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農林水産省

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18年2月号文字情報

味の再発見! 昔ながらのニッポンの郷土料理 第10回

栃木県 しもつかれ

古くから伝わる、お稲荷さまに供える郷土料理
大根、にんじん、油揚げに大豆、そして塩鮭の頭と、酒粕を煮込んだ料理、しもつかれ。古くから食べ継がれてきたもので、鎌倉時代の説話集『宇治拾遺物語(うじしゅういものがたり)』に原型と思われる料理が登場する。

まず塩鮭の頭をやわらかくなるまでじっくりと煮る。目の粗いおろし器で大根とにんじんをすりおろし、大豆、細かく切った油揚げも加え、しょうゆ少々でさらに煮る。酢を加えて、最後に酒粕を入れて出来上がり。味の想像がつきにくいだろうが、鮭の香ばしさと野菜の甘みがきいて、思いのほか食べやすい。慣れてくるとクセになる。

しもつかれは初午(はつうま)の日、つまり2月の最初の午の日に神前に供えるのが習わしという。地元の方に取材すると、「もともとは正月の塩鮭の余り、節分の豆の余り、そして酒造りで余った酒粕と、時季のものを活用して生まれた料理と聞いています。捨てずにおいしく転用させた、究極のエコ料理ですよ」と言って誇らしげに笑われた。

美しい日光連山を望む日光市の今市地域では毎年2月に「しもつかれコンテスト」が開催されている。料理自慢が自作のしもつかれを持ち寄り、その味わいを競うのだ。昨年その模様を拝見してきたが、700人近い来場者が、参加者すべてのしもつかれを味見し、投票するさまは圧巻であった。

食べ比べてみれば、酢を入れない人あり、名物の日光湯葉を入れる人ありと、家ごとの個性と工夫が強く感じられる。子どもの来場者も多く、試食中に「しもつかれは好き?」と問えば、元気に「大好き!」と答えた子の多かったこと。次世代のファンもしっかり生まれていることを確認できて、とても嬉しい気持ちになった。

[写真1]
撮影/島 誠 料理制作/三好弥生

[写真2]
日光東照宮の陽明門(栃木県日光市)

[写真3]
しもつかれはスーパーの総菜売り場などでも売られている。「パックになったものを、上京した子どもに送っています」なんてお母さんの声も聞かれた。


文/白央篤司
フードライター。研究テーマは日本の郷土食と「健康と食」で、月刊誌『栄養と料理』(女子栄養大学出版部)などで執筆。著書に『にっぽんのおにぎり』(理論社)『ジャパめし。』(集英社)などがある。
ブログ http://hakuoatsushi.hatenablog.com/ [外部リンク]

特集1 蚕業(さんぎょう)革命

かつて近代日本の発展に貢献した養蚕。時を経て、この伝統産業を復活させる動きが始まっています。

[画像1]
二代歌川国輝画「上州富岡製糸場之図」。富岡製糸場は昭和62年に操業を終えた後も大切に保存され、平成26年に世界遺産に登録された。
富岡市立美術博物館・福沢一郎記念美術館 所蔵

伝統を守り、発展させる試みが各地で始まる
絹の原料となる繭をとるため、カイコの幼虫を飼育することを養蚕といいます。日本では、古くから各地で養蚕や製糸が行われ、生糸は明治時代、日本最大の輸出品でした。しかし、20世紀に入り、人造繊維のレーヨンが実用化され、やがてナイロンが登場すると世界の養蚕業は大きな打撃を受けることになります。さらに戦争や不況の影響を受け、日本の養蚕は下火になりました。戦後、高度経済成長期に持ち直したかに見えたものの、衰退の傾向に歯止めはかかりませんでした。

養蚕農家の高齢化も深刻で、今や主たる従事者の8割が70歳以上。平成28年の養蚕農家は349戸、繭の生産量は130トンにまで減ってしまいました。製糸工場も昭和34年には1871あったのですが、現在はわずか7社です。

とはいえ、天然の絹織物の光沢や風合いは根強い人気があります。人気が衰えたどころか、近年は天然・自然志向の高まりもあって、世界の絹製品の生産量は伸びています。ただし、日本における国産生糸のシェアは現在、わずか0.2パーセントです。

一見、衰退する一方のような日本の養蚕ですが、実は全国各地で伝統を守る努力が行われており、産業として発展させるためのさまざまな試みも始まっています。熊本県では、世界最大規模の養蚕工場が竣工しました。群馬県の養蚕農家は、世界最先端の遺伝子工学を駆使して新しい機能を持たせた生糸の生産を始めています。

明治維新から150年が経った今、「蚕業革命」が静かに、しかし着実に進行しつつあります。

[グラフ]
開国以来の日本における生糸の生産・輸出・輸入の推移
出典:貿易統計(財務省)、日本貿易月表(日本関税協会)、横浜市史第2巻(横浜市)、養蚕統計、蚕糸統計月報、繭生産統計調査(農林水産省)より作成

[コラム1]
明治150年
平成30年(2018年)は、明治元年(1868年)から起算して満150年に当たります。これを節目に政府では、「明治150年」関連施策の取り組みを、地方公共団体や民間とも協力しながら全国的に推進しています。

[コラム2]
明治時代の生糸の商標
安政6年(1859年)の横浜開港とともに輸出の主役になった生糸ですが、需要の高まりによって品不足になり、粗悪品も出回りました。そこで、明治政府は高品質の生糸であることの証として独自の生糸商標を付けて出荷。その商標デザインは、日本の伝統的な図柄や輸出相手国を意識して数多くつくられました。

[画像2]
輸出用生糸に付けられた商標デザインの一部。

取材・文/下境敏弘


繭から織物になるまで
カイコが糸を吐き出してつくった繭は多くの手を経て、織物となります。

養蚕農家が大切に育てるカイコ
カイコは野生のガを人類が数千年かけて家畜化した生き物であり、人が世話をしなければ、生きることができません。

飼育する時期はエサとなる桑が茂る5月から10月ごろにかけて。とれる繭は飼育時期により、「春繭(はるまゆ)」、「夏繭(なつまゆ)」、「初秋繭(しょしゅうまゆ)」、「晩秋繭(ばんしゅうまゆ)」に分けられます。

