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農林水産省

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チャレンジャーズ トップランナーの軌跡 第86回

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静岡県 株式会社サングレイス

「隔離土耕」や「高溶存酸素ファインバブル水」などの先端技術を駆使して、
トマトの収量アップや安定した品質を実現!


革新的なトマト栽培を行う農業生産法人がある、と聞いて訪れたのは、静岡県菊川市の株式会社サングレイス。
“顧客のニーズにとことん応える”をモットーに、最先端の栽培技術を積極的に活用して、高い信頼を勝ち得ています。

サングレイス静岡農場スタッフのみなさん。常勤6人、パートは8人。常勤スタッフは全員、非農家の出身。中央が社長の杉山健一さん。

サングレイス静岡農場スタッフのみなさん。常勤6人、パートは8人。常勤スタッフは全員、非農家の出身。中央が社長の杉山健一さん。

ハウスは4棟で約1.6haの作付面積

ハウスは4棟で約1.6haの作付面積

オランダの先進農法を見習い、成長した茎の先端はワイヤーに吊るす。これにより均等に光が入る設計に。モスバーガーに出荷するのは収穫量全体の20%ほど。それ以外は生協や小売店に出荷

オランダの先進農法を見習い、成長した茎の先端はワイヤーに吊るす。これにより均等に光が入る設計に。モスバーガーに出荷するのは収穫量全体の20%ほど。それ以外は生協や小売店に出荷

微細な気泡を液体中に安定的に混ぜ込むことで、高溶存酸素ファインバブル水を作り出す機械

微細な気泡を液体中に安定的に混ぜ込むことで、高溶存酸素ファインバブル水を作り出す機械

アミノ酸を主体とした有機質由来の液体肥料。比較的高価な肥料だが、「トマトにたっぷりと与えています」と杉山さんは胸を張る

アミノ酸を主体とした有機質由来の液体肥料。比較的高価な肥料だが、「トマトにたっぷりと与えています」と杉山さんは胸を張る
バラ作りの技術を、トマト作りにも応用
水田と茶畑が広がる静岡県菊川市。この地に本拠を置く株式会社サングレイスは、ハンバーガーチェーンのモスバーガーが使用するトマトを、ここ菊川市と、群馬県の利根郡昭和村(とねぐんしょうわむら)のハウスで生産しています。

同社の社長を務めるのは、非農家出身の杉山健一さん(46)。神奈川大学機械工学科を卒業し、電子計測器メーカーなどの勤務を経て、33歳のときに親戚のバラ農家に就農しました。8年前、その親戚が廃業したのを機に、サングレイスを設立。トマト栽培に乗り出しました。

「そのとき、モットーにしたのが、“お客様がほしいものを作る”ということです。これはどんなビジネスでも、当たり前のことですよね。農家も高い栽培技術があれば、“野菜のメーカー”になりうる、と考えています」と、杉山さん。

同社では、バラ栽培で培った技術を生かして、有機質活用型養液隔離土耕栽培(ゆうきしつかつようがたようえきかくりどこうさいばい)(隔離土耕)(※)を導入。土づくりの研究を重ね、堆肥・有機液体肥料・化学肥料を、独自に配合しています。

この土をつくば市の分析会社に送ったところ、含まれている微生物の多様性・活性度などから「土の偏差値83」という分析結果に。これは、20年間の分析のなかで、トップクラスの優れた数値だったそうです。

最新技術「ファインバブル水」で、育成速度が大幅アップ!
土づくり以外にも、サングレイスの農場では、最先端の栽培技術の開発や検証を行っています。そのなかで、杉山さんが期待しているのが、「高溶存酸素(こうようぞんさんそ)ファインバブル水」。これは、農業用水から泥やごみを除去したのち、銀をまぶしたセラミックスで濾過して殺菌し、さらに圧力を加えて極めて小さな気泡を生成した水のことで、大量の酸素を溶け込ませています。この水で肥料を希釈してトマトに与えると、根が活性化し、短期間で樹勢が良くなるそう。

この技術は、農林水産省が行う「農業界と経済界の連携による先端モデル農業確立実証事業」プロジェクトの一つに選ばれ、経済界のノウハウを農業界に導入するため、制御装置メーカーのIDEC(株)と連携し実験を進めています。

「大きな手ごたえを感じています。水の効果を実証できたら、隔離土耕と組み合わせ、新しい栽培方法として普及するのではないでしょうか」

また、サングレイスでは、取引先の要望をより満たすために、最新の栽培管理システムも導入しています。

「農家の経験や勘に頼った栽培では、品質やサイズのニーズに応えるのは難しいですね。頼りになるのはデータです。トマトに与える養分や、ハウス内の湿度などを24時間モニターしています。そうして集めたデータをもとに、ハウス内の環境を細かく調整することで、お客様が納得する作物が作れるんです」

厳しいデータ管理の結果生まれたサングレイスのトマトは、顧客から高い評価を得ており、現在、年間生産量510t、売上高1億9千万円に達しています。

「年数を重ねるごとに、ますますトマト栽培の奥深さを感じますね」と話す杉山さん。その言葉からは、トマトに対する愛情と、生育環境を向上させようという、強い意志が感じられました。

(※) 有機質活用型養液隔離土耕栽培とは、地面から隔離したプランターに土を入れて定植し、作物の生育に合わせながら、必要な水や有機質由来の液体肥料を点滴チューブなどで与えて育てる栽培方法のこと。

トップランナーを支えた力!
「ただトマトを作るのではなく、問題点を意識する。そして、いっしょに働く仲間と、課題を徹底的に話し合い、設備や栽培技術の改善を繰り返す。農業経営は、農業技術の追求だと思っています」と杉山さん。サングレイスでは、メーカーや研究機関の実験の場として農場を提供することで、日々、新しい技術を採用しています。そのチャレンジ精神と攻めの姿勢が、同社の目覚ましい発展を支えています。


文・写真/(株)ブーン