特集2 食文化研究家・清絢(きよしあや)の味わい ふれあい 出会い旅(1)
第4回宮城県仙南地方 心も体もゆるむ味「おくずかけ」を訪ねて
食文化研究家であるわたくし清 絢が、日本各地の郷土料理を巡りながら、地域のみなさんとふれあう旅も今回で4回目。初秋の旅のお目当ては、「おくずかけ」です。野菜たっぷりの汁で、白石温麺(うーめん)という地域特有の麺を煮込んでいただく素朴な汁物のルーツを巡ります。 |
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清 絢( きよし・あや) 大阪府出身。日本各地の農山漁村を訪ね、伝統的な食文化や暮らしについて、調査研究を行う。 日本の食文化を次世代へ継承するために、執筆、講演など、さまざまな形で活動中。 |
白石(しろいし)城・歴史探訪ミュージアム
「温麺」の名が付いた“ほっこり”エピソードに感動 |
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平成7年に120年ぶりに復元された白石城。釘を1本も使わずに建てられており、往年の城の姿に近いとか。 文/清 絢 写真/川端正吾 イラスト/竜田麻衣 |
宮城県仙南地方には、お盆やお彼岸などの仏事にはかならず出される「おくずかけ」という郷土料理があります。これは、とろみのある汁で、白石特産の「白石温麺(うーめん)」を煮込んだ一品。まずは、「温麺」の由来を学ぶために、白石城と歴史探訪ミュージアムへ。「なぜお城?」と思われるかもしれませんが、実はこの麺の誕生には、お殿様と孝行息子のエピソードが語り伝えられているのです。 「白石温麺」は一見“短いそうめん”で、長さはたった9cm。なぜこんな短い麺が作られるようになったのでしょうか。白石城主片倉家の歴史に詳しい、歴史探訪ミュージアムの大宮宗雄(むねお)さんに伺いました。 「温麺が生まれたのは今から400年ほど前。胃が悪く床に伏していた父親のために、消化のよいものを食べさせたいと願う鈴木味右衛門(みえもん)という地元名家の青年が、旅の僧から油を使わずに作る麺を習いました。油を使わないので長く伸ばせず、短い麺になったとか。その麺を父親に食べさせたところ、たちまち元気に。その後、青年が城主に献上すると、親孝行ぶりに感激した殿様が『温麺』と名付けたと言われています。さらに、生産を奨励したことで製法が広まり、名産品として白石に定着したんですよ」
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佐藤清治(せいじ)製麺
5日かけて丁寧に作り上げる伝統製法の麺 |
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続いて訪ねたのは、伝統的な温麺の製法を守る「佐藤清治(せいじ)製麺」。 「白石一帯は小麦をたくさん栽培していたので地粉が豊富。それに、蔵王(ざおう)から流れ出る白石川の水を城下町に引き入れて水路を整備していたから、水車を使って粉を挽くこともできました。冬には冷たく乾いた風が吹くので、麺の乾燥にも適した環境だったんですね」と話すのは、店主の佐藤豊彦さん。温麺を乾燥させるときの湿度や温度は、今もすべて職人さんの感覚で調整するそうです。 作業工程を拝見すると、小麦粉と塩水だけで作られ、とてもシンプル。たしかに消化がよく、胃にもやさしそうな麺です。
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鎌田こけしや
小さなこけしの可憐な笑顔に癒されて…… |
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次に立ち寄ったのは、この地域発祥の「弥治郎こけし」の工房「鎌田こけしや」。 「弥治郎こけしの特徴は、頭と胴体の美しいろくろ模様なんだよ」と伝統こけし工人(こうじん)の鎌田孝志(たかし)さん。さまざまな表情のこけしに囲まれ、しばし心が癒されていると、“温麺を食べるお殿様”の、ユーモラスなからくり人形にも出会いました。
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ごっつぉうさん
どこか懐かしいおふくろの味が出迎えるお食事処 |
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7~9月のランチタイムには「おくずかけ定食」(500円)が味わえる |
地元でとれた農産物や特産品の直売所である「小十郎(こじゅうろう)の郷(さと)」で、旅のおともに「ゆべし」を買い、白石のお隣大河原町(おおがわらまち)に車を走らせ、いよいよ「おくずかけ」が食べられるお店「ごっつぉうさん」へ。こちらは、ふるさとの料理をメインに、お惣菜の販売と食事を提供しているお店です。 「おくずかけは、たっぷりの季節の野菜と温麺が入った、あったかくてとろみのあるお汁。お盆やお彼岸、法事など人がたくさん集まるときにはかならず大きなお鍋で作って、みんなで食べる行事食なのよ。昔はお葬式も自宅でしていたから、近所の人たちが手伝って食事作りをしたの。作るのに少し手間がかかるから、今ではお客さまに出す、おもてなし料理という感じね」と店主の小畑(おばた)美枝子さん。 「おくずかけ」という名前の由来は、昔とろみづけに葛(くず)を使ったからなど諸説があり、正確にはわかっていないそうです。 「みんなで食べたほうがおいしいわね」と、小畑さんとお店のみなさんといっしょに食卓を囲ませてもらいました。 季節の野菜がたくさん入った精進料理というだけあって、シイタケのだしに野菜のうまみが溶け込み、温麺ののど越しもよく、食が進みます。温麺の名前のとおり、心も体も温まる味です。「ごっつぉうさん」では、定期的に郷土料理講座も開催。「次世代にふるさとの味を伝えながら、みんなでいただくこと(共食)の大切さも、この講座を通して伝えたいですね」という小畑さん。郷土食を伝えたいという“地域の力”を実感できた、すばらしい旅でした。
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