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農林水産省

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特集1 米(4)

[TREND] ワインを選ぶように米を選ぶ時代へ



自分はどんな米が好きか、考えてみたことはありますか。
「これからは気分や料理によってお米を選び、楽しむ時代が来る」と五ツ星お米マイスター・西島豊造(とよぞう)さんは語ります。


手ですくった米



脱・コシヒカリで"お米戦国時代"へ!
店内に一歩足を踏み入れた瞬間、鼻をくすぐる米のにおい。東京・目黒区にある米穀店「スズノブ」の店頭には、北海道から九州まで、日本全国の米約65種類が玄米の状態でズラリと並んでいます。

「スーパーなどに比べると種類の多さにビックリするかもしれませんが、これでも日本全国で生産されているお米のごく一部ですよ」

そう語るのは、店主の西島豊造さん。五ツ星お米マイスターとして、テレビや雑誌などでも幅広く活躍しています。お米マイスターとは、日本米穀小売商業組合連合会が主宰する資格で、米に関する専門職経験者のみが受験できる、いわば"お米の博士号"。三ツ星と五ツ星があり、五ツ星は三ツ星取得後に受験が許される、お米資格の最高峰です。

西島さんは米を販売するだけでなく、全国各地の生産現場を飛び回って積極的に指導もしているため、生産動向やトレンドにも精通しています。

「これまでは、お米と言えばコシヒカリが主流で、おいしいコシヒカリの代表格である新潟県産を何とか追い越そうと、北海道などの一部地域を除いた全国の生産地が、コシヒカリの生産にしのぎを削っていました」

しかし、近年では"脱・コシヒカリ"の傾向が顕著になり、米の新品種が相次いで登場しています。

「特に若い人ほど新品種の栽培に意欲的で、周囲も後継者の育成、地方の活性化という点からバックアップしています」

昨年売り出された青森の「青天の霹靂(へきれき)」をはじめ、宮城の「東北194号」、秋田の「つぶぞろい」「秋のきらめき」、茨城の「ふくまる」、長野の「風さやか」など、多くの銘柄米が市場にデビューしています。

「このことからも分かるように、今やお米は"戦国時代"を迎えました。この流れは、今後ますます盛んになりそうです」


店頭では、おかずに合った米をアドバイス 店頭では、おかずに合った米をアドバイス


[Column]お米をもっとおいしく食べるコツ
少量パックの米

[買い方]一度に大量に買うよりも少量ずついろいろ試す
好みの米を見つけるには、食べ比べてみるのが一番。同じ品種でも、産地や地域によって、食感や粘り気・甘みなどに違いがあります。おすすめは、少量ずつ買うこと。一度に10キロではなく、例えば2キロずつ、いろいろな産地や銘柄の米を5種類試したほうが、個性の違いが分かるからです。自分や家族の好みに合った米を探してみましょう。

研いだあとの米。水が澄んでいる


[研ぎ方]"ゴシゴシ研ぎ"は昔の話。今は汚れを取るだけでOK
やさしく洗い、研ぎすぎないことが重要です。
(1)水を注いで米全体をかき混ぜ、素早く水を捨てる。10秒を目安に2回繰り返す。1回目の水は浄水などがおすすめ。
(2)指を広げて軽く握り、シャカシャカと一定のリズムで20~40回かき回す。
(3)水を注ぎ、2~3回かき混ぜて流す。2回繰り返し、水を入れてほぼ澄んでいればOK。

保存用密閉袋に入れた米


[保存法]精米後の米は生鮮品と同じ。密封&冷暗所で保存を!
米は高温多湿に弱く、空気に触れると劣化します。乾燥しやすく、人工的なにおいを吸着しやすいのも特徴。米袋には、どれも基本的に小さな空気穴があいていて、密閉状態にはなっていません。

そこで、1回に炊く分の量を保存用密閉袋に入れ、1週間分を目安に冷蔵庫の野菜室で保存するのがおすすめです。



気分や料理によって米をかえる楽しみ
「お米の味や食感は、品種ごとに特徴があり、同じ品種でも生産者や栽培環境によって、味が大きく異なる」と西島さんは言います。甘くてもちもちした米を好む人ばかりではなく、合わせる料理が洋食か和食かによっても、米に求められる食味は違ってきて当然なのだそう。

「お寿司屋さんがササニシキにこだわるのは、あっさりしていて粘りが少なく、魚介類の味をひきたててくれるから。普段からそんなにお米にこだわっていないという人でも、よく考えてみれば、夕食にはこってりしたおかずと一緒に濃厚なごはんを食べたいけれど、起き抜けの朝食にはスルッとのどを通るごはんが食べたいなど、人それぞれ好みがあるはずです」

新品種が増えるということは、そんな選択肢が増えるということ。

「将来的には、料理に合わせて今よりもっと細分化されていくことになるでしょう。単に主食としてだけではなく、味覚や触覚、嗅覚を楽しむための嗜好品になっていく。私はこれまでも『お米はワインと同じ』と言い続けてきましたが、今後はその傾向がますます強くなっていくと思います」


マイスターからソムリエへ
米を好みや気分、料理に合わせて楽しむ。まさに日本人だけに許されたぜいたくと言えます。「どんな米を選んだらいいのか分からない」という方は、ぜひ米穀店へ足を運んで相談を。

「粘りはあったほうがいいか、味は濃いほうがいいか、魚と肉どちらの料理に合わせることが多いか、具体的に希望を伝えれば、米屋はプロですから、それに合ったお米をすすめてくれます。ワインの選び方と一緒ですね。自分の好みをつぶさに伝えてください」

米の食感を表現するのに「もちもち」という言葉を初めて使い、ひんしゅくを買ったと苦笑する西島さん。「でも、これからの米屋はもっと新しい表現が求められてくる。そのために若い米屋の育成にも励んでいるところです」


五ツ星お米マイスター西島豊造さん/東京・目黒区の米穀店「スズノブ」店主。全国を飛び回り、お米の生産者や産地の人とともにブランド化を手がけてきたスペシャリスト 五ツ星お米マイスター
西島豊造さん

東京・目黒区の米穀店「スズノブ」店主。全国を飛び回り、お米の生産者や産地の人とともにブランド化を手がけてきたスペシャリスト



取材・文/岸田直子
撮影/福田栄美子