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農林水産省

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特集1 世界農業遺産(2)

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トキと暮らす郷づくり

佐渡の農業が育む生物多様性


トキが棲める豊かな生態系を維持した里山と、生物多様性を保全する農業の姿が認められ、「トキと暮らす郷づくり」を進める佐渡の里山が世界農業遺産に認定されました。


水田でエサをついばむトキ

水田でエサをついばむトキ

海抜約250mから400mの山腹に連なる「岩首の棚田」

海抜約250mから400mの山腹に連なる「岩首の棚田」。地域をあげて棚田の保全に取り組んでいる。眼下に広がるのは佐渡海峡だ

江戸時代、金山で働く人口の急増に伴って開田された「小倉千枚田」

江戸時代、金山で働く人口の急増に伴って開田された「小倉千枚田」。現在は棚田のオーナー制度を導入して千枚田の景観復活と棚田保全に努めている

「佐渡の車田植」は、田の中央に植えた苗を中心に車状に丸く田を植えていく田植えの仕方で、田の神に豊作を祈る農耕儀礼だ

「佐渡の車田植」は、田の中央に植えた苗を中心に車状に丸く田を植えていく田植えの仕方で、田の神に豊作を祈る農耕儀礼だ

神社の能舞台で行われることが多い佐渡の薪能

神社の能舞台で行われることが多い佐渡の薪能。9月3日・10月1日の19:30~、「天領佐渡両津薪能」が佐渡市原黒にある椎崎諏訪神社能舞台で行われる

鬼と獅子が勇壮に舞う佐渡の「鬼太鼓」

鬼と獅子が勇壮に舞う佐渡の「鬼太鼓」。島内に100を超える保存会があるが、舞い方や太鼓の叩き方は各地域によって異なる

「道遊の割戸(どうゆうのわれと)」

「道遊の割戸(どうゆうのわれと)」。佐渡金山発見のきっかけとなった大鉱脈の露頭掘跡である。山頂中央をVの字に切り割った景観は圧巻だ。壁面にも多くの坑道跡が見られる
豊かな生態系
今回、世界農業遺産に認定された佐渡はひとつの島としては珍しく、1,000m級の山々が連なる山脈をもつ島です。山や深い森がもたらす恵みは大きく、トキが野生復帰できる豊かな生態系が維持されています。また、トキのエサ場となる水田など佐渡の農業は、金山の歴史と深く関わることにより生物多様性も保全されました。

金山を抜きにしては語れない佐渡の歴史
佐渡の農業と金山は切り離せないという話を聞きました。初めはそれがどういうことか、すぐには理解できませんでした。

佐渡の金山と農業の関係を、ここで少しお話ししましょう。

江戸時代初期に金山が発見された佐渡島は、江戸幕府直轄の天領となり、豊富な金銀の産出で隆盛を極めました。

江戸時代、金銀山の採掘やそれに関わる商売を目当てに、全国各地から労働者や商人たちが、佐渡に集まり、人口は最大10万人にものぼりました。農業や漁業で細々と生計を立てていた、日本海に浮かぶ小さな島は、まさにゴールドラッシュの状態でした。

島に流入したたくさんの人々の食をまかなうために、島民たちは山の斜面を開墾して棚田を作り、需要に応じて農産物の増産に励みました。これらの水田に用水をくみ上げるために、金山の坑内排水技術「水上輪(すいしょうりん)」が活用されました。ここで生産された米や野菜は、供給が追いつかないほどの需要があり、生産した分だけ高値で売れました。

また、人口が多く消費が旺盛な金山では、わらじや蓑をはじめ農家でつくることができる生活物資なども売れることから、島の農家は困窮することがなく、大地主が育ちませんでした。このため、近代化が進んできても小規模農家が多いことから農地管理に目が届き、農薬などに頼らない農業を続けることができたので、生物の多様性も保全されてきました。

こうして佐渡の農業は、島の経済を担う重要な産業となるとともに、人の手が加わった二次的自然を形成し、島の生態系を支えてきました。金山の歴史が佐渡の農業と深く関わっていたというのは、こういうことなのです。

独自に発展した佐渡の伝統文化
金の積出港だった港の周辺地域はにぎわいを見せ、幕府の直轄地だった佐渡には、江戸からさまざまな物資が運ばれてきました。

運ばれてきたのは物資だけではありません。今まで島になかった新しい知識や技術、ほかの地域の文化・芸能がもたらされました。

例えば、古くから田の神に豊作を祈る農耕儀礼「佐渡の車田植」は、全国でも佐渡と飛騨にしか残っておらず、国の重要無形民俗文化財に指定されています。それらは佐渡独自の文化と渾然一体となって発展していきます。

また、能や狂言。佐渡でも中世から能を親しんできたという資料が残されていますが、江戸時代、いっそう広がりを見せました。

かつて佐渡には200以上の能舞台があったといわれています。現在は30余に減ったとはいえ、日本の能舞台の3分の1が佐渡に集中しています。

多くの祭礼で舞われる「鬼太鼓(オンデコ)」は、約500年前に佐渡に伝わったとされる代表的な神事芸能です。「鬼太鼓」は邪気を払い、五穀豊穣を祈る伝統芸能として、重要な役目を果たしてきました。

