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特集1 食の未来を拓く 品種開発(3)

コシヒカリを超える県産ブランド米の開発

福井県がスタートさせた取り組み


「コシヒカリの里」の石碑とポストコシヒカリ開発部の清水豊弘部長
「コシヒカリの里」の石碑とポストコシヒカリ開発部の清水豊弘部長





品種開発用の試験ほ場

品種開発用の試験ほ場



東京都港区にある福井県のアンテナショップ「ふくい南青山291」で行われた食味評価会の様子

東京都港区にある福井県のアンテナショップ「ふくい南青山291」で行われた食味評価会の様子
新たに設置されたポストコシヒカリ開発部
「コシヒカリ」といえば、新潟県南魚沼産が有名ですが、「コシヒカリ」は新潟県で交配され、福井県で育成された品種です。福井県農業試験場には「コシヒカリ」を育成した場所であることを示す石碑が建てられています。

福井県では、「コシヒカリ」誕生後も、「キンパ」や「ハナエチゼン」、最近では「イクヒカリ」「あきさかり」など、これまでに40を超える品種を世に送り出しています。

ここ数年、夏の高温も影響し、全国的に「コシヒカリ」の品質低下が指摘されている中で、全国区のブランド米の育成を目指して、今年度、農業試験場内に「ポストコシヒカリ開発部」を新設。「コシヒカリ」を超える新たな品種の開発を本格的にスタートさせたのです。すでに世代促進(※)を終えた株の個体選抜から、作業を開始しました。

消費者の意見に耳を傾けながら
ポストコシヒカリ開発部が7年後の登録出願を目指して開発している品種は、どんな品種なのか、同部の清水豊弘部長に聞きました。

「コシヒカリから受け継いできた食味の良さはもちろん、いもち病などの病気に強く、倒伏しない品種であること。猛暑や残暑の厳しい年でも品質が保てるような高温耐性を持つこと。環境への負荷が少ないエコ農業を実現するために、有機質肥料で安定した栽培が可能なことも大切です。消費者にとってはおいしくて、生産者には作りやすく、そして環境にもやさしい品種開発を目指しています」

福井県農業試験場では、独立行政法人農業生物資源研究所と共同で、高温障害のひとつである「背白米(せじろまい)」の遺伝子を特定する研究を全国に先駆けて取り組んでいるそうです。同試験場の米のほ場は2ヘクタール。そのうち1ヘクタールがポストコシヒカリ開発用のほ場です。

また、消費者参加型の新品種の開発に着目し、開発段階から消費者の味覚を重視して選抜。すでに、消費者の嗜好を開発に反映させるために、食味評価会を4回実施したといいます。

(※)世代促進:前のページの「交配による品種開発の流れ」参照。

ポストコシヒカリ開発部の職員たち

  ポストコシヒカリ開発部の職員たち

ポストコシヒカリ開発部の職員たち

  ポストコシヒカリ開発部の職員たち

ポストコシヒカリ開発部の職員たちは、イネの穂や粒の数を数えたり、DNAの解析をしたり、日々忙しく品種開発に取り組んでいる

収穫量上位10品種(平成21年産)
平成21年産の収穫量のトップは「コシヒカリ」。割合は36.5%で、2位の「ひとめぼれ」10.0%を大きく引き放しています。「ひとめぼれ」も「ヒノヒカリ」も「あきたこまち」も、「コシヒカリ」の子どもです。
資料:農林水産省「平成21年産水稲の品種別収穫量」

平成21年産水稲の品種別収穫量

作物研究所のDNAマーカーによる解析作業

作物研究所のDNAマーカーによる解析作業

作物研究所のDNAマーカーによる解析作業

品種開発こぼれ話(1)
開発年数の短縮に役立つ技術
農作物の品種改良は、病害虫に強いとか収穫量が多いなどを目的とする性質を持っている個体を選ぶことから始まります。これを「選抜」と呼んでいますが、その選抜をより容易に、かつ正確に行うために開発されたのが、「DNAマーカー」による選抜(識別)技術です。

