このページの本文へ移動

農林水産省

メニュー

東日本大震災からの復旧・復興に向けて

  • 印刷

東北漁業の復興を、調査・研究で後押しー

新技術「プランクトンモニタリングシステム」で、
震災で激減したサケ漁獲量の回復を [独立行政法人水産総合研究センター 東北区水産研究所]


東日本大震災による津波で、壊滅的な被害を受けた青森・岩手・宮城のサケ漁。
その再建を後押しするために、水産総合研究センター東北区水産研究所では、「プランクトンモニタリングシステム」の導入など、新しいふ化放流技術の開発を進めています。

壊滅的な被害を受けた独立行政法人水産総合研究センター東北区水産研究所の宮古庁舎も再建。被災地復興のための研究開発に取り組んでいる
壊滅的な被害を受けた独立行政法人水産総合研究センター東北区水産研究所の宮古庁舎も再建。
被災地復興のための研究開発に取り組んでいる

サケのエサとなる海中のプランクトンを測定する「プランクトンモニタリング用多周波ソナー」

サケのエサとなる海中のプランクトンを測定する「プランクトンモニタリング用多周波ソナー」

プランクトンモニタリングシステム

サケ




文/梶原芳恵
写真/独立行政法人水産総合研究センター 東北区水産研究所
津波でふ化場が壊滅、生き残った稚魚も未成熟な状態で放流することに……
青森・岩手・宮城三県の漁業では、サケが重要な地位を占めており、漁業生産額のおよそ8%に達しています。そんなサケ漁を支えているのは、漁業協同組合等が運営する「さけますふ化場」による「さけますふ化放流事業」。サケの、生まれた川に回帰する習性を利用して、卵から稚魚を育て、毎年約6億匹を川に戻します。70年代以前には、同事業によるサケの回帰率は1%以下でしたが、震災前は3%前後まで向上していました。

しかし、震災により状況は一変します。津波により、3県に61か所あったふ化場のうち26か所が壊滅。生き残った稚魚も、例年より小さいサイズで放流せざるを得ませんでした。

平成24 年以降、ふ化場は徐々に再建されたものの、サケの稚魚が成魚となって回帰するのは、おおむね放流から4年後。そのため、震災時に小さなサイズで放流した影響は、今年から大きく現れます。平成26年11月時点で、川で捕獲する採卵用のサケは、例年の2割減となっています。

独立行政法人水産総合研究センター東北区水産研究所沿岸漁業資源研究センター長の堀井豊充さんは「卵が採れないと、放流する稚魚が少なくなり、長期的に漁獲量が減りかねません」と話します。

目標は、サケ漁業の生産性20%アップ!
サケの漁獲量を少しでも増やすために、センターでは、さまざまな技術開発に取り組んでいます。

そのひとつが、海中のプランクトンの量を観測する「プランクトンモニタリングシステム」。サケの稚魚は、放流直後の体力消耗がもっとも大きく、そのとき、周囲にエサとなるプランクトンがどの程度いるかが、生存率に大きく関わります。そこで、センターでは特殊なソナーを開発。音波を利用してプランクトンの大きさや数の増減を探り、最適な放流のタイミングを割り出そうとしています。

また、放流した稚魚に、夜間に光で集めた天然プランクトンを与え、摂餌能力が高まるところまで育てる「誘引保育放流」にも取り組んでいます。

「こうした新技術で、サケの回帰率をアップして、漁獲量を大幅に増やしたいですね。最終的に、サケ漁業の生産性を20%アップするのが目標です」と、堀井さん。

サケのふ化放流事業以外でも、漁業の復興を加速させる研究が進んでいます。

大被害を受けたワカメ養殖では、定置網漁船を活用した大規模な「ワカメ刈り取り装置」などを開発。漁業者の作業時間を、それまでの20%にまで減らしました。

カレイの一種、高級魚「マツカワ」の種苗生産では、稚魚を緑色LEDの光を当てて育てることで、成長速度を従来より30%上げることに成功しました。

「東北の太平洋沿岸では、震災前から漁獲量が減少していた魚種もあり、漁業者は追い討ちをかけられる形となりました。漁業者の経済的負担を減らすためにも、一日でも早く、これらの技術を実用化したいですね」と、堀井さんは力強く話してくれました。