トキの野生復帰活動を生んだ農業システム
佐渡の経済を支えた金山も、明治時代になると産出量も減り、やがて衰退していきます。

けれど、佐渡にはトキをはじめとする豊かな生きものを育む里山や、多くの人口を支える生産力をもった農業、さらにその農業と密接に結びついた農村の伝統文化が残りました。

かつて北海道の南部から九州・沖縄まで広く生息していたトキは、乱獲や開発によって、激減しました。トキ最後の生息地となったのが佐渡でした。

佐渡では、トキの野生復帰の前提となるエサ場を確保し、生物の多様性を保全するため、地域に残されてきた農業システムに着目し、環境に配慮した農業を進め、ビオトープや水田魚道の設置、冬みずたんぼ(冬期湛水)の導入に取り組んでいます。

それが、佐渡の伝統文化とともに、人と自然の共生を目指す新たな農業の在り方として評価されているのです。

地図

伝統芸能・観光の問い合わせ 佐渡観光協会 TEL.0259-27-5000

この人に聞きました

佐渡のブランド米「朱鷺と暮らす郷」

佐渡のブランド米「朱鷺と暮らす郷」
佐渡には生物多様性を考慮した「朱鷺と暮らす郷」という認定米があります。その米が誕生した経緯を渡辺さんは次のように話してくれました。

「平成19年まで、佐渡米は独自のブランドもなく、新潟の米として出荷されていました。

佐渡米として出荷しても不評なら生産調整をしなくてはいけなくなるし、休耕田になれば、トキのエサ場も減ってしまいます。

佐渡の恵まれた自然環境を何とか生かし、環境をブランド化したいと考えて、「トキと共生する農業システム」をコンセプトに、平成19年12月から「冬みずたんぼ」を実践することにしました。

我々の呼びかけに対して、当初、農家の反応は芳しくありませんでした。虫や小さな生きものが生息できるような、厳しい条件が決められた農法では、収穫量が下がるのではないかという不安があったのです。米の生産量も落ちていた厳しい時だったので、なおのこと踏み出せなかったのでしょう。

ですが、生産者に対して強制はしませんでした。生産者に自主性がなければ、こういう活動は長続きしません。

すると、1人の生産者が「厳しいことには変わりない。トキが暮らせるような農業をやってみようじゃないか」と声を上げました。そして、自主的に動き始めたのです。

米作りが厳しい状態のときに提案できたことが、かえってよかったのだと思っています。
平成20年産から「朱鷺と暮らす郷づくり」認証制度を導入し、少しずつ「佐渡コシヒカリ」を世に送り出していきました」

渡辺さんは「もともと佐渡には環境の力、生産者の力があった。生産者がそれをうまく表現できなかっただけだった」といいます。

生物多様性の保全は、ただ自然の状態を維持することではありません。里山、里海は人の手がきちんと入ることで守られていくものです。今、佐渡ではそのシステムが確実に根付き始めています。

「めぐみ」を守る各地の取り組み・その1
環境の保全

佐渡及び能登が世界農業遺産に認定されたのは、持続的な農業生産活動の取り組みやその活動を通じた生物多様性、
伝統・文化などの多面的機能も評価されたからです。
農業・農村は、私たちが生きていくのに必要な米や野菜などの生産の場としての役割を果たしているばかりでなく、
洪水を防ぎ、地下水を作るなど、私たちの生活に大切な多面的機能をもたらしています。
この多面的機能こそ、私たちが農業や農村から享受している「めぐみ」です。
全国各地で地域が一体となり、水路の泥上げやあぜの草刈りなどを行ったり、棚田を守ったり、
地域の伝統文化の伝承に力を注ぐなど、農業・農村の「めぐみ」を守る取り組みを進めています。
ここでは、「環境の保全」「伝統の維持・保全」に取り組んでいる事例を紹介します。

ドジョウの放流

ドジョウの放流

コハクチョウ

コハクチョウ

農事組合法人ファーム宇賀荘(うかしょう)
島根県安来市(やすぎし)
ドジョウやコハクチョウと共生する大規模な米作り

安来市の宇賀荘地域は昔ながらの土水路が残っており、メダカやドジョウなどが多く生息しています。地域の豊かな自然を事業の実施によって損なうことがないよう、ファーム宇賀荘では平成13年度から生態系保全型水田整備推進事業を導入し、減農薬・減化学肥料の米作りを進めています。

また、地域住民を対象に生き物調査やヨシの植栽などの環境学習会も実施しています。島根県の民謡、ドジョウすくいの「安来節」にちなんで、20万匹のドジョウを放流した約10ヘクタールの水田(無農薬・無化学肥料)には、1,000羽のコハクチョウをはじめとする野鳥が訪れ、冬を越すようになりました。
五枝の松のクメジマボタルの発光

五枝の松のクメジマボタルの発光

ホタルの会の稲刈り体験

ホタルの会の稲刈り体験
大田、カンジン、儀間(ぎま)地区
沖縄県久米島町(くめじまちょう)
固有種の発見をきっかけに環境の保全活動を推進

平成6年、久米島だけに生息する「クメジマボタル」の発見を契機に、島の有志が久米島ホタルの会を設立。

「クメジマボタル」を地域再生のシンボルとして活用し、島の小学校、農家、自治体などの団体との連携によるホタルの保護活動や島の多様で豊かな生態系と自然環境の保護・保全を行っています。

地元有志によるこのホタルの保全活動が県内外に知られるようになり、ホタルやサンゴ観察会などにたくさんの人が訪れるようになりました。大田、カンジン、儀間(ぎま)地区では「ホタル」と「サンゴ」をキーワードに、年齢階層、職種を越えた交流や研修、ボランティア保全活動も活発化しています。

久米島ホタルの会 http://kumehotarunokai.com/