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農林水産省

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チャレンジャーズ トップランナーの軌跡 第84回

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石川県 株式会社六星(ろくせい)

30年以上愛され続ける「かき餅」
6次産業化を先駆け、伝統の寒造りを守り続けたことが人気の秘密!


農林漁業生産(第1次産業)と、加工・販売(第2次、第3次産業)を一体化し、新たな産業を生み出す6次産業化。
今回は、30年以上も前から6次産業化に取り組み、愛され続けてきた伝統のかき餅作りです。

(株)六星を支える社員たち。右から倉元菜三子さん、輕部英俊社長、盛山幸佑さん、佐藤元(つかさ)さん。

(株)六星を支える社員たち。右から倉元菜三子さん、輕部英俊社長、盛山幸佑さん、佐藤元(つかさ)さん。

この本社併設の直営店舗「むっつぼし」では、(株)六星のさまざまな商品を陳列している

この本社併設の直営店舗「むっつぼし」では、(株)六星のさまざまな商品を陳列している

寒造りの様子。1月ごろにつかれた餅は、薄く切られ、1~3月にかけて編んだヒモでこのように吊るされる

寒造りの様子。1月ごろにつかれた餅は、薄く切られ、1~3月にかけて編んだヒモでこのように吊るされる

かき餅の原材料であるもち米の生産量は、年間6トン。また、もち米以外にも、コシヒカリを中心としたうるち米も作っている

かき餅の原材料であるもち米の生産量は、年間6トン。また、もち米以外にも、コシヒカリを中心としたうるち米も作っている

生産組合設立当時20ヘクタールだった耕地面積も、創業の地である白山市では144.5ヘクタールまで広がった

生産組合設立当時20ヘクタールだった耕地面積も、創業の地である白山市では144.5ヘクタールまで広がった
「おばあちゃんの家でよく食べた味だ!」「昔は作っていたね。また食べられるなんて、うれしいなぁ」。

そんな声が思わず上がるほど都会の消費者たちに好評を博したのは、昭和59年、首都圏のデパートの石川県物産展に出品された「かき餅」でした。材料の米づくりから加工・販売まで全て行っていたのは、農事組合法人  六星生産組合(現(株)六星)。まさに6次産業化の先駆けでした。

原点は対面販売で聞いた消費者の声。変わらない味で勝ち取った信頼!
もともと兼業農家が米や野菜の共同栽培をするため、昭和52年にスタートした同社。餅づくりのきっかけは、創業者の一人、竹多達宏さんの「初老餅」づくりでした。「初老餅」とは、数え歳で42歳の厄年になったとき、厄払いのためにご近所に贈る餅のことで、この地域独特の風習です。すると、この餅がご近所の方々からも人気に。その後、六星に旧・松任(まっとう)市から、お土産にもなる特産品の相談がありました。その際、餅を日持ちがして、品質が安定し、持ち帰りもできる「かき餅」にして販売しよう、と考えたのです。

「かき餅」は、古くから農家で手作りされていた北陸地方の伝統的な米菓。六星が始めた作り方も、昔ながらの方法そのままでした。

杵つき餅を薄く切り、気温が低く、空気が乾燥した冬に、ヒモで編んでつるして、1~2か月自然乾燥。干し上げたものを、じっくりと遠火で焼き上げるか、低温の油で揚げると、ふっくらと膨らみ、パリパリとした食感になります。素材も甘味のある自社栽培のもち米「白山もち」を使い、昔ながらの製法で1枚ずつ手作業で仕上げたものです。

しかし、6次産業化という言葉もない当初、本人たちも本格的な商売になるとは考えていませんでした。

「最初は初老餅と同じで、おすそわけ感覚でしたね。六星のうまい米を都会の人にも知ってもらおうと、かき餅にして、自分たちで対面販売もやってみただけなんです。そしたら、消費者と直接会話するなかで、思った以上に好評だとわかりました。これが、『求められる物を作り、自分たちで売る』という当社のスタイルの原点です」と、輕部英俊(かるべひでとし)社長(46)は話します。農家自身が加工・販売まで行ったかき餅は、農家の後継者が減っていた当時、都会ではなかなか手に入らなくなっており、消費者の『ふるさとブーム』と合致したのです。

「消費者の食のニーズは変わってきましたが、六星のかき餅の製法や味は30年以上ほとんど変わっていません。時代とともに進化する商品が多いなかで、『変わらないこと』を消費者が求め、信頼感を与える商品もあるんです」と輕部さん。消費者に寄り添ったかき餅は、六星の6次産業化のシンボルといえます。

かき餅という不動の軸があるから、新しいことに挑戦できる
六星を支えているのは、33名の正社員。その多くは、非農家出身で、平均年齢が33歳という若さです。農業経験がなくても、営農、食品加工、店舗販売など活躍の場があり、農業という枠だけにしばられない「若い企業」の柔軟性を発揮しています。餅加工課の盛山幸佑(こうすけ)マネージャー(28)もそんな若手スタッフのひとり。「うちのかき餅は不動の人気商品。この実績があるから、新しい商品開発に挑戦できるんです」。

その言葉どおり、六星はかき餅の成功だけに留まらず、様々なお餅や和菓子など加工品を次々に開発しています。最近では、商品開発会議の発案で『すゞめ』という和菓子ブランドを立ち上げました。大福やお団子など米農家の強みを活かした和菓子を、かわいらしさやオシャレ感も加えて販売し、幅広い世代に人気となっています。

「変わらない味」と「新しい味」を武器に、六星では今日も若いスタッフたちが奮闘中です。

トップランナーを支えた力!
「原材料の品質の高さはもちろん、安定した質の良い商品への加工や、お客様との信頼関係を重視した販売にも力を入れています。当たり前のことかもしれませんが、その当たり前のことを愚直にやることが重要なんです」と語る輕部社長。経営のリーダーとして、生産・加工・販売全て均等に注力することが成功の秘訣のようです。

また、和菓子ブランド「すゞめ」のように、現在の成功に留まらず、若いスタッフの意見をよく聞き、新しいことに挑戦することなども、時代の最先端を走る大きな原動力となっています。


〈株式会社六星〉
石川県白山市橋爪町104
TEL: 0120-076-276


文/久ヶ澤和恵
写真/古城 渡