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農林水産省

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第5節 研究・技術開発の推進


我が国の農林水産業の成長産業化を推進するためには、研究開発による技術革新等により、農山漁村の有する資源や潜在力を最大限に活用することが重要であり、農林水産分野における研究・技術開発を加速することが求められています。以下では、研究開発の戦略的な推進のほか、産学官等が連携した研究・技術開発を推進する取組を記述します。


(研究開発の戦略的な推進)

農林水産業の成長を支えていくためには、研究開発の発展が不可欠であり、優れた研究成果を速やかに生産現場に移転・普及させることが重要です。また、限られた研究資源を有効に活用するため、農林漁業者や消費者等のニーズに直結した研究開発に重点化する必要があります。このような状況を踏まえ、農林水産省は、平成27(2015)年3月に、今後10年程度を見通して取り組むべき研究開発の重点目標や具体的な施策を示した新たな「農林水産研究基本計画」を策定しました。

この中では、生産現場等が直面する課題を速やかに解決するための研究開発を最優先課題に位置付け、生産現場に密着した技術の開発や普及の加速化を図るため、普及組織・担い手と協働した研究開発を強力に推進するとともに、異分野の技術を国産農林水産物のバリューチェーン(*1)の構築に結び付けるため、大学、研究機関、民間企業等が持つ知識を集めた「知」の集積と活用の場による新たな産学官連携研究の仕組みを構築することとしています。

一方、地球温暖化の進行や少子・高齢化に伴う消費動向の変化など中長期的な視点で取り組むべき課題については、将来の目指すべき基本的な方向を定め、産学官の英知を結集し、着実に研究開発を展開することとしています。


*1 [用語の解説]を参照

(産学官連携による研究・技術開発の推進)

産学官の連携の強化のため、農林水産省では、農林水産・食品産業分野の専門家をコーディネーターとして全国に配置し、独立行政法人等の研究機関や大学等の持つ革新的な技術の紹介や産学官のマッチングの場の提供等を通じ、協力体制の構築を支援しています。

また、全国の産学官の各機関が、農林水産・食品産業分野等における最新技術や研究成果を分かりやすく展示し、研究成果の活用を希望する生産者や事業者との新たな連携を促す場として「アグリビジネス創出フェア」(農林水産省主催)を開催しています。平成26(2014)年11月に開催された同フェアでは全国の147機関が最新技術等を紹介し、3日間の参加者数は3万2千人となりました。また、同フェアにおいて、195件のマッチングが行われました。


(異分野融合研究の推進)

農林水産・食品産業は、食を通じて人の生命や健康の維持に直結し、人が自然環境に手を加えることにより継続する産業であるため、その研究には、医学、工学、理学等の異分野との関わりが深いものがあります。これらの分野との融合研究により技術革新とそれを通じた農林水産・食品産業の成長が期待されており、異分野と連携して研究開発を行うことが効果的な課題について、異分野の産学との共同研究を支援しています。平成26(2014)年度からは、農林水産分野と異分野の研究機関の連携によって「医学・栄養学との連携による日本食の評価」、「理学・工学との連携による革新的ウイルス対策技術の開発」、「情報工学との連携による農林水産分野の情報インフラの構築」、「工学との連携による農林水産物由来の物質を用いた高機能性素材等の開発」の研究が行われています。


(攻めの農林水産業の実現に向けた革新的な技術体系の確立)

攻めの農林水産業を実現するためには、<1>消費者ニーズに立脚し、輸出拡大をも視野に入れた新品種や新技術による強みのある農畜産物づくり、<2>大規模経営での省力・低コスト生産体系の確立、<3>民間の技術力や、ロボット技術、ICT(*1)等異分野の先端技術の活用等により、従来の限界を打破する生産体系への転換を進めることが急務です。このため、産学官の連携を強め、様々な先端技術を基に革新的な技術体系を組み立て、実際の生産現場で、米の低コスト生産や畜産の省力化・効率化等を実現する実証研究を支援しています。また、消費者や実需者のニーズに立脚したものとなるよう、大学等の協力を得て、マーケティングや経営分析研究を併せて行っています(図2-5-1)。


*1 Information and Communication Technologyの略。情報や通信に関する技術の総称

図2-5-1 攻めの農林水産業の実現に向けた革新的な技術体系の確立に向けた研究推進のイメージ

事例:注目される研究・技術開発の成果

(1)クモ糸を紡ぐカイコの実用品種化に成功

クモ糸シルク100%のベストとスカーフ
クモ糸シルク100%の
ベストとスカーフ

クモの糸は「強く」て「伸びる」性質を併せ持つ繊維として古くから知られています。独立行政法人農業生物資源研究所(*1)では、強度や切れにくさ(*2)を向上させた高機能なシルクを作り出すため、シルク生産に用いられるカイコの実用品種にオニグモの遺伝子を導入し、強くて切れにくいクモ糸の性質と、カイコ本来の光沢や柔らかさを併せ持つ新しいシルク(クモ糸シルク)を生産することに成功しました。

細くても強く切れにくいクモ糸の成分を含んだクモ糸シルクは、通常のシルクの1.5倍の切れにくさを持っており、鋼鉄の約20倍の切れにくさを持つといわれるアメリカジョロウグモの糸に匹敵するほどでした。

クモ糸シルクは、繰糸(*3)から紡織までの全ての工程において従来のシルクと同様の機械を用いて加工することができます。今後、服飾分野での強度が増した製品の開発や、クモ糸成分の含有率を高めて更に強度を高めた微細手術用縫合糸等の医療用素材の開発が期待されます。


*1 平成27(2015)年4月1日、名称を国立研究開発法人農業生物資源研究所に変更
*2 「タフネス」とも言い、糸が伸びて切れるまでに加えられたエネルギー
*3 熱湯で煮た繭から繭糸を引き出し、それを数本まとめて1本の糸にすること

(2)北海道初の超強力小麦優良品種の開発と実用化

コムギ縞萎縮病の発生ほ場の様子左:従来品種(地上部にウイルスが侵入し、草丈が縮む)右:ゆめちから(地上部にウイルスが侵入せず健全に生育)
コムギ縞萎縮病の発生ほ場の様子
左:従来品種
(地上部にウイルスが侵入し、草丈が縮む)
右:ゆめちから
(地上部にウイルスが侵入せず健全に生育)

我が国の小麦作では、気候条件に適合し多収となる秋播き性の品種が主に栽培されています。しかしながらパン用の小麦については栽培に適した秋播き性の品種が少なく、その生産量は限られています。

このため、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構(*)は秋播き性のパン用小麦品種の育成に取り組み、「ゆめちから」の開発に成功しました。「ゆめちから」はパンの膨らみに関係するグルテンというたんぱく質の弾性が非常に強い「超強力」という特性を持ち、中力小麦と混ぜることでカナダ産高品質パン用銘柄である「カナダ産ウェスタン・レッド・スプリング(1CW)」並みの優れた製パン適性を発揮します。現在、「ゆめちから」がブレンドされた小麦粉は大手製パン業者の食パンを始め、様々な商品に使われています。

「ゆめちから」は高い製パン適性に加え、近年被害が拡大しているコムギ縞萎縮病に抵抗性を持つなど栽培上の優れた特性を持つため、北海道を中心に作付けが拡大しています。一方で、産地や年次による品質及び収量のばらつきが課題となっており、高品質で安定した生産を可能にする栽培技術を開発しています。


* 平成27(2015)年4月1日、名称を国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構に変更
 


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