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特集1 世界農業遺産(3)

伝統的な農山漁村の営みが残る

能登の里山・里海


里山・里海を中心に守られてきた能登の持続的な農林水産業と、一体的に維持・保存されてきた伝統的な農村文化の姿が認められ、「能登の里山・里海」が世界農業遺産に認定されました。


先人の知恵と苦労がしのばれる白米千枚田
先人の知恵と苦労がしのばれる白米千枚田

キリコ(切籠)とは、切子灯籠(きりこどうろう)の略称

キリコ(切籠)とは、切子灯籠(きりこどうろう)の略称。夏から秋にかけて農村の豊作、漁村の豊漁や、厄病退散などを祈願する伝統ある祭りとして継承されている

神様を料理でもてなし、家から田に送り出して豊作を祈願する奥能登に古くから伝わる「あえのこと」という行事

神様を料理でもてなし、家から田に送り出して豊作を祈願する奥能登に古くから伝わる「あえのこと」という行事

珠洲市にある「揚げ浜塩田」

珠洲市にある「揚げ浜塩田」

珠洲市にある「揚げ浜塩田」。「揚げ浜式」製塩法は江戸時代以前から続く製塩法で、人工的な自然製塩法としては日本最古の手法のひとつ。道の駅「すず塩田村」では体験塩田で塩づくりの体験ができる

輪島では親子代々、海女という漁家も珍しくない。ウエットスーツと水中眼鏡を身につけ、水深数10mも潜って漁をする

輪島では親子代々、海女という漁家も珍しくない。ウエットスーツと水中眼鏡を身につけ、水深数10mも潜って漁をする

海女のお話を聞かせてくれた、県内一の水揚げ高を誇る石川県漁業協同組合輪島支所の磯野春喜さん(左)と上浜敏彦さん(右)

海女のお話を聞かせてくれた、県内一の水揚げ高を誇る石川県漁業協同組合輪島支所の磯野春喜さん(左)と上浜敏彦さん(右)

「いさざ」が通りかかると網を上げて獲る漁

「いさざ」とは、「しろうお」のこと。春の訪れとともに、河口に写真のような四ツ手網を仕かけ、「いさざ」が通りかかると網を上げて獲る漁

輪島名産として名高いあわび

1000年以上の歴史があるという輪島の朝市。

(上)輪島名産として名高いあわび。(下)1000年以上の歴史があるという輪島の朝市。活きのいい魚介類や採れたての新鮮な野菜が並ぶ。おばさんたちの客にかける呼び声があちこちから聞こえる

能登の農村景観の特徴
今回、世界農業遺産に認定された能登は、石川県の七尾市、輪島市、珠洲(すず)市、羽咋(はくい)市、志賀町、中能登町、穴水町、能登町の4市4町からなる能登地域GIAHS推進協議会を設置しています。

能登は標高200mから500m程度の丘陵地が大部分を占め、山ひだの少ない平地に谷津田を形成した美しい農村風景が見られます。

大きな川や高い山がなく、里山から里海に続く能登では、農林水産業が密接に生物多様性を育み、農村文化・景観を形成する重要な役目を果たしてきました。

輪島市の白米(しろよね)の千枚田は、奥能登の最高峰である高洲山(こうしゅうざん・標高567m)の山すそから海へ向かって、急斜面を切り開いて作られた広大な棚田です。

真っ青な海と何段もの細長い水田が続いており、四季折々に変化する白米の棚田は、能登の里山・里海景観を代表する景勝地になっています。

しかしながら一枚当たり平均18平方メートルと、全国的にも比類のない小さい水田では大型機械は使えず、人手による労力が必要なため、高齢化後継者不足が深刻な集落の農家だけでは維持できません。そこで輪島市では平成18年からオーナー制度を設け、日本の財産として後世に残す活動を進めています。

毎年たくさんの観光客や写真愛好家が訪れる白米千枚田は、平成11年に農林水産省が認定する「日本の棚田百選」に選ばれ、また平成13年には、国の史跡名勝天然記念物に指定されました。

