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平成20年3月19日(水曜日)
さいたま新都心合同庁舎2号館共用大会議室501
(埼玉県さいたま市中央区新都心2月1日)
「農山村の現状と政策課題」
明治大学農学部教授小田切徳美氏
関東農政局局長ほか局職員
2010年3月は(ア)過疎法の失効、(イ)中山間地域等直接支払制度(第2期対策)の終了、(ウ)新合併特例法の失効といった政策的な転換点を迎える時期であり、また、2010年は昭和一ケタ世代全体が後期高齢者化し、支えられる立場となる年であり、2010年問題と呼んでいる。これら全てに対して的確に乗り越えることが出来なければ決定的なダメージを受けることが予想される。
一方で国民各層に農山村を支援する動きもあり、援農NPOや学生ボランティア、企業CSRなどがそれである。農山村支援は企業CSRとして好まれる活動の一つで、これらの活動が安定化すれば2010年問題を乗り越えることが出来る。
空洞化の進行とその拡がり
中山間という言葉は1987年に初めて使われたものであるが、中山間地域の問題として3つの空洞化が考えられる。まず1960年代に「人の空洞化」が始まり、1980年代には「土地の空洞化」、さらに1990年代半ばに「ムラの空洞化」が起こった。この3つの空洞化以外に本質的な空洞化として地域に住み続ける誇りを失った「誇りの空洞化」が進行しているのではないか。また今後の問題は、空洞化の問題が中山間地域を越えて地方中小都市に拡がっていくことである。
空洞化の起点・中山間地域で生じる限界集落問題
過疎地域を対象とした国交省・総務省の共同調査によると、過疎地域6万2千集落の4%が消滅する可能性があるとの結果が出た。学生にこの話をすると皆少ないとの印象を持つが、これを山間集落でみると12%、さらに山間地域で行き止まり集落になると37%が消滅可能性を持つ結果となっている。
集落の限界化によりゴミ・産廃の不法投棄や災害に対する弱体化等、外部不経済が発生し都市問題にもつながるものである。限界集落問題は国土政策上の焦点になるのではないか。
農山村地域における世帯所得の減少
副業的農家の所得構成について1998年と2003年で比較すると農外所得が20%を超える減少となっている。兼業農家はかつては社会の安定層と呼ばれたが、現在は不安定化している。
市町村合併の進展の影響
平成の大合併はターゲットを人口1万未満の自治体としており、その85%は過疎の村や山村といった条件不利地域であり、条件不利地域自治体の再編である。この合併により大規模自治体が形成された。この合併による市町村の規模変化を見るため集落数の比較をおこなうと、新潟県の場合1市町村当たり集落数は、合併前の43集落から合併後の135集落へと増加している。このことにより農山村では制度的周辺化が進行し自治体自身も管内を把握することが困難になっている。
農山村における新たなコミュニティの構築
周辺化に抗するため農山村では「地域振興会」や「自治振興区」といった新しいコミュニティが登場している。その特徴は、(ア)多様な名称、(イ)市町村合併の影響を受けた西日本に顕著、(ウ)団体自治が広域化する中それを埋めるため住民自治を強化、(エ)旧村、小学校区等が地域範囲、である。
各地の先発事例をみると、(ア)小さな役場としての総合性、(イ)自治組織でありながら経済組織の側面を持つ二面性、(ウ)集落としての守りの自治と地域自治組織としての攻めの自治としての補完性、(エ)集落が持つ一戸一票性という限界を超える革新性という点があり、住民が当事者意識をもって、地域の仲間と共に手作りで自らの未来を切り開く(手作り自治区)という積極的な展開が行われている。
新たなコミュニティ作りは無理をしない段階的発展が必要であり、発展に応じて(ア)安全に暮らす地域防災、(イ)楽しく暮らすイベント、(ウ)安心・快適に暮らす地域福祉や景観形成、(エ)豊かに暮らすコミュニティ・ビジネス機能、(オ)誇りを持って暮らす地域の自立といった発展の形にモデル化出来る。
政策的な対応としては、地域自治区制度の設置や各省におけるコミュニティ再生策の検討が行われている。
新しい地域産業構造の構築-4つの「経済」の提案-
(ア)直売だけから、直売所から農村レストランまで担う6次産業型経済への移行
(イ)交流は所得形成機会であると同時に人間的成長機会でもあり、社会教育的側面を持っている。このためリピーター率が高く、産業としての成立可能性も高い。
(ウ)地域資源の一方的な活用ではなく、地域資源を保全し、資源を磨き、そしてその資源を活用するという物語性を持った産業に都市住民は共感しており、それがあって初めて商品が動いていく。
(エ)山口県の中山間地域住民に対する調査では経済的水準は不十分であるが、追加所得として必要な資金を聞くとその額は60~120万円程度であった。この所得を 得るための機会をどう作り出すか、それを支える小さな資金循環(コミュニティ・ファンド)が必要である。
地方中小都市の地域拠点としての再生
地方中小都市は農山村の仕事、教育、医療等を担うための拠点となるべきであるが、実際は中小市街地の空洞化が起こり都市機能の分散がおこっている。また、中小都市が郊外化し都市そのものが空洞化(都市機能の分散から消滅へ)に向かっており、3~10万人程度の地方中小都市を地域拠点として再生することが一つの対応策である。
暮らし再生の体系化
「安心して、楽しく、少し豊かに、そして誇りを持って暮らす」という農山村住民の暮らしに対する視点から農山村再生策を確立し、これまでの思いつき的な取組みから脱却し地域としての戦略を作ることが必要である。そのためには、(ア)参加の場をつくる地域づくり、(イ)カネとその循環をつくる地域づくり、(ウ)暮らしのものさしをつくる地域づくり、により地域の自立を目指す。
農林統計の大きなメリットは旧市区町村レベルの統計表章を継続していることであり、これは市町村合併によっても影響を受けない表章が存在すること意味する。
また、2010年農林業センサスの際に実施される農山村地域調査により、農山村コミュニティに関する重要な情報が提供されることを期待している。
(質問)
ソーシャルキャピタルとは人の繋がりが呼ぶ地域活力と定義されるが、その育成を考えた場合、キーパーソンの存在だけではなくキーファクターが重要であり、組織とか参加主体の苦労話といったキーファクターの分析が必要と考える。専門知識の習得や店舗経営に関する事例があれば聞かせてほしい。
(回答)
アメリカで議論が始まったソーシャルキャピタルであるが、その実証的研究は途上国を中心