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農林水産省

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第4節 都市と農村の共生・対流


都市と農村の共生・対流の推進は、それぞれに住む人々がお互いの地域の魅力を分かち合い、理解を深めるために重要な取組です。

以下では、都市と農村の多様な共生・対流の重要性、グリーン・ツーリズム、訪日外国人旅行者受入れの推進、子供の農業・農村体験、農業と医療・福祉との連携を始めとする活力ある農村の構築のための取組について記述します。


(都市と農村の共生・対流の推進)

農業・農村は、その生産活動を通じ、生物多様性の保全、良好な景観の形成、文化の継承等、様々な役割を担っており、地域住民や農村を訪れる都市住民にゆとりや安らぎをもたらしますが、農村人口の減少や高齢化に伴い、集落機能や地域の活力の低下が進行しています。

一方、農林水産省が消費者を対象に、今後、農業・農村とどのように関わりたいか調査を行ったところ、「地域農産物の積極的な購入等により農業・農村を応援したい」が9割、次いで「グリーン・ツーリズム等、積極的に農村を訪れたい」、「市民農園などで農作業を楽しみたい」が3割となっており、農業・農村に対する関心の高さがうかがえます(図3-4-1)。

このため、農村の豊かな地域資源を活用して、都市と農村の共生・対流を積極的に推進するとともに、地域の活性化とコミュニティの再生を図り、農村における雇用や所得を増大させることが重要です。



(グリーン・ツーリズムの取組)

農村において、自然、文化、人々との交流を楽しむ滞在型余暇活動であるグリーン・ツーリズムは、都市住民の農業・農村への関心を高め、地域の活性化に大きな役割を果たしています。滞在の期間は、日帰りから宿泊を伴う長期的なもの、定期的・反復的なもの等様々で、全国各地で多様な地域資源を活用した農家民宿や観光農園等の取組が展開されています。

農家民宿等のグリーン・ツーリズム施設への宿泊者数は年々増加しており、都市住民・消費者のニーズに応えるとともに、6次産業化(*1)の進展や農家所得の向上、地域の活性化等に大きく寄与しています(図3-4-2)。

また、農林水産省と観光庁では、農村の活性化と観光立国の実現を図るため、農村の魅力と観光需要を結びつける取組(農観連携)として、グリーン・ツーリズムと他の観光の組合せによる新たな観光需要の開拓や農村が有する地域資源についての発信の強化、訪日外国人を農村に呼び込むための施策等を推進しています。


*1 [用語の解説]を参照

(農村における訪日外国人旅行者受入れの推進)

近年、世界遺産の登録、日本の食文化への関心の高まり、効果的な観光プロモーションの推進に加え、短期滞在ビザの免除や緩和、為替の円安方向への推移等により、平成26(2014)年の訪日外国人旅行者数は1,341万人に達しました。さらに、「2020年オリンピック・パラリンピック東京大会」の開催を追い風として、平成32(2020)年に向けた訪日外国人旅行者数について2,000万人を目指すこととしています。

観光庁の調査によると、訪日外国人旅行者は、伝統的な食文化体験、日本の農村の風景の見学、伝統的な町並み巡りに対する興味が高い傾向にあり、大都市だけでなく農村についても高い興味を示しています(*1)。

また、旅行情報源で役に立ったものとして、出発前はインターネットの検索サイトが3割、日本滞在中はインターネット(スマートフォン)が5割、インターネット(パソコン)が3割となっています(*2)。また、訪日回数では、2回以上が半数を占めています。

このような状況を踏まえ、外国人旅行者の農村への誘致を推進するため、美しい日本の農村景観を始めとする我が国の農村が有する地域資源、人々の暮らし、地域ならではの「食」等の魅力の提供・発信を強化するとともに、農村における受入環境の整備や農業体験プログラムの開発を進めています。


*1 観光庁「外国人が楽しめるニューツーリズムを目指して」(平成24(2012)年3月公表)
*2 観光庁「訪日外国人の消費動向 平成26年10-12月期 報告書」

