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農林水産省

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チャレンジャーズ トップランナーの軌跡 第93回

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山口県 船方農場グループ

1次、2次、3次の産業ごとに会社化して持続可能な6次産業化を実現。
高品質のチーズやアイスクリームで、いまや年商20億円!


「船方農場グループ」は、昭和60年代に、当時では珍しい酪農体験を開始しました。「牛乳やチーズ・アイスを買いたい」というリピーターの要望で販売をスタート。生産、加工、販売・サービスの産業ごとに会社化して組織を強化し、いまや西日本最大級の農業生産法人へと成長しています。

グループ全体の従業員は、いまや300人超。この日は、グループを構成する「船方総合農場」「みるくたうん」「グリーンヒル」「花の海」「みどりの風協同組合」から数名ずつ集合した
グループ全体の従業員は、いまや300人超。
この日は、グループを構成する「船方総合農場」「みるくたうん」「グリーンヒル」「花の海」「みどりの風協同組合」から数名ずつ集合した

町から借りた50haの土地で、収益率のよいシクラメン栽培と酪農を組み合わせてスタート

町から借りた50haの土地で、収益率のよいシクラメン栽培と酪農を組み合わせてスタート

船方農場グループが販売している商品

「船方総合農場」では、現在、乳牛104頭、肉牛71頭を飼育。ほかに堆肥や米、鉢花、花や野菜苗などを生産している

「船方総合農場」では、現在、乳牛104頭、肉牛71頭を飼育。ほかに堆肥や米、鉢花、花や野菜苗などを生産している

グループの加工・販売会社「みるくたうん」の加工施設。バターづくりなどの体験プログラムも行われる

グループの加工・販売会社「みるくたうん」の加工施設。バターづくりなどの体験プログラムも行われる

船方農場グループを率いる坂本多旦さん。「道の駅」の発案者でもあり、日本農業法人協会の初代会長も務めた

船方農場グループを率いる坂本多旦さん。「道の駅」の発案者でもあり、日本農業法人協会の初代会長も務めた

昭和44年、わずかな花の栽培と乳牛7頭から農場をスタート
1000メートル級の山々に囲まれた山口県北部の徳佐盆地。ここに“6次産業化のパイオニア”といわれる「船方農場グループ」があります。農場の面積は、東京ドーム約22個分の102ha。原乳・肉・花き・苗物・米などの農畜産物や乳製品・ソーセージ・ハムといった加工品の売上げは年20億円にのぼります。

グループ代表の坂本多旦(かずあき)さんが、5人の仲間と、のちにグループの中核になる「船方総合農場」を設立したのは昭和44年のこと。花き栽培と乳牛7頭の酪農からのスタートでした。

「衰退していく地元“徳佐”の農業をなんとかしたい。そんな思いで始めたんです」と、坂本さんは振り返ります。

当時、坂本さんたちが目指したのは、“海外に比肩する大規模農場”。国の支援制度を活用しながら、いち早くロータリーパーラー(※)などの新型設備を導入し、昭和55年には牛500頭の規模にまで拡大しました。

しかし、原乳の価格が低迷し始め、経営の先行きに不安感が。そんなとき都市出身の若手社員が着目したのが、興味津々に農場を見物する都市から来た子供やお母さんでした。

「いまから思うと、グリーンツーリズムの黎明期だったのですね。それまで、農場は食べ物を生産するだけの場でしたが、癒しや情操教育や免疫をつける役割もあることに気づいたのです」と、坂本さん。

“農場ファン”の主婦の後押しで加工品作りにも着手
昭和61年、観光客に農場を開放するとともに、乳搾りなどの酪農体験をスタートしました。すると、年間1万を超す人が訪れる観光スポットに。

やがてリピーターの間から、「坂本さんたちが大切に作った牛乳や肉、お米を直接売って欲しい!」「お土産に買いたいので、チーズ・アイスクリームやハム・ソーセージを作って」といった声が聞かれるように。

さらに、子供会等の団体で体験に来た街の主婦300人から、「わたしたちも出資するので、ぜひ加工会社を作ってください」と、驚くような申し出がありました。

こうした声に押されて、加工品の製造・販売を行う会社を680人の出資者で設立。船方農場グループの6次産業化がスタートしました。

「6次産業化は、1次、2次、3次の産業ごとに、まったく異なる業務を行います。これをひとつの組織で行うと、どこかで限界がきます」と坂本さん。グループでは、産業ごとに会社化することで競争意識を生み、コスト削減や商品・サービスのレベルアップを実現。また、各社が持続可能な価格で取引ができるようグループ内の調整機能を構築し、生産から食卓まで、すべて流通管理を行っています。

現在、船方農場を訪れる観光客は年間7万人。大半が農畜産物や加工品を購入して帰り、一部は毎週の定期宅配顧客に。会員数は現在約8000名となっています。

いまでは、“農場経営のカリスマ”と呼ばれる坂本さん。いまも創業時と変わらず、農業・農村が元気になるアイデアを模索し続けています。

「農業を、単なる“食料生産の手段”として捉えると、将来は厳しいでしょう。しかし、自然とのふれあいや癒しなど、農業の多面的機能にも目を向ければ、農業・農村の可能性は限りなく広がるはずですよ」

トップランナーを支えた力!
「6次産業化に取り組む際、ふつうは1次の“生産”、2次の“加工”、3次の“販売・サービス”の順で展開します。うちは、“生産”の次に都市と農村の交流を行い、それから“加工”に乗り出しました。商品を作る前に、確実に購入してくれるファンをつかんだことが、成功につながりましたね」と、坂本さんは話します。

※ 回転する形状の搾乳施設。一度に多くの牛から搾乳できる


文/柿野明子
写真/八木拓也
写真提供/みどりの風協同組合