カイコは卵からふ化すると旺盛な食欲で桑の葉を食べて、4回脱皮し、みるみる大きくなります。

十分に育って繭をつくりそうになると、養蚕農家は「蔟(まぶし)」と呼ばれるボール紙をイゲタ状に組んだカイコが繭をつくるための道具に移し、温度と湿度に注意して管理します。

糸を吐き始めたカイコは2、3日かけて自らを繭で包みます。できた繭は出荷され、生糸に加工されます。

ちなみに、白い楕円形の繭が最も普及していますが、カイコの種類によりさまざまな形や色の繭があります。

繁殖用のカイコはサナギになってから10~15日で成虫になり、繭から出て交尾をします。1頭のメスが産む卵は500粒ほど。卵は翌年、人工ふ化させます。

強い糸から美しい絹が生まれる
繭をつくるため、カイコは頭を8の字状に振りながら糸を吐きます。吐く糸は直径約0.01~0.02ミリメートルとごく細いのですが、高い強度があります。同じ重さの鉄線よりも切れにくいほどです。

繭はたった1本の糸からできています。1つの繭からは、長さ1000メートル以上、重さにして0.45グラムほどの生糸が得られます。

生糸はタンパク質であるフィブロインをセリシンが覆う構造になっています。表面のセリシンを取り除くと、フィブロインの三角形の断面が光を複雑に反射し、絹独特の光沢が生まれます。

繭が運び込まれた製糸工場では、熱湯か弱アルカリ液で繭を処理してほぐしてから、機械にかけて糸を引き出し、何本か束ねて生糸にしていきます。

こうしてつくる生糸のほか、煮て柔らかくした繭を薄く広げた真綿から、人の手で紡いだ紬糸(つむぎいと)でつくられた絹製品もあります。

繭ができるまで
「けご」と呼ばれる生まれたてのカイコは体長2~3ミリメートルほどしかありません。桑を食べてみるみる大きくなり、わずか25日ほどで体重は1万倍になります。

[図1]
カイコガ→[交尾・産卵]→卵→[ふ化]→幼虫→[繭をつくる]→サナギ→
幼虫は1齢から5齢に分けられます。ふ化した直後の1齢のカイコは、桑を食べてから数日眠りにつき、脱皮して2齢に入ります。これを5齢まで繰り返して育ちます。

糸ができるまで
繰糸工(そうしこう)は、繭から糸の端である糸口を探し出し、一定の太さの生糸になるよう、何本かの糸を合わせながら繰っていきます。

[写真1]
糸ができるまで
(C)西予市

こんな方法も…
繭を湯の中で広げる「真綿かけ」という作業で綿状にしたのが真綿です。この真綿を乾燥させて、「つくし」という道具にひっかけ、糸をよっていきます。こうしてつくる紬糸を織り上げたのが、「紬」という織物です。
[写真2]
真綿
(C)結城市

[写真3]
糸より
(C)結城市

織物ができるまで
縦糸、横糸に生糸を用いて織りあげます。機械動力の力織機もありますが、伝統的な織物では今も手織機が用いられます。縮緬(ちりめん)、綾羽二重(あやはぶたえ)、綸子(りんず)、綴織(つづれおり)、絽(ろ)など、縦糸と横糸の組み合わせによりさまざまな種類があります。

[写真4]
力織機

[写真5]
手織機

[図2]
繭約5キログラムで1反の絹織物ができる
サナギを含む繭約5キログラムから900グラムの生糸がとれます。これを処理した後、680グラムの絹織物ができあがります。
参考:農研機構「蚕糸業のあらまし」

取材・文/下境敏弘
イラスト/中山ゆかり


生産地を訪ねて 伝統の伊予生糸(いよいと)を受け継ぐ人々 [愛媛県・西予市]
世界的に評価される高品質の伊予生糸。その産地には伝統と誇りを未来へつなげようと取り組む人々がいます。

国内外で高く評価される愛媛県産の伊予生糸
「シルクの町」とも呼ばれる四国地方の名産地が、愛媛県西予市です。生産される伊予生糸は「カメリア」(英語で白ツバキの意味)という名で商標登録され、その柔らかい風合いと光沢のある白さは国内外で高い評価を受けています。伊勢神宮の式年遷宮で献納される御料生糸(ごりょうし)に採用されたほか、かつては英国のエリザベス2世が戴冠式で着用するドレスにも使用されました。

西予市でつくられたすべての繭を集め、糸に加工するのが、野村シルク博物館です。愛媛県にはかつて3つの製糸工場がありましたが、今はここだけになりました。

伊予生糸のやわらかさの秘訣は、糸の繰り方にあります。

繰糸工の井関奈央さんは「一般的な機械は繭からの糸が足りなくなると自動的に足してくれますが、ここで使っている機械は人の手で足しながら、ゆっくり繰っていきます」と説明します。

この方法では量産はできませんが、機械の強い力で引っ張らないため、できた生糸は空気を多く含み、ふんわりとします。そんな伊予生糸で織られた着物は着崩れしにくく、帯は柔らかいのにしっかり締まるとされます。

年間260キログラムほどの生糸を繰る井関さんは、シルク博物館の染色講座を受講したことを契機に繰糸工になって8年目。かつて製糸工場で働いていた先輩に教えられながら腕を磨いてきました。

「私ががんばって続けることで、生まれ育った町の伝統をつなげていきたいです」と井関さんは微笑みます。

地域の思いを受け止める新たな養蚕農家
内外で価値を高く評価される伊予生糸ですが、原料となる繭を生産する農家は激減しています。最盛期の昭和初期には1883戸あった農家は一時期わずか6戸に。生産者は高齢化し、平均年齢は80歳近くになりました。

危機に瀕した生糸を守ろうと、愛媛県が主導する形で、西予市や野村シルク博物館、生産者などが伊予生糸産地再生協議会を結成したのが平成26年度のことです。

協議会は、生産者を増やすため、新規参入希望者がすぐに養蚕に取り組めるよう専門器具や機材を確保しました。また県や市、JAの職員、生産者など有志30人が桑の苗の増殖に取り組んでいます。こうした動きを後押しするように平成28年、国が農林水産物を地域の財産として保護する「地理的表示保護制度(GI保護制度)」に伊予生糸が登録されました。中国・四国地方では、食品でない農産物での初の登録でした。