伝統文化や伝統産業を守り育てる能登の人々
能登では、農耕や里山・里海と結び付いた能登特有の伝統産業や伝統的な農村文化も数多く残っています。

伝統産業においては、唯一能登だけに残る「揚げ浜式」と呼ばれる伝統法を用いた製塩のほか、炭焼きは間伐や植林など里山の管理・保全、海女による漁は里海の資源保全と結びつくほか、重要無形文化財の輪島塗などの林産加工など枚挙にいとまがありません。

一方、農村文化では、奥能登一円の農家で行われる農耕儀礼「あえのこと」が、平成21年ユネスコの無形文化遺産として登録されています。

これは毎年12月に田の神様を自宅に招いて料理や風呂でもてなして、その年の収穫に感謝し、翌年2月の耕作前には再び田の神様を料理でもてなし、家から田に送り出して豊作を祈願するという、奥能登に古くから伝わる神事です。

また「キリコ祭り」は7月から10月にかけて、毎週能登のどこかの集落で行われているといわれる祭りです。農村部では豊作祈願、漁村部では豊漁祈願をする、伝統あるお祭りとして継承されています。

このように能登では、各地域で里山・里海の景観とその機能を維持する先進的な取り組みを進めると同時に、農耕と結びついた能登特有の伝統的な農村文化や伝統産業の保存にも力を入れてきました。

里海の保全に寄与する輪島の海女たち
輪島市の海女漁は全国的にも有名です。登録数170〜180名。石川県漁業協同組合輪島支所の磯野春喜さんは「輪島の海女の数は、世界一なのではないかと思います」と言っていました。

磯野さんによると、現在最も若くて18歳、最高齢で90歳の海女がいるそうです。平均50歳代。7月から9月末までの間、彼女たちは輪島沖に浮かぶ七ツ島や舳倉島(へぐらじま)で、あわびやさざえ、海藻などを素潜りで獲っています。

今は漁船の性能がよくなったため、約50km離れた舳倉島に片道1時間半程度で渡れますが、昔は3時間もかかりました。そのため、漁期になると舳倉島で寝泊まりしながら漁をする海女もいたそうです。

漁期には毎日70〜80人であわび150kg、さざえ3トン、多い時にはさざえ5トンを水揚げするというから驚きです。だからと言って海女たちは手当たり次第に収獲しているわけではありません。稚貝はきちんと選別し、水産資源の持続的な営みを阻害することはありません。輪島の海女たちは今でも、水産資源の利用や管理のためのルールを皆の話し合いによって決めていくスタイルを伝統として守り続けています。

そのほか能登地域では、伝統漁法「いさざ漁」なども残っています。

何百年、何世代にわたって能登を育んできた里山・里海と伝統を、地域の人々は協力し合いながら、守り育ててきました。今後、世界農業遺産の認定を受け、時代や環境の変化に対応しながら、生物多様性を育むことを重視した自然との協働関係を維持・推進していくことが期待されています。


