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特集2 食文化研究家・清絢(きよしあや)の味わい ふれあい 出会い旅(1)

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第5回愛媛県宇和島市 色鮮やかな鉢盛料理「ふくめん」に惹かれて


食文化研究家のわたくし清 絢が、地域のみなさんと交流しながら、日本各地の郷土料理を巡る旅も早いもので5回目となりました。今回は、「ふくめん」という見た目がとても華やかな料理に迫ります。どんなルーツに出会えるのか、期待に胸をふくらませながら出発です。

色鮮やかな鉢盛料理「ふくめん」に惹かれて

清 絢( きよし・あや)

清 絢( きよし・あや)
大阪府出身。日本各地の農山漁村を訪ね、伝統的な食文化や暮らしについて、調査研究を行う。
日本の食文化を次世代へ継承するために、執筆、講演など、さまざまな形で活動中。



旅のルート

遊子水荷浦(ゆすみずがうら)の段畑(だんばた)
先人たちが築き上げた壮大な景観を眺めて……

半農半漁の生活が一般的だった頃には、見渡す限りの段畑が広がっていた。現在は24軒で段畑を耕し、石垣の補修などにつとめ、平成19年には国の重要文化的景観にも選定される。オーナー制度を実施し、他県からの支援も。

半農半漁の生活が一般的だった頃には、見渡す限りの段畑が広がっていた。現在は24軒で段畑を耕し、石垣の補修などにつとめ、平成19年には国の重要文化的景観にも選定される。オーナー制度を実施し、他県からの支援も。

半農半漁の生活が一般的だった頃には、見渡す限りの段畑が広がっていた。現在は24軒で段畑を耕し、石垣の補修などにつとめ、平成19年には国の重要文化的景観にも選定される。オーナー制度を実施し、他県からの支援も。

半農半漁の生活が一般的だった頃には、見渡す限りの段畑が広がっていた。現在は24軒で段畑を耕し、石垣の補修などにつとめ、平成19年には国の重要文化的景観にも選定される。オーナー制度を実施し、他県からの支援も。





文/清 絢
写真/川端正吾
イラスト/竜田麻衣

秋の空気が心地よい愛媛県宇和島市を巡る旅のお目当ては、南予(なんよ)地域のお祝い事を華やかに彩る、大皿に盛られた鉢盛(はちもり)料理「ふくめん」です。

まずは、南予地域の農漁村の暮らしぶりが残る遊子水荷浦(ゆすみずがうら)の段畑(だんばた)へ。入り組んだリアス海岸のすぐそばまで、段々畑が広がっています。

「昔、この辺りはとても貧しくてね、漁業だけでは食べていかれんから、畑も耕さんといけんかった。先祖代々少しずつ斜面を開墾して、この段畑を作ったんよ」と話す「段畑を守ろう会」の山下憲穂(のりお)さん。段畑の風景に、懸命に生きた人々の姿が浮かんで見えるようでした。

「だんだん茶屋」では地産地消の定食などが味わえ、ジャガイモ焼酎も人気

「だんだん茶屋」では地産地消の定食などが味わえ、ジャガイモ焼酎も人気

丸水(がんすい)
伝統を守るご主人の郷土料理を堪能

伝統を守るご主人の郷土料理を堪能

さつま

鯛めし

宇和島の代表的な郷土料理が味わえるお店で、観光客も多い。南予の鯛めしは、卵を溶き入れたしょうゆダレに、新鮮な鯛の刺身をつけて、ごはんにかけて食べる郷土の味。天然鯛は活きが良く、ぷりぷりした歯ごたえがやみつきに。「ふくめん」もここで食べられる
次は宇和島中心部に移動し、「丸水(がんすい)」という80年ほど続く郷土料理店へ。ご主人の土居孝史(たかし)さんは「郷土料理は、その歴史背景を知らないと本当の味が出せない」という信念を持って郷土食を伝えています。

ここでは、焼きほぐした鯛の身に麦味噌と無塩だしを合わせたものを麦めしにかける「さつま」をいただきました。宮崎の冷や汁が伝わった料理ともいわれ、海上交通でつながっていた九州の味わいも感じました。


道の駅 きさいや広場
大迫力の牛鬼を体感できるスポット

宇和海(うわかい)の魚介類から地域の特産品までそろう道の駅で、牛鬼館や真珠館なども併設。宇和島の魅力を存分に楽しめる場所

宇和海(うわかい)の魚介類から地域の特産品までそろう道の駅で、牛鬼館や真珠館なども併設。宇和島の魅力を存分に楽しめる場所

牛鬼は祭りで使う本物を3体展示し、シュロの毛で覆われた姿や、赤い布をまとった姿が圧巻

牛鬼は祭りで使う本物を3体展示し、シュロの毛で覆われた姿や、赤い布をまとった姿が圧巻


次は宇和島で有名な「うわじま牛鬼(うしおに)まつり」を学びに、「道の駅 きさいや広場」へ。

「この巨大な牛鬼の突き合わせが祭りでいちばん盛り上がる!」と宇和島市役所牛鬼保存会の楠葉拓史(くすばたくし)さん。「ふくめん」は、こうしたお祭りのごちそうにも並ぶそうです。


旅のルート

南四国ファーム
海を望むミカン園でとれたてをほおばる

10~12月頃に観光ミカン園としてミカン狩りを実施

10~12月頃に観光ミカン園としてミカン狩りを実施

柑橘のおいしさを伝えるべく、保存料・香料無添加のジュースや冷凍ミカンなどの製品を考案

柑橘のおいしさを伝えるべく、保存料・香料無添加のジュースや冷凍ミカンなどの製品を考案
続いて、ミカンが実る「南四国ファーム」へ。ここ吉田町は、温州ミカンが導入されて、約220年の歴史がある産地。遊子のような段畑だったところが、現在はミカン畑になっている場所も多いといいます。斜面は日あたりも水はけもよく、ミカンの栽培に適していたのですね。

