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特集2 食文化研究家・清絢(きよしあや)の味わい ふれあい 出会い旅(1)

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第2回岐阜県中津川市 「朴葉(ほおば)ずし」を求めて中山道を行く


実家がお寺で、子どもの頃から、近所の方々との交流のなかで、郷土料理に親しみながら育ちました。
そんなわたくし清 絢が、日本各地の郷土食を巡る旅の第2回目。
今回は、坂の上に繁栄した珍しい宿場町で、この地域の人たちにとって身近だという朴の葉を使った「朴葉ずし」のルーツを訪ねます。

「朴葉(ほおば)ずし」を求めて中山道を行く

清 絢( きよし・あや)

清 絢( きよし・あや)
大阪府出身。日本各地の農山漁村を訪ね、伝統的な食文化や暮らしについて、調査研究を行う。
日本の食文化を次世代へ継承するために、執筆、講演など、さまざまな形で活動中。



旅のルート

馬籠宿(まごめじゅく)
石畳の坂道で中山道を歩いた旅人の気分……

馬籠宿(まごめじゅく)

土産もの屋では、朴の木で作られたおたまや、わらでできた木曽馬の人形などの工芸品も目にすることができる






文/清 絢
写真/川端正吾
イラスト/竜田麻衣

岐阜県東濃地方では、夏が近づくと朴の木の若葉がよく茂り、朴葉ずしの季節を迎えます。みずみずしい新葉で包んだ香り豊かな郷土ずしの、旬の味わいを求めて、まずは中津川市の馬籠宿(まごめじゅく)を訪ねました。

江戸から数えて43番目の宿場町である馬籠宿は、木曽路と美濃路をつなぐ位置にあります。小高い丘の上に開かれた珍しい宿場で、急な坂道を上りきって振り返ると、遠く眼下には中津川の町を、左を向けば東濃のシンボル恵那山(えなさん)を臨むことができます。美しい石畳の坂道には、かつての宿場のにぎわいを感じられる茶店や木曽ひのきの桶屋などがあり、なんとも旅情を誘う光景が広がっていました。

江戸から京都までの132里(約520km)を結ぶ中山道のうち、木曽11宿のいちばん南に位置する馬籠宿。東海道よりも遠回りだが、川を越えるなどの難所が少ないため、多くの女性は中山道を歩いて旅したそう。情緒漂う土産もの屋では、朴の木で作られたおたまや、わらでできた木曽馬の人形などの工芸品も目にすることができる

江戸から京都までの132里(約520km)を結ぶ中山道のうち、木曽11宿のいちばん南に位置する馬籠宿。東海道よりも遠回りだが、川を越えるなどの難所が少ないため、多くの女性は中山道を歩いて旅したそう。情緒漂う土産もの屋では、朴の木で作られたおたまや、わらでできた木曽馬の人形などの工芸品も目にすることができる

旅のおとも
香ばしいたれの五平餅にそそられて

自家栽培のクルミやピーナッツを原料に手作りしているたれが絶品の五平餅屋さん「かなめや」。

  丸いだんご形と平たいわらじ形の2種類あるので、食べ比べするのも楽しい

自家栽培のクルミやピーナッツを原料に手作りしているたれが絶品の五平餅屋さん「かなめや」。丸いだんご形と平たいわらじ形の2種類あるので、食べ比べするのも楽しい

馬籠脇本陣史料館
ほんの10年前まで馬籠宿は“木曽の国”だったんですね

馬籠脇本陣史料館

史料館は、勅使(ちょくし)や大名などが泊まる本陣の予備施設として使用された脇本陣の跡地に建つ。

平成17(2005)年、岐阜県中津川市に編入されるまで、長野県木曽郡山口村に属していた馬籠は、木曽と美濃の文化が入り交じる興味深い場所。食文化にも両方の影響があるんだとか

史料館は、勅使(ちょくし)や大名などが泊まる本陣の予備施設として使用された脇本陣の跡地に建つ。平成17(2005)年、岐阜県中津川市に編入されるまで、長野県木曽郡山口村に属していた馬籠は、木曽と美濃の文化が入り交じる興味深い場所。食文化にも両方の影響があるんだとか

「この辺りの人たちにとって朴は身近な木ですから、古くから生活に利用してきました。朴葉ずしや朴葉餅などの郷土料理にも残っています。ただ、明治と大正の大火事で焼けて記録がなくなってしまい、朴葉ずしがいつごろから作られていたかなど、正確なことはよくわかっていないんですよ」とは、宿場の歴史に詳しい馬籠脇本陣史料館の館長・蜂谷保(はちやたもつ)さん。

今も家庭では作られていますが、馬籠の旅館などでは提供されておらず、観光客はなかなか味わうことができないそう。そこで、馬籠宿から山を下りてみることにしました。


旅のルート

湯舟の館
さわやかな味わいの朴葉ずしはいくつでも食べられそう

湯舟沢地区の地域活性化センターである「湯舟の館」では、「湯舟沢レディース」が作るおふくろの味が購入できる。

地元素材100%の加工品などがずらり。朴葉ずしは、8月末日まで販売予定。

もっちりとして素朴な甘みのある米粉の郷土菓子「からすみ」も人気

湯舟沢地区の地域活性化センターである「湯舟の館」では、「湯舟沢レディース」が作るおふくろの味が購入できる。地元素材100%の加工品などがずらり。朴葉ずしは、8月末日まで販売予定。もっちりとして素朴な甘みのある米粉の郷土菓子「からすみ」も人気

