作成日:平成28年3月11日
肉用牛農場のカンピロバクター保有状況調査
2.3.2.1. 牛農場
2.3.2.1.1. 肉用牛農場の菌保有状況調査(平成22,23年度)
肉用牛農場のカンピロバクターの保有状況の傾向を把握するために、平成22年度冬季に25農場、平成23年度夏季に25農場において、1農場につき10頭を対象にカンピロバクターの調査を行いました。 その結果、農場のカンピロバクター保有率は92%(平成22年度冬季)、60%(平成23年度夏季)でした。肉用牛のカンピロバクター保有率は40%(平成22年度冬季)、17%(平成23年度夏季)でした。 |
(1) 目的
肉用牛農場と肉用牛のカンピロバクターの保有状況の傾向を把握する。
(2) 試料の採取
○ 第1回調査(冬季)
平成22年12月~平成23年2月に、肉用牛を飼養する25農場で、1農場につき10頭(計250頭)の肥育舎の牛の直腸便(1農場につき試料10点)を採取しました。調査対象の牛の平均月齢は23か月齢(6~31か月齢)でした。
○ 第2回調査(夏季)
平成23年7~9月に、肉用牛を飼養する25農場で、1農場につき10頭(計250頭)の肥育舎の牛の直腸便(1農場につき試料10点)を採取しました。調査対象の牛の平均月齢は26か月齢(20~32か月齢)でした。
(3) 微生物試験
直腸便を試料としてカンピロバクターの定性試験(3.1.1.1 (1) )を行いました。これらの試料(10頭の直腸便)のうち1点でもカンピロバクターが分離された農場は、陽性(カンピロバクター保有)と判定しました。分離されたカンピロバクターについては、生化学的試験及びPCR法により菌種(Campylobacter jejuni, C.coli)を同定(3.1.3.1)しました。第1回調査で分離されたカンピロバクターについては、菌株の同一性を確認するため、フラジェリン遺伝子を利用した型別試験(3.1.3.2)及び薬剤感受性試験(3.1.3.3)を行いました。第2回調査で分離されたカンピロバクターについては、薬剤感受性試験(3.1.3.3)を行いました。
(4) 結果
第1回調査(冬季)では、肉用牛農場のカンピロバクター保有率は92%(23/25)、肉用牛のカンピロバクター保有率は40%(99/250)でした(表22)。なお、直腸便から分離されたカンピロバクター99株のうち、90株はC.jejuni、9株はC.coliでした。
第2回調査(夏季)では、肉用牛農場のカンピロバクター保有率は60%(15/25)、肉用牛のカンピロバクター保有率は17%(42/250)でした(表22)。なお、直腸便から分離されたカンピロバクター42株のうち、35株はC.jejuni、7株はC.coliでした。
表22:肉用牛農場におけるカンピロバクター保有状況
調査回(時季) | 対象 | 調査数 | 陽性数 | 陽性率(%) |
---|---|---|---|---|
第1回 (冬) |
肉用牛農場 |
25農場 |
23農場 |
92a |
肉用牛 |
250頭 |
99頭 |
40b |
|
第2回 (夏) |
肉用牛農場 |
25農場 |
15農場 |
60a |
肉用牛 |
250頭 |
42頭 |
17b |
注釈 ap<0.01(99%以上の確率で、第1回調査(冬)の方が、第2回調査(夏)よりも、肉用牛農場のカンピロバクターの保有率が高い。)
bp<0.01(99%以上の確率で、第1回調査(冬)の方が、第2回調査(夏)よりも、肉用牛のカンピロバクターの保有率が高い。)
第1回調査(冬季)では、カンピロバクター陽性農場の23農場のうち21農場(91%)において、調査対象の10頭のうち2頭以上が陽性でした(表23)。そのうち17農場では、同じ菌種で、性状(フラジェリン遺伝子の型及び薬剤耐性パターン)が同じ菌が複数の牛から分離されました。さらに、2棟以上の牛舎で試料を採取した8農場のうち7農場では、異なる牛舎の牛から同じ性状の菌が分離されました。
第2回調査(夏季)では、カンピロバクター陽性農場の15農場のうち12農場(80%)において、調査対象の10頭のうち2頭以上が陽性でした(表23)。そのうち10農場では、同じ菌種で、性状(薬剤耐性パターン)が同じ菌が複数の牛から分離されました。
表23:各肉用牛農場のカンピロバクター陽性牛の頭数
陽性牛の頭数 |
第1回調査 |
第2回調査 |
||
該当農場数 |
割合(%)※ |
該当農場数 |
割合(%)※ |
|
1頭 |
2 |
9 |
3 |
20 |
2頭 |
4 |
17 |
2 |
13 |
3頭 |
3 |
13 |
5 |
33 |
4頭 |
3 |
13 |
5 |
33 |
5頭 |
4 |
17 |
0 |
0 |
6頭 |
4 |
17 |
0 |
0 |
7頭 |
1 |
4 |
0 |
0 |
8頭 |
1 |
4 |
0 |
0 |
9頭 |
1 |
4 |
0 |
0 |
10頭 |
0 |
0 |
0 |
0 |
合計 |
15 |
- |
15 |
- |
小数第1位を四捨五入したため、足し合わせても100%にならない。
指導者・事業者の皆様へ 調査対象数は限られていますが、肉用牛を飼養する25農場の92%(平成22年度冬季)、60%(平成23年度夏季)がカンピロバクターを保有していました。また、陽性農場の91%(平成22年度冬季)、80%(平成23年度夏季)において2頭以上の牛からカンピロバクターが分離され、複数の牛から同じ性状の菌が分離される農場がみられました。このことは、肉用牛農場では、カンピロバクターが侵入すると、農場内の牛に感染が広がる可能性があることを示しています。自分の農場にカンピロバクターを「持ち込まない」、もし菌が農場に侵入したら、菌を農場内の牛に「広げない」、そして自分の農場から外に「持ち出さない」ように、衛生対策に取り組む必要があります。 また、統計学的な解析の結果、肉用牛農場や肉用牛のカンピロバクターの保有率と季節(冬季・夏季)との関連が示唆されました。ただし、これはあくまでも統計学的な解析の結果であり、カンピロバクターの保有率と季節との関連やそれらの因果関係を証明するものではありません。肉用牛農場や肉用牛のカンピロバクター保有率に季節変化があるのか否かについては両論があります。今後も、カンピロバクターの保有状況について調査や情報収集を行っていきます。 有害微生物に感染した牛のと殺・解体時に、剥いだ体表が触れたり、消化管から漏れたふん便が付いたりすることにより、有害微生物が食肉を汚染すること(緒言)を考慮すると、農場でカンピロバクターの保有率を下げることにより、牛肉の汚染を減らせると期待できます。農場において有効と考えられる衛生対策を「牛肉の生産衛生管理ハンドブック」(生産者編、指導者編)で紹介しています。ご自身の農場における衛生対策の再確認や、食中毒を防ぐための追加の対策を検討したい方の参考になれば幸いです。 |
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