特集1 花に思いをこめて(2)
新年の門出を飾る
若松・千両が届けられるまで
茨城県神栖市(かみすし)波崎(はさき)地区は若松・千両の一大産地です。 若松・千両の栽培から出荷・販売までを手がける農業生産法人株式会社ミゾグチファームを訪ねました。 |
![]() 10cm間隔で植えられている若松のほ場。 3~4年で商品化できるようになるため、毎年全ほ場の1/3~1/4のほ場から収穫をする |
![]() 最高等級品の選別をするミゾグチファーム3代目社長の溝口洋一さん ![]() 作業行程の話をしてくれた営業部長の笹本晃さん ![]() まつぼっくりからこぼれ落ちた松の種。これをまいて苗を作る |
新年に向けて200万本を出荷
波崎地区は太平洋と利根川に挟まれた、茨城県最東南部に位置する地域です。この地域で若松や千両の栽培が始まったのは、昭和初期のことだそうです。若松は文字通り樹齢の若い松の呼称で、品種はクロマツです。は種から苗を育て定植して3~4年で、若松として出荷されるようになるそうです。 株式会社ミゾグチファームでは、20ヘクタールの自社ほ場で栽培した若松を、年間約200万本出荷しています。毎年10月下旬から11月下旬までの1カ月間が、収穫から出荷までの最盛期。この時期だけは、普段貸している広大な倉庫が、若松や千両の出荷作業場になります。 若松の出荷作業は波崎地区の風物詩
作業場ではたくさんの作業員が黙々と、若松の枝切りや選別などの作業を行っていました。常時160名程度、最大で180名の作業員がいるそうです。そのほとんどが近隣に住む女性たち。何年もの間、若松の出荷作業をこなしてきたベテランもいます。営業部長の笹本晃さんが「今年はいつから始めるのかと問い合わせがくるくらい、ここでの仕事を楽しみにしている方もいるんですよ」と話してくれました。地域雇用の創出と地域住民の交流の場が、この大きな作業場なのです。 高品質な若松を出荷できる極意
同社では、若松をほ場であらかじめ枝ぶりや枝の太さに応じて大きさ別に、4種類に選別して収穫し、形を整えた後、長さを揃えて決まった本数で束ねた後など、各行程が終わるごとに枝の細さ、葉ぶりなどの品質検査を厳密に行い、25等級以上の規格分けをしています。最上級の等級選別は、3代目社長の溝口洋一さんしかできないと話していました。「穂の長さ、葉の密度、葉の色、持った瞬間の『木鋭(きえい)』で、最終的な等級を決めます」という溝口さん。「木鋭」とは一言でいえば、その木が持つ力強さのことだといいます。生け花であれば、華道家や流派によって、若松に求める特性が異なるので、溝口さんはそうしたことも熟知したうえで、若松1本1本に向き合い、品定めをしているそうです。厳選された同社の若松は「ミゾグチブランド」として、全国の市場をはじめ、多くの華道家から高い評価を受けています。 こうして若松は、正月の喜びや1年の願いをこめられて飾られるのです。
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千両は繊細な植物
ミゾグチファームでは10ヘクタールのほ場で千両を栽培し、年間約100万本を出荷しています。千両は直射日光を嫌う半日陰性の植物ですが、寒さにも土の中の病原菌などにも弱い繊細な植物です。そのため「楽屋(がくや)」と呼ばれる竹簾(たけず)で囲まれた、独特な施設で栽培します。楽屋には鍵がかけられ、勝手に立ち入れないようになっていました。楽屋に入るときは、病原菌を持ち込まないように、殺菌した長靴に履き変えるといいます。
千両、万両、南天の違い
千両、万両、南天はいずれも鮮やかな赤い実をつける、正月飾りになくてはならない花材です。千両はセンリョウ科、万両はヤブコウジ科、南天はメギ科に属し、違う仲間の樹木です。並べて見ると、実の付き方がだいぶ違います。葉の形と実の付き方を覚えておけば、区別するのはそれほど難しくありません。
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Photo:Eri Iwata