伊予生糸保存の機運が高まる中、新たな養蚕農家も生まれています。平成29年に養蚕の世界に入った松山紀彦さんは「農業委員会を通じて70アールの畑を確保することができ、桑苗は西予市から無償でいただけました。今はベテランの養蚕農家の方にご指導いただいているところです」と言います。

今後1年間の研修を経て平成31年に独立する予定の松山さんの目標は現在所有している2000本の桑をきちんと育てて、5000本に増やすこと。

「昨年10月には試験的に6000頭のカイコの飼育を行いました。初めて繭ができた時は、感動しましたし、自信にもなりました。多くの方々の力添えに応えるため、伊予生糸の生産と発展に貢献するつもりです」と松山さん。

地域の人々が力を寄せ合うことにより、伝統は確実に受け継がれようとしています。

[写真1]
「1本だと弱々しい糸が繰り合わされることで丈夫になり、長くもつ着物になるところに面白みを感じます」と繰糸工の井関さん。

[写真2]
白さと嵩高(かさだか)が伊予生糸の特徴の一つ。通常、カイコガが出てこないようにするため熱風乾燥させるが、ここでは5~6度で冷蔵保存したものを原料としている。

[写真3]
水分を多く含んだままの繭をゆっくり繰る「生繰り(なまぐり)法」という方法でとる。

[写真4]
西予市野村シルク博物館は実習室を併設する。糸づくりから着物を仕立て上げるまでを習得する「織姫染織講座」の研修生を毎年受け入れている。

[写真5]
松山さんは試験的な飼育で繭の出荷に成功した。

[写真6]
以前、漁協職員として真珠養殖の技術指導をしていた松山さんは「同じ生物に関わる仕事ということで興味を持った」という。

[コラム]
一人前の養蚕農家を目指して 地域おこし協力隊で挑戦
「着物好きが高じて絹、さらに養蚕に興味を持つようになりました」と言う福林奏(かなで)さんは、養蚕農家を目指し、平成28年9月に東京から移住し、西予市の「田舎で働き隊」の一員になりました。「まず桑園を整えて、使える状態にするのが第一歩です。勉強を始めたばかりですが、熱中しています」。

[写真7]
東京からIターン、桑の生産に取り組む福林さん。

取材・文/下境敏弘
写真提供/西予市


生産地を訪ねて 立ち上がった世界最大級の養蚕工場 [熊本県・山鹿(やまが)市]
海外産の生糸に押され、斜陽産業と見られがちな日本の蚕業ですが、新たな形での復活を目指す取り組みが始まっています。山鹿市では最新鋭の養蚕工場が稼働しました。

[写真1]
株式会社あつまるホールディングス常務執行役員・島田さん(写真左端)とNSP山鹿工場の皆さん。

一年中、カイコが育つ無菌養蚕工場
熊本県北部に位置し、かつて九州地方における有数の繭の産地だった山鹿市では、養蚕農家が減少の一途をたどり、ついに2戸を残すだけになりました。

一方で、伝統の養蚕業を新たな形で復活させる取り組みが始まっています。

山鹿市は、株式会社あつまるホールディングス、農業生産法人株式会社あつまる山鹿シルクとの3者で協定を締結し、平成28年に『新シルク蚕業構想─SILK on VALLEY YAMAGA』を打ち出しました。

この構想の中核となる施設が、年間を通じてカイコを飼育できる巨大な養蚕工場です。

「カイコは伝染性の病気にかかることがあり、経営面に不安定さがありましたが、この工場は外気に触れないクリーンルームで温度や湿度を安定させて飼育するので、安定的な生産が可能なのです」。そう説明するのは、工場の建設と運営に当たるあつまるホールディングスの常務執行役員・島田裕太さんです。

平成29年4月に、廃校となった広見小学校跡地に工場が完成し、6月末に最初の繭の生産に成功しました。

桑の葉を粉にして保存し加工して与える
伝統的な養蚕法の場合、カイコを育てる時期は、エサとなる桑の葉が茂る春から秋だけであるため、多くの場合、年3回くらいしか繭を生産できません。

山鹿市の工場では、人工飼料を用いることにより、年24回の生産が可能になるシステムの確立を目指しています。

人工飼料の原料にする桑葉を栽培するため、工場の近くの標高600メートルほどの山の上の牧草地の跡に25ヘクタールの畑を造成し、「天空桑園」と名づけて、8万本の桑を植えています。

完全無農薬で育てた桑の葉は、刈り取った後、速やかに工場に運んで、破砕、洗浄し、乾燥させてから粉砕し真空状態で保管します。カイコに与える際は、粉状にしておいた桑の葉と副原料を練り合わせて、シート状に成型し、滅菌処理します。

この人工飼料を用いることにより一年中飼育できるのです。そのうえ、カイコが繭をつくるまでの30日間にたった3回、人工飼料を取り換えるだけですむので、生産者にとって重労働だった1日3回のエサやりの手間を大幅に省くことができます。

山鹿から日本の蚕業を再興するという決意
現在、工場では本格稼働に向けた試験的な飼育が行われています。島田さんによると、繭の生産量の目標は年間50トン。これは国内最大の産地の群馬県の年間生産量に匹敵する規模です。また数年以内に遺伝子組換えカイコの飼育に取り組み、最終的には医薬品の原料を供給したい、と考えています。

山鹿市を米国のIT産業の集積地であるシリコンバレーのように関連企業や研究施設の集積を図り、雇用を創出して地域経済の活性化につなげたい、とする島田さん。「山鹿市だけで事業を完結するつもりはなく、全国で蚕業に取り組まれている皆さんとつながり、力を合わせることで明るい未来を実現できると確信しています」とも言います。

[写真2]
総工費23億円を投じて造られた建設面積4174平方メートルのNSP山鹿工場。

[写真3]
遠く有明海から島原半島まで望む標高600メートルの広大な桑園。

[写真4]
工場内のカイコは、生育に適した温度と湿度が保たれた部屋で育つ。

[写真5]
カイコの成長段階に応じてトレイを乗せ換えて、分散させていく。

[写真6]
繭を作るための「蔟(まぶし)」と呼ばれる容器。

[コラム]
新たなシルクの利用にかける思い
平成29年11月、熊本県山鹿市の市民交流センター文化ホールで、やまが新シルク蚕業構想推進協議会主催の「2017年新シルク蚕業サミットinやまが」が2日にわたって開催されました。

