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農林水産省

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affインタビュー CLOSE UP 仕事人 Vol.05

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建具・家具職人
有賀恵一(あるがけいいち)さん

国産材の利用促進を提唱し、原木の仕入れから製材、乾燥、加工、販売までを一貫して手がける
有賀建具店の有賀恵一さんを訪ねました。
有賀恵一さん

あるが・けいいち
あるが・けいいち
昭和25年、長野県西箕輪村に、建具職人の長男として生まれる。基督教独立学園高等学校卒業と同時に父について建具の修業を始め、昭和53年、28歳のときに有賀建具店を継ぐ。平成15年、長野県卓越技能者表彰受賞。また同年、木工家具デザイナーと建具作りの名人たちが、国産材を使った無垢(むく)の家具や住宅の建具作りを提唱するために設立した「森世紀(しんせいき)工房」に、立ち上げのときから参加している。

有賀建具店の周囲にはこのようにたくさんの木が桟積みされている

木にもう一度命を吹き込む道具たち

(上)有賀建具店の周囲にはこのようにたくさんの木が桟積みされている。外見は薄汚れていても数mm削れば、中はとてもきれいだという。黒い色はアクが出た証拠だそうだ。
(下)木にもう一度命を吹き込む道具たち。今、有賀さんの工房にはこれらの道具を手にする弟子が4人働いている

事務所には90種におよぶ木の見本が飾られていた。このうち実際に使うのは60種類程度だという

事務所には90種におよぶ木の見本が飾られていた。このうち実際に使うのは60種類程度だという

いろいろな樹種の木目や色を知ってもらうために作られた積み木(14,000円)。子どもより大人に人気がある

いろいろな樹種の木目や色を知ってもらうために作られた積み木(14,000円)。子どもより大人に人気がある

有賀建具店 長野県伊那市西箕輪吹上1324-1 TEL.0265-73-2870

Photo:Eri Iwata

使えないと判断された木でも使ってやりたい。
木にも適材適所の使い方があるのです。

それぞれの木の個性を生かせる職人に
有賀恵一さんの工房は、うず高く桟積(さんづ)み(※)された木で囲まれていた。まるで材木屋のようである。ここにあるほとんどの木が、一般には建具や家具には不向きとされてきた樹種だそうだ。

「昔から日本で使われている伝統的な建具の樹種はスギ、ヒノキなどの針葉樹です。針葉樹は大きな木に育てて使うことが多いため、曲がったり、捻(ね)じれたりすることが少ない。軽くて加工しやすいうえ、作ったあとに狂いが生じにくいですね」

そう話してくれた有賀さんだが、有賀さんがスギやヒノキを使うことは少ないという。

「ほとんどの建具職人が親方から、すべて同じように作れ、同じ規格で作れと叩きこまれます。色も木目もそろえ、できれば一本の木から作りなさいと。それが一番いいとされてきました。でも、いいところばかりそろえるとなると、材料にかなり無駄が出るし、木目までそろえるということは、とにかくいい材を使わなくてはいけない。そうすると少し捻じれていたり、クセのある硬い木はダメな木ということになってしまいます」

有賀さんが胸を痛めたのが、山で伐られたまま放置される木だ。買い手が付かないなどの理由で、山から出してもらえずに、朽ちていくだけの木々がある。どうしてもまっすぐ育たない広葉樹の仲間だって、使ってやれるはずだ。もったいないと有賀さんは思った。

有賀さんは、建具や家具に使うほとんどの木を、チップ工場から仕入れている。山から出してもらえるだけまだいいが、そのままだったら紙になってしまう木である。

「それらは山の人や職人たちから、建具や家具に使えないと判断された木です。でも、時間をかけてやれば、きっと使えると思いました。

一時プリント合板が流行った頃、うちでもずい分使ったことがありました。楽に作れるけれど、できたものはすべて同じもの。木目も印刷ですからね。これはどこかおかしいという気持ちがありました。

例えば、そこに積んであるニレの木。同じニレでもそれぞれ全部違うんですよ。このように寝かせることで使える木になり、加工する際にクセがあっても、それを使える職人になればいいだけのこと。こんな使い方がいいかなとそれぞれの性質を考えればいい。

加工しやすく量産された木を使うほうが、手っ取り早いし、コストもかからない。でも、木だって人間と一緒でみんな違う。個性があってもいいじゃありませんか」

木が自由に動けるように作る
桟積みをするときは、新しく入手した木を一番下に置く。放っておけば、好きなように捻じれてしまうので、重さをかけてそのまま乾燥させ、捻じれようとしても捻じれないようにしてしまうのだ。

風通しや陽の当たり具合を見ながら場所を移動させ、樹種にもよるが、だいたい5~6年くらい寝かせておく。それでも捻じれる木はあるが、そういう木は短い丈で使えるところに使う。節のある木も、それが生かせる場所に使う。まさに適材適所である。有賀さんは「今まで使えない木はありませんでしたよ」とほほ笑んだ。

かつては建具屋も丸太で購入し、自分で製材・乾燥させて使っていたという。今、原木の仕入れから加工までを行う職人は珍しく、ほとんどの職人が材木屋からすぐに使える材を入手する。こうして手間暇かけた有賀さんの木材を、ほかの建具職人だけでなく材木屋までもが買いに来るそうだ。

「作るときにも大切なことがあります。それはその木自体が製品になっても、自由に動けるように作るということです」

どんなに乾燥させても、10年、20年経っても、木は伸縮するそうだ。建具や家具に生まれ変わっても、木はちゃんと呼吸をし、気候に応じて伸び縮みしている。だから、どんな建具も家具も、組んだ部分を強固に糊で固めてしまってはよくないという。

どこまでも木という素材の特徴を生かそうとする有賀さんの姿勢は、木のある暮らしの豊かさを見直させてくれた。


(※)製材を乾燥させるため、上下に桟木(さんぎ)と呼ばれる細い角材をはさんで、すき間を作りながら積み重ねること