特集1 麦(4)
[TREND] 躍進する国産麦 おいしさで選ぶ時代へ
国産麦の需給などの研究に長年携わってきた、農林水産政策研究所の吉田行郷(ゆきさと)総括上席研究官に、日本の麦の現状と将来について聞きました。
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根強い国産志向がある日本の消費者
日本人1人当たりの小麦の年間消費量は、米が約55キログラムであるのに対し、小麦は30キログラム強。そのうち国産は1~2割程度です。パンや麺など、私たちがさまざまな形で口にしているものの多くは、外国産なのです。
このような現状がありながら、「最近は国産麦への注目度が高まっていると感じている人が、多いのではないでしょうか」と話すのは、我が国の麦の状況をよく知る、農林水産政策研究所の吉田行郷総括上席研究官。それを裏付けるように、研究室の棚には、国産麦を使った商品がずらりと並んでいます。
「こうした商品が増えていることからも、国産への注目度が一層高まっていることがうかがえます」と笑顔で語ります。
「もともと、日本の消費者には根強い"国産志向"があると言われていますが、国産であっても、おいしくなければ売れません。原料となる麦の品質の向上に加えて、メーカー側も国産麦の特性をいかした商品を研究・開発し、製造できるようになったことが大きいと言えます」
世界食料危機をきっかけに復活していった国産小麦
かつては外国産に劣ると言われてきた日本の小麦。第二次世界大戦後、欧米型の食文化が普及する中で、パンやパスタには外国産小麦のほうが向いていることから、国産の需要がなくなり、生産も一気に落ち込みました。
そうした状況が一変したのは、1972年の世界食料危機がきっかけとなりました。
「当時、当たり前のように売られていた豆腐がスーパーの店頭からごっそり消えるなど、大騒ぎになったことを思い出す方もいらっしゃるのではないでしょうか。これを契機に、食料供給力をもっと強化しようと、生産の拡大はもとより、需要に見合った小麦の品種改良に本腰を入れたのです」
栽培技術の向上にも取り組みながら、ようやく新品種が市場に出てきたのは、2000年以降になってから。その後、改良は進み、現在の北海道では、15年前に栽培されていた品種から、より質の高いものに大きく入れ替わりました。特に「ゆめちから」や「きたほなみ」は、大手メーカーの求めにも対応できる品質や量の生産がされるようになり、国産小麦の普及促進に貢献しています。
食べ比べて分かる国産小麦の魅力
将来的に品質がますます向上し、生産量・消費量が順調に増えていくと見られる国産小麦。ただし、課題もあります。
「新しい品種への転換や導入を急ぎすぎると、需要に見合った量以上に生産されてしまうことがあります。逆に、需要があるのに生産が追いつかないと価格の高騰を招き、供給の機会を失ってしまうことも。ですから、常に需要を細やかに見極めながら、生産を拡大していくことが最良の策であると考えています」
そして、消費者に国産小麦の魅力をもっと知ってもらうため、吉田研究官が提案するのは、外国産小麦のパンと食べ比べてみること。「最近、パン屋さんの店頭でも、国産と外国産、2種類の食パンやバゲットが売られているところをよく見かけます。シンプルなパンで同時に味を比較してみると、『こんなに味が違うんだ』という発見があるはずです。もちもち感やしっとり感といった、国産小麦ならではのおいしさを味わってほしいですね」
一方で、昨今の健康ブームを受け、国産大麦の需要も拡大。ご飯と一緒に炊く雑穀や、朝食向けのグラノーラ、カフェインを含まない麦茶など、健康に気をつかう人向けの商品だからこそ、国産のものが人気を集めています。
「品種改良も進んでおり、『サチホゴールデン』『はるしずく』(二条大麦)、『カシマゴール』(六条大麦)、『トヨノカゼ』『ビューファイバー』(はだか麦)などが新たに登場。従来の大麦の色のイメージを払拭する美しい白さと粒の大きさが特徴の新品種『ファイバースノウ』も話題を呼んでいます」
ぜひ、さまざまな国産麦のおいしさを楽しんでみてください。
日本人1人当たりの小麦の年間消費量は、米が約55キログラムであるのに対し、小麦は30キログラム強。そのうち国産は1~2割程度です。パンや麺など、私たちがさまざまな形で口にしているものの多くは、外国産なのです。
このような現状がありながら、「最近は国産麦への注目度が高まっていると感じている人が、多いのではないでしょうか」と話すのは、我が国の麦の状況をよく知る、農林水産政策研究所の吉田行郷総括上席研究官。それを裏付けるように、研究室の棚には、国産麦を使った商品がずらりと並んでいます。
