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日本全国の麺文化をご紹介! ニッポン麺探訪 第12回

武蔵野うどん[東京都・埼玉県]




東京都立川市から埼玉県志木市へと続く野火止用水
東京都立川市から埼玉県志木市へと続く野火止用水
 


武蔵野うどん
四角い断面の麺は、一般的なうどんよりも太く、硬い食感が特徴。かつおのだしがきいたしょうゆベースの甘めのつけ汁には、薄切りの豚バラ肉が入った「肉汁」や、しいたけなどが入った「きのこ汁」などのバリエーションがある。


ゴツゴツとした麺を甘めのつけ汁で味わう
"東京で人気の麺料理"と言えばそばかラーメン、という印象が強いが、「武蔵野うどん」というご当地麺もある。武蔵野の地域では冠婚葬祭でも振る舞われ、古くは「うどんが打てなきゃ嫁に行けない」と言われるほど、うどん文化が浸透していたと聞く。

ちなみに武蔵野とはどの辺りを指すかというと、実にさまざまな説がある。『武蔵野歴史地理』(高橋源一郎・編)では関東平野と同義とされているが、うどんという切り口で見ると、東京多摩地区~埼玉周辺と解釈できる。

武蔵野うどんは"もりうどん"スタイルで、温かい甘めのつけ汁で食すのが定番。麺はゴツゴツとした口当たりで、山梨県の「吉田のうどん」ほどではないものの、日本屈指の硬さが持ち味だ。

ある時うどんにとても詳しい友人に、武蔵野うどんの"元祖"という店へ案内してもらった。創業から約半世紀という東京都東村山市にあるその店は、薪(まき)を使って釜をたいていた。「建築会社の社員食堂としてスタートして、こんなに経っちゃった」とご主人が笑う。

地粉を使ったうどんにブーム到来の予感
"元祖"で味わった麺は、見た目は中太ながらすっとかみ切れる軟らかめの食感。他店では300~500グラムほどあるボリュームたっぷりの麺が供されるが、こちらはそれほど多くない。豚バラ肉の入ったつけ汁も、甘さ控えめだ。

「なるほど、この店を模倣した人たちが麺をどんどん硬く、ボリューム満点にしていったわけだな。そして、それだけの量をペロリと頂けるようにと、肉汁にもどんどん甘さが加わったのだな」と僕は思った。

武蔵野一帯は、関東ローム層に覆われていて、米よりも小麦の生産が盛んだった地域。それもあって、麺には「地粉」と呼ばれる地元産の小麦粉を使用している店が多い。東京都武蔵野市では、商工会議所が中心となって途絶えていた小麦栽培を復活させ、その粉を用いた「武蔵野地粉うどん」を創作するなど、地元の名物として普及活動を行っているところもある。

店舗数が多く、あっと驚くような場所にあったりもするので、探検的な"見つける楽しさ"も備えた武蔵野うどん。僕はそろそろブームが来るような予感がしている。


文/はんつ遠藤
1966年生まれ。早稲田大学卒業後、海外旅行雑誌のライターを経てフードジャーナリストに。取材軒数は8500軒を超える。『週刊大衆』「JAL旅プラスなび」「東洋経済オンライン」などで連載中。著書多数。

撮影/原田圭介


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