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農林水産省

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今月の農林水産大臣賞 vol.7

産地が家庭で作っていた味を製品化 新感覚の次郎柿の菓子



色づいた実をたわわにつけた柿の木が、年々減っていくことに心を痛めた"農家の嫁"が一念発起。
昔ながらの家庭の味を製品化・販売することで、柿農家の経営安定と後継者育成を目指す試みが、
注目を集めています。


平成27年度優良ふるさと食品中央コンクール農林水産大臣賞受賞 一般財団法人食品産業センターが農林水産省の後援のもと、ふるさと食品の品質向上などを目的として毎年開催しているコンクール。表彰対象は4部門あり、部門ごとに特に優良な食品に農林水産大臣賞が贈られます。


「柿好きに大好評の「柿あん」。パック入り120グラム540円、化粧箱入り2枚入り6袋1,620円(ともに税込み)。
柿好きに大好評の「柿あん」。パック入り 120グラム 540円、化粧箱入り 2枚入り6袋 1,620円(ともに税込み)。


株式会社石巻柿工房(愛知県)原田愛子さん 株式会社石巻柿工房(愛知県)
原田愛子さん

1951年生まれ。1975年に原田農園に嫁ぎ、看護師の仕事を続けながら、4人の子どもを育てる。2009年から家業の経営に参画し、2012年に石巻柿工房を設立した。
所在地/愛知県豊橋市石巻町字上屋敷11-1
http://www.harata-f.com/ishimaki/[外部リンク]


コリコリとした食感と濃縮された甘さ
一口かじると、コリコリした歯応えが楽しく、あとから口の中に広がる濃い甘みと、鼻に抜けるさわやかな香り。生柿でも干し柿でもない、不思議な食感と味に目を見張ります。

「絶妙な具合に乾燥させた、セミドライだからこそ生まれるおいしさです。次郎柿特有の歯応えはそのままに、甘みとうまみを凝縮。冷凍で仕上げているので、年間を通して次郎柿が楽しめる、それが『柿あん』の魅力です」と、石巻(いしまき)柿工房の原田(はらた)愛子さん。

愛知県豊橋市に位置する石巻山(いしまきさん)のふもとは、100年の歴史を持つ次郎柿の名産地。地域資源をすぐれたふるさと食品として製品化したことから、「柿あん」は平成27年度優良ふるさと食品中央コンクールの新製品開発部門で農林水産大臣賞を受賞しました。

石巻山のふもとに広がる柿畑。石巻柿工房は原田農園の中にある。 石巻山のふもとに広がる柿畑。石巻柿工房は原田農園の中にある。
石巻山のふもとに広がる柿畑。石巻柿工房は原田農園の中にある。


地元の名産品・次郎柿を守り続けるために
看護師だった原田さんが柿農家に嫁いだのは、24歳のとき。自分の仕事と子育てに追われ、柿の仕事は収穫期に多少手伝うくらいで、義父がひとりで担っていました。

40歳で仕事をやめ、義父の納税手続きなどを手伝うようになってビックリ。「柿農家の経営が、ほとんど持ち出し状態であることを初めて知りました」。

懸命に作っても、一箱10キログラムが100円、200円にしかならない。これでは誰も農家を続けていかないはずだ――。年々、石巻町(いしまきちょう)から柿農家が減っていく理由を目の当たりにしたのです。

「この辺りでは、柿は買うものではなく、もらうもの。うちの柿をよそにあげると『おたくの柿はおいしい』とよく言われていました。お世辞だと思っていたのですが、実際にほかの地区の柿と食べ比べてみたら、本当においしい。ということは、石巻町は土壌などの栽培環境に恵まれているということ。それを経営難や後継者不足から手放してしまうのは惜しい。なんとかしなければ、と思いました」

木を増やすのではなく、まずは今ある木から収益を増やそう。そう義父に申し出て、2009年から積極的に経営に参加。園内の50本の柿の木を対象に全国からオーナーを募集したり、インターネットで次郎柿の販売を始めました。

10月中旬から11月上旬に販売される生の「次郎柿 秀  Lサイズ」3キログラム  1,800円(税込み)。
10月中旬から11月上旬に販売される生の「次郎柿 秀 Lサイズ」3キログラム 1,800円(税込み)。
 


次郎柿のブランド力向上を目指す
同時に、柿の栽培法や農薬について、さまざまな勉強会に参加。六次産業化プランナーと知り合い、次郎柿に付加価値をつけた製品化を思いつきました。

「昔からこの地域の家庭で作られてきた、天日干し柿。これならいけると思いました」。2012年、内閣府の地域社会雇用創造事業の支援を受け、原田農園を含む4軒の柿農家で石巻柿工房を設立。乾燥機を導入し、スライスの厚さや乾燥時間を何度も試して、「柿あん」が誕生したのです。

「最初は石巻柿工房(原田農園)のホームページや道の駅などで販売していましたが、農林水産大臣賞をいただいたことで、売り上げが伸び、デパートなどにも置かせてもらえるようになりました」

次郎柿の評価が上がり、適正価格で売れるようになれば、地域の励みにもなる、と原田さんは言います。そして、兼業農家でも柿の木の管理がラクにできて収益性も上がる栽培方法が広がれば、後継者も出てきて、農村風景を守ることができる、と。

「そのために、これからも次郎柿のブランド力向上を目指します。『柿あん』だけではなく、生の次郎柿のおいしさをもっと全国に広めたいと思っています」

収穫した柿の皮をむき、カットして乾燥機でセミドライにする「柿あん」。販売当初は写真のようにすべて手作業で行っていた。
収穫した柿の皮をむき、カットして乾燥機でセミドライにする「柿あん」。販売当初は写真のようにすべて手作業で行っていた。
柿の実をカットするスライサー。「機械を導入したことで以前と比べて製造作業もラクになりました」と原田さん。
柿の実をカットするスライサー。「機械を導入したことで以前と比べて製造作業もラクになりました」と原田さん。
最近導入した柿の皮むき機。
最近導入した柿の皮むき機。


石巻柿工房の農家では、ぶどうなども栽培。それらを使った商品も販売している。「巨峰のシロップ漬け」1キログラム入り(固形) 2,851円(税込み)。
石巻柿工房の農家では、ぶどうなども栽培。それらを使った商品も販売している。「巨峰のシロップ漬け」1キログラム入り(固形) 2,851円(税込み)。
完熟の柿を使った「柿ペースト」2キログラム入り 2,376円(税込み)。
完熟の柿を使った「柿ペースト」2キログラム入り 2,376円(税込み)。



取材・文/岸田直子
撮影/原田圭介


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