このページの本文へ移動

農林水産省

メニュー

チャレンジャーズ トップランナーの軌跡 第88回

  • 印刷

石川県 株式会社金沢大地

自社生産のオーガニック加工品などが約100点!
脱サラ農家の情熱から生まれ、海外にも進出する「金沢大地」


有機栽培農家の井村辰二郎さんが設立した「金沢大地」は、〝オーガニック〞を追求する農産物加工品の開発・販売会社です。今回は、魅力的かつ多様な商品ラインナップを武器に、着実にファンを増やしてきた同社の道のりを追いかけます。

株式会社金沢大地のスタッフ。左から3番めが代表の井村さん

株式会社金沢大地のスタッフ。左から3番めが代表の井村さん

金沢大地が販売する農産物加工品の数々。平成27年の北陸新幹線の開通に合わせ、商品点数のさらなる充実を目指している

金沢大地が販売する農産物加工品の数々。平成27年の北陸新幹線の開通に合わせ、商品点数のさらなる充実を目指している

井村さんは国内有数の大規模有機生産者。有機農産物の作付面積は、延べ320haに達する。平成25年には、全国優良経営体表彰の農林水産大臣賞も受賞した

井村さんは国内有数の大規模有機生産者。有機農産物の作付面積は、延べ320haに達する。平成25年には、全国優良経営体表彰の農林水産大臣賞も受賞した

有機農業の基本は土作りから。井村さんは、有機肥料も全量自家生産することで、確実な安心につなげている。肥料の主原料は、抗生物質不使用で育てた採卵鶏の糞

有機農業の基本は土作りから。井村さんは、有機肥料も全量自家生産することで、確実な安心につなげている。肥料の主原料は、抗生物質不使用で育てた採卵鶏の糞
株式会社金沢大地が生み出した農産物加工品は、米や醤油、味噌、豆腐、茶、酒といった定番から、お米を郷土の伝統製法で加工した飴・ジャム、家庭でぬか漬けが作れるぬか床セットといったユニークな商品まで、その数なんと約100点!それらすべてが自社農場の有機農産物をいかした商品であることが、同社の自負であり、個性でもあります。

消費者とつながりたい一心で、就農当初から豆腐作りに挑戦!
代表の井村辰二郎(しんじろう)さんが、それまで勤めていた地元の民間企業を脱サラし、農家に転身したのは平成9年のこと。有機肥料を用いて農業を営んでいた父親の後を継ぐ形で就農しました。

就農当初から志したのは、徹底した有機農法と土地の再生。父親が所有していた40haの田畑で、米、大豆、麦の有機栽培に取り組みながら、周辺の耕作放棄地を借り受け、規模を拡大していきました。有機農法はどうしても収量がバラつきがちなため、農地を拡張して収量を安定させる必要があったためです。

また、6次産業化に向けて加工品第一号となる「豆腐」作りもスタートしました。

「収穫したらすぐお客様に直接届けられる米や野菜と同じように、大豆や麦でも消費者と直につながりたいという思いがあったんです。ただ、豆腐作りはまったくの素人だったので、全然思い通りにいきませんでしたね」と、井村さんは振り返ります。

品質が必ずしも均一ではない有機大豆を天然にがりで固めていくオーガニックな製法は失敗の連続。商品化へこぎつけるまで半年の歳月を費やしました。当時はすべての作業を自分一人でこなしていたため、夜中の3時に起きて豆腐作りを行い、日が昇る頃に農場へ出る生活が続き、農業と加工業を両立させる大変さを身をもって知ったといいます。

売るテクニックを追求するよりも個性を押し出すことが大切
平成14年、井村さんは加工品製造を専門に行う「株式会社金沢大地」を設立。きっかけとなったのは、豆腐に続いて開発した「国産有機六条大麦茶」のヒットでした。この麦茶は、有機栽培特有の甘くて香ばしい味わいに加え、賞味期限が長いことから取引先の卸業者や生協などからの注文が急増。量産化に対応できる、加工販売業に特化した受け皿の必要性を痛感したのです。

また平成19年には、インターネット通販を開始。それまでの発信専用のホームページに“買い物カゴ”機能を装備し、本格的なウェブショップとしてリニューアルしました。

さらに、平成23年、金沢の名所・近江町市場に直営の店舗金澤大地「たなつや」をオープン。このときの出店に向けて自社の農産加工品の開発を急ピッチで進めたことが、現在の豊富なアイテム数につながりました。ネット販売の品ぞろえも充実し、売上げも上昇中です。

「ただ、ウチは飛び抜けたヒット商品もありませんし、低価格をウリにした大手の通販サイトと競争する気もありません。大事なのは、売るためのテクニックよりも個性。金沢大地の名前が入ったものはすべて自社農場で育てられたオーガニック商品であることを伝え、共感してくださるお客様をいかに増やすかでしょうね」と、井村さんは話します。

近年、ネット通販で注文数を伸ばしている「わたしのぬか床」や「あんしん味噌づくりセット」といった“手作りキット”は、マーケット・インの発想でユーザー側の求める安心感や手作り感を反映させた商品といえます。

そして、平成21年にはEU、米国のオーガニック認証を取得し、加工品の輸出事業も始め、海外販路を開拓中。金沢大地のまいた「種」は世界中で芽を出し始めています。

製造中の「戸室石焙煎 加賀はと麦茶」。多様な加工品を作るのは、持続性ある有機農業の理念を、より広く世間に周知するためでもある

製造中の「戸室石焙煎 加賀はと麦茶」。多様な加工品を作るのは、持続性ある有機農業の理念を、より広く世間に周知するためでもある
  近江町市場にある実店舗金澤大地「たなつや」。地元での有機農産物の地産地消に貢献している

近江町市場にある実店舗金澤大地「たなつや」。地元での有機農産物の地産地消に貢献している


トップランナーを支えた力!
金沢大地の経営理念は〝千年産業を目指して〞。井村さんは「そのためには、規模を拡大し、経営を安定化する必要があります」と話します。有機農業の弱点は品質や収量が不安定になりやすいこと。同社では、耕作放棄地を再生するなどして作付面積を増やし、安定供給を目指しています。現在、有機大豆および有機麦類の生産量は、日本有数の規模です。


文/宗像幸彦
写真/多田昌弘