国内外から、研究機関、企業、行政機関などの関係者が集まり、新技術などについて活発な意見交換を行いました。

両日で555名の来場者があるなど盛況を博し、シルクへの関心の高まりが感じられる催しとなりました。

[写真7]
プロジェクトの進捗報告をする島田さん。

[写真8]
会場には多くの養蚕関係者も集まった。

取材・文/下境敏弘
撮影/島 誠
写真提供/株式会社あつまるホールディングス


大きく広がる絹の用途
衣料の材料として優れた性質を持つだけでなく、良質なタンパク質として幅広い用途で利用される絹。さらに近年、遺伝子工学が新たな利活用の道を拓きつつあります。

最先端の遺伝子工学でさらに広がる可能性
平成12年に、農林水産省蚕糸・昆虫農業技術研究所(現・農研機構)は世界で初めてカイコの遺伝子組換えに成功しました。また平成20年にカイコのゲノム(全遺伝情報)が解析されました。

こうした研究成果が得られる中、医薬品業界もカイコの優れたタンパク質生産能力に注目、これを活用して骨粗しょう症の診断薬などをつくるようになっています。さらに、より強く生体になじみやすい手術用縫合糸や人工血管、抗がん剤への応用も進められています。繊維の分野でも、クモの遺伝子を組み込んだ強くて切れにくい糸、より細い糸といった新素材の原料が誕生しています。

日本で積み重ねられてきた養蚕技術に最先端の遺伝子工学を組み合わせることにより、蚕業は新たな時代を迎えようとしています。

衣類
用途:着物/スーツ/セーター/ネクタイ/ストッキングなど

[写真1]
純国産の繭「松岡姫」の生糸を使用した振り袖。京都の友禅師による友禅加工で、手縫いは国内1級和裁技能士によるもの。「琳派振袖仕立上」(株式会社伊と幸)

美術・工芸品
用途:人形衣装/組みひも/化粧まわし/弦楽器/アクセサリー/絹和紙など

[写真2]
福島県南相馬市小高区産の生糸を、同じく小高で育った草木で染色。ローズクォーツと組み合わせたアクセサリー。「ミモロネの実」(NPO法人浮船の里内「MIMORONE」)

バス用品
用途:石けん/シャンプー/リンス/フェイスクロス/入浴剤/タオルなど

[写真3]
富岡産の生糸から抽出したタンパク質「フィブロイン」で肌を保湿。豊かな泡立ちが特徴。「富岡シルク石鹸」(株式会社絹工房)

化粧品
用途:クリーム/口紅/化粧水/洗顔料/パフなど
研究中用途:ヘアトリートメント/ファンデーションなど

[写真4]
遺伝子組換えカイコがつくったヒト型コラーゲンを配合した化粧品。ヒトの肌への親和性に優れ、アレルギーや炎症を起こしにくい。(株式会社ネオシルク化粧品)
写真提供/農研機構

工業用品
用途:研磨剤/ブラシ/釣り糸/フィルター/ミシン糸
研究中用途:スピーカー用振動板

インテリア
用途:障子紙/じゅうたん/タペストリー/ランプシェード/どんちょう/壁紙など

[写真5]
カイコが初めに出す糸「生皮(きび)」を集めた太い繊維「生皮苧(きびそ)」。その風合いを活かした壁紙。「Takei Silk」(Japanインテリア・シルク株式会社)

寝具
用途:布団/枕/シーツ/ベッドカバー/毛布など

[写真6]
富岡産の繭を原料につくった長繊維「シルクフィル」という絹の綿が使われている。「シルク掛け布団」(丸三綿業株式会社)
写真提供/富岡シルクブランド協議会

医薬品・医療機器
用途:手術用縫合糸/臨床診断用医薬品など
研究中用途:人工皮膚/人工血管/抗血液/凝固剤/ヒト用医薬品/動物用医薬品など

[写真7]
遺伝子組換えカイコにつくらせたタンパク質で開発されたヒトアミロイドβ研究用試薬(株式会社免疫生物研究所:左)と、骨粗しょう症臨床検査薬(株式会社ニットーボーメディカル :右)。
写真提供/農研機構

食品
用途:菓子類/みそ、しょうゆ/うどん、そば/ドリンク類など

[写真8]
富岡産の繭からとれたシルクタンパク液入り。さくっとしたおいしさで、製糸場観光の土産品として人気。「シルクサブレ」(有限会社扇屋菓子舗)

生活用品
用途:バッグ/かさ/風呂敷/マスク/名刺/インソール/めがね拭きなど

[写真9]
山梨の伝統である「甲斐絹」を現代に復刻し、傘布として使用。ほぐし織りの技法で丁寧に織り上げている。「ほぐし・紺丸柄」(株式会社甲斐絹座)

[コラム]
新たな利活用の道
農研機構は平成19年にクラゲなどの蛍光タンパク質の遺伝子を組み込んだカイコから光る絹をつくり出すことに成功し、この色が熱で失われないよう、繭から糸までを低温で加工する技術を平成20年に開発しました。同機構の新産業開拓研究領域長・門野敬子さんは「その後、群馬県と共同で遺伝子組換えカイコを一般農家で飼えるよう取り組んできました。昨年承認が下り、11月に緑に輝く繭の出荷が実現しました」と言います。

[写真10]
光るシルクで製作された「十二単風舞台衣装」
制作:農業生物資源研究所(現・農研機構)、浜縮緬工業協同組合、デザイン:田中秀彦&大野知英(成安造形大学)、モデル:古田敦子、蛍光タンパク質:医学生物学研究所および理化学研究所等により開発
写真提供/農研機構

取材・文/下境敏弘、Office彩蔵

特集2 和紙

和紙の特徴
古くから日本でつくられてきた和紙。全国で製造されていて、原料や産地ごとに、さまざまな質感を楽しめるのが魅力です。

[写真1]
和紙

今も手漉きでつくられる日本伝統の紙
紙が日本に伝わったのは飛鳥時代と推測されており、平安時代には美しい紙がつくられるようになったとされています。和紙とは日本で古くからつくられてきた紙のことですが、和紙といわれるようになったのは、明治時代。このころ欧米製の紙が日本に伝わってきて、洋紙と呼びました。これに対して日本製の紙のことを和紙というようになったのです。

