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農林水産省

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特集2 鰻(2)

ニホンウナギの安全供給に向けて



ウナギの稚魚であるシラスウナギは、近年その来遊量が激減し、養殖業にも影響しています。
その対策として、ウナギの資源管理や、シラスウナギの大量生産技術開発が行われています。


日本の食文化が失われる? 稚魚の不漁が続くウナギ
ニホンウナギ(以下、ウナギ)の生態については、長らく謎に包まれていましたが、日本から2000キロメートルも離れた西マリアナ海嶺で産卵することなど、徐々にその生態が明らかになっています。

ただ、ウナギの漁獲量は減少傾向にあります。海洋環境の変動、河川等の生息環境の悪化や乱獲などが指摘されており、今後も私たちがウナギを口にするためには、資源管理は避けられない課題となっています。


ニホンウナギの生態
ニホンウナギの生態
西マリアナ海嶺の周辺海域が産卵場所。東アジアに来遊し成熟すると、太平洋を回遊し再び産卵場所に戻る。


国際的な協力体制でウナギの資源を管理
平成12年の最盛期には約16万トン近くあったウナギの国内供給量が、平成27年には約5万トン程度にまで減っています。国内の養殖用シラスウナギの採捕量が減少傾向であることはもちろん、供給の大半を補っていた輸入も、ヨーロッパウナギの貿易取引の制限によりピーク時の4分の1程度に落ち込んでいる状況です。

こうした背景から、日本、中国、台湾、韓国(現在はフィリピンも参加)は、ウナギの持続的利用を確保していくための協力体制を築きました。シラスウナギの池入れ量の制限、養鰻(ようまん)管理団体の設立を取り決め、資源保護に努めています。

日本では、ウナギ養殖業を農林水産大臣の許可を要する指定養殖業にし、業者ごとの池入れ数量の上限を設定する仕組みなどを設けました。また、平成26年に一般社団法人全日本持続的養鰻(ようまん)機構を設立。民間ベースでもウナギ資源の管理に力を入れています。


ウナギ供給量の推移
平成12年をピークに供給量は減少傾向。取引価格も高騰傾向にある。
ウナギ供給量の推移
出典:農林水産省「漁業・養殖業生産統計年報」、財務省「貿易統計」
 


完全養殖技術の実用化に向けて
天然のシラスウナギの採捕が難しいなか、期待がかかるのが人工シラスウナギの大量生産です。昭和30年代に始めた養殖研究ですが、平成22年に水産総合研究センターによって完全養殖に世界で初めて成功します。しかし、現在も商業レベルに至っていません。

「技術的には確立しているが、ふ化した仔魚(しぎょ)からシラスウナギへと安定して量産する技術の確立が必要不可欠。技術やコスト削減で課題は多い」とウナギ種苗量産研究センター量産基盤グループ長の田中秀樹さんは明かします。

前例がない中、ウナギの仔魚(レプトセファルス幼生)がサメの卵をよく食べることの発見や、水槽の形状や注水方法の改良などを重ねてきました。平成25年には1トンの大型水槽による飼育に成功し、より生存率を高め、安定させる研究が進められています。

田中さんは「最近では天然仔魚のエサがマリンスノー(プランクトンの死骸など)と報告され、エサの改良の余地も考えられる」と研究に余念がない様子。さらに「育成は非常にデリケートで時間もかかる。手探りでコツコツと進めるしかないが、できるだけ早い実用化に向けて研究を続ける」と話します。


完全養殖のサイクル
完全養殖のサイクル
天然稚魚を育成した親魚から卵をとり、授精、ふ化させ、親魚まで育成。さらにもう一度卵をとることで完全養殖が成り立つ。
水産総合研究センターで平成14年に誕生した人工ふ化ウナギ。完全養殖は平成22年に成功し、技術を確立。
水産総合研究センターで平成14年に誕生した人工ふ化ウナギ。完全養殖は平成22年に成功し、技術を確立。


施設には飼育用の水槽が並ぶ。ここでシラスウナギの量産研究が日々行われている。
施設には飼育用の水槽が並ぶ。ここでシラスウナギの量産研究が日々行われている。
ウナギ種苗量産研究センター量産基盤グループ長の田中秀樹さん。稚魚の量産技術の開発を牽引。
ウナギ種苗量産研究センター量産基盤グループ長の田中秀樹さん。稚魚の量産技術の開発を牽引。


河川から海に下るウナギ資源の保護
国際的な資源管理とともに、国内でのウナギの資源管理の体制が整い始めています。

現在では、国内の主だった養鰻県で、産卵に向かうために河川から海に下る時期(おおむね10月~翌年3月)のウナギの採捕が禁止または自粛されています。これらは、内水面漁業者ら自らの呼びかけにより取り組まれたものです。

そのほかにも、河川や海域での生息状況の調査をはじめ、ウナギの生息環境を改善するための取り組みも行われています。
鹿児島県のウナギ採捕禁止のポスター。同県では、10~12月の内水面および海面でのウナギ採捕を禁止している。
鹿児島県のウナギ採捕禁止のポスター。同県では、10~12月の内水面および海面でのウナギ採捕を禁止している。



取材・文/葵和みどり


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