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農林水産省

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お宝!日本の「郷土」食 17[岩手県花巻市]

カチンコチンがしっとり艶やか

北海の鯡(ニシン)、南部で酒の肴となる


身欠きニシンは痛みやすい頭と内臓をはずして乾燥

身欠きニシンは痛みやすい頭と内臓をはずして乾燥。旨みが凝縮し、熟成するので味が複雑に。最近は冷蔵環境が整い、すぐ使える半生のソフトニシンが増えている

身欠きニシンの粕漬け

身欠きニシンの粕漬け。焦げた酒粕が芳ばしく、味わい深し。杯をゆるやかに進める味

4代目蔵元の川村直孝さんと料理上手の母、勝子さん

4代目蔵元の川村直孝さんと料理上手の母、勝子さん

大正11年創業の川村酒造店

大正11年創業の川村酒造店。曾祖父が建築した蔵内には太い梁が。時代を感じさせる蔵の造り

合資会社 川村酒造店
岩手県花巻市石鳥谷町好地12-132
TEL.0198-45-2226FAX.0198-45-6005
http://homepage1.nifty.com/nanbuzeki/

文・写真/山本洋子

「ニシンの粕漬けさえあれば、ゆるゆるいつまでも飲み続けられます」と笑う川村直孝さん。南部杜氏の町、石鳥谷(いしどりや)で酒造りを営む「▲右衛門(よえもん)」(▲=酉へんに与)川村酒造店の四代目。南部杜氏は、酒造りの技術の高さとその規模から日本一と名高い。

海から100km離れたこの町では、昔は魚と言えば干物。なかでもニシンの粕漬けは、直孝さんが子どもの頃からの定番料理。お酒を嗜むようになって、改めてその価値に気づいたといいます。

「肴の好みは人それぞれですが、ゆっくりと燗酒を楽しみたいならお薦め。刺身も良いけれど、ニシンはもっとうまいですよ」

ニシンとは身欠きニシンのことで、寒風にさらしてカチンコチンになるまで乾かしたもの。米のとぎ汁につけ、柔らかく戻してから調理しますが、川村家では戻さないで酒粕に漬け、味と水分を染み込ませていくとか。

ニシンは漢字だと「鰊」、または「鯡」と書きます。「魚に非ず」とは不思議ですが、江戸時代、松前藩では米代わりの年貢として納められたこともあり、それが由来という説も。それくらい身欠きニシンは大量に生産されたのです。

北前船の時代は全国津々浦々へ運ばれ、海から遠く離れた町の良質なタンパク源となり、さまざまな郷土料理が生まれました。京都のニシン蕎麦やニシンの昆布巻。福島ではニシン山椒漬け。会津本郷町では専用の四角い「にしん鉢」が今も使われています。気候風土に合わせ、さまざまな食べ方が工夫されたのがニシンなのです。

川村酒造店の酒銘となった「▲右衛門」は直孝さんの曾祖父の名。「人生修行のために酒造りをしたい」と各地の蔵で酒造りを経験後、腕利きの南部杜氏となり酒蔵を興しました。川村家のニシン粕漬けは、豊富にある酒粕を利用し、簡単でおいしい酒肴(しゅこう)として代々伝えられてきたのです。直孝さんのお母さん、勝子さんに作り方を伺うと「洗ったニシンを食べやすく切って、やっこい(柔らかい)酒粕に漬けるだけ。難しいことないのよ。上品な粕漬けは粕がつかないようガーゼを使うけど、粕がついた方がおいしいからそのまま漬けています。粕のお焦げがたまんないですよ」。

焼きたてのニシン粕漬けは、香ばしさに加え、酒粕の甘い香りが特徴。干物ならではの弾力もあり、ニシンに染み込んだ酒粕の甘味とうま味が噛むほどにジュワワ。あとを引くおいしさとはまさにこれ。酒の副産物、粕で漬けたのだから酒に合うのは当然かもしれません。

魚も肉も「生」がいいという風潮がありますが、冷蔵庫のない時代は、生とは違う滋味を尊ぶ文化がありました。保存するのにエネルギーを使わず、元の素材よりおいしく食べる工夫、そこに無理無駄はありません。まさに日本人の知恵の塊ですね。

ニシンの酒粕漬け 作り方
1 身欠きニシンは水洗いし、タワシを使って表面をかるく洗い、水気を切る。ひと口大になるよう3~4等分にカット。
2 酒粕(あれば半年ほど熟成させた練り粕)を水でのばし、流れるくらいのトロトロ状に溶く。
3 容器に溶いた酒粕を敷きニシンを並べる。その上に酒粕をのせ、ニシンをのせることを繰り返して冷蔵庫で保存。
1週間前後から食べ頃に。醤油を少しかけて焼くとさらに香ばしさが増す。

気候的に長野に近いという南部地方

  震災で蔵の壁に入ったヒビ
気候的に長野に近いという南部地方。川村酒造店の1町歩(約1ヘクタール)の田んぼでは、長野県生まれの酒米、美山錦を栽培。酒造りには長野発祥の7号酵母を主に使用

  震災で蔵の壁に入ったヒビ。石鳥谷は地盤が固く、大きな被害にはならなかったのが幸い
銘柄『▲右衛門』。特別純米酒「自家田美山錦」1,400円、「岩手吟ぎんが」1,350円、各720ml。酒粕は1kg300円~

   
銘柄『▲右衛門』。特別純米酒「自家田美山錦」1,400円、「岩手吟ぎんが」1,350円、各720ml。酒粕は1kg300円~    

注)▲=酉へんに与