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農林水産省

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コメに含まれるヒ素の低減に向けた取組

2022年2月16日更新

農林水産省は、これまでに実施した研究プロジェクト等により、好気的な水管理(間断かんがい)を行うこと等がコメ中ヒ素の低減に有効であること等が明らかとなったことから、これらの成果や国内外で得られた科学的な情報を「コメ中ヒ素の低減対策の確立に向けた手引き」としてまとめましたので、概要をご紹介します。

コメ中ヒ素の低減対策の確立に向けた手引き(PDF : 2,128KB)」全文

また、農林水産省が実施している研究プロジェクトを紹介します。

手引きの概要

1.水田土壌中のヒ素の動態と水稲への吸収

  • 田面水の落水により水田の表面が乾くと、土壌が酸化的な状況になります。その場合、水田土壌中に含まれるヒ素は、主に5価のヒ酸として鉄鉱物等に吸着され、水稲に吸収されにくくなります。
  • 水田が一定期間湛水されると、土壌が還元的な状態になります。その場合、鉄鉱物が溶出しやすくなり、5価のヒ酸が3価の亜ヒ酸になり、水稲に吸収されやすくなります(図1)。
土壌からの吸収イメージ画像
図1  水田土壌の酸化的・還元的状態におけるヒ素の動き

2.好気的な水管理によるコメ中ヒ素の低減

  • 水稲のヒ素の吸収を抑制するためには、しっかりと中干し※をした上で、出穂3週間前から出穂3週間後にかけて4日間の落水を3回行う水管理(落水3回)が効果的です(図2)。
    ※地域において一般的に中干しを実施している時期に、断続的な4日間の無降雨日の後、連続した4日間の無降雨日となった場合に十分な効果が確認されました。
  • しっかりと中干しをした上で、出穂3週間前から出穂3週間後にかけて、落水3回を行うことで、常時湛水に比べ、玄米中無機ヒ素濃度を低く抑えることができました(図3)。
  • 出穂期間中の落水期間の設定によるコメの収量・品質への影響が懸念されるものの、その差は大きくありませんでした(図4)。
図2
図2  湛水と落水を繰り返す間断かんがいのイメージ

図3
図3  湛水管理と落水3回を行った場合の玄米中無機ヒ素の比較(15試験区(2018年))
(農林水産省研究委託事業)※誤差範囲は標準偏差

図4
図4  湛水管理と落水3回を行った場合の精玄重量及び整粒歩合の比較(15試験区(2018年))
(農林水産省研究委託事業)※誤差範囲は標準偏差

3.コメ中のヒ素とカドミウムの濃度の関係

  • 土壌中のカドミウムは、ヒ素とは逆に、土壌が酸化的になると溶出します(図5)。このため、ヒ素が溶け出さないように落水日数を長くするとカドミウムの溶出を引き起こすおそれがあります。
  • 現時点では、収量や品質に加え、コメ中のカドミウム濃度の上昇防止の観点からも間断かんがいの落水期間は4日間程度が適当と考えられます(図6)。ただし、コメ中のカドミウム濃度が高くなり易いほ場では、4日間の落水でもカドミウム濃度が高くなる場合がありました。
  • コメ中のカドミウム濃度が高くなり易い地域でのヒ素低減には、カドミウム低吸収性イネを利用した上で、土壌が酸化的になるような水管理を組み合わせることが効果的です(図7)。
iAsFig5
図5  カドミウム、ヒ素の土壌での溶けやすさと土壌の酸化還元状態の関係の模式図

図6
図6  湛水管理と落水3回を行った場合の玄米中無機ヒ素及びカドミウム濃度の比較(15試験区(2018年))
(農林水産省研究委託事業)※誤差範囲は標準偏差


iAsFig7

図7  玄米の無機ヒ素とカドミウム濃度の比較(2013年度)
NDは検出下限(0.005 mg/kg)未満

4.その他のコメ中ヒ素濃度に影響がある要因

  • 土壌中のヒ素濃度が高くなると、コメ中の無機ヒ素濃度が高くなる傾向があります(図8)。一方、土壌中のヒ素濃度が比較的低い場合でも、コメ中の無機ヒ素濃度が高くなる可能性があります。
  • 土壌中のヒ素濃度以外にも、鉱物の存在や登熟期の気温等もコメ中ヒ素濃度に影響を与える可能性があります(表1)。
iAsFig8
図8  土壌中ヒ素濃度と玄米中無機ヒ素濃度との関係(箱ひげ図)


