作成日:平成29年12月8日
ブロイラー農場の鶏群とハエのサルモネラ保有の関連性の把握
2.1.2.1. 肉用鶏農場
2.1.2.1.6. ブロイラー農場の鶏群とハエの菌保有の関連性の把握(平成26年度)
ブロイラー農場の鶏群と、農場内で採取したハエ11のサルモネラ保有状況を把握するために、39農場において、各農場で1~2鶏舎(計51鶏舎)を対象に、鶏群と鶏舎内外のハエのサルモネラの調査を行いました。その結果、51鶏舎のうち45鶏舎の鶏群がサルモネラ陽性でした。採取されたハエのうち79匹を試料として調べた結果、鶏舎外で採取されたハエは、3鶏舎(すべてサルモネラ陽性鶏群)の3匹がサルモネラ陽性、鶏舎内で捕獲されたハエは、1鶏舎(サルモネラ陰性鶏群)の1匹がサルモネラ陽性でした。サルモネラ陽性鶏群の鶏舎外で採取されたハエから分離された菌株の一部は、鶏群から分離された菌株と性状12が一致していました。 |
(1) 目的
ブロイラー農場の鶏群とハエ11のサルモネラ保有の関連性を把握する。
(2) 試料採取・アンケート
平成26年7~10月に、ブロイラーを生産する39農場において、1農場につき1~2鶏群(計51鶏群)のソックススワブ13(1鶏群につき試料1点)及び鶏舎内外のハエ(1匹で試料1点)を採取しました。対象鶏群が出荷される約1週間前に対象鶏群の鶏舎内外に円筒型の捕虫器を設置し、その1日後、捕虫器を回収してハエを採取し、同日にソックススワブを採取しました。
採取されたハエのうち、重要な衛生害虫として知られるイエバエ科、ヒメイエバエ科、クロバエ科及びニクバエ科と同定された166匹(1鶏舎あたり0~18匹)を調査の対象とし、うち79匹をサルモネラの微生物試験に供しました14。79匹の内訳は、イエバエ(37匹)、ヒメクロバエ(27匹)、クロバエ(7匹)、ニクバエ(5匹)、ヒメイエバエ(2匹)、オオイエバエ(1匹)の6種でした。
また、各農場に、衛生対策の実施状況や飼養環境についてアンケートを行いました。
13 長靴の上に長靴カバーを履き、その上に管状包帯をはめて鶏舎内を歩き、鶏舎の床にあるふん便・敷料を付着させたもの。
14 残りのハエ試料はカンピロバクターの微生物試験(2.1.1.1.6)に使用。
(3) 微生物試験
ソックススワブとハエを試料として、サルモネラの定性試験(3.2.1.4(6)、3.2.1.4(9))を行いました。ソックススワブからサルモネラが分離された鶏群は、陽性(サルモネラ保有)と判定しました。分離されたサルモネラについては、O抗原及びH抗原を調べて血清型を特定(3.2.3.1)しました。また、菌株の同一性を確認するため、薬剤感受性試験(3.2.3.3)を行いました。
(4) 結果
調査対象の51鶏舎のうち、45鶏舎の鶏群(88%)がサルモネラ陽性でした。また、ハエ(166匹)は39鶏舎から採取され、そのうち12鶏舎では鶏舎内外の両方から、26鶏舎では鶏舎外のみから、1鶏舎では鶏舎内のみから採取されました。
このうち、サルモネラの微生物試験に供したハエ(79匹)は、5鶏舎の鶏舎内外から計13匹(鶏舎外から6匹、鶏舎内から7匹)、22鶏舎の鶏舎外のみから57匹、3鶏舎の鶏舎内のみから9匹採取されました。
鶏舎外で採取されたハエ(63匹)のうち、3匹がサルモネラ陽性でした。これらはサルモネラ陽性鶏群の3鶏舎から採取されました。鶏舎内で採取されたハエ(16匹)のうち、サルモネラ陰性鶏群の1鶏舎から採取された1匹がサルモネラ陽性でした(表36)。鶏群のサルモネラ保有の有無と、鶏舎内外で採取されたハエのサルモネラ分離状況との間に関連性はみられませんでした。
サルモネラを保有する45鶏群から分離された55株のサルモネラのうち50株は、4つの血清型に分類され、残りの5株は既知の血清型に分類できませんでした。分離株数で上位2血清型の鶏群の保有率は、Salmonella Typhimuriumが73%(37/51)、S. Infantisが20%(10/51))でした(表37)。鶏舎外で採取されたハエから分離された4株のうち、3株はS. Typhimurium、1株はS. Livingstoneでした。鶏舎内で採取されたハエから分離された1株はS. Typhimuriumでした。サルモネラ陽性の2鶏群から分離された菌株と、それぞれの鶏舎外で採取されたハエ2匹から分離された菌株の性状(血清型及び薬剤感受性)は一致していました。
表36:サルモネラの試験に供したハエ(79匹)の採取状況