「こうした商品が増えていることからも、国産への注目度が一層高まっていることがうかがえます」と笑顔で語ります。
「もともと、日本の消費者には根強い"国産志向"があると言われていますが、国産であっても、おいしくなければ売れません。原料となる麦の品質の向上に加えて、メーカー側も国産麦の特性をいかした商品を研究・開発し、製造できるようになったことが大きいと言えます」
世界食料危機をきっかけに復活していった国産小麦
かつては外国産に劣ると言われてきた日本の小麦。第二次世界大戦後、欧米型の食文化が普及する中で、パンやパスタには外国産小麦のほうが向いていることから、国産の需要がなくなり、生産も一気に落ち込みました。
そうした状況が一変したのは、1972年の世界食料危機がきっかけとなりました。
「当時、当たり前のように売られていた豆腐がスーパーの店頭からごっそり消えるなど、大騒ぎになったことを思い出す方もいらっしゃるのではないでしょうか。これを契機に、食料供給力をもっと強化しようと、生産の拡大はもとより、需要に見合った小麦の品種改良に本腰を入れたのです」
栽培技術の向上にも取り組みながら、ようやく新品種が市場に出てきたのは、2000年以降になってから。その後、改良は進み、現在の北海道では、15年前に栽培されていた品種から、より質の高いものに大きく入れ替わりました。特に「ゆめちから」や「きたほなみ」は、大手メーカーの求めにも対応できる品質や量の生産がされるようになり、国産小麦の普及促進に貢献しています。
食べ比べて分かる国産小麦の魅力
将来的に品質がますます向上し、生産量・消費量が順調に増えていくと見られる国産小麦。ただし、課題もあります。
「新しい品種への転換や導入を急ぎすぎると、需要に見合った量以上に生産されてしまうことがあります。逆に、需要があるのに生産が追いつかないと価格の高騰を招き、供給の機会を失ってしまうことも。ですから、常に需要を細やかに見極めながら、生産を拡大していくことが最良の策であると考えています」
そして、消費者に国産小麦の魅力をもっと知ってもらうため、吉田研究官が提案するのは、外国産小麦のパンと食べ比べてみること。「最近、パン屋さんの店頭でも、国産と外国産、2種類の食パンやバゲットが売られているところをよく見かけます。シンプルなパンで同時に味を比較してみると、『こんなに味が違うんだ』という発見があるはずです。もちもち感やしっとり感といった、国産小麦ならではのおいしさを味わってほしいですね」
一方で、昨今の健康ブームを受け、国産大麦の需要も拡大。ご飯と一緒に炊く雑穀や、朝食向けのグラノーラ、カフェインを含まない麦茶など、健康に気をつかう人向けの商品だからこそ、国産のものが人気を集めています。
「品種改良も進んでおり、『サチホゴールデン』『はるしずく』(二条大麦)、『カシマゴール』(六条大麦)、『トヨノカゼ』『ビューファイバー』(はだか麦)などが新たに登場。従来の大麦の色のイメージを払拭する美しい白さと粒の大きさが特徴の新品種『ファイバースノウ』も話題を呼んでいます」
ぜひ、さまざまな国産麦のおいしさを楽しんでみてください。
農林水産政策研究所総括上席研究官(農業・農村領域) 吉田行郷さん 1985年、農林水産省入省。96~99年、JETRO(日本貿易振興機構)ロンドンセンター駐在。2005年より、農林水産政策研究所にて国産麦の需給および流通、農業分野での障がい者就労などについて研究。15年3月より農学博士 |
国産麦の需要拡大に向けた研究にも従事。研究室には国産麦を使用した商品が日本各地から集まる 撮影/矢木隆一 |
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東京・銀座の「セントル ザ・ベーカリー」では、国産小麦と北米産小麦で作ったパンの食べ比べができる 撮影/原田圭介 |
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国産小麦を使った中華麺。もちもちとした歯ごたえと滑らかな食感が特徴。冷たいつゆにも合う 写真提供/シマダヤ |
[Column]国産小麦に関する情報が充実! |
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小麦粉のブランドデータが充実「日本の麦の底力」
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取材・文/大沼聡子
撮影/矢木隆一
撮影/矢木隆一