表1  土壌の理化学性がコメ中ヒ素濃度にあたえる作用(想定)
表1



詳細な解析結果はこちら(PDF : 1,401KB)です。



5.コメ中のヒ素の低減に向けて今後対応すべき課題(まとめ)

  • 地域条件にあった、現実的に導入できる水管理法(最適な落水時期の把握、最小限の落水回数など)の確立と実証
  • 落水と湛水を繰り返す水管理により、新たに加わる作業による負担を軽減するための自動水管理システムの効果検証と普及
  • ヒ素の低減のための水管理をしても、コメ中のカドミウムの濃度が高くならないように、(地域に普及している品種へのカドミウム低吸収性の導入など)カドミウム低吸収性イネの育成と早期普及
  • 通常の営農で使用される種類と量で資材(含鉄資材やケイ酸など)を施用した場合の低減効果及び連用の効果の検証

(参考)関連する研究プロジェクト

(1)生産・流通・加工工程における体系的な危害要因の特性解明とリスク低減技術の開発

(ア) 研究期間
   2008~2012年度

(イ)代表研究機関
  (独)農業環境技術研究所

(ウ)研究内容
   コメに含まれるヒ素の低減技術の開発に向けて、土壌や作物中の様々なヒ素化合物の含有実態やヒ素を低減できる栽培方法などについて、基礎的なデータを取得しました。

(エ)関連ページ
   生産・流通・加工工程における体系的な危害要因の特性解明とリスク低減技術の開発[化学物質(第1編)](プロジェクト研究成果シリーズ521)[外部リンク]

 

(2)加工、調理及び保管過程におけるコメ中ヒ素の化学形態別濃度の動態解析

(ア)研究期間
    2012~2013年度

(イ)研究機関
  (独)農業・食品産業技術総合研究機構、(一財)日本食品分析センター

(ウ)研究内容
   コメ中のヒ素に関する低減措置を検討したり、食品からのヒ素の摂取量をより正確に推定するため、とう精(玄米を精米に加工すること)などの加工、炊飯などの調理及び保管によって、コメ中のヒ素濃度がどのように変化するかを把握しました。

(エ)関連ページ
   加工、調理及び保管過程におけるコメ中ヒ素の化学形態別濃度の動態解析

 

(3)食品の安全性と動物衛生の向上のためのプロジェクト

(ア)研究期間
   2013~2017年度

(イ)代表研究機関
  (独)農業環境技術研究所

(ウ)研究内容
   水稲によるヒ素の吸収を抑制するために水田の水管理方法を変更すると、カドミウムの吸収が増加することが報告されています。そこで、生産現場での実行性や収量・品質への影響も考慮しつつ、水稲によるカドミウムの吸収を食品衛生法の基準値を超えないように抑えると同時に、ヒ素の吸収を抑制する技術を開発しました。

(エ)関連ページ
   委託プロジェクト研究成果集 令和2年10月版(水稲におけるヒ素のリスクを低減する栽培管理技術の開発

(4)有害化学物質・微生物の動態解明によるリスク管理技術の開発

(ア)研究期間
   2018~2022年度

(イ)代表研究機関
  (国)農業・食品産業技術総合研究機構農業環境変動センター

(ウ)研究内容
   コメに含まれる無機ヒ素濃度を低くするため、生産現場での実行性の高い対策技術を確立することを目的に、収量・品質を維持しつつ、カドミウムと無機ヒ素両方を低減できる、現場での実行性の高い水管理を中心とした栽培管理方法を開発します。

(エ)関連ページ
   平成30年度に新規採択された戦略的プロジェクト研究推進事業の概要、実績、成果等(省力的かつ現場で使い易いコメの無機ヒ素低減技術の開発)

お問合せ先

消費・安全局農産安全管理課

担当者:土壌汚染防止班
代表:03-3502-8111(内線4507)
ダイヤルイン:03-3592-0306
FAX:03-3580-8592

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