地図

能登観光ポータルサイト「のとねっと」 http://www.notohantou.net/


この人に聞きました

地元の木材を使って改修したという多田さんが営む農家民宿「春蘭の宿」

地元の木材を使って改修したという多田さんが営む農家民宿「春蘭の宿」、多田さんの生家である。囲炉裏を囲む多田さんとインターンシップの学生たち。

50年前と変わらぬ暮らしが息づいているという春蘭の里

50年前と変わらぬ暮らしが息づいているという春蘭の里
能登町の宮地・鮭尾地区には、黒い屋根瓦に白壁が際立つ家屋が点在する美しい農村風景が広がっています。

能登空港から車でわずか10分足らず。その一帯は「春蘭(しゅんらん)の里」として、能登町のグリーンツーリズムの拠点となっている地域です。

「春蘭の里」の形成と景観保全に尽力してきた多田さんは、「春蘭の宿」と名づけられた農家民宿を営み、インターンシップで学生たちの研修を受け入れています。

「この活動を始めたきっかけは、さびれていく故郷をどうするかという思いでした。事実、近隣5軒が空き家になってしまった。このままではいけないという気持ちでした。

そこで、地域が主体的になって、行政に頼らない町づくりを目指そうと考えたのです。それは裏返せば、行政が応援したくなるような町づくり。大事なのはそこです」

多田さんは住民レベルで進めていこうと決め、平成8年、地域おこしの柱となる「春蘭の里実行委員会」を立ち上げました。

多田さんの呼びかけによって、農家が農家民宿の営業許可を取り、さまざまな体験メニューを展開し始めました。

「『春蘭の里事業』は、宮地・鮭尾地区から始まりましたが、農家民宿は旧山田村全域に広がっています。人口でいえば800人くらいの地域ですが、今では30軒もの農家民宿があります。

昨年は春蘭の里にある農家民宿に、5,000人もの人が泊まりに来てくれました。

今後は地域に住むわれわれ高齢者が、そういった自信のある背中を若い者に見せ、Uターンしてきた若者たちや、都会から新しく移住してきた人たちが、経済的に成り立つ基盤を作っていこうということで、鋭意進めています」

多田さんは「ぜひ見てください」と、周辺の絶景ポイントを案内してくれました。

「この風景を都会の人に知ってもらいたい。建物を改修する場合でも、黒い屋根瓦に白壁の伝統的な建築様式を用いるように努めてもらっています。母屋、蔵、納屋の形状や配置は、この地域固有のものですからね。どうです、きれいでしょ?」

目の前には、色彩に統一感があり、生活の営みと自然環境が調和した、落ち着きのある農村風景が広がっていました。

「若者からお年寄りまで、心豊かに暮らしを営める、誇り高い故郷作りを目指している」と語る多田さんの熱い思いが、この景観を維持する原動力になっているようです。地域の再生や伝統の維持には、多田さんのようにがむしゃらに人を引っ張ってゆくキーパーソンも必要なのです。

春蘭の里 http://shunran.info/

「めぐみ」を守る各地の取り組み・その2
伝統の維持・保全

かやぶきの里

かやぶきの里

お田植え祭

お田植え祭

美山かやぶきの里
京都府南丹市(なんたんし)
歴史的景観の保全と地域活性化に注力

「かやぶきの里」の愛称で呼ばれる旧美山町の北地区では、かやぶきの里保存会を組織し、永続的な歴史的景観の保全と地域住民の生活を両立するため、住民の出資で有限会社かやぶきの里が設立されました。

同社では地元産きびなどを加工する「きび工房」、農家レストラン「きたむら」、直売所「ゆらり」を運営し、地域の景観保全やボランティアガイド、民宿などで田舎体験などを実施しています。

田畑が管理保全されることで、伝統的風景の維持やかやぶき民家集落といった伝統文化の保護、かやぶき屋根の技術の継承が実現し、「お田植え祭」の見学者も含め、年間70万人が訪れるようになりました。

かやぶきの里北村 http://www.kayabukinosato.com/
オーナーによる稲刈り

オーナーによる稲刈り

秋の千枚田

秋の千枚田
大山千枚田
千葉県鴨川市
棚田の保全活動を通じて里山文化を発信

千葉県鴨川市大山地区は、地形的・水利的にも厳しい耕作条件に加えて、農家の高齢化や後継者不足で地域の営農意欲が損なわれ、耕作放棄が懸念されていました。

そこで、中山間地域活性化を目指して、棚田を地域の財産として、平成9年に大山千枚田保存会を設立。以来、棚田オーナー制度などの事業を展開しながら組織を拡大し、平成15年、大山千枚田保存会はNPO法人の認証を受けました。

県内外から訪れる人々に、里山や里山文化(棚田・畑・森・寺社)の役割や地元の高齢者が持つ地域に残る技術など、棚田での農作業をはじめ、さまざまな体験やイベントを通じて、農村の魅力や大切さを伝えています。

NPO法人大山千枚田保存会 http://www.senmaida.com/


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