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特集2 ほっとするね。おばあちゃんの懐かしご飯(1)

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第9回 宣子おばあちゃんの「まんばのけんちゃん」【香川県東かがわ市】


瀬戸内海に面した香川県は、穏やかな気候に恵まれ、一年を通し、さまざまな野菜や果物を収穫できます。
なかでも、寒の入りになるとおいしくなるのが「まんば」と言われる、特産の青菜。
そのまんばと豆腐を使った「まんばのけんちゃん」は讃岐の人なら誰でも知っているという、まさに香川の“ソウルフード”です。

まんばのけんちゃん

「まんばのけんちゃん」は、崩した豆腐を雪にみたてて「雪花」とも呼ばれる

「まんばのけんちゃん」は、崩した豆腐を雪にみたてて「雪花」とも呼ばれる

まんばの葉は、育つにつれ、徐々に紫色に変わる。これはアントシアニンというポリフェノールの一種が豊富に含まれるため

まんばの葉は、育つにつれ、徐々に紫色に変わる。これはアントシアニンというポリフェノールの一種が豊富に含まれるため

東かがわ市周辺は、高い山がほとんどないため、日照時間が長く、野菜類がよく育つ

東かがわ市周辺は、高い山がほとんどないため、日照時間が長く、野菜類がよく育つ

地図


文/篠原麻子
写真/多田昌弘
撮影協力/JA香川県

畑では、冬になると、まんばのほかに、白菜やチンゲンサイ、大根、かぶなども育てる

畑では、冬になると、まんばのほかに、
白菜やチンゲンサイ、大根、かぶなども育てる


あとからあとから葉をつけるので、万葉の名が
「まんば」は、香川県で愛されるご当地野菜。高菜の一種で、県内全域で食べられます。地域によって呼び名が違い、西讃(せいさん)地方では「ひゃっか(百貫)」、中讃(ちゅうさん)地方では「せんば(千葉)」、そしてここ東かがわ市周辺では「まんば(万葉)」と呼ばれます。

呼び名の由来は、まんばがつける葉の多さにあります。秋の半ばに種をまき、葉をつけるまでに1~2か月ほどかかりますが、そのあとの勢いがすごい。外側の葉から1枚1枚採っても、中から次々に小さな葉が出てきてグングン育ち、そのたびに一回りも二回りも大きくなります。

「ほかの野菜は、収穫したら終わりだけど、まんばは違う。かいでは(摘んでは)食べ、かいでは食べても、あとからあとから葉をつけよるん」と言うのは、農家の宣子(のぶこ)おばあちゃん(80)。葉がつき始めたばかりのまんばを摘んで、「まんばのけんちゃん」を作ってくれました。

この料理は、まんばと、くずした豆腐を炒りつけた素朴な味わいの煮物で、まんばといえばこれ!  というほど。名前の「けんちゃん」の由来は、細切り野菜と豆腐を炒めた「けんちん」という宴会料理が、なまったとされます。

「まんばの旬は11月以降、寒(かん)の風にあたってからだね。霜がおりると、葉っぱが緑色から紫褐色に変わって、形もしっかりするの。まんばらしい独特の風味と甘みが増すんよ。大きくなると、葉っぱは『けんちゃん』に、茎はお漬けもん(お漬物)にするの。3月頃になると、トウがたつ(旬が過ぎて、おいしくなくなる)から、最後に出てくる蕾(つぼみ)さんを辛子和えにして食べる。そしたら、春が来るんだ」と、宣子さん。

まんばは、葉物野菜が少ない冬場に、たっぷり葉が採れて、収穫期間も長い作物です。重宝するので、農家の畑だけでなく、ふつうの民家の庭にも、よく植えられています。

離乳食中のひ孫も、モグモグと
「大家族でも、まんばが5~6株あれば、冬中いつでも、けんちゃんを食べられる。できたては、体があったまるし、冷めても味が染みておいしい。特別なごちそうじゃなくて、いつもあるおかずなんだよ」

宣子さんは、自分の畑の大豆で、豆腐やみそも手作りします。だから、宣子さんにとって、「まんばのけんちゃん」は、家にあるものだけで作れる、まさに“自家製”のおかず。「私たちの世代は、寒くなると、そろそろけんちゃんを食べたいな、と思うの。ただ、昔に比べたら、あまり作らなくなったね。今は、肉や魚のごちそうがたくさんあるから」

そう語る宣子さんは、自他ともに認める料理上手。地域の栄養教室の講師を務めていたほどです。

この日は、高知県に住む孫のお嫁さん、聡(あき)さんが、ひ孫の龍太郎くんといっしょに宣子さんの家に遊びにきました。

「ばあちゃんの作る料理は、どれも本当においしいんです。龍太郎を産んだあと、3か月ほどお世話になったんですけど、これが体にいいとか、おっぱいをたくさん出すにはあれがいいとか、いろいろ作ってくれました」と、聡さん。

しかし、「まんばのけんちゃん」をいただくのは、今日が初めて。愛知県出身の聡さんは、「まんば」そのものを知らなかったそうです。

「最初、“まんばのけんちゃん”って聞いたときは、“ばあばのけんちん汁”という意味かと思いました。“まんば”は、野菜の名前だったんですね!  うん、おいし~い!  あとを引く風味だから、どんどん食べられちゃう」と、宣子さんの作った「けんちゃん」に感激した様子。

やさしい味わいなので、まだ離乳食中の龍太郎くんにもあげたら、モグモグとおいしそう。何度もおかわりをおねだりしました。

“ひいばあちゃんの味”として、龍太郎くんの大好物になりそうです。

宣子さんには、龍太郎くんのほかに3人のひ孫がいる。「ほかのひ孫たちも、『まんばのけんちゃん』が好きなんだよ~」と、うれしそうに話してくれた

宣子さんには、龍太郎くんのほかに3人のひ孫がいる。「ほかのひ孫たちも、『まんばのけんちゃん』が好きなんだよ~」と、うれしそうに話してくれた
「まんばのけんちゃん」は、うす味に仕上げるのが秘訣。味が濃くなりすぎないよう、かならず味見をするそう

「まんばのけんちゃん」は、うす味に仕上げるのが秘訣。味が濃くなりすぎないよう、かならず味見をするそう

   自家製の豆腐は、ずしりと重い。「うちの大豆で作った豆腐は、香りが違うんだよね」と、宣子さん

自家製の豆腐は、ずしりと重い。「うちの大豆で作った豆腐は、香りが違うんだよね」と、宣子さん


食材なるほどメモ 「高菜」


食材なるほどメモ 「高菜」
原産地は中央アジアで、平安時代以前に、シルクロードを通って、日本に伝わったといわれています。ワサビなどと同じ辛味成分を含むため、保存性が高く、主に漬物に利用されます。地方品種が多く、阿蘇高菜(熊本)や、三池高菜(福岡)、雲仙こぶ高菜(長崎)などが有名です。