和紙の主な原料は、楮、三椏、雁皮などの植物。今でもその多くは機械ではなく、伝統的な手漉き技法で製造されています。

産地は全国各地にあり、それぞれの伝統技法が受け継がれてきています。その中の一つ、富山県の越中和紙を例に製造方法を紹介しましょう。

原料となる楮の収穫は12月ごろです。収穫した楮は切りそろえて蒸し、皮をむきます。むいた皮をさらにきれいにし、天日で乾燥させてから水に浸して柔らかくします。その後、積もった雪の上に皮を寝かせる「雪さらし」を行います。この雪さらしで100年耐える強い和紙になるといわれています。

その後も煮てさらに皮をはがし、叩いて繊維を細かくするなど何工程かを経て、紙のもととなる原料になります。それから、紙漉きをし、圧力をかけて脱水。乾燥させれば和紙のできあがりです。

手工芸やインテリアとしても利用
強くて長もちするのが和紙の特徴。特に手漉き和紙は、一枚一枚、風合いが異なるのも魅力です。

和紙は、書道やアートなどに用いられるほか、アイデア次第で、さまざまな場面に取り入れることができる製品です。

「最近はちぎり絵や押し花、小物づくりなど、手工芸に用いる方が多いです。壁掛けやランプシェードといったインテリアに取り入れる方もいらっしゃいます」(小津和紙・西本幸宏さん)。

主な原料
和紙の原料として一般的なのは、日本に古くからある植物たちです。現在、主に用いられているのは、楮、三椏、雁皮の3種です。

[写真2]
楮(こうぞ)
クワ科の落葉低木。蒸して皮をむき、主に皮の部分を用いる。繊維が太く長くて強い。多くの和紙産地で使われている。

[写真3]
三椏(みつまた)
ジンチョウゲ科の多年生落葉低木。枝が3つに分かれていることが名前の由来。透かしを入れる精巧な印刷にも適し、紙幣などにも使用。

[写真4]
雁皮(がんび)
ジンチョウゲ科の落葉低木。生育が遅いため、多くは野生のものを採取し、利用している。繊維は細く短くて、美しい光沢がある。

[写真5]
写真下から、楮、三椏、雁皮でつくられた和紙。楮は薄くて透明感があり、紙質が丈夫、三椏は温かみのある風合い、雁皮は艶がある。

主な和紙の産地と特徴
越中(えっちゅう)和紙/富山県
強さが魅力の紙。障子紙をはじめ100種以上におよぶ染紙など、多品種を生産。

越前(えちぜん)和紙/福井県
強靭さに加え、温かみを感じる生成色が特徴。柔らかな風合いと艶のある紙。

内山紙(うちやまがみ)/長野県
日焼けせず長もちするため、障子紙や長期保存するための紙として優れている。

美濃(みの)和紙/岐阜県
薄くて布のように丈夫。本美濃紙、美術工芸紙、箔合紙などの製品がある。

因州(いんしゅう)和紙/鳥取県
品質の高さには定評があり、書道、墨絵に適した画仙紙や半紙が評判。

石州(せきしゅう)和紙/島根県
障子紙や石州半紙が有名で、その他、封筒、便箋、はがき、名刺などにも使用。

阿波(あわ)和紙/徳島県
水に強くて破れにくく、独特な美しさ。近年では工芸品などもつくられている。

大洲(おおず)和紙/愛媛県
薄くて強く、書道用紙は全国の書家に愛用される。障子紙やたこ紙なども有名。

土佐和紙/高知県
書道・手工芸用紙、障子紙、和紙加工品など品種の豊富さと優れた品質が特徴。

すべて経済産業大臣指定伝統的工芸品(平成29年12月現在)。


和紙のいろいろ
さまざまな柄や色の和紙
柄や色をはじめ、多彩な種類がそろっている和紙。いろいろな技法を使ってつくり上げられていて、見た目も質感も異なります。

[写真1]
吉野大和草木染 小判(奈良県)/手漉きの楮紙で、よもぎで染めてある。草木染めならではの優しい風合いが特徴。かな書きにおすすめ。

[写真2]
美濃落水紙春雨(岐阜県)/落水紙とは、漉いた和紙に水を落として模様をつけた紙のこと。これは網の上に紙を置き、水をかけてランダムな模様を表現。

[写真3]
五箇山大段ぼかし染(富山県)/白から濃い色へとグラデーションになっている紙をぼかしと呼ぶ。ちぎり絵など手工芸に向いている。

[写真4]
柿渋絞り染め(高知県)/手が透けるくらい薄い紙を手漉きでつくっている工房が手がけた紙。渋柿の青い果実を絞った液で染めてある。

[写真5]
美濃落水笹入紙(岐阜県)/ベースの紙の間に、笹の紙や金箔を入れてつくられている落水紙。透明感があって繊細な仕上がり。

和紙の漉き方
日本独特の漉き方が「流し漉き」。紙の大きさは漉き桁(けた)のサイズで決まりますが、紙の厚さは液体の紙のもとをどれだけくんで揺するかで変わります。全面を均 一 の厚さにするのは、熟練の技が必要ですが、その製造工程を小津和紙の体験工房で見てみましょう。

[写真6]
1.楮などの原料にトロロアオイの粘液を加え、液状になった紙のもとが入っている「漉きぶね」。よく混ぜてから作業をスタート。

[写真7]
2.和紙づくりには「漉き桁」に簀(す)を使った道具を使う。漉き桁を手で持ち、液体をすくうように動かす。

[写真8]
3.液体をすくったら、20回ほど手で揺り動かしてから、液体を漉きぶねへ戻すことを数回繰り返す。この工程で繊維が絡み合う。

[写真9]
4.漉き桁に紙の層ができたら、破れないように気をつけながらこれを外す。次に独自の器具で水分をよく吸い取り、乾燥の工程へ。

[写真10]
5.体験工房では60度ほどのプレートを使用。シワができないように、ブラシでプレートに貼り付け、乾燥したらできあがり。

小津和紙の「手漉き和紙体験工房」では、1回500円(税込み)でA4判の和紙づくりが体験できる。体験は1名より可。予約優先。

和紙の活用や製品
風合いがあり、丈夫で長もちな和紙の特性を活かしたさまざまな製品。その一部をご紹介します。

[写真11]
卒業証書
岐阜県美濃市の牧谷小学校では、児童に1年生から地元の美濃和紙について学ばせている。その集大成として、6年生全員が自分の卒業証書になる美濃和紙づくりをしている。