鶏群のサルモネラ保有状況及び |
うち、ハエが採取された場所別の鶏舎数 |
||
---|---|---|---|
鶏舎内外 |
鶏舎外のみ |
鶏舎内のみ |
|
サルモネラ陽性:27鶏舎 |
4 |
20a |
2 |
サルモネラ陰性:24鶏舎 |
1b |
2 |
1 |
合計 |
5 |
22 |
3 |
注釈 aうち3鶏舎で、鶏舎外で採取されたハエ3匹からサルモネラを分離。ハエ2匹から分離された菌株は、鶏舎から分離された菌株と性状(血清型及び薬剤感受性)が一致。
b鶏舎内で採取されたハエ1匹からサルモネラを分離。
表37:ブロイラー鶏群から分離されたサルモネラの血清型と陽性鶏群数
血清型 |
陽性鶏群数 |
---|---|
S. Typhimurium | 37 |
S. Infantis | 10 |
S. Livingstone | 2 |
S. Lagos | 1 |
特定不能 | 5 |
計 | 55 |
調査対象農場のアンケート結果をもとに、各農場における衛生対策や飼養環境(表38)と、鶏群のサルモネラの保有の有無との関連性を解析しました。半径500m以内にブロイラー農場がある農場(鶏群)のサルモネラ保有率は97%(31/32)であり、半径500m以内にブロイラー農場がない農場(鶏群)のサルモネラ保有率(43%、03月07日)よりも高いことがわかりました(表39)。
表38:ブロイラー農場の飼養・衛生管理状況(対象:39農場)
衛生対策又は飼養環境 |
割合(%) |
---|---|
半径500m以内に別のブロイラー農場がある。 | 82 |
作業服を毎日交換している。 | 100 |
作業靴を鶏舎ごとに消毒(はき替え)している。 | 87 |
毎日死亡鶏を除去している。 | 100 |
ネズミ等の駆除を少なくとも2か月間隔で行っている。 | 100 |
消毒した飲用水を鶏群に与えている。 | 90 |
農場単位のオールインオールアウトを行っている。 | 100 |
出荷ごとに鶏舎を洗浄・消毒している。 | 100 |
鶏舎周辺に生石灰又は消石灰を散布している。 | 100 |
表39:半径500m 以内の別のブロイラー農場の 存在の有無とブロイラー農場のサルモネラ保有率
半径500m以内に ブロイラー農場が |
農場(鶏群)数 |
うちサルモネラ陽性農場 |
|
---|---|---|---|
農場(鶏群)数 | 陽性率(%) | ||
ある | 32 | 31 | 97a |
ない | 7 | 3 | 43a |
注釈 ap<0.01(99%以上の確率で、半径500m以内にブロイラー農場がある農場(鶏群)の方が、半径500m以内にブロイラー農場がない農場(鶏群)よりも、サルモネラ保有率が高い。)
指導者・事業者の皆様へ 今回の調査では、サルモネラ陽性と判定された鶏群の3鶏舎の外と、陰性と判定された鶏群の1鶏舎の中で採取されたハエからサルモネラが分離されました。統計学的な解析の結果、鶏群のサルモネラ保有の有無と、鶏舎内外で採取されたハエのサルモネラ分離状況の間に関連性はみられませんでした。一方、陽性鶏群の鶏舎外で捕獲されたハエから分離された菌株の一部は、それぞれの陽性鶏群から分離された菌株と、性状が一致していました。このことから、ハエが鶏舎を出入りするのであれば、ハエが鶏の保有するサルモネラを外に持ち出してしまう可能性があると考えられました。また、陰性鶏群の鶏舎内で採取されたハエからサルモネラが分離されたことから、鶏舎外でサルモネラに汚染されたハエが、鶏舎内にサルモネラを持ち込んでしまう可能性もあると考えられました。 アンケート調査の結果、半径500m以内にブロイラー農場がある農場(鶏群)の方が、半径500m以内にブロイラー農場がない農場(鶏群)よりも、サルモネラ陽性率が高いことが分かりました。 ハエなどの昆虫は、サルモネラ等の有害微生物の汚染を広げるだけでなく、周辺の汚染地域から有害微生物を運んでくる可能性があります。鶏舎へのハエの侵入を防ぐことで鶏群のサルモネラ保有率が下がったという海外報告もあります。ハエなどの昆虫を駆除するとともに、どの程度農場に生息しているかモニタリングすることが重要です。農場において有効と考えられる衛生対策を「鶏肉の衛生管理ハンドブック」(生産者編・指導者編)で紹介していますので、参考にしてください。 |
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