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農林水産省

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特集1 とり(3)

生産地を訪ねて 山深い地の利を活かして育てる地鶏「土佐ジロー」


高知県 安芸市

食味のよい地鶏として、全国的にも有名な「土佐ジロー」。
飼育ひと筋28年、「土佐ジローといえばこの人」ともいわれる小松靖一さんを訪ねました。

土佐ジローは、空の見える開放的な空間で育てられている(採卵鶏の鶏舎にて)。
土佐ジローは、空の見える開放的な空間で育てられている(採卵鶏の鶏舎にて)。

肉用に飼育しているのは雄鶏のみ。父と母どちらの特性が出るかにより大きさに個体差がある。
肉用に飼育しているのは雄鶏のみ。父と母どちらの特性が出るかにより大きさに個体差がある。
山に囲まれ、自然の中に立つ鶏舎。
山に囲まれ、自然の中に立つ鶏舎。

暖めた鶏舎内で育つひなたち。
暖めた鶏舎内で育つひなたち。

土佐ジローの専用の飼料。
土佐ジローの専用の飼料。


地鶏を限界集落の産業に 20年以上かけ飼育法を確立
日本の在来種の鶏38種のうち、8種もの鶏を擁し、鶏大国土佐ともいわれる高知県。その高知で誕生し、食味が高く評価されている地鶏が、「土佐ジロー」です。天然記念物土佐地鶏を父に、アメリカ原産ロードアイランドレッドを母に持つこの地鶏は、約30年前、中山間地の庭先農業や高齢者の生きがい対策として開発されました。

これにいち早く注目したのが、「はたやま夢楽(むら)」の小松靖一さんです。

「地域からどんどん人が出ていくことに納得できず、どうにかして生まれ育った村を残したかった。ジローに出会い、広い土地が必要な地鶏だからこそ、村の豊かな自然を活かせると思いました」

さっそく採卵鶏の飼育を開始しますが、すぐに壁にぶつかります。産卵率にばらつきがあり、安定出荷ができない状況が続いたのです。そのとき思いついたのが、肉用鶏の飼育でした。

「絶対にうまい肉になるという確信はありました。ただ、肉用鶏の飼育をするのは初めて。何もかもが手探りでした」と小松さん。鶏舎の形状、適正羽数、日齢ごとの管理方法や飼料の配合など、20年以上をかけて独自の飼育法を確立しました。

「鶏を鶏らしく」を貫きたどりついた「土」の大切さ
「鶏を鶏らしく」。これが、小松さんのモットーです。

引き取ってきた雄のひなは、30度に保った鶏舎へ入れ、大切に育てます。約40日後、50~60羽ごとに分けて肥育用の鶏舎へ移します。16平方メートルの鶏舎には、空が見える遊び場と、屋根が付き安心して眠ることができる止まり木の部屋があります。遊び場の床を覆うのは、ふかふかした土。ミネラルなどの微量栄養素や多様な微生物が含まれる山の土や、田んぼの黒土です。鶏は土や小石などをついばむ習性があるので、健康的な鶏を育てるため、土の管理を重視しています。

生まれてから約150日。約1.5キログラムまで育てられた土佐ジローは、自社の職人の手によって解体され、飲食店や個人消費者へと直送されます。

「効率は悪くとも、負荷をかけずに育った内臓は赤々として、もも肉は紅色。大切に育てた結果は、肉を見れば実感できます」

並外れたうまみの濃度 かむほどに広がる幸福感
かむごとにあふれる濃厚なうまみこそ、土佐ジローの魅力。「最もうまいのは炭火焼き」と、小松さんは自ら炭火で肉をあぶり、提供しています。余分な脂がなく歯切れのよい肉をかめば、余韻あるうまみが口の中に広がります。営む食堂宿には、土佐ジローを目当てに全国各地からたくさんの客が訪れます。

成功したかのように見えますが「生産性の向上など課題は山積みです」と厳しい顔も。目指すのは、限界集落を支える産業の確立です。今年秋に長野から新入社員を迎え、来春にも東京から1名社員が加わります。

「土佐ジローがうまいから、人を引き付けるんだ」と笑う小松さん。ふるさとへの思いを胸に、挑戦は続きます。


小松さんが営む食堂宿「はたやま憩の家」。朝食、夕食とも土佐ジロー料理を提供する。
小松さんが営む食堂宿「はたやま憩の家」。朝食、夕食とも土佐ジロー料理を提供する。
「ジローを味わうなら炭火焼き」。宿では靖一さん自らが焼いてくれる。
「ジローを味わうなら炭火焼き」。宿では靖一さん自らが焼いてくれる。


有限会社はたやま夢楽の社長、小松靖一さんとご家族
有限会社はたやま夢楽の社長、小松靖一さんとご家族。高知県安芸市畑山にて、土佐ジローの飼育・販売、食堂宿「はたやま憩の家」を営む。
http://tosajiro.com/[外部リンク]



取材・文/千葉貴子
撮影/島 誠


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