事例:農観連携による訪日外国人旅行者の農村への誘致

「VISIT JAPANトラベルマート2014(主催:観光庁等)」の一環で行われた海外の旅行会社等による視察旅行の九州コースに、グリーン・ツーリズム先進地域である大分県宇佐市(うさし)安心院(あじむ)地域を組み込み、農林水産省の都市農村交流事業も併せて活用することにより、地域の魅力をアピールしました。

視察旅行に参加した海外の旅行会社社員
視察旅行に参加した海外の
旅行会社社員

カナダ、ロシア、タイ、中国、韓国等10か国24人の参加者が数人ずつに分かれて、農家民宿で鶏天、だんご汁等の郷土料理を味わい、稲刈り・いも掘りや伝統工芸品づくりを体験しました。

受入農家と参加者はお互いに身振り手振りでのやりとりとなりましたが、受入農家からは「料理をおいしそうに食べてくれてうれしかった」、参加者からは「心から楽しめて良い経験になった」、「是非旅行商品化したい」等の声が聞かれ、効果的なプロモーションとなりました。

 

(子供の農業・農村体験の取組)

子供が農業を体験することや農村地域の人々との交流を深めることは、将来の農業・農村に対する国民の理解を高める上で重要です。

このような体験を実施する取組の一つとして、農林水産省、文部科学省及び総務省が連携した「子ども農山漁村交流プロジェクト」により、子供の農山漁村における宿泊体験を推進しています。

このプロジェクトでは、子供が農林漁家の家庭に宿泊するなどして、地域の人々との交流を行いながら、農山漁村の生活や農林漁業等を実際に体験します。体験を通じて、豊かな自然や伝統・文化に触れるとともに、食の大切さを学び、農山漁村・農林漁業への理解を深めます。

さらに、社会規範や生活技術を身に付けるとともに、学習意欲や自立心、豊かな人間性・社会性を育む等、様々な教育的効果のほか、地域や集落の活性化、女性や高齢者の活躍の場の提供等も期待されています(図3-4-3、図3-4-4)。

このプロジェクトにおいて、農林水産省は受入地域の整備に向けた総合的な支援や人材育成、体験プログラムの開発等の支援を、文部科学省は小学校等に対する活動や情報提供等の支援を、総務省は地方自治体の自主的な取組等に対しての支援を行っています。




事例:民間事業者と行政が一体となって教育旅行を受け入れる取組

群馬県みなかみ町
子供と受入家庭の対面式
子供と受入家庭の対面式

群馬県みなかみ町(まち)は、かつては冬のスキー教室として首都圏を中心に多くの学校から来訪がありましたが、一年を通じて教育旅行を受け入れるため、平成20(2008)年10月、民間事業者と行政が一体となって、みなかみ町教育旅行協議会を設立しました。

同協議会は、観光協会、商工会、町、観光事業者、農家等から構成され、地域資源を活かした農業体験や自然環境学習、アウトドアスポーツ等の約60の体験プログラムを企画・実施しており、これらを担当する農家やガイド、インストラクターが約300人登録されています。

また、体験プログラムの手配や各種調整を行うワンストップ窓口として、学校や企業から約1万人を受け入れるとともに、平成26(2014)年度に同協議会の一般社団法人化を図り(「みなかみ町体験旅行」)、旅行業の登録を受け、多様なニーズに応える受入体制を整備しています。

 

(農業と医療・福祉との連携)

近年、農村における癒(い)やしや安らぎの提供、農作業を行うことによる健康の維持・増進の効果等が注目されており、特定非営利活動法人日本セルプセンターの調査によると、農業活動による精神の状況や身体の状況の改善がみられています(図3-4-5)。

このような中、農業法人等において、障害者や高齢者、生活困窮者等が作付けや収穫等の農作業を通じて身体機能の向上や収入の確保を図るなど、農業と医療・福祉が連携した取組が全国各地で展開されています。

また、企業が特例子会社(*1)を設立して農業分野に進出する事例も増加しており、企業は法定雇用率の達成や社会貢献が可能となる一方、農業分野での障害者雇用の増加や地域の農業者との連携等による地域の活性化が期待されます。


