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農林水産省

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affインタビュー CLOSE UP 仕事人 Vol.07

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内水面養殖業
柿島 敬さん

ニジマスの生産量では全国でもトップクラスの静岡県。
県内に3カ所の養殖場をもち、地域の内水面漁業に貢献している柿島敬さんにお話を聞きました。
柿島 敬さん

かきしま・たかし
かきしま・たかし
昭和13年、静岡県田方郡に生まれる。静岡県立田方農業高等学校卒業後、就農。父の代から始めた養鶏を養豚に転向させ、軌道に乗せる。昭和48年、伊豆市地蔵堂に養殖池を設け、ニジマスの養殖を始める。昭和50年から飼料の自社生産を開始し、昭和55年に田方郡函南町に、昭和58年に富士宮市猪之頭に事業所を増設。現在、有名レストランや料理屋、管理釣り場に、一年を通じてニジマス、イワナ、サクラマスを安定供給している。



素材を自家配合し、3種類のサイズのペレット(固形飼料)を作っている。

素材を自家配合し、3種類のサイズのペレット(固形飼料)を作っている。

ニジマスの受精卵は専門業者から仕入れ、函南事業所の養殖場で孵化させる。餌やりから生育の管理まで、スタッフのだれよりも行き届いた世話をするのは、奥さんの千恵子さんだと柿島さんは言った。

ニジマスの受精卵は専門業者から仕入れ、函南事業所の養殖場で孵化させる。餌やりから生育の管理まで、スタッフのだれよりも行き届いた世話をするのは、奥さんの千恵子さんだと柿島さんは言った。

富士宮事業所の養殖場。ニジマスはここで年間240トンが生産される。そして、自ら開削した地蔵堂の養殖場ではイワナ、サクラマスを年間150トン生産しているという

富士宮事業所の養殖場。ニジマスはここで年間240トンが生産される。そして、自ら開削した地蔵堂の養殖場ではイワナ、サクラマスを年間150トン生産しているという

柿島養鱒株式会社
http://kakishima-troutfarm.com/

Photo:Eri Iwata

すべて自然が教えてくれた。
水にこだわり、餌にこだわる理由はそこにあります。

養鶏・養豚業を経て内水面の養殖業へ
初めに案内されたのは、柿島敬さんが代表取締役を務める柿島養鱒(かきしまようそん)株式会社富士宮事業所の養殖場だった。富士宮事業所は富士山麓に広がる朝霧高原の近く、名水で知られる猪之頭(いのかしら)湧水群の中にあった。

内水面の養殖が盛んな地域には、必ずと言っていいほど豊富な湧水がある。富士宮市がニジマスの産地として、全国屈指の生産量を維持しているのは、この湧水の恵みに負うところが大きい。柿島さんは水質を厳選したうえで、この場所に自社の養殖場を設けたのである。

柿島さんは、伊豆半島の付け根に位置する函南町(かんなみちょう)で、代々手広く営農していた農家の長男として生まれた。「利(き)かん気が強く、親の言うことは聞かなかった」と柿島さんは笑う。その証拠に父の代で始めた養鶏を、効率的に規模を拡大できる養豚へと転向したのも柿島さんだった。生まれ育った函南町で養豚業を軌道に乗せたが、都市化が進む地域で糞尿処理や悪臭対応といった壁に突き当たる。そこで注目したのが養殖業だった。

昭和8年、朝霧高原に静岡県水産技術研究所富士養鱒場が開設されて以来、富士宮市には民間の養鱒場が相次いで開設されていた。冷凍ニジマスの輸出で生産量を大きく伸ばし、ニジマスの養殖は富士宮の一大産業に成長していたのである。そこで柿島さんは養鱒場を拓(ひら)くことを決意する。

選んだ場所は湧水に恵まれ、良質のわさびの生産地でもある旧中伊豆町地蔵堂。

釣りを趣味とし、幼少の頃から地域の渓流を釣り歩いていた柿島さんは、伊豆の最高峰・万三郎(ばんざぶろう)岳から流れ落ちる地蔵堂川の水の良さと一帯に生息する川魚の味を知っていたのだ。「すべて自然から教わりました」。

養殖業者では珍しく飼料は自社生産
手に入れた土地に自分の手で家を建て、自ら重機を操って養殖池を作った。独学で学んだ養殖技術を試した1年目。育てたニジマスを口にして落胆した。

「養鶏・養豚の経験から飼料が大事であることは分かっていたつもりだった。けれど、イメージしていた天然の川魚の味にはほど遠く、これでは食べてもらう人にも申し訳ないと思いました」

当時、餌は飼料メーカーから仕入れており、餌を作る機械も日本にはなかったそうだ。それから餌作りの試行錯誤が始まった。その間、大洋漁業株式会社(現・株式会社マルハニチロ水産)元社長の中部謙吉(なかべけんきち)氏と出会う。たった一度の出会いから気にかけてもらい、「企業は人なり」という理念を教えられたという。食に関わる以上、上質な食材を提供する仕事人を目指そうと肝に銘じ、昭和50年にはイギリスから小型ペレットマシンを輸入。魚の成長に合わせた飼料の配合を日夜研究したのである。

「魚粉に限らずあらゆる飼料を取り寄せて、300通り以上もの配合を試しました。魚を短期間で肥育させるための油脂は一切使いません。安全な餌であることは絶対条件。自分でもずい分味見をしました」

5年の歳月をかけて、ようやく満足のいく飼料を自社生産できるようになった。それでも餌の改良は現在進行形である。新たな素材は飼料メーカーに分析を依頼し、徹底的に吟味する。

現在、富士宮事業所ではニジマスの養殖を行い、自ら拓いた地蔵堂の養殖場ではイワナ、銀ザケ、サクラマスを育てている。川魚も日本の魚食文化を支えた地域の宝だ。奥さんの千恵子さんと二人三脚でやってきた養殖業に5年前、後継ぎとして長女が参画したが、担い手不足の水産業の現状を何とか立て直すためにもまだまだ引退はできない。

富士宮事業所の養殖場では管理釣り場向けにニジマスのサイズを選別していた

  富士宮事業所の養殖場では管理釣り場向けにニジマスのサイズを選別していた
富士宮事業所の養殖場では管理釣り場向けにニジマスのサイズを選別していた

有名レストランや料亭に出荷される柿島養鱒のイワナやニジマス

  富士宮ニジマスを手軽に味わってもらうために缶詰も作っている。その名も「鱒財缶(そんざいかん)」。
有名レストランや料亭に出荷される柿島養鱒のイワナやニジマス   富士宮ニジマスを手軽に味わってもらうために缶詰も作っている。その名も「鱒財缶(そんざいかん)」。これはオリーブオイル漬けバジル風味。このほか水煮缶も販売している。各1缶350円