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農林水産分野の最新研究成果を紹介! アフ・ラボ

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農作物の天敵、アブラムシを大量に食べて駆除!

安全な生物農薬“飛ばないテントウムシ”が誕生


旬の冬野菜はもちろん、あらゆる野菜にとって害虫であるアブラムシ。このアブラムシを捕食するテントウムシは、以前から天敵を利用した防除法として注目されていました。しかし、ハウスなどに放しても、すぐに飛んでいって働いてもらえない……。そこでこの度、育成に成功したのが「飛ばないテントウムシ」。さて、その実力は?

モモアカアブラムシを食べる「飛ばないナミテントウ」。葉っぱや茎を伝って、1日100匹以上を捕食する
モモアカアブラムシを食べる「飛ばないナミテントウ」。葉っぱや茎を伝って、1日100匹以上を捕食する

「ナミテントウの世話が日課」という、(独)農研機構近畿中国四国農業研究センターの世古智一さん

「ナミテントウの世話が日課」という、(独)農研機構近畿中国四国農業研究センターの世古智一さん

研究過程では、フライトミルという飛翔能力の測定器で飛ぶ能力の低い個体を選抜。「測定後の個体は、無傷で取り外せます」と世古さん

研究過程では、フライトミルという飛翔能力の測定器で飛ぶ能力の低い個体を選抜。「測定後の個体は、無傷で取り外せます」と世古さん

飛べないのに働き者ね

(株)アグリセクトから「テントップ」の商品名で発売中。価格は200匹入りで約3万5000円

(株)アグリセクトから「テントップ」の商品名で発売中。価格は200匹入りで約3万5000円
“飛翔能力を低くする遺伝子”に着目!
近年、食品の安全に対する意識の高まりや、化学農薬が効きにくい病害虫が発生していることを受け、天敵を利用した害虫防除の研究開発が進んでいます。

農作物の重要害虫であるアブラムシの防除法として、テントウムシの利用が注目されています。とくにナミテントウはアブラムシを大量に捕食し、繁殖にも適しています。

しかし、ビニールハウスなどの施設内に放しても、すぐに飛んでいって天井部分にはりつくなど、高い防除効果を得られないという問題がありました。

そのため過去には、ナミテントウを羽化前に円筒形のチューブに入れ羽を奇形化し、飛べないように細工する手法も開発されましたが、次世代の成虫は飛翔能力を持つため、防除効果が長続きしないという課題がありました。

そんな中、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構((独)農研機構)近畿中国四国農業研究センターでは、自然界に存在するナミテントウの中に、飛ぶ能力の低い個体がいることに着目。そうした個体の持つ〝飛翔能力を低くする遺伝子〞を組み合わせることで、「飛ばないナミテントウ」の系統を育成できるのではと考え、平成15年に研究をスタートしました。

飛ばないナミテントウの育成に成功しかし、新たな難問も……
「ヨーロッパですでに同様の研究が進んでいることを知り、国内での実用化も可能なのではと思い、本格的に研究を始めることにしたんです」と話すのは(独)農研機構近畿中国四国農業研究センターの世古智一さん。学生時代から、天敵の品種改良による害虫防除を実現したいと考えていました。しかし、実際の研究は苦難の連続だったといいます。

「個体ごとに“飛ぶ・飛ばない”を見極めるのが難しいのです。本当は飛べる個体なのに、たまたま飛ばなかったこともありますし、何らかの発育異常で飛翔能力が失われた個体を選抜すると、次世代では飛翔能力が回復する、といったこともありました」

そうした苦労を乗り越え、約30世代にわたって選抜と交配を繰り返した結果、ついに「飛ばないナミテントウ」の育成に成功しました。しかし、新たな問題が……。

飛翔能力の低い個体を選抜する過程で、どうしても遺伝的に近縁の個体同士を交配させることになり、産卵数が少なくなったり、アブラムシの捕食が減り防除効果が下がる現象がみられました。そこで岡山大学との共同研究により、遺伝的に異なる個体同士の交配により、雑種第1代が親よりも優れた形質を示す雑種強勢を利用した品質管理法を開発。さらに、奈良県、大阪府、兵庫県、和歌山県、徳島県などの協力を得た結果、各地で、施設園芸におけるアブラムシの防除に有効だと実証されました。

たとえば小松菜畑に、飛ばないナミテントウの幼虫を1m2あたり10匹放すとアブラムシ被害を受けた小松菜の割合が10分の1以内に抑えられました。また、施設以外の露地栽培でも、飛ばないナミテントウが防除に有効なことも判明。さらに、エサの工夫などにより、ナミテントウを効率的に増殖する技術も開発されました。

こうして平成25年9月、この飛ばないナミテントウは生物農薬として正式に登録され、平成26年6月から、(株)アグリセクトより「テントップ」の商品名で販売されています。

今後の課題について世古さんは、「飛ばないナミテントウを露地野菜でも使えるようにすること。テントップの価格を下げて、防除コストを抑えることが課題です」と語ってくれました。

飛ばないナミテントウが飛ぼうとすると……

飛ばないナミテントウ利用イメージ図


写真提供/(独)農研機構近畿中国四国農業研究センター