さっそく、馬籠宿から少し山を下りたところにある湯舟沢(ゆぶねさわ)地区へ。ここは今でも朴葉ずしを作る習慣が残っていて、女性農業者グループ「湯舟沢レディース」のみなさんが朴葉ずしや栗おこわなど、季節に合わせた郷土食を生産、販売しています。「農家にとって朴葉ずしは、田植えのあとにはかならず作るものなの。昔は5軒くらいの農家が協力しあって田植えをしていてね。すべての田んぼに植え終わったら、当番の家が朴葉ずしを作り、みんなに振る舞うのがならわしで」と代表の洞田(ほらた)梅子さん。朴葉ずしは、地元の農家さんにとって、ひと仕事終えたあとのごちそうだったんですね。

いっしょに汗を流したのちには、ごちそうをいただいて労をねぎらい、人とのきずなを深める役割を果たしてきたという郷土食。いかに貴重な存在であったのかがわかりました。「ほかにも、お盆のお供えにしたり、山仕事のときのお弁当代わりにしたりもしたものよ」と楽しそうに語りながらも、手際よくご飯と酢を混ぜていく洞田さん。混ぜ終わったすし飯は、青々とした朴の若葉の上に丸めて置き、その上に塩イカやキャラブキなどの具材を美しく飾るようにのせていきます。ずらりとおすしが並んだ調理台の上は、まるでお花畑のようになりました。

それから、長さ30cmはあろうかという大きな朴葉を半分に折りたたんで包み、縫い物をするように朴葉の軸の部分で留めれば、待ちに待った朴葉ずしのできあがり。

「このままできたてを食べてもいいんだけど、桶に並べて重しをしてひと晩おくと、朴葉の香りがおすしに移ってもっとおいしくなるのよ」と言う洞田さんから、「まずはできたてをどうぞ」と勧められ、さっそくいただきました。

ひとくちいただくと、朴葉の香りがすーっと鼻を抜け、そのあとすぐ口の中に、さわやかな酢の味わいが広がります。あっさりしていて食べやすく、つい手が伸びます。

具材は、土地柄から山で採れたものが多く、フキやシイタケがよく使われますが、家庭によってさまざま。マスを使う人もいれば、卵焼きを入れる人も。「ヘボ(蜂の子)が入ってないと朴葉ずしじゃないという人もいるのよ。具材のことだけで、ひと晩中でも話せるわ」と洞田さんも笑っていました。

そして、お土産に朴葉ずしをいただいて帰りました。「ひと晩たつとまた違った味になるから、どっちがおいしかったか教えてね」と、満面の笑みで見送ってくれた洞田さんを思い出しながら、翌朝いただいたおすしをパクリ。すると、朴葉の香りと酢の酸味が一体となり、できたてより格段に風味が豊かになっていました。

「ひと晩おいたほうがおいしいですね!」とすぐに電話で伝えようと思ったのですが、洞田さんの笑顔が見たくて、近いうちに湯舟沢を訪ねて直接伝えることにしました。そのときはまた、いろいろなおふくろの味を教えてもらえたらなと、今からとても楽しみです。


にぎわい特産品
栗きんとんや老舗の和菓子など自慢の名産品が勢ぞろい

ソフトクリームと栗きんとんと恵那饅頭

市内の人気和菓子店の栗きんとんを詰め合わせた「栗きんとんめぐり」(秋限定)をはじめ、「栗きんとんソフト」や大正7年創業の老舗「二葉軒」の酒蒸しまんじゅう「恵那饅頭」など、地元の特産品が多数並ぶ。「湯舟沢レディース」の朴葉ずしも扱われている   にぎわい特産館

市内の人気和菓子店の栗きんとんを詰め合わせた「栗きんとんめぐり」(秋限定)をはじめ、「栗きんとんソフト」や大正7年創業の老舗「二葉軒」の酒蒸しまんじゅう「恵那饅頭」など、地元の特産品が多数並ぶ。「湯舟沢レディース」の朴葉ずしも扱われている

ちょこっと寄り道
中津川の新名物“ねぶ茶”は美肌のもと!   馬籠宿出身の島崎藤村の小説『夜明け前』に登場する郷土茶「ねぶ茶」を復活させ販売。「ねぶ茶」は、マメ科の一年草が原料のお茶で、「市川製茶」ではこの植物の栽培から製造、販売までを行い、今や中津川の名物として人気に。毎日飲むと、肌がすべすべになるとか。ご主人の市川尚樹さんは、本業の茶師(ちゃし)から、地歌舞伎役者、中津川和菓子ナビゲーターまで、さまざまな顔を持つ

馬籠宿出身の島崎藤村の小説『夜明け前』に登場する郷土茶「ねぶ茶」を復活させ販売。「ねぶ茶」は、マメ科の一年草が原料のお茶で、「市川製茶」ではこの植物の栽培から製造、販売までを行い、今や中津川の名物として人気に。毎日飲むと、肌がすべすべになるとか。ご主人の市川尚樹さんは、本業の茶師(ちゃし)から、地歌舞伎役者、中津川和菓子ナビゲーターまで、さまざまな顔を持つ

地図   (1)馬籠宿(馬籠観光協会)
岐阜県中津川市馬籠4300-1
TEL : 0573-69-2336
(2)馬籠脇本陣史料館
岐阜県中津川市馬籠4253-1
TEL : 0573-69-2108 不定休
(3)かなめや
岐阜県中津川市馬籠4291-1
TEL : 0573-69-2100 不定休
(4)湯舟の館
岐阜県中津川市神坂347-6
TEL : 0573-69-5177 不定休
(5)にぎわい特産館
岐阜県中津川市栄町1-1
TEL : 0573-62-2277  年末年始、2月の第3日曜休
(6)市川製茶
岐阜県中津川市駒場488-5
TEL : 0573-65-2842 不定休