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特集2 ほっとするね。おばあちゃんの懐かしご飯(1)

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第5回 須実江おばあちゃんの「なすとニシンの炊(た)いたん」【京都府長岡京市】


京都では、家庭で食べる日常のおかずを「おばんざい」と呼びます。
なすとニシンの炊き合わせは暑い時期に欠かせない、定番のおばんざいとして、
今も地元の人たちに、親しまれています。

須実江おばあちゃんの「なすとニシンの炊(た)いたん」

京都では相性のいい食材を”出合いもん”いうんやけど、なすとニシンは、まさにそれ
「うちのなすはツヤツヤしていて立派でしょ」と須実江さん

「うちのなすはツヤツヤしていて立派でしょ」と須実江さん

脂肪の多いニシンと、油を吸収しやすいなすを一緒に煮ると、うまみたっぷりの煮物に

脂肪の多いニシンと、油を吸収しやすいなすを一緒に煮ると、うまみたっぷりの煮物に

脂肪の多いニシンと、油を吸収しやすいなすを一緒に煮ると、うまみたっぷりの煮物に

身欠きニシンからよい出汁が出て、食欲をそそる香りが漂う

身欠きニシンからよい出汁が出て、食欲をそそる香りが漂う

文/塚田有香
写真/多田昌弘
撮影協力/JA京都中央

京都府の南西部に位置する長岡京市。たけのこや花菜(はなな)と並んで、この地を代表する農作物がなすです。旬を迎える夏になると、京都の家庭ではなすを使ったさまざまな「おばんざい」が食卓に並びます。

そのひとつが、「なすとニシンの炊いたん」。身欠(みが)きニシン(ニシンの干物)となすを、醤油や砂糖で煮た一品です。

「なすとニシンは、〝出合いもん〞やからね」

そう話すのは、近所で料理上手と評判の山本須実江(やまもとすみえ)さん(81)。京都では、互いのおいしさを引き立て合う、相性の良い食材の取り合わせを、こう呼ぶのだと教えてくれました。

「京都は内陸で、海から遠いでしょ。昔は、新鮮な魚介類が手に入らなかったから、家庭料理に使う魚といえば、干物や塩漬けなど保存がきくものだけだったの」。とくに身欠きニシンは、京都の人にとって貴重な栄養源で、〝おばんざい〞によく使われたそう。

また、盆地という土地柄、夏は高温多湿になる京都では、暑さに強いなすやきゅうりが盛んに作られました。

「うちでは今も、暑い時期はなすが食卓に上がらない日はないくらいよ」と、須実江さん。

お姑さんから教わった昔ながらの調理法
この地域ではなすを自家栽培する家が多く、須実江さんも自宅から少し離れた畑でなすを育てています。家族や親戚で食べきれない分は、家の前に設置した直売所でひと袋100円程度の手頃な価格で販売し、畑を持たない近所の人たちに喜ばれているそう。

京都のなすと言えば、賀茂(かも)なすや山科(やましな)なすなどいくつかの品種が知られていますが、須実江さんが栽培しているのは千両なす。正式には「千両2号」という名のこの品種は、長岡京市の農場で開発され、全国に広まったという経緯があり、〝地元発祥のなす〞として親しまれています。

「うちになすを買いに来てくれた人には、よく調理法も教えてあげるんです。するとね、『この前教えてもろたの、作ったらおいしかったわ』って言って、また買いに来てくれるの」

そんな須実江さんが、ニシンとなすの炊いたんの作り方を教わったのは、ご主人のお母さんからでした。

「実家の母も作ってくれたけれど、私は若い頃勤めていたから、ちゃんと料理を教わる暇がなくてね。お嫁に来てから、山本家の味つけを義母から教わりました。夏に採れる野菜は限られていたから、お義母さんは毎日なすを使って、手を替え品を替え、色んな料理を作ってはったの。それを見て、『あんなに工夫して、えらいなあ』と感心してね。それで私も、お料理を一生懸命教わったんです」


ニシンの臭みを取るため下ごしらえはしっかりと
この一品をおいしく作るコツは、身欠きニシンの生臭さを下ごしらえで取り、身を柔らかくすること。そのために、米のとぎ汁にひと晩漬けてから、番茶でゆでます。そして、もうひとつのコツは、なすとニシンを鍋に入れたら、むやみにかき回さないこと。

「煮物を作る時も、炒め物と同じ感覚ですぐに鍋の中をかき回す人がいるけれど、それでは食材が崩れてしまう。いったん沸騰させたら、あとは火を弱めて、そのまま何もせずにコトコト煮ればええの。そうすればなすもニシンもきれいな形のまま、ふっくら炊けるから。火を止めたあとも、鍋のまましばらく置いておくと、余熱で味がしっかり食材に染み込むんよ」

こうして炊き上がったなすはとろりとした食感で、ニシンは身がほろっと崩れる柔らかさ。味つけもほどよいバランスで、白いご飯が進みます。ご主人の昭三(しょうぞう)さん(84)も、この料理が大好物。この日も須実江さんが炊いたなすとニシンを頬張り、「今日もうまいことできたなあ」と満足そうです。

最近は、身欠きニシンの下ごしらえをしなくてもいいよう、あらかじめ甘辛く煮たニシンを買う家庭も増えているのだとか。

須実江さんは、「私が義母に料理を教わったように、隣に住む息子のお嫁さんにも、よく作り方を教えてあげるんよ」と話します。その言葉には、地元の味を若い世代に受け継いでほしいという、願いが込められていました。

「我々のように京都で生まれ育ったもんは、夏はやっぱりこれを食べないと始まらん」とご主人

「我々のように京都で生まれ育ったもんは、夏はやっぱりこれを食べないと始まらん」とご主人

   旬の8~9月になると、山本家の畑ではたくさんのなすが収穫される

旬の8~9月になると、山本家の畑ではたくさんのなすが収穫される

食材なるほどメモ 「なす」


食材なるほどメモ 「なす」
原産地はインドで、中国を経由し、奈良時代に日本に伝来したと言われています。なすの90% 以上は水分のため、東洋医学では、「体の熱を取る涼性の食材」とされ、昔から暑い時期によく食べられてきました。なすの生産量上位は、1位が高知県、2位が熊本県、3位が福岡県となっています。