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特集1 鯨(5)

[Japan]調査捕鯨で何が分かるの?



鯨資源の持続的利用の実現のため、北西太平洋や南極海での科学的データを収集する調査捕鯨の内容をご紹介します。


鯨の調査では、DNA情報等の収集を目的としたバイオプシー試料の採集(非致死的調査)も行っている。
鯨の調査では、DNA情報等の収集を目的としたバイオプシー試料の採集(非致死的調査)も行っている。


捕獲することで分かる資源の将来動向や食性
日本政府は資源管理に必要な科学的情報を収集するため、国際捕鯨取締条約の規定に従って、北西太平洋と南極海で鯨類調査を実施しています。

北西太平洋では、主に鯨と漁業との魚をめぐる競合についての調査を行っており、南極海では主にクロミンククジラを対象とする調査を行っています。資源量が豊富とみなされ、持続的な利用が期待されている鯨種です。

実際の調査を担うのは、日本政府の特別許可を得た一般財団法人日本鯨類研究所です。

主に二つの調査を組み合わせています。一つは目視で鯨の数をカウントして調査海域に生息する頭数(資源量)を推定する目視調査で、ある時点での資源量が分かります。

もう一つが捕獲調査です。目視調査で頭数がつかめても、個々の鯨の正確な年齢までは分かりません。持続可能な捕獲量を計算するには目視で得た現在の生息数だけでなく、将来の変動を予測する必要があります。ある鯨種が全体として高齢化していれば今後、減少していくことになるわけです。また若い個体が多くても栄養状態が悪く、成熟が遅れがちだと増えにくいと言えます。これらの情報を得ることを目的に、鯨を捕獲し、耳垢栓から年齢を査定したり、生殖腺から成熟度を調べたりします。

このほか、表皮のDNAで資源管理に必要な情報である繁殖集団の広がりを調べたり、発信機(衛星標識)をつけて回遊を把握したりする調査も行っています。

呼吸をするために水面を浮上してくる鯨を見逃さないように双眼鏡を使って一日中目視による観察を続ける。
呼吸をするために水面を浮上してくる鯨を見逃さないように双眼鏡を使って一日中目視による観察を続ける。


北西太平洋における競合の模式図

北西太平洋における競合の模式図
海の食物連鎖の頂点にいる鯨だけが増えて生態系が崩れれば、漁業に深刻な影響が及ぶ。

日本の調査捕鯨の調査母船「日新丸」は、共同船舶が保有する。
日本の調査捕鯨の調査母船「日新丸」は、共同船舶が保有する。


ち密な調査を重ね将来の捕獲枠を決める
これらの科学的調査の成果として、例えば南極海ではクロミンククジラの資源が安定していることや、近年ザトウクジラなどほかの鯨種が急増していること、これによって将来、クロミンククジラの餌環境が脅かされてその資源の動向にも影響を与える可能性が否定できないことなど、資源管理をするうえで重要な事実が分かってきています。

捕獲枠を決める方法として、IWCが定めた改訂管理方式(RMP)があります。管理海区ごとに将来予測のシミュレーションを行い、100年間捕獲し続けても資源が脅かされない捕獲時期・海域・頭数を特定するものです。

日本政府は調査データを積み重ねながら、この方式が南極海や北西太平洋で適用されることを目指していますが、残念ながらIWCでは資源量が豊富でも捕鯨を認めない国が多数を占め、数の力を使って適用を拒否しています。調査捕鯨は、IWCでの仲間作りとセットで進めていかなければならないのです。

捕獲した鯨は1頭ずつ詳細なデータを記録していく。
捕獲した鯨は1頭ずつ詳細なデータを記録していく。
捕獲した鯨の胃の内容物等から、鯨の食性や摂餌量を調べる摂餌生態の調査。
捕獲した鯨の胃の内容物等から、鯨の食性や摂餌量を調べる摂餌生態の調査。

新南極海鯨類科学調査(2015/16年開始) 新南極海鯨類科学調査(2015/16年開始) 第II期北西太平洋鯨類捕獲調査(2000年開始) 第II期北西太平洋鯨類捕獲調査(2000年開始)


大越船長に聞いた 調査捕鯨の海上生活
南極海への航海は5カ月にわたり、赤道通過や正月などの節目にはささやかな宴会を執り行います。昔の捕鯨船は大部屋でしたが、今は個室があり、ずいぶん快適になりました。船室には鯨を祭る神棚があります。

母船と船団を組むキャッチャー(目視採集船)の乗員は20名です。目視する者は、大型の鯨種であれば、5~6マイル先、水平線の向こうから上がる噴気で鯨種が分かります。操船する者は、鯨の死に至る時間を短くするため、「鉄砲さん」と呼ばれる砲手が撃ちやすい位置に船をつけられるよう腕を磨いています。

商業捕鯨ができない中で、調査捕鯨を止めてしまえば、これらの技術は失われ、復活させるのは難しいでしょう。反捕鯨団体が妨害行動を始めると夜間も気が休まらず、回避に労力を奪われるなど厳しい局面もありますが、皆、使命感を持って仕事に取り組んでいます。
大越親正(ちかまさ)さん
大越親正(ちかまさ)さん
1993年に水産大学校を卒業後、共同船舶株式会社に入社。航海士、砲手として調査捕鯨に関わり、2013年に船長に就任。


写真提供/日本鯨類研究所


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