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ディープなさかなの世界

2 新鮮な「活魚」をお届け!新たな輸送システムに迫る

四方を海に囲まれ、豊かな水産物に恵まれた日本ですが、生きたままの新鮮な魚介が市場に出回ることは、それほど多くありません。そんな現状に変化をもたらすかもしれない輸送システムを、今回の特集では紹介します。

水産物輸送業界に新たな風を巻き起こす新技術

写真:魚活ボックス

現在、魚は大きく分けて「活魚」「鮮魚」「冷凍魚」の3通りの方法で流通しています。今回はその中から生きたまま輸送する「活魚」の流通について紹介。料亭の生け簀などで泳いでいる魚を思い浮かべれば、わかりやすいかと思います。

生きた魚を輸送することは非常に難しく、コストもかかってしまうため、これまで活魚での流通は多くありませんでしたが、そうした問題の解決に向けて開発されたのが「魚活(ぎょかつ)ボックス」です。今回は「魚活ボックス」を開発した日建リース工業(株)関山さんにお話を伺いました。

魚活ボックスが開発されたきっかけ

写真:魚活ボックスが開発されたきっかけ
解説者 日建リース工業(株)代表取締役社長 関山正勝さん

もともと当社は建設工事の「軽量仮設資材」のレンタルを主な事業としており、水産業界には全く縁がありませんでした。

ある時、創業時の社長が「ナノバブル水」という極小の気泡を充満させた水の開発に着手したのですが、なかなか収益につながらず、その技術をいかに活用するかを模索するうちにたどりついたのが「活魚の輸送」です。

当社は農産物の輸送に用いるパレット(荷物を載せる荷役台)のレンタル事業も手掛けており、その経験が活かせるのではないかと考えたのも、水産物輸送に参入しようと思った理由の一つです。

魚活ボックスの技術について

写真:魚活ボックスの技術

魚活ボックスは、水槽内の海水に二酸化炭素を一定濃度溶け込ませて魚を低活性化(眠ったような状態)させることで、一度にたくさんの魚を生きたまま輸送できる仕組みになっています。

魚を低活性化すると、代謝が軽減されてアンモニアなどの排出量が減少し、水槽内で魚のストレスや身の擦れを減らすことが可能です。そのため、従来の運搬に使用する水槽よりたくさんの魚を積載しても、ほとんど死なせることなく輸送することが可能となります。

魚を低活性化させる仕組みは以前からわかっていたのですが、低活性化させた後、何もしなければ20分ほどで魚が死んでしまうことが問題で、なかなか輸送に活用できませんでした。

そこで登場するのが、ナノバブル水の開発で蓄積していた技術です。極小の気泡を海水に溶け込ませることで水中の酸素濃度を上げると、魚の長時間生存が可能となることが数多くの実験から実証され、輸送に活用できるようになりました。

写真:魚活ボックス

従来の方法で活魚を輸送する時の大きな問題として、ドライバーの技術によって魚の生存率が下がってしまう問題点がありましたが、魚活ボックスを用いれば誰でも簡単に輸送できることも大きな強みです。専用のふたをすれば輸送しても水漏れすることはなく、また、ボックス内に酸素ボンベとセンサー、バッテリーを内蔵しているので、操作方法を覚えれば誰もが魚を生かしたまま輸送できるようになります。鉄道で輸送することも可能です。

そのほか輸送する時は、魚活ボックスにカゴごと魚を入れるだけでよいため、従来のような発泡スチロールへの梱包が不要になり、荷積みや荷下ろしの作業が大幅に削減できます。さらに、魚活ボックスはフォークリフトで運べるため、ボックスの移動も容易です。

活魚を流通する魅力

魚活ボックスで流通できる魚

低活性化の状態から覚醒させる「基礎実験」に成功している魚種は、マダイやイサキ、カレイ、ヒラメなどです。もともと水中で活発に動くことのない魚種は低活性化が容易であり、今後同様の特性がある魚種の魚活ボックスでの流通が可能になるものはさらに増えていくと思います。

現在課題となっているのはイワシやサバなどの回遊魚で、低活性化の実現は難航していますが、いずれは輸送ができるように研究を重ねたいと思っています。

現在流通できる魚種

ヒラメ、カレイ、マダイ、キハタ、アンコウ、カワハギ、ウマヅラハギ、スズキ、ハモ、アナゴ、マダコ、コブダイ、ワタリガニ、イサキ、メジナ、クエ、コチ、トラフグ、カサゴ、シマアジ、ウミヒゴイ、コショウダイ、ヘダイ、クロダイ、イシダイ、タカノハダイ、ニザダイ、メバル、キジハタ、タラ、トラウトサーモン(稚魚)、サザエ、アワビ、ホウボウ

現在検証中の魚種

ヤリイカ、サバ、キンメダイ

活魚輸送の可能性について

写真:活魚輸送

これまで活魚輸送をするためには専用の活魚車が必要であったため、小口で輸送をしようとしてもコストがかかりすぎて実現するのが難しい現状がありました。
しかし、魚活ボックスなら1箱から輸送が可能で、これまでコストがかかり運べなかった少ない数の天然魚や希少魚を活魚で輸送することも可能となります。

写真:キンメダイ

現在伊豆諸島でキンメダイの活魚輸送の検証を行っており、これが成功すれば、東京などの都市部でキンメダイの活魚が食べられるようになるかもしれません。高級魚を活魚輸送できるようになれば、漁師さんの収益も向上し、小規模漁村の活性化にもつながっていくと思います。

今後は当社が運営する東京や大阪の活魚センターを通じて、活魚の流通網「ライブチェーン」を構築し、消費者の皆様に新鮮な活魚を提供していければと考えています。

実際に魚活ボックスを導入している漁業者の声

宮城県漁業協同組合 七ヶ浜支所
課長 菊池 生知さん

写真:県外出荷事業

東日本大震災の影響で、魚の単価、数量共に著しく下落し、切迫した漁家経営が続いていました。そのような状況を打開するため、地元仲買人を経由せず漁業者自らが出荷作業をこなし、各中央卸売市場へ直送する県外出荷事業を始めていたのですが、その中で魚活ボックスの実証実験をすることとなりました。

写真:活魚輸送

鮮魚中心であったマダラの活魚輸送を行ったところ非常に高評価をいただきました。その後主な漁獲物であるカレイ類を対象に実証実験し、東京の豊洲市場からも高評価を得たため、2020年夏から本格的に導入を検討しています。

写真:魚活ボックス

現在主流の発泡スチロール箱での活魚出荷では、投入する海水の温度管理、ポンプの故障、配送時のミス、高コストなどさまざまな問題が伴い、死んでしまう魚も発生して単価にも影響があったため、今後は魚活ボックスでの活魚出荷を軸に考えています。

今回教えてくれたのは

協力企業プロフィール

日建リース工業(株)
代表取締役社長

関山 正勝 さん

日建リース工業は、レンタル業を通して社会の持続的発展に寄与することを目指す、総合リース、レンタル業の企業。仮設事業、ハウス、備品事業、物流機器事業、介護事業の4つを軸に活動しており、現在は農産物と水産物の輸送にも着目し、輸送のイノベーションに力を入れている。

写真:関山 正勝さん
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編集後記

今年もお盆の季節がやってきました。子どもの頃の夏休みといえば自由研究の宿題が大変だったことが真っ先に思い出されます。研究のネタを捻り出すのに非常に苦労しました。この夏、自由研究でお困りのお子様がいらっしゃるご家庭は、ぜひ農林水産省のサイトを眺めてみて下さい。農林水産業は自由研究のネタの宝庫ですよ。(広報室YT)

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