こちらの清家久万夫(せいけくまお)さんは、安全でおいしい柑橘を全国に届けたいと熱心に生産に取り組んでいます。じつはこのミカンが「ふくめん」に欠かせない食材なのです。

ファームの直売所「吉田きなはいや」では、凍らせたミカンだけで作る濃厚なシャーベットも味わえる

ファームの直売所「吉田きなはいや」では、凍らせたミカンだけで作る濃厚なシャーベットも味わえる
  清家久万夫(せいけくまお)さんと

宇和島市生活研究協議会のみなさん
特別な席を鮮やかに彩る素朴な味

「『みがらし』というピリ辛の酢味噌をつけて食べるフカ(サメ)も欠かせないごちそうなのよ」と話す清家民江さんが、「ふくめん」といっしょに用意してくれた「フカの湯ざらし」は、地域特有のみがらしと淡白なフカがよく合う

「『みがらし』というピリ辛の酢味噌をつけて食べるフカ(サメ)も欠かせないごちそうなのよ」と話す清家民江さんが、「ふくめん」といっしょに用意してくれた「フカの湯ざらし」は、地域特有のみがらしと淡白なフカがよく合う

みなさんと囲んだ鉢盛料理の数々は、どれも手作りの温かい味。そぼろ作り名人の清家千鶴子さんによれば「エソでなきゃほろほろのそぼろは作れない」そうだが、手に入りにくいので、鯛で代用しても。

みなさんと囲んだ鉢盛料理の数々は、どれも手作りの温かい味。そぼろ作り名人の清家千鶴子さんによれば「エソでなきゃほろほろのそぼろは作れない」そうだが、手に入りにくいので、鯛で代用しても

郷土菓子の「しばもち」というあんこ入りのお餅も美味

郷土菓子の「しばもち」というあんこ入りのお餅も美味
さぁ、ついに今回の主役「ふくめん」の調理場に。協力してくださったのは「宇和島市生活研究協議会」のみなさん。宇和島の鉢盛料理のなかでもっとも彩りよく美しいとされています。

「エソという白身魚で作ったそぼろと香りのよいミカンの皮を、甘めに炊いた糸コンニャクの上にのせる料理でね。普通そぼろの下はご飯や麺だと思うみたいで、下からコンニャクが出てくると、初めて食べる人はみんなびっくりしますよ。コンニャクがすっかり見えなくなるほどにそぼろで覆うので『ふくめん(覆面)』と呼ばれるようになったみたい。結婚式には大皿にこんもりきれいに盛りつけるの。昔はよく作ったもんですよ」と清家幸子(さちこ)さん。

いちばん手がかかるのはエソのそぼろ作り。エソをゆでて身をほぐしたら、さらし木綿の袋に入れて、ぎゅーっと絞るようにめん棒で押しつぶしていきます。さらに鍋に移して、今度は木べらでかき混ぜながら30分ほど気長に煎るのです。この間、手を止めてはいけません。しかしまだまだ完成でなく、ここから仕上げの小骨取りが待っています。エソは味のよい魚ですが、小骨が多いのが特徴です。それを根気よくお箸で骨取りをすることで、ふわふわのそぼろの食感が際立ちます。鯛なら小骨も少なく調理が楽なのですが、エソのほうが味に深みがあるので、みなさんエソを使うのだとか。

「予定外の人数のお客さんが来てももてなせるように、なんぞごと(特別なこと)があるときは、取り分けて食べる鉢盛料理がよかったんやろうね」という幸子さん。今でもお正月や節句には、鉢盛料理を20種類以上も準備して、子どもたちやお孫さんといっしょに囲んでいるそう。

一口いただくと、エソのうまみたっぷりのそぼろが、ほんのり甘いコンニャクによくからまり、ミカンの香りがすっと鼻を抜けていく、なんともさわやかな味でした。

こつこつと小骨をつまんで下ごしらえをするというおもてなしの心。 そして、薬味にミカンの皮を使うという、その土地の人々の暮らしぶりまで見えてくるような料理。郷土食らしいエッセンスを随所に感じられる味との出会いとなりました。


散歩のおとも
旅の途中では、特産の柑橘ジュースで一息。飲み比べるのも楽しい。じゃこ天は、アジやホタルジャコなどの小魚を皮や骨ごとすりつぶして成形し、油で揚げたもの。豪快にかじりつくと、魚のうまみが口の中に広がる。どちらも「きさいや広場」で購入可能

旅の途中では、特産の柑橘ジュースで一息。飲み比べるのも楽しい。じゃこ天は、アジやホタルジャコなどの小魚を皮や骨ごとすりつぶして成形し、油で揚げたもの。豪快にかじりつくと、魚のうまみが口の中に広がる。どちらも「きさいや広場」で購入可能

地図   (1)遊子水荷浦の段畑(段畑を守ろう会事務局)
愛媛県宇和島市遊子2323-3(だんだん茶屋内)
TEL : 0895-62-0091
(2)丸水
愛媛県宇和島市本町追手2-3-10
TEL : 0895-22-3636
(3)道の駅 きさいや広場
愛媛県宇和島市弁天町1-318-16
TEL : 0895-22-3934
(4)南四国ファーム(直売所「吉田きなはいや」)
愛媛県宇和島市吉田町沖村甲612-1
TEL : 0895-52-0330