*1 障害者の雇用の促進及び安定を図るため、事業主が障害者の雇用に特別の配慮をした子会社を設立し、一定の要件を満たす場合には、特例としてその子会社に雇用されている労働者を親会社に雇用されているものとみなして、実雇用率に算定が可能


事例:農業と福祉の連携による障害者雇用の取組

(1)福祉と農業をつなぐ農園カフェの取組

青森県十和田市

青森県十和田市(とわだし)の一般社団法人日々木の森は、就労継続支援A・B型事業所として、障害を持つ人たちに就労訓練の場を提供しており、現在、26人が6人の支援員とともに農園カフェ日々木の厨房・ホールとスイーツ工房で働いています。

スイーツ工房では、ブルーベリーやカシスを隣接する農園から購入して、ジャム、お菓子等を製造し、市内のホテル、観光施設、直売所等で販売しています。

 
スイーツ工房での作業
スイーツ工房での作業
立崎文江さん
立崎文江さん
 

また、野菜ソムリエの資格を持つ立崎文江(たちざき ふみえ)代表は、地元の生産者グループや個人農家から仕入れた野菜を活用したカフェでのメニュー提供及び加工品開発・販売により青森・十和田産野菜の魅力発信にも取り組んでいます。

同法人では、福祉という枠にこだわり、閉鎖的になってしまわないように、使用している野菜のほ場見学や農家との勉強会を行うなど地域とつながる取組を実施するとともに、観光協会に加盟して、市内のカフェ巡りツアー等の企画に参画しています。

 

(2)人の手を活かした植物工場における障害者雇用の取組

沖縄県大宜味村
ガター方式によるわさび菜栽培
ガター方式による
わさび菜栽培

沖縄県大宜味村(おおぎみそん)の株式会社おおぎみファームは、同村のミネラル分が豊富な湧き水を活用した県内最大級の植物工場で、ガター方式(緩傾斜をつけた水路状のベッドに培養液を流下し循環させる方法)での水耕栽培により葉野菜を生産しています。

同県における夏場の野菜生産は暑さや台風等により減少することから、同社では、天候に左右されない植物工場で葉野菜を完全無農薬で栽培するとともに、レタス等単品を量産するのではなく高付加価値の葉野菜を多品種(15種類以上)栽培するなど、年間を通した安定供給を実現しています。

同社は建設コンサルタント企業の特例子会社であり、自動化を避け、人の手を活かすことで、障害者の雇用の機会を増やし(正規雇用5人)、障害者の就労を積極的に支援しています。

今後は、同工場での実証結果を基に、本業のコンサルタント業において事業提案をしていくことも視野に入れています。

 

(農村の活性化に向けた人材の育成)

地域の活性化を担う人材の育成に取り組む集落等を支援するため、平成20(2008)年度から「田舎で働き隊(*1)」事業により、農村に関心を持つ都市住民を農村に派遣しており、平成21(2009)年度から平成24(2012)年度までに人材育成研修に参加した約900人の半数が研修終了後も地域に滞在して活躍しています。

平成25(2013)年度からは研修期間を3年間とし、平成25(2013)年度は62人、平成26(2014)年度には、これに56人が加わり118人の研修生が農村に派遣され活躍しています(図3-4-6)。


*1 平成25(2013)年度からは「新・田舎で働き隊」として実施


なお、本事業については、平成27(2015)年度から地域おこし協力隊(*2)の名称に統一するとともに、募集情報を一元化して提供することによる情報入手機会の増加や、合同研修の実施、全国サミット等を通じた隊員間の交流促進等の一体的な運用を行うことにより、人材の育成や定住に向けた取組を強化することとしています。


*2 都市住民が生活の拠点を過疎、山村、離島、半島等の地域に移し、地域おこし活動の支援や農林漁業の応援、住民の生活支援等の「地域協力活動」に従事、併せてその定住・定着を図りながら、地域の活性化に貢献する取組で、総務省が支援


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