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特集2 新・日本の郷土食(1)

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旬の素材をおいしく保つ 信州の漬物と乾物


冬の冷え込みが厳しい信州には「食品保存の知恵」がたくさんあります。
長野県の料理研究家、横山タカ子さんにお話を伺いました。

横山タカ子さん。「信州の春夏は果物がふんだんに実ります。その時はジャムや砂糖漬けで大忙しです」

横山タカ子さん。「信州の春夏は果物がふんだんに実ります。その時はジャムや砂糖漬けで大忙しです」

保存食づくりが地域の人との交流を深めます
長野県長野市/料理研究家 横山タカ子さん

リビングには薪ストーブが燃え、まるでインテリア雑誌に登場するように、おしゃれな横山邸。そのあちこちに、横山さんが一年中作り続けている保存食が並んでいます。冬には何種類もの野菜の漬物を作ります。場所はなんとガレージ裏の物置。そこに4斗樽の桶を並べ、それぞれ50キロ近くの野沢菜やたくわんを昔ながらの方法で漬けるのです。

「この大きさの樽を使うのが幼いころ、母や伯母に教わった方法です。伝承料理ってこうやって身近な人たちに教わるものなのよ」と横山さん。

今、憂いているのは、若い娘さんに教えるべき母たちの世代でも、手作りの習慣が薄れていることだとか。「たとえば、地元の野菜が本当においしいと実感するところから始めては。わからなければ友達や野菜農家の人に尋ねてもいい。おいしいものを作りながら地域交流もできますよ」。最初は塩を振った浅漬けからでいいそう。噛めば噛むほど素朴な野菜の味が広がる漬物作り、今日から始めてみませんか。

あっという間にそろえてくださった横山さんの手作り漬物。驚くほど色彩豊かで、トマトやパプリカなどの西洋野菜がなくても華やいだ食卓になる。

あっという間にそろえてくださった横山さんの手作り漬物。驚くほど色彩豊かで、トマトやパプリカなどの西洋野菜がなくても華やいだ食卓になる。
右上:野沢菜漬け
右下:ねずみダイコン(白と緑)、紅芯ダイコンのたくわん漬け
左上:白ウリの鉄砲漬け、ショウガの粕漬け
左下:シソの実の粕漬け(奈良漬けの床漬け)

「白ウリの鉄砲漬け」の作り方
白ウリ(約5kg)は中をくりぬき、軽く塩を振って10時間ほどおく。粕床は酒粕4kgに対し、砂糖500g、塩35~40gを合わせておく。切り干し大根をさっと水で戻したら、しっかり搾って水気を取り、白ウリの中に詰める。そのまま粕床にウリ同士がくっつかないように並べ、フタをして約1カ月で出来上がり。
(ショウガは生のまま、白ウリと同じ粕床に入れて、約1カ月で出来上がり)

「シソの実の粕漬け」の作り方
奈良漬を食べた後に残った、漬け粕で漬けたもの(粕床の再利用)。きれいに洗って水気を切ったシソの実を容器に並べ、ガーゼやさらしに包んだ漬け粕をのせて包む。数日で出来上がる。

保存加工は先人の知恵と工夫の賜物
家庭に冷蔵庫や冷凍庫がなかった時代、人は野菜や魚を塩漬けや酢漬けにしたり、乾燥させるなどして食材が乏しくなる季節のために蓄えてきました。

その中でも私たちに一番なじみ深いのは「漬物」でしょう。塩、味噌、醤油、糠、酢などに漬けた野菜は「香の物」「箸休め」などと呼ばれてしばしば食卓に登場します。もう1つなじみ深い加工法は「乾燥」です。切り干し大根のように、刻んだ野菜を日光に当てて乾燥させる方法もありますが、特に寒さの厳しい信州には、冷気を生かした「凍結乾燥」の伝統があります。一日中外気に当てて干すことで、夜間に食品を凍らせ、昼間に溶かす……その繰り返しで、中がスポンジ状になった、まるでフリーズドライのような乾物が出来上がるのです。

「長野県は日本有数の長寿県ですが、それには漬物や乾物といった保存食の食習慣も影響していると思います」というのは、地元で料理教室を開催し、郷土料理の普及に努めている料理研究家の横山タカ子さん。「漬物は塩分が多いと、一時期敬遠されてきましたが、近年ではきわめて健康的な植物性発酵食品として注目を集めているんです。先人の知恵と工夫が詰まった食べ物としてもっと大切にしたいものですね」。


ガレージの奥で漬け物づくり

住まいの北側に位置するガレージの奥が、漬物保存に格好の場所。例年、なじみの農家さんから届く野沢菜や、伝統野菜のねずみダイコン、紅芯ダイコンを漬け込みます。漬物の上にさらに大きな糠袋をのせるのが横山流。「冬には氷の中から取り出すような凍える作業だけれど、そのおいしさを知っているからちっとも苦にならない」と横山さん。隣にある「柿の桶」は、そのまま熟成させて柿酢を作っている途中です。

ガレージの奥で漬け物づくり   ガレージの奥で漬け物づくり   ガレージの奥で漬け物づくり

ガレージの奥で漬け物づくり


毎日の食卓にも常備菜を欠かさない

ダイニングテーブルにあるのは、「ニンジンと昆布漬け」「ニンジンのハチミツ酢漬け」「赤キャベツの〈さしす漬け〉」。〈さしす漬け〉とは、砂糖と塩と酢で漬けた完熟梅の梅酢に野菜をつけた横山さんのオリジナル。常にこれくらいの常備品があるから、野菜たっぷりの朝食があっという間に作れてしまう。

「ニンジンと昆布漬け」「ニンジンのハチミツ酢漬け」「赤キャベツの〈さしす漬け〉」  
「ニンジンのハチミツ酢漬け」の作り方
ニンジン1本に対し、酢漬けの液は〈酢大さじ4、ハチミツ大さじ3、塩と油小さじ1〉。千切りにしたニンジンを、材料を合わせておいた酢漬けの液に漬けるだけ。1週間から10日はもつ便利な常備菜だ

「イカ昆布漬け」の作り方
スルメイカ1/2枚、昆布10cmを千切りにしておく(スルメイカと昆布ははさみを使って)。漬け液は醤油、酒、みりん、酢各大さじ2を合わせ、材料を加えて全体をよく混ぜる。半日したら食べごろ


数多い保存食は低温保存を心がけ一年中楽しみながら使う

夏に漬けた梅やなつめ、砂糖で煮たジャムなどはガラス瓶に入れ、階段下に設けた物入れや、洗面所のカウンターなど室温が上がらない北側に並べて保存する。常にすぐ手の届く場所に置いて、いつもで気軽に使えるよう工夫しています。

数多い保存食は低温保存を心がけ一年中楽しみながら使う   数多い保存食は低温保存を心がけ一年中楽しみながら使う

自家製凍りもち   妹さんから届いた自家製凍りもちは、吊り下げて素朴なインテリアアクセントに。「これ食べてみる?」とおもむろにワラからはずし、水で戻して焼いてくれた「凍りもちの砂糖醤油がけ」は絶品でした

Photo:Koji Sugawara