭生産組合の組合長を務め、製炭業の継承や里山の保全にも力を注いでいる。

作業場の一角

山から伐り出され、窯に入れられるのを待つさまざまな太さの木々。

山から伐り出され、窯に入れられるのを待つさまざまな太さの木々。

良いお茶炭の条件

良いお茶炭の条件は、切り口はきれいな円で、中心から放射状に樹皮に届かない程度に細かい割れがあり、樹皮はだぶつきがなく、ぴったりと付いているもの。そして、火付きが良くて火持ちも良く、はぜずに火力があり、ほのかな香りがあることだそうだ

お茶炭には、成長が早く、まっすぐに伸びて姿の良い枝を集めやすいクヌギの木が最適だという

お茶炭には、成長が早く、まっすぐに伸びて姿の良い枝を集めやすいクヌギの木が最適だという。お茶炭の生産量を上げるため、平成16年の春から、持ち山だけでなく休耕地を借りて自らクヌギを植えてきた。そのクヌギはいよいよ来年辺りから伐り出せるそうだ

茶道の練習用の炭は1箱(6kg)で4,200円。安価で上質なため注文が多く、生産が追いつかない状態だ

茶道の練習用の炭は1箱(6kg)で4,200円。安価で上質なため注文が多く、生産が追いつかない状態だ

大野製炭工場
石川県珠洲市東山中町ホ部2
TEL.0768-86-2010
http://www.suzu.co.jp/oonoseitan/

Photo:Akira Taniguchi

里山を守り、製炭業を後世に伝えるために、
付加価値の高い炭づくりを進めています。

22歳で家業を継ぎ炭焼き職人の道へ
今月号の特集でも取り上げた「世界農業遺産」の認定では、能登地域における伝統産業の保存も高く評価されている。炭焼きも奥能登の伝統産業のひとつである。そこで石川県能登地域で炭焼きを行っている、大野製炭工場の大野長一郎さんを訪ねた。

大野製炭工場がある珠洲(すず)市は能登半島の先端に位置する市だ。風光明媚な海岸線から半島の中に向けて、山あいを走って行くと大野製炭工場が見えた。

炭焼きは、近世になって木炭の需要が高まるにつれ、技術的にも規模的にも発展を遂げた。特に明治時代末期以降、製炭業は重要な産業になったのである。

「それが今では産業遺産的な色合いを増しています。家庭燃料が木炭から石油やガスに変わった、いわゆる”燃料革命”によって、製炭業は成り立たなくなっていったのです」と、厳しい表情で大野さんが言った。

専業の炭焼きが減っていく中、大野さんの父が製炭業を始めたのは、昭和46年のことである。大野さんは炭焼きをする父の姿を見て育ったが、父が他界する前に、それまで別の仕事をしていた父が、なぜ製炭業に転身したかを聞くことはできなかった。

それでも父が残した窯を受け継ぎ、大野さんは22歳で地域の製炭業の担い手となった。不安はあったが、とりあえず飛び込んだのだ。実際に経営してみると、やはり厳しい仕事である。

炭焼きの工程は、まず木の伐り出しから始まる。長さを120cmくらいに切り揃え、太い木は平均6~8つ割りにする。

次は窯詰めである。切り揃えた材木を窯の奥から順に立てて詰めていく。窯詰めだけで3人がかりで丸1日かかるという。詰め終わったら、窯の入口を粘土や石などでふさぎ、窯に火を入れる。

それから5日間は昼夜を問わず、火を管理する気を抜けない時が続く。煙の出方などを見ながら火の加減をし、窯詰めから9~10日で焼き上がる。

1週間冷ましたのちに窯から出し、長さを切り揃えるなどの加工をして箱詰めとなる。

お茶炭の生産から里山の保全活動へ
大野さんは今、付加価値の高いお茶炭の生産に力を入れている。お茶炭とは茶道で湯を沸かすのに使う燃料用の炭のことだ。

茶道の場合、炭はただ湯を沸かすことができればいいのではなく、夏用と冬用で違い、また流派によって何種類も使い分け、それぞれにミリ単位で長さや直径が決まっている。それだけに茶会で使われるお茶炭は質が問われ、値が張る高級品だ。そんな高級炭を練習用に使うのはもったいない。

そこで大野さんは、上質でも手に入れやすい価格帯の、練習用のお茶炭も生産していこうと思ったのである。

お茶炭にはクヌギの木が最適だという。価格の高いクヌギのお茶炭を、低コストで安定的に量産していくために、大野さんは平成16年の春、所有している山にクヌギを植えた。周辺の里山を改めて見回すと、休耕地も多く、荒れていることに気づいたという。

そこで大野さんは仲間に声をかけ、平成19年の秋から、休耕地にクヌギを植林する活動を開始したのである。お茶炭の生産がきっかけとなり、里山保全の重要性を考えるようになったという大野さんの話は、とても興味深かった。まだ若い炭焼き職人の今後の活動が楽しみである。