特集2 食文化研究家・清絢(きよしあや)の味わい ふれあい 出会い旅(1)
第3回静岡県御前崎市 浜の美味、漁師めしの「ガワ」をいただく!
地域で愛される郷土料理の味とそれが生まれたルーツを研究しているわたくし清 絢が、日本各地の郷土食を巡る旅。 3回目となる今回は、海とともに生きる町が育んだ暑い夏にぴったりの食べやすく、元気が出る夏の味、漁師めし「ガワ」のルーツを訪ねます。 |
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清 絢( きよし・あや) 大阪府出身。日本各地の農山漁村を訪ね、伝統的な食文化や暮らしについて、調査研究を行う。 日本の食文化を次世代へ継承するために、執筆、講演など、さまざまな形で活動中。 |
御前埼(おまえざき)灯台
真っ白に輝く御前崎のシンボルは青空と美しいコントラスト |
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静岡県の最南端に位置する灯台で、白亜のレンガ造りが美しい。上まで登ると太平洋を一望でき、少し曲がって見える水平線に、地球が球体だということを再認識 文/清 絢 写真/川端正吾 イラスト/竜田麻衣 |
暑い夏には、体をすっと冷やすものが食べたくなりますよね。カツオの水揚げで有名な、ここ御前崎(おまえざき)には、夏を乗りきるための冷たい漁師めし、「ガワ」があると聞いて、飛んできました。 |
御前崎港
一本釣りの生ガツオならここ! 水揚げ量は県内随一 |
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御前崎港は県内随一の生ガツオの水揚げ量を誇る。取材したときは、カツオの水揚げはなかったものの、真っ赤なキンメダイが大漁で、増義丸(ますよしまる)の増田信義(のぶよし)さんと奥さまの勝江さんとパチリ |
まずは、漁師さんに話を聞こうと、向かったのは御前崎漁港。 「ガワはなんといってもカツオだよ。船上で釣りたてのカツオを包丁でたたいて、味噌汁にタマネギと氷といっしょに入れてかき混ぜてな。うまいから、いっぺん食べてみらー」と、真っ黒に日焼けしたお父さんが、教えてくれました。 なぜ、「ガワ」と呼ばれるかというと、汁に氷を入れて混ぜるとき“ガワガワ”という音がするからだとか。「うちはキンメでも作るよ。白身だとさっぱりして、またうまいの」と、キンメ漁から帰ってきた漁師さんが教えてくれたのを皮切りに、漁師仲間で、うちのガワ自慢大会になりました。 もともとはカツオ漁船の漁師さんが、仕事の合間に、まかない飯としてかきこんだとか。船上で食べるガワには、カツオの血や目玉まで入っており、口当たりもドロッとしていて、かなり塩辛いそう。想像以上に豪快な、海の男の味つけです。 漁師の仕事は重労働なので、汗の量も並大抵ではありません。そんなハードな仕事を支える食事は、さっと食べられるのはもちろん、精がついて、塩分も補給できるものというわけ。なるほどガワは、とても理にかなった一杯といえますね。 「でもね、一般の人には生臭くて、食べにくいのよね……」と、苦笑いする漁師の奥さん。地元の家庭で作るガワでは、魚の身だけを使い、塩けも抑えているそう。そのまま汁物として食べるほか、そうめんと合わせた「ガワそうめん」が、よく食卓にのぼります。そうめんをガワにつけて食べるお手軽メニューは、御前崎の主婦の強い味方。お昼どきは「ガワそうめんでいいかしら?」とあちこちで聞こえるほど、夏の定番です。聞けば聞くほど、おなかがグーッと。港近くの料理屋でガワが味わえると聞き、伺いました。 |
駒形神社
航路を照らした漁業の守り神に感激…… |
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海鮮料理 みはる
潮風香る岬で清涼感のある一杯を豪快に! |
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御前崎に揚がった旬の地魚をふんだんに使った料理が好評のお店で、週末には県外からの客でごった返すほどの人気。ガワは季節限定のメニューとして、5~9月ごろまで提供している |
漁港から駒形神社に立ち寄り、車を走らせて数分、岬の先端に位置する「海鮮料理 みはる」は、御前崎でとれた地魚のお店。季節限定メニューとして、ガワを味わえます。料理人の清水康年(やすとし)さんに、初心者向けのガワの作り方を伝授していただきました。 「カツオだけでは少しクセがあるので、アジやカマスといった旬の魚をプラスするといいですよ」と清水さん。生の魚をショウガやニンニクなどの薬味とたたいて、風味をアップ。あらかじめ濃いめに作って冷やした味噌汁を器によそい、たたいた身と氷を加えたら、“ガワガワ”とかき混ぜます。仕上げに、タマネギやキュウリなどをたっぷりのせれば、ガワの完成。 よく冷えたガワをさらさらとかきこむと、すーっと汗が引いていきます。「ご家庭で作るときは、ぜひ新鮮な魚を使ってくださいね」と笑顔で見送ってくれました。 照りつける強い日ざしと、心地よい潮風、そして、キリッと冷えたガワに幸せ気分の一日。海と生きる御前崎ならではの一品との出会いは、食と暮らしのつながりをあらためて実感させてくれました。 |
なぶら市場
鮮魚から干物、カツオ節まで海の幸がお出迎え |
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