1.荷受・乾燥施設 ― 乾燥の基礎知識 ―収穫直後の農産物は水分が高く、非常に変質しやすいため、すみやかに水分を除去し、貯蔵性を向上させるとともに品質を維持する乾燥技術は非常に重要である。乾燥とは、一般に常温、または加熱された空気を堆積した農産物中に送り込み、農産物内の水分を蒸発させ、出てきた水蒸気を排除することをいう。 しかし、あまり急激な乾燥は、かえって品質を低下させ、大豆の場合には、外観品質とともに、豆腐加工適性や蒸煮特性が低下するため、基礎的な理論をよく理解し、効率的な乾燥をこころがけなければならない。以下、乾燥に起因する被害粒の発生を中心に、大豆乾燥の基礎理論を説明するが、裂皮粒もしわ粒も栽培期間中に発生するものもあるので、誤解のないようにしたい。たとえば、栽培期間中に発生する裂皮は、大豆種子の大粒化、種皮と子葉の生育のアンバランス、種皮の形態や物理的強度がその原因と考えられている。また、栽培期間中に発生するしわ粒は、成熟期の高温や天候による急激な吸湿や乾燥に起因すると言われている。 (1)被害粒発生機構大豆は、米麦の子実と比較して、[1]殻がついていない、[2]粒が大きい、という物理的な特徴がある。このため、乾燥に関しては、[1]大豆表面から外気中に水分が移動しやすい、[2]大豆の内部では中心部の水分が表面へ移動しにくい、という特徴があり、これが被害粒を発生しやすい要因となり、大豆の乾燥を難しくしている。
高水分大豆の乾燥に起因して発生する被害粒は写真1-1に示すように、主に裂皮粒としわ粒であり、裂皮粒は乾燥開始後30分から1時間で発生するが、しわ粒は乾燥終了後2~3日後に徐々に発生する。このことから、その被害粒は、図1-1に示すような発生機構をもっていると考えられている。つまり、
以上のように、裂皮粒もしわ粒もその発生要因は乾燥初期の粒内部と粒表面との間の水分勾配がその原因である。乾燥中の水分勾配と表皮に発生する応力の推移は図1-2のようになる。図1-2は、初期水分19.7%の高水分大豆を絶対湿度のほぼ等しい送風温湿度条件(a)35℃-20%と(b)25℃-60%で乾燥した時の大豆1粒内の水分勾配と大豆表皮に働く水分応力を計算し、比較したものである。35℃-20%の乾燥条件での平衡水分(材料を温度・湿度の一定な空気中に長時間放置し、ある一定の水分に落ち着いたとき、その水分を平衡水分といい、とくに乾燥過程で平衡に達するとき、これを動的平衡水分という。ここでいう平衡水分とは動的平衡水分のことである)は5.4%と低く、乾燥開始1時間で、粒表皮の水分はすぐにほぼ平衡水分に達し、粒中心部との水分勾配は約15%になる。その結果、水分勾配に起因して大豆表皮に発生する応力は、表皮の引張破壊限界9MPaを上回るため皮が切れ、被害粒発生割合は97%に達する。それに対し、25℃-60%では、平衡水分が9.6%と高く、乾燥速度は遅くなるが水分勾配は10%と低く抑えられるため、表皮の引張破壊限界を上回ることがなく、被害粒はほとんど発生しない。以上のように、大豆の乾燥では、乾燥初期に表皮に大きな応力が作用し、被害粒が発生しやすくなるので、とくに、乾燥初期の送風温度を低く抑えて、送風湿度を比較的高く維持する等、ゆっくりとした乾燥に留意しなければならない。しかし、送風温度を抑えることにより、乾燥速度が低下してしまうので処理量が低くなり、乾燥施設の効率的な運営に支障をきたす可能性も示唆される。この問題を解決するために、送風温度を高くした状態で送風空気を加湿する調湿乾燥や、大豆の水分変化に応じて送風温湿度を適正に制御する方法が、現在、研究されている。 図1-1大豆乾燥における被害粒発生機構
図1-2大豆乾燥時の粒内水分勾配と表皮に発生する応力(品種:エンレイ) (2)乾燥条件と被害粒発生割合及びその品種間差裂皮粒やしわ粒の発生割合は品種間に大きな差があることが知られている。表1-1は薄層状態(穀粒が堆積しておらず、堆積層が1~2粒程度の状態)で初期水分約20%の大豆5品種について乾燥試験を行い、被害粒発生割合を比較した結果である。また、図1-3は同様に5品種について、いろいろな初期水分での薄層乾燥試験結果をまとめて、被害粒が10%以内に抑えられる送風温度、送風湿度を示したものである。供試5品種の中で被害粒が発生しやすい順はエンレイ>タチナガハ>ワセシロゲ>フクシロメ>スズユタカであり、最も被害粒の発生の少ないスズユタカはエンレイやタチナガハの約3分の1の発生割合である。乾燥に起因して発生する被害粒の種類にも品種間で大きな差があり、とくにタチナガハは他の品種と比較して、裂皮粒よりもしわ粒が発生しやすい傾向がある。一般に、粒径が大きい品種ほど被害粒の発生が多くなるが、この原因は、上述したように粒径の大きな品種は粒の中心部の水分が低下しにくく、乾燥中の水分勾配が粒径の小さな品種より大きくなり、大きな応力が表皮に働くことによる。そのほか、表皮の強度や水分による膨張係数に品種間差があり、これらの要素も被害粒の発生に大きく影響しており、品種を変えて乾燥を行う場合は注意が必要である。 堆積通風乾燥の場合、送風空気が堆積層を通過するに従い、大豆粒内から蒸発した水分により送風湿度が上がるため、堆積層への送風空気の入気部分で乾燥速度が速く、被害粒の発生も起こりやすい。表1-1、図1-3は薄層状態での結果であり、通常の堆積通風乾燥では薄層乾燥より被害粒の発生は少なくなるが、堆積層への入気部分ではこのような被害粒発生割合になる可能性がある。一般に大豆の乾燥では、送風温度を低く抑えるように指導されているが、表1-1に示すように、被害粒発生割合は送風温度より送風湿度の影響を大きく受ける。さらに、地域や収穫時期、乾燥の時間帯によって外気の温湿度条件が大きく異なるので、大豆乾燥に適する送風温度の上限を一概に決定することはできない。図1-3の結果から、薄層乾燥での被害粒発生割合10%以下を大豆乾燥における送風温湿度条件の適正化を図る基準とすると、初期水分が18%の場合には、乾燥初期の送風湿度が40%を下回らないように送風温度を調節することにより、品種によらず被害粒の発生をほぼ抑えることができると考えられる。同様に初期水分が20%の場合、乾燥初期の送風湿度60%を下限として乾燥すべきである。また、以上の送風湿度で乾燥するためにどのレベルまで加温できるかを知るためには、湿り空気線図を用いて、外気の温湿度状態から、加温した場合の送風湿度を推定する必要がある。
図1-3薄層乾燥において被害粒を10%以内に抑えるための送風温湿条件と限界初期水分 |
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