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特集2 ほっとするね。おばあちゃんの懐かしご飯(1)

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第12回 光子おばあちゃんの「太巻き寿司」【千葉県山武地域】


そもそもは江戸時代後期、地元で穫れたお米に、房総の海が育んだ海苔を合わせたのが始まりという、〝太巻き寿司〞。花などをモチーフにした、華やかな絵柄から、結婚式など、お祝いの宴には欠かせない一品でした。今では、農家のお母さんたちが工夫を凝らし、絵柄はますます緻密(ちみつ)に。大輪のバラに、満開の桜、キュートなパンダなど、切ったときに〝わっ、かわいい!〞と、決まって歓声が上がるとか。
今年も、色鮮やかな〝太巻き寿司〞とともに山武(さんぶ)地域に、春がやってきます。

光子おばあちゃんの「太巻き寿司」

バラのおすしはさて、何を巻いている?

光子さんは長ねぎ農家。「母が始めて、私で2代目。山武の長ねぎは、つやつやした白い肌と甘さが評判なの」

光子さんは長ねぎ農家。「母が始めて、私で2代目。山武の長ねぎは、つやつやした白い肌と甘さが評判なの」

地域のお母さんたちは、月に1度集まって、太巻き寿司作りの腕を磨く

地域のお母さんたちは、月に1度集まって、太巻き寿司作りの腕を磨く

お母さんたちが作った、太巻き寿司の教科書。60種類以上の巻き方が掲載される

お母さんたちが作った、太巻き寿司の教科書。60種類以上の巻き方が掲載される

地図


文/篠原麻子
写真/多田昌弘
撮影協力/JA山武郡市

のりの太巻き寿司以外に、卵で巻くタイプも。ヤマゴボウで目と鼻を作る、愛らしい顔のパンダは、子どもたちにも大人気

のりの太巻き寿司以外に、卵で巻くタイプも。
ヤマゴボウで目と鼻を作る、愛らしい顔のパ
ンダは、子どもたちにも大人気


千葉県の山武地域には、月ごとに、その時期にふさわしい絵柄を巻き込んだ〝太巻き寿司〞があります。4月は桜、姫すみれ、蝶(ちょう)。5月ならあやめ、端午の節句の男の子、6月になれば、あじさいやカタツムリ……。お寿司をスパンと切ったときに現れる絵柄の細やかさには、驚くばかりです。

この地域で、太巻き寿司が作られるようになったのは、江戸時代後半といわれます。仏事の際に食べるにぎり飯の中に、芋がらの煮つけを芯にしてのりに巻いたのが始まりなのだとか。

絵柄は、なんと100種類以上!
「私が結婚した頃は、何か行事があると、親戚みんなで集まって食事を作ったの。そんなとき、太巻き寿司を担当するおばあさんたちは特別扱いだったね。専用の座敷とお茶やお菓子が用意されていて。他の料理を作りながら、いつかわたしも太巻き寿司を担当したいと思ったわ」と楽しそうに話してくれたのは、平山光子さん(65)です。

この地域で生まれ育った光子さんですが、結婚するまでは、自分で作ることはほとんどなく、目上の女性が作る〝格別のごちそう〞だったそう。「あの頃、きれいな絵柄の太巻き寿司をササッと作れるおばあちゃんは、みんなのあこがれだったね」

太巻き寿司で描く絵柄は、冠婚葬祭にふさわしい「祝」「志」などの文字のほか、季節の花や実、動物や変わり巻きなど、自由自在。基本のものだけでも50種類以上あり、アレンジや創作柄なども加えると100~200種にもなるそうです。

「昔に比べると、ずいぶん多くなったね。先輩たちが、ここに色を加えたら華やかだな、花だけじゃなくてつぼみも付けよう、なんて試行錯誤するうちに、どんどん増えていったの」

そうした先輩お母さんたちの成果は、昭和54年、お母さんたち自身の手で、冊子『山武の巻き寿司』にまとめられ、太巻き寿司作りの伝承に大きく貢献したそう。

今では、山武地域指折りの太巻き寿司名人として知られる光子さんも、折に触れ、ページを開いているといいます。

旅先で広げれば、一躍人気者に!
太巻き寿司に絵柄を描くには、さまざまな色の具材が必要です。赤は紅しょうがや山ごぼうのみそ漬け、ピンクは田麩(でんぶ)、黄は卵……など、具材の色を生かすほか、ごはんやかんぴょうを赤じそジュースで色をつけて使うこともあるとか。

「最近は、リキュールで鮮やかなブルーを出したりね。太巻き寿司は、いまもどんどん進化しているんだから」と光子さん。

もちろん、絵柄だけでなく、美味しく食べてもらうための配慮も欠かせません。甘い具材、しょっぱい具材、歯ごたえのある具材など、味や食感のバランスを考えながら組み合わせるほか、食べてもらう人によって、巻き込む具材を調整します。

「お年寄りなら、田麩を多めで、かたい具材は控えめに。若い男性なら、甘い具材を少なめで……ってね。そんなふうに、好みの味に仕上げることで、誰からも愛される太巻き寿司になるの」

細やかな心遣いの分、食材の下ごしらえはたいへんです。お花見や旅行などに、太巻き寿司を持っていくときは、友達やご近所さんで集まって、大勢で手分けして作ります。

そんな太巻き寿司を、旅先で広げると、近くにいる人たちが、わーっと寄ってくるそうです。

「写真を撮ってくれたり、分けてあげると家族に見せたいから持って帰ろう! といってくれたり。うれしくなって、よーし、また作るぞって気になるね」

今、光子さんは、月に一度、公民館で太巻き寿司の教室を開くほか、県内各所で講習会を開き、太巻き寿司の普及に努めています。そんな彼女のいちばんの目標は、自分の娘さんに、太巻き寿司を伝えること。

「娘が学生だったころ、少しだけ教えることができたんだけど。最近、娘は仕事が忙しいし、同居じゃないから、なかなか機会がなくて…。でも、こんなにおいしくて楽しい太巻き寿司作りだもの、ぜひ身につけてもらいたいよね!」

作った太巻き寿司の柄を見ながら、みんなで試食中。左から鈴木隆子さん、浪方友香さん、小倉公子さん、光子さん、中田悦さん、並木いくよさん

作った太巻き寿司の柄を見ながら、みんなで試食中。左から鈴木隆子さん、浪方友香さん、小倉公子さん、光子さん、中田悦さん、並木いくよさん


食材なるほどメモ 「海苔」


食材なるほどメモ 「海苔」
海苔の歴史は古く、飛鳥時代には、税を海苔で納めたという記録も残ります。江戸時代に入ると、「浅草和紙」の製法を応用し、細かく刻んでから、“すいて”作る「浅草海苔(板海苔)」が生まれました。現在、板海苔の国内生産量は、年間約88億枚にも上ります。