農林水産分野の最新研究成果を紹介! アフ・ラボ
あきらめなかった研究者たちの努力
完全養殖化に成功した、話題の“近大マグロ”32年間に及ぶ、執念の研究ストーリー
長年待望のクロマグロの完全養殖を達成し、クロマグロの安定供給への希望を生み出した近畿大学水産研究所。その成功の背景には研究者たちのたゆまぬ努力がありました。 |
クロマグロは、世界で水揚げされているマグロのなかでも漁獲量2%という、貴重な最高級魚
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4歳になったマグロの水揚げ。2mほどの大きさで、直営店に出荷される 文/宗像幸彦 |
試してみては全滅の日々……他の研究機関はすべて撤退
平成14年、近畿大学の水産研究所が世界で初めてクロマグロの完全養殖に成功したことがマスコミで大きく取り上げられました。平成25年に東京と大阪にオープンした大学直営のレストランがテレビ番組で紹介され、ご存じの方も多いかもしれません。しかし、この成功に至るまでには、たいへんな苦難がありました。いけすで産卵したクロマグロの卵を陸上の水槽で孵化させ、最終的には海上のいけすで商品サイズの成魚にまで育てる「完全養殖」を、長年目指してきたクロマグロ。日本で養殖の本格的な研究がスタートしたのは、昭和45年でした。水産庁による3か年のプロジェクトが発足し、近畿大学をはじめ8つの研究機関が参画して研究に取り組みましたが、いずれも稚魚の育成に失敗。ついには期間満了で、近畿大学以外の研究機関は全て撤退してしまったのです。 「漁師からは『マグロはいけすじゃ飼えないよ』と何度も言われました。その度に、今に見ていろと思いましたね」。そう語るのは、水産研究所長の宮下盛教授。研究の開始初期から関わるクロマグロ養殖の第一人者です。 近畿大学だけがあきらめず、独自の研究を進める日々。試行錯誤を重ねた結果、開始から9年後の昭和54年には初めての産卵・人工孵化に成功しましたが、やはり稚魚の育成で失敗。生まれた稚魚たちは陸上の水槽で全長5cm弱に育ったあと全滅してしまったのです。 「ブリやマダイなどは全長2~3cmまで育てば成功といえます。それを考えると、クロマグロの稚魚の育成は非常に難しく、全滅の原因すらわかりませんでした」と宮下さん。 その後11年間は産卵も失敗の連続。そしてついに、時代は昭和から平成へと移っていきました。 自分の研究費は自分で稼ぐ!養殖魚生産が研究を支えた
転機が訪れたのは、平成6年。11年ぶりに、卵の孵化に成功したのです。このチャンスを逃さず、発達や行動を研究したところ、稚魚全滅の原因は共食いや水槽内での衝突死にあったことが判明。すぐに対策を講じたところ、稚魚は陸上の水槽内で6cmに成長し、「沖出し」という海上のいけすへと移すことができたのです。平成14年には、満6歳および7歳を海で迎えたクロマグロが立派なサイズに成長し、研究者たちが待ち望んだ産卵にまでこぎつけました。こうして、クロマグロの完全養殖をついに達成。「近大マグロ」が誕生したのです。 それにしても32年間、いったいなぜ彼らはめげることなく研究を続けてこられたのでしょうか。 「研究者たちの執念や努力はもちろん、魚類養殖産業に関わり、研究費用を自分たちで調達できたのが大きな要因だと思います」と宮下教授。 実は近畿大学水産研究所は、昭和40年代前半からヒラメやブリ、イシダイなどの完全養殖に世界で初めて成功し、所内で育てた稚魚や成魚を販売していました。そこから研究資金を得て、独立採算制で運営することで、長年研究を続けられました。まず生産ありきという哲学が、研究を支えたのです。 現在、卵から稚魚になるまでの生存率は約1%。今後は民間企業と連携しながら、さらに生存率と生産尾数を上げていくのが目標です。1尾でも多くの美味しいマグロを消費者に届けようと、現在も養殖の研究が続けられています。 近大マグロを食べるならここ!
近畿大学がサントリー、和歌山県と提携し、平成25年度に東京と大阪で“養殖魚専門レストラン”をオープン!朝、いけすから上がったクロマグロを冷凍せずにそのまま運搬して調理、新鮮な刺身やマグロ料理が味わえる。また、マダイやヒラメ、ブリ、カンパチ、シマアジといった、水産研究所で完全養殖された魚の料理や、研究所とゆかりの深い和歌山県の食材を使った郷土料理や地酒なども提供。 店内には料理に使われている魚の生産履歴が分かるタブレットも常備。とても人気があるので予約は必須!
近畿大学水産研究所 銀座店 東京都中央区銀座6-2 TEL : 03-6228-5863 近畿大学水産研究所 グランフロント大阪店 大阪市北区大深町3-1 グランフロント大阪北館6階 TEL : 06-6485-7103 http://kindaifish.com/ |