性質の違いは、それぞれの性質に対応する遺伝子の違いによります。すべての細胞の遺伝子は、生長しても変わらないので、早い時期に好ましくない性質をもっている個体が分かれば、育成する前に取り除くことができます。DNAマーカーを使えば、発芽直後の植物のDNAのサンプルだけで性質を正確に判別でき、しかも複数の性質を同時に識別することができるのです。

イネの遺伝子は約32,000種類あると予測されており、その中から個々の遺伝子を見つけ出すまでには時間がかかるため、DNAマーカーによって識別できる性質はまだ限られていますが、DNAマーカーは育種期間の短期化に貢献しています。ちなみに米の場合は、いもち病への耐性をもつDNAは確実に識別できるようになりました。

注目の新品種1
温暖化にも強い米を九州で開発された「にこまる」の特徴

地域が求めた「ヒノヒカリ」の後継品種
九州では、地域を代表するブランド米である「ヒノヒカリ」が作付面積の約6割を占めています。全国的にも「コシヒカリ」「ひとめぼれ」に次いで第3位の人気米です。

ところが、近年の気候の温暖化によって、九州でも出穂してから刈り取るまでの成熟期に気温の高い年が多くなり、それが原因の米の品質低下が問題になっていました。そのため高温年でも安定した品質と収穫量が得られて、なおかつおいしい品種が求められるようになったのです。

そうした性質を兼ね備えた品種が「にこまる」でした。もちろん、ここ数年の猛暑を受けて作られたわけではありません。温暖化傾向を見越して、九州農業試験場(現・独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構九州沖縄農業研究センター)で平成8年に交配を行い、育種してきた品種です。「にこまる」の育成者のひとり、同センター稲育種グループの坂田真さんに話を聞きました。坂井さんは米の品種開発に携わって27年になる研究者です。

高温年でも高収穫と食味の良さを実現
平成元年に誕生した「ヒノヒカリ」は品質・収量ともに優良な品種で、「ヒノヒカリ」を超える品種はなかなか作れなかったといいます。ところが、その「ヒノヒカリ」でも、だんだん粒揃いが悪くなる年が出てきました。作付面積の多い「ヒノヒカリ」が品質不良で米の等級が下がれば、それによって生産者の収益も減ることになります。さまざまな調査をした結果、出穂の時期の高温が影響していることが分かったそうです。

「今後の温暖化傾向を考慮して、『ヒノヒカリ』に代わる品種を育成してきました。『ヒノヒカリ』を親にした交配も行いましたが、特性がもっとも優秀で最後まで残ったのは、『ヒノヒカリ』とは異なる親の交配組み合わせで、これが『にこまる』となりました。『にこまる』の誕生は平成17年。それ以降の高温年にも、『にこまる』は品質がよく、食味も落ちませんでした。特に22年の記録的な猛暑でも、熊本県では90%以上が1等米でした」

「にこまる」の名は、笑顔がこぼれるほどおいしい品種であることと、丸々とした粒張りのよさとを表現したものだそうです。財団法人穀物検定協会が発表する「米の食味ランキング」でも、「にこまる」は3年連続で最高ランクの「特A評価」を受けています。それでも坂井さんたちは、すでに「にこまる」をベースにして、耐病虫性を強化した改良品種を育成中だそうです。品種開発に終わりがないことを実感しました。

にこまるの系譜
にこまるの系譜

緑色の品種はコシヒカリ系の良食味品種・系統。
北陸100号はコシヒカリの突然変異種で、ミネアサヒはコヒシカリと喜峰を掛け合わせた品種

「にこまる」の育種ほ場

「にこまる」の育種ほ場
  「にこまる」の品種開発に携わった坂井真氏

「にこまる」の品種開発に携わった坂井真氏



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