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農林水産省

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チャレンジャーズ トップランナーの軌跡 第91回

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宮城県 松山町酒米研究会×株式会社一ノ蔵

銘酒「一ノ蔵」を支える米農家集団「松山町酒米研究会」。
“攻めの姿勢”で、無農薬・無化学肥料栽培などに、次々チャレンジ!


宮城県の地酒として全国的な知名度を誇る「一ノ蔵」。この銘酒を支える地元の生産者グループが「松山町酒米研究会」です。環境保全型の農法で酒米を栽培するなど、企業との連携による消費者目線での米作りを通じて、経営の安定化を図っています。

松山町酒米研究会の会員のみなさん。前列右から、小原勉(おばらつとむ)さん、只埜和臣(ただのかずおみ)さん、会長の今野稔(こんのみのる)さん、筒井修悦(つついしゅうえつ)さん、今野知教(こんのとものり)さん。後列右から、櫻井敬(さくらいけい)さん、櫻井正幸(さくらいまさゆき)さん、桝形恭一(ますかたきょういち)さん、遠藤三千男(えんどうみちお)さん、山谷恵一(やまやけいいち)さん
松山町酒米研究会の会員のみなさん。
前列右から、小原勉(おばらつとむ)さん、只埜和臣(ただのかずおみ)さん、
会長の今野稔(こんのみのる)さん、筒井修悦(つついしゅうえつ)さん、今野知教(こんのとものり)さん。
後列右から、櫻井敬(さくらいけい)さん、櫻井正幸(さくらいまさゆき)さん、桝形恭一(ますかたきょういち)さん、
遠藤三千男(えんどうみちお)さん、山谷恵一(やまやけいいち)さん

環境保全米の中でも酒造好適性の高い「蔵の華」100%で仕込んだ「一ノ蔵 純米吟醸 蔵の華」(1.8l化粧箱付3,619円+税)

環境保全米の中でも酒造好適性の高い「蔵の華」100%で仕込んだ「一ノ蔵  純米吟醸  蔵の華」(1.8l化粧箱付3,619円+税)

環境保全米の生産量は、当初は全体の2割程度だったが、現在では6割にまで拡大

環境保全米の生産量は、当初は全体の2割程度だったが、現在では6割にまで拡大

酒米研究会の看板品種となっている“蔵の華”。品種名の由来は「酒蔵の中で香りを漂わせ、人を酔わせる華となるお米」

酒米研究会の看板品種となっている“蔵の華”。品種名の由来は「酒蔵の中で香りを漂わせ、人を酔わせる華となるお米」

「一ノ蔵 純米吟醸 蔵の華」は、ふくよかな香りと上品で豊かな味わいが特徴

「一ノ蔵 純米吟醸 蔵の華」は、ふくよかな香りと上品で豊かな味わいが特徴
従来どおりの米作りに危機感!そこでひらめいたのが……
仙台市から北へ上ること約40キロ。宮城県北西部に位置する大崎市の松山地区。ここは、昔から米どころであるとともに、日本酒の醸造が盛んな土地でもあります。昭和48年、地元の4つの蔵元が一つになり、「株式会社一ノ蔵」を設立。東北を代表する酒造メーカーになりました。同社を米作りで支えているのが、「松山町酒米研究会」です。

同会発足のきっかけは、平成5年に起きた大冷害。主食用米を生産する同地域の農家は、従来どおりの米作りに対して大きな危機感を抱きはじめました。

現会長の今野稔(こんのみのる)さんはこう振り返ります。

「このままでは自分たちの農業が行き詰まるのではという焦りがあり、皆で頭を悩ませていました。そんなとき、一ノ蔵との酒米の契約栽培、という案が出てきたんです」

酒米の契約栽培が実現すれば、一定の価格で買い上げてくれるため、農家の収入は安定します。一方で、醸造の町を目指す町や一ノ蔵は、地元農家の良質な酒米生産の確立を求めていました。

こうして平成7年、一ノ蔵、旧松山町(現大崎市)、旧宮城松山農業協同組合(現JAみどりの)の支援を受け、18名の農家からなる「松山町酒米研究会」が発足、一ノ蔵への酒米の供給がスタートしました。

環境に配慮した酒米づくりをきっかけに、主食用米生産にも変化が
酒米の契約栽培が拡大するにしたがって農家経営は安定。消費者の環境意識の高まりに対応した農法に踏み込むことに。平成10年、農薬と化学肥料の使用量を、従来の半分以下に減らした専用酒米の作付けをスタートします。

「環境保全型農業は、今でこそ多くの農家が取り組んでいますが、当時は経験者が少なくて、不安だらけでした。しかし、環境に配慮した酒米で作ったお酒は消費者にも歓迎されると考えたんです」と今野さんは語ります。

平成13年には、さらに一歩進んだ無農薬・無化学肥料による専用酒米の生産を実現。一ノ蔵でも環境保全米による商品開発に着手し、環境保全型農業を後押ししました。

このような地元のお米にこだわった地酒づくりは、同会が生産している主食用米の生産にも変化をもたらし、一ノ蔵ブランドを冠した環境保全米「一ノ蔵米」が、東京の百貨店などで販売されました。

また、同会の取組に希望を感じた農家が加わり、現在、メンバーは32名まで増加。8.6haで始まった作付面積は約9倍の73.5haまで拡大しています。

「今後も、現状に満足することなく、次の一手を模索し、果敢に〝攻めの姿勢〞を貫きたいと思います」と、今野さんは力強く抱負を語ります。

トップランナーを支えた力!
「酒米の場合、自分がつくった米の評価が分かりづらいという課題がありました」と今野会長。そこで、会では「品質評価加算金制度」を導入。毎年、各農家の収量や圃場(ほじょう)管理の状態、醸造の好適性などに応じて奨励金を支払うことで、メンバーのモチベーションを高めつつ、高品質な酒米作りを実現しています。


文/宗像幸彦
写真/松木雄一