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連載22 こぐれひでこ の いただきもの絵日記

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里芋


ズッキーニ
文・イラスト こぐれひでこ


こぐれひでこ
profile
イラストレーター&エッセイスト。『こぐれひでこのおいしい画帳』(東京書籍)、『こぐれひでこのごはん日記』春夏篇・秋冬篇(早川書房)、『私んちにくる?』(扶桑社)、『こぐれの家にようこそ』(早川書房)ほか、著書は30冊を超える。現在は、女性向けの人気情報サイト『カフェグローブ』で、ごはんをテーマにした『こぐれひでこの毎日ごはん』を、また遊び心をテーマにした情報サイト『あそびすと』でも連載中。

『こぐれひでこの毎日ごはん』
http://www.cafeglobe.com/travel/kogure/
10年近く前のこと。山形県を流れる最上川の河原でおいしい芋煮をごちそうになったことがある。芋煮とは里芋、ごぼう、豆腐、こんにゃく、きのこ、牛肉などを醤油(地方によっては味噌の場合もある)、砂糖、日本酒で煮込んだもの。

大きなアルミ製の鍋でぐつぐつと煮たものを各自取り分けて食べるのだが、これがとんでもなくおいしい。山形牛もごぼうもこんにゃくも、それぞれみんなおいしいのだが、里芋のおいしさは群を抜いている。すべての食材から流れ出したうま味はツルリとした里芋の肌から内部へと染み込んでいて、ウン、この鍋の主役は里芋、だから芋煮なんだね、と素直に納得させられてしまうのである。

少々濃いめに味付けされたそれは日本酒のお供に最適。クイッと酒を飲み、うま味たっぷりの里芋を食べる。最上川を渡るさわやかな風がほろ酔い気味の肌を優しくなでて過ぎていく。里芋とはこんなにおいしいものだったのか。誰もが里芋の価値を再評価するはずだ。

「芋煮会終わったがっす?」

山形の9月はこの挨拶から始まるという。家族や友人、地域の人々との親睦を深める行事として、芋煮会は秋の風物詩になっている。里芋の収穫期である9月から10月下旬にかけて開かれる芋煮会は、いわば収穫祭的な意味を持っていたのだろう。いつの日かまた、さわやかな風に吹かれながら、あのおいしい芋煮を味わいたいものだ。

里芋の原産地はインド、ネパール、マレー半島付近と考えられている。そのうち耐寒性のある種類が稲作よりも早い縄文時代後期以前に日本へ伝えられたのだという。つまり3000年より前から、我々の祖先は里芋を食べ始めていたということだ。江戸時代後期に伝来したというじゃがいもは里芋に比べたら、かなり新参者なのである。どうりで「芋の煮っ転がし」という言葉を聞くと、即座に里芋が頭に浮かぶはず。日本人のDNAは芋=里芋と判断するのだ、きっと。

炊き込みごはん、サラダ、あえ物、煮物、焼き物、炒め物、揚げ物、スープ(味噌汁も含む)など、里芋の使用範囲はとても広い。きめ細やかで軟らかでしなやかな里芋は、どんな風に調理されようが芯の部分は変わらない。人に例えるなら、強い自我を内に秘めながら、周囲の要望に合わせて変わってみせる女性、そんな感じかも。

3000年余りという長い付き合いゆえか、里芋は私たちの郷愁を呼び覚ます。そして、芋煮に限らず里芋料理はどれもおいしい。