[写真12]
ペンケース
五箇山和紙の里とデザインユニットminnaによる「FIVE」では、色鮮やかな製品を販売。自ら楮を育て、手漉きをしている。「ペンケース」(五箇山和紙の里)
http://www.five-gokayama.jp/ [外部リンク]

[写真13]
ランプシェード
手漉きの特徴と素材を活かした越前和紙の製品。「手漉き和紙ランプシェード・灯紙美(ともしび)No.1504」(中村紙店 五嶋屋)
http://www.nakamura-marugo.co.jp/ [外部リンク]

[写真14]
バッグ
山梨県市川大門の和紙メーカー大直が、和紙漉きの製法でつくった新素材「ナオロン」を使用。「SIWA-紙和 バッグ"round"イエロー」(アシストオン)
https://www.assiston.co.jp/ [外部リンク]

[写真15]
クッション
楮を漉き上げ、コンニャクのりを塗布するなど独自に開発した「強製紙」を使った製品。はっ水加工も施す。「和紙クッション デザイン3 エンジ」(桂樹舎)
http://keijusha.com/ [外部リンク]

日本の伝統模様
日本には古くから親しまれている、数多くの文様があります。ここでは生活用品をはじめ、和紙にも取り入れられている代表的な文様を紹介します。

[図1]
青海波(せいがいは)
波を表現。未来永劫の願いを込めた吉祥文様。

[図2]
流水(りゅうすい)
流しとも呼ぶ。水が流れる様子を表している。

[図3]
霞(かすみ)
霞の様子を図案化。古くから絵画などに使用。

[図4]
唐草(からくさ)
植物を表現。日本では風呂敷などでおなじみ。

[図5]
七宝(しっぽう)
仏教が由来とされ、円満、調和の吉祥文様。

[図6]
矢絣(やがすり)
矢羽を絣織で表現。婚礼の縁起物とされている。

[図7]
市松(いちまつ)
歌舞伎の衣装がきっかけでこの名称がついた。

[図8]
鹿の子(かのこ)
シカの子の背にある斑紋をかたどった文様。

[図9]
亀甲(きっこう)
カメの甲羅のようで、長寿の吉祥文様に利用。

[図10]
千鳥(ちどり)
かわいい形で図案化。波との組み合わせも多い。

取材・文/Office彩蔵
撮影/長谷川 朗
取材協力/和紙専門店 小津和紙
1653年、紙問屋として東京・日本橋に創業以来、和紙の魅力と伝統を伝え続けている老舗。店舗だけでなく史料館や体験工房なども併設。
http://www.ozuwashi.net/ [外部リンク]

輝く! 未来を担う生産者 vol.10

川原製作所/富山県 
原材料を自分で育て、紙を漉(す)くから面白い
山を開墾し、木を育てるところから始まる和紙作り。新たな「伝統」を生み出し、伝えようと挑んでいる若き和紙職人の熱い思いとは――。

[写真1]
水中に楮の繊維とトロロアオイの根から出る粘液を入れて、紙を漉いていく。

木から紙が出来るその工程に心が震えた
富山県・立山町。かつて瓦焼き工場だった跡地の山を開墾し、和紙の材料となる楮(こうぞ)を育てるところから、和紙作りに取り組んでいる若き職人がいます。約400年の歴史を持つ、国の伝統工芸品「蛭谷(びるだん)和紙」の後継者、川原製作所の川原隆邦(たかくに)さんです。

高校卒業後、JFL(日本フットボールリーグ)でサッカー選手として活躍していましたが、22歳のときにけがで断念。長く続けられる仕事を探しているとき、蛭谷和紙最後の職人・米丘(よねおか)寅吉さんに出会ったのがきっかけでした。

「伝統工芸に興味があったわけではないんですが、木から紙が出来あがっていく工程を目の当たりにし、なんてすごいんだろうと感動しました。そして、それを受け継ぐ人間がいないのなら、自分がやってみたい、と思ったんです」

蛭谷和紙の特徴は、1000年以上保存できる耐久性、強靭かつ柔らかな紙質に加え、原材料を育てるところから行うことです。

「楮を自分で育てている和紙職人は日本に10人くらいしかいないそうです。ほとんどは輸入品に頼っている。でも、原材料から育てることはもの作りの基本だから、僕は一番大事にしたい」

師匠から口伝(くでん)で教わった製法と紙漉き技術
弟子入りしたとき、師匠の米丘さんは83歳。高齢のため、紙を漉く作業は2~3枚しか見せてもらえなかったそうです。

「弟子は師匠の背中を見て学ぶといいますが、僕は自分の後ろに立つ師匠から"口伝"で和紙作りを教わりました」

米丘さんが亡くなったあと、川原さんは作業場を蛭谷から虫谷(むしたに)へ移し、一人で山を開墾して楮を、畑で粘料のトロロアオイを育て始めました。

「4月から11月は山や畑で農作業をし、12月から紙漉きをする半農半工の暮らしです。自分が泥にまみれながら手塩にかけて育てた木から紙を作るんですから、その思いはひとしおです」

伝統工芸品のコンクールで数多くの賞に輝く川原さんの和紙は、基本的に受注生産です。なぜなら、その人が求める和紙を作りたいから。富山県民会館ロビーの内装に使う和紙を依頼されたときは、立山杉の皮を楮に混ぜ、地域の特色を出しました。

「蛭谷和紙だからほかの和紙とは違うとか、僕が作った和紙を買ってください、ではなく、あなたに合った和紙はこれですよ、というものを提供したいんです」

今生まれたものを100年先まで伝えたい
「その昔、和紙は暮らしの中に普通にあるものでした。でも、今は和室もない家が多い。その中で和紙が生き残っていくには、暮らしに合ったものにならないと」

