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農林水産省

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特集1 みかん(2)

[生産地を訪ねて]トップブランド「有田(ありだ)みかん」を再び 段々畑で作る、甘く味わい深いみかん 有田みかん

和歌山県有田川町


誰もが一度は耳にしたことのある、「有田みかん」。
年間を通じて温暖で夏場に雨が降りにくい、和歌山県有田地域で生産されている温州みかんです。
産地の有田川町のみかん農家、稲住さんを訪ねました。
収穫したカゴいっぱいのみかんをコンテナへ。コンテナは、モノレールで運ぶ。急斜面では必須の設備。
収穫したカゴいっぱいのみかんをコンテナへ。コンテナは、モノレールで運ぶ。急斜面では必須の設備。

石垣の段々畑で栽培 急斜面で甘みを育む
有田川町を見渡すと、辺りの山はほとんどみかん園。急斜面には石垣が作られ、一段ごとにみかんの木が植えられています。

「『有田みかん』といえば、やはりこの石垣。段々畑は効率が悪いけど、日当たりと水はけの良さは抜群。この2つはみかんがおいしくなる絶対条件です」と話すのは、親から畑を受け継ぎ、就農16年目を迎えるみかん農家、稲住昌広さん。軽やかに石垣を登り、着色を確認して次々に実を収穫していきます。収穫した実は、モノレールに積んだコンテナへ。モノレールのおかげで、急斜面の畑でもみかんの運搬を効率的に行えます。


収穫は一つ一つ手作業。だいだい色に十分に色づいた実を目視で判別し、ハサミで収穫していく。
収穫は一つ一つ手作業。だいだい色に十分に色づいた実を目視で判別し、ハサミで収穫していく。
有田川とみかん畑。有田川町のみかん農家が使う共同かん水施設の水は、この有田川から引いている。
有田川とみかん畑。有田川町のみかん農家が使う共同かん水施設の水は、この有田川から引いている。


「個性化」で巻き返し ランクごとに選別して出荷
全国に名を知られる有田みかんですが、実は近年、関東圏への出荷は減少しています。

「愛媛産や九州産に押され、今はほとんど関西中心。もう一度、関東の皆さんに有田みかんのおいしさを知ってもらいたい。そのために取り組んでいるのが"個性化"戦略です」と稲住さん。

一つの柱になっているのが、和歌山県で誕生した極早生品種「ゆら早生」です。果肉の色が濃く、10月ごろに出荷する極早生とは思えないほど甘みが濃厚。東京でも食味が評価されています。稲住さんは極早生をすべてこの品種に変え、他産地との差別化を図っているのだと言います。

そして、有田みかんが今最も力を入れているのが、厳密な選別と高糖度化です。従来の大きさだけでなく、糖度や酸度を一つ一つ計って区別することで、おいしいみかんをブランド化しています。

「私たち生産者の目標は、11.5~12度の高糖度のみかんを作ること。そのためには、剪定(せんてい)、摘果(てきか)、施肥(せひ)、樹形(じゅけい)作りといった基本作業の徹底しかない」と稲住さん。実がなる枝の間は十分にあけて剪定する、葉20枚に1個という摘果の目安を守るなど、地道な作業を計画的に行っています。

「大変だけど、やりがいがあります。いいみかんができて、そのみかんが評価されて高い値段で買ってもらえたら、こんなにうれしいことはありません」


「できるところは積極的に効率化したい」と稲住さん。自宅の選果場にはコンテナを持ち上げる設備があり、女性だけでも作業ができるようになっている。
「できるところは積極的に効率化したい」と稲住さん。自宅の選果場にはコンテナを持ち上げる設備があり、女性だけでも作業ができるようになっている。
機械化を行いながらも、最後には必ず人の目と手を使って選別する。厳しいチェックの末に、有田みかんは出荷されている。
機械化を行いながらも、最後には必ず人の目と手を使って選別する。厳しいチェックの末に、有田みかんは出荷されている。

JAありだの直営選果場「AQ中央選果場」で選別され、倉庫へと向かうみかん。「AQ」(=Arida Quality)は、高品質であることの証。
JAありだの直営選果場「AQ中央選果場」で選別され、倉庫へと向かうみかん。「AQ」(=Arida Quality)は、高品質であることの証。
近年人気が高まっている極早生の品種「ゆら早生」。袋(じょうのう)が薄く、多汁で甘みが強い。稲住さんは約100アールで栽培している。
近年人気が高まっている極早生の品種「ゆら早生」。袋(じょうのう)が薄く、多汁で甘みが強い。稲住さんは約100アールで栽培している。


後継者不足の課題解決 魅力ある「みかん農家」を体現
向上心あふれる稲住さんの姿に、有田みかんの将来はとても明るいものに思えますが「後継者は全然足りていません。今ある畑をそのまま残すことは難しい状況です」と稲住さんは言います。

「みかん農家になったってしょうがない、そういう空気から変えていかないと。この町にずっといたいと思っている若い人たちに、みかん農家が選択肢の一つになるような経営をしていきたいと思っています」

個性化に取り組み、よりおいしい有田みかんを全国へ。そして、魅力あるみかん農家を自ら体現していく――真摯(しんし)に、そして懸命に栽培に取り組む稲住さんのような生産者がいる限り、有田みかんは今後もその名を残していくに違いありません。


稲住昌広さん
稲住昌広さん
有田川町にて約460アールの温州みかんと80アールの中晩柑栽培を行う。AQ中央選果場柑橘部会部会長も務めている。



取材・文/千葉貴子
撮影/島 誠


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