昔ながらの製法と道具で和紙を作るという本質を守りながらも、和紙でランプシェードを作るなど、絶えず新たなことに挑戦していきたい、と川原さんは語ります。

「100年残ったものでも、消えるときは1日です。戦中、戦後を生き抜いた師匠はそれを知っていました。時代に応じて変化する柔軟性を、僕は技術以上に師匠から教わった。大切なのは、今生まれたものが100年残るか、です」

歴史を守るのではなく、生み出していく――。川原さんの挑戦はこれからも続きます。

和紙作りの工程

[写真2]
葉を落とした楮の刈り取り作業。愛息・大郎(たろう)くんもお手伝い。

[写真3]
工房内。右奥の釜で楮を蒸して皮をはぎ、重曹で柔らかく煮る。その後、左手前の水槽で水洗いする。

[写真4]
水を絞って木槌でたたき、繊維を崩していく。

[写真5]
再び水でほぐした繊維。これを水をはった水槽に入れ、トロロアオイを加えて、紙に漉いていく。

[写真6]
築80年の古民家を改造した工房横の自宅には、窓や障子などに川原さんの和紙が。

[写真7]
蔵を改造した工房。

和紙と相性のいい版画も大好きな創作
[写真8]
社訓を木版に彫るほど、版画が好き。タイではなく富山のブリを持っている「越中えびす」など創意工夫に富んでいる。

Profile
川原隆邦さん
1981年、富山県生まれ。親の仕事の関係で各地を転々とし、高校卒業後、両親と富山県に戻る。日本フットボールリーグで活躍後、2003年、蛭谷和紙職人・米丘寅吉氏に師事。2004年、川原製作所を立ち上げる。2012年に結婚、2015年、虫谷に作業場を移す。
所在地/富山県中新川郡立山町虫谷29
http://www.birudan.net/ [外部リンク]

取材・文/岸田直子
撮影/原田圭介


MAFF TOPICS

MAFFとは農林水産省の英語表記「Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries」の略称です。「MAFF TOPICS」では、農林水産省からの最新ニュースなどを中心に、暮らしに役立つさまざまな情報をお届けいたします。


NEWS1 「ディスカバー農山漁村(むら)の宝」グランプリを選出
今回は新たに「ジビエグルメ賞」を創設
地域を活性化し、所得向上に取り組む農山漁村の優良事例を選ぶ「ディスカバー農山漁村(むら)の宝」。有識者懇談会を開催し、31選定地区の中から「ディスカバー農山漁村の宝」グランプリおよび特別賞計6地区を選定しました。

「グランプリ」に輝いたのは熊本県阿蘇市のNPO法人 ASO田園空間博物館。ほかに「プロデュース賞」「フレンドシップ賞」「チャレンジ賞」「アクティブ賞」「ジビエグルメ賞」の特別賞が選ばれました。

これらの賞の発表は、首相官邸で開催された交流会で行われ、受賞地区には、総理大臣や農林水産大臣などから記念の楯が授与されました。

グランプリ
NPO法人 ASO田園空間博物館(熊本県阿蘇市)
観光案内所に外国人職員を配置
[写真1]
道の駅と連携し、多言語対応可能な観光案内窓口を設置。窓口を訪れる外国人観光客が増加した。地元高校と連携・開発した赤牛を用いた弁当も好調。熊本地震で旅行客が減ったために強化した通信販売の売り上げは1年で約19倍に増加し、生産者の震災後の事業継続に寄与した。

プロデュース賞
釜石地方森林組合(岩手県釜石市)
森林で6次産業化
[写真2]
地元企業などと連携し木材の生産・加工・販売を行う。他業種との連携で地域内の受注対応が可能になり、被災者再建住宅を開発。林業スクールも開講している。

フレンドシップ賞
大歩危(おおぼけ)・祖谷(いや) いってみる会(徳島県三好(みよし)市)
インバウンドに対応した農泊
[写真3]
行政と連携して香港やシンガポールを中心に誘客、外国人宿泊者が急増。地域資源を生かしたイベント・ツアーを実施。土産物などの開発にも取り組む。
写真提供/(一社)三好市観光協会

チャレンジ賞
有限会社 飛騨山椒(岐阜県高山市)
高齢者や女性の活躍で山椒を世界に
[写真4]
江戸時代の献上品・飛騨山椒をブランド化。地域の高齢者による安定した収穫体制を築き、女性社員を中心に商品開発。海外の商談会でも評判に。

アクティブ賞
社会福祉法人 こころん(福島県泉崎(いずみざき)村)
地域とともに農福連携
[写真5]
障がい者の社会参加、就業支援に地域の農産物を販売する直売所を運営。障がい者の経済的自立に寄与した。団地や仮設住宅への移動販売も。

ジビエグルメ賞
古座川(こざがわ)ジビエ振興協議会(和歌山県古座川町)
有害鳥獣を地域の宝に
[写真6]
ジビエの良質な肉質を確保するため、食肉向けの捕獲、処理方法の講習を実施。ジビエ料理の普及に、シカ肉の「里山のジビエバーガー」を開発。


NEWS2 収入保険が始まります
収入保険は総合的なセーフティネット
2019年から収入保険が始まります。青色申告を行っている農業者(個人・法人)を対象に、品目の枠にとらわれず、自然災害による収量減少、価格低下など、農業者の経営努力だけでは避けられない収入減少を補てんする保険です。

品目は米、野菜、果樹、花、たばこ、茶、しいたけ、はちみつなど、ほとんどの農産物をカバーします。収入保険に加入するために必要な青色申告も簡易な方式でよく、1年分の実績があれば加入できます。

収入保険は、掛け捨ての「保険方式」と掛け捨てとならない「積立方式」の組み合わせによって行われます。

保険料については50パーセント、積立金については75パーセントの国庫補助を行い、保険料(掛け金)率は1.0パーセント程度。また自動車保険と同じように、保険金の受け取りが少ない人は保険料(掛け金)率が下がっていく仕組みです。少ない保険料で、万一のときでも農家ごとの平均収入の8割以上が確保されます。

収入保険は"チャレンジする農業者"を支援する保険で、新しい作物の導入や販路の拡大などに取り組みやすくなります。窓口は地域の農業共済組合等が担当しますので、お気軽にご相談ください。

[イラスト1]
自然災害だけでなく、収量減少、価格低下なども含めた収入減少を補償。

[イラスト2]
品目の限定は基本的になし。ほとんどの農産物をカバーする。

[図1]
補てんの仕組み
農業者ごとに過去5年間の平均収入を基本としつつ、規模拡大など保険期間の営農計画も考慮して「基準収入」を設定します。保険期間の収入が基準収入の9割(補償限度額)を下回ったときに、下回った額の9割(支払率)を補てんします。掛け捨ての「保険方式(保険金)」と、掛け捨てにならない「積立方式(特約補てん金)」の組み合わせで行います。
基準収入1000万円の農業者が補償限度9割(保険8割+積立1割)、支払率9割を選択した場合の試算(5年以上の青色申告実績がある場合)。

[図2]
収入保険の加入・支払いのスケジュール(2019年1月から加入する場合)
青色申告実績が1年分以上ある農業者の場合は、2018年に加入申請すれば、2019年1月から収入保険に加入できます。保険料・積立金は分割支払いも可能です。保険金・特約補てん金の請求・支払いは2019年分の確定申告後の2020年になります。保険金支払いまでの資金繰りが必要な場合は、無利子によるつなぎ融資があります。
個人の場合。

詳細はこちらへ!
収入保険
https://www.maff.go.jp/j/keiei/hoken/saigai_hosyo/syu_nosai/index.html


NEWS3 国内外のらんが集結するフラワーイベント
色彩豊かならんと熱帯魚が皆さまをお出迎え
今年で28回目を迎える世界最大級のらんの祭典「世界らん展日本大賞2018」が開催されます。

会場には、国内外のあらゆる地域の愛好家や栽培家が丹精込めて育てたらんが一堂に出展され、厳正な審査を経て優秀作品を選定。そして、花そのものを審査する「個別部門」の最優秀賞が、栄えある「日本大賞」に選ばれるのです。このほか、香りを審査する「フレグランス部門」、飾り付け展示を審査する「ディスプレイ部門」など、6部門でそれぞれ最優秀賞を選出します。

エントランスには、毎年、「オーキッド・ロード」と呼ばれる入り口が設けられます。今回は「楽園・南国・熱帯」をテーマに、沖縄美(ちゅ)ら海水族館の円柱水槽を配置。色彩豊かならんと熱帯魚のコラボレーションを実現し、来場者を迎えます。

ほかにも、女優の志穂美(しほみ)悦子さんと華道家・假屋崎(かりやざき)省吾さんによる2大フラワーディスプレイや、アフリカの不思議ならんの展示、日本いけばな三大流派による豪華ないけばな展示など見どころがいっぱいです。「都会の楽園」へ、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。

[写真1]
前回のオーキッド・ロード。

[写真2]
2017年日本大賞の「デンドロビューム グロメラタム 'ロング ウェル'」。厳正な審査を経て選ばれる「日本大賞花」は必見。

[写真3]
沖縄美ら海水族館の大水槽展示。

[写真4]
いけばなの実演。

[写真5]
白鳥が水に浮かんでいるように見えるらん。

写真はすべて前回のものです。

世界らん展日本大賞2018
会期:平成30年2月17日(土曜日)~23日(金曜日)
会場:東京ドーム 東京都文京区後楽1-3-61
審査部門:個別部門、フレグランス部門、ディスプレイ部門、フラワーデザイン部門、アート部門、ミニチュアディスプレイ部門、ハンギングバスケット部門
入場料金:2,200円(当日券)

詳細はこちらへ!
世界らん展日本大賞2018
http://www.jgpweb.com/ [外部リンク]

[画像1]
メインビジュアル。

[画像2]
今回のオーキッド・ロードのイメージ図。


NEWS4 山火事を未然に防止
森林は国土の保全や水源の涵養(かんよう)、また地球温暖化防止のための二酸化炭素の吸収源としても、大切な役割を果たしています。ところが、いったん火災などで森林が失われると、その機能回復までには多くの歳月とコストがかかります。過去5年間の平均でみると、山火事は1年間に約1400件発生し、焼損面積は約700ヘクタール、損害額は約4億円。また、約7割が冬から春先(1~5月)に集中して発生しています。

林野庁では、消防庁と共同で「全国山火事予防運動」を実施しています。平成30年は「小さな火 大きな森を 破壊する」を統一標語として、3月1日(木曜日)から7日(水曜日)までが統一実施期間になります。

山火事のほとんどは、火の不始末によって起きています。つまり、山火事は私たちひとりひとりが注意することで、未然に防止できるのです。みんなで意識を高め、貴重な森林を守っていきましょう。

[写真6]
林野火災の消火活動の様子。
写真提供/釜石地方森林組合

[写真7]
山火事が発生した岩手県釜石市。燃え盛る森林の様子。
写真提供/釜石大槌地区行政事務組合消防本部


NEWS5 女性の活躍を応援
農林水産省では、農林水産業・農山漁村の発展に、女性が重要な担い手として、より一層能力を発揮していくために、毎年3月10日を「農山漁村女性の日」に設定しています。この記念日が3月10日とされたのは、3月上旬は農林漁業の作業が比較的少ない時期で古くから女性の自主的な活動が行われていたため。さらに農山漁村女性の「3」つの能力(知恵、技、経験)を「10」(トータル)に発揮してほしいという願いもこめられています。

行事では、女性が働きやすい環境を整備した経営事例の発表などが行われます。多くの方のご参加をお待ちしています。

[写真8]
夫婦で仲よくブロッコリーを収穫。

「農山漁村女性の日」記念行事
農業の未来をつくる女性活躍経営体100選(WAP100)表彰式
開催日:平成30年3月6日(火曜日)
場所:渋谷区文化総合センター 大和田6階「伝承ホール」
http://hojin.or.jp/standard/100/cat2391/29wap100_award.html [外部リンク]

未来農業DAYs
アワード部門:農山漁村女性活躍表彰
コンペ部門:大地の力コンペ
開催日:平成30年3月7日(水曜日)
場所:東京大学安田講堂
https://www.mirainogyodays.org/ [外部リンク]

農業女子PJフォーラム2017
開催日:平成30年3月8日(木曜日)
場所:都道府県会館101会議室
https://nougyoujoshi.maff.go.jp/ [外部リンク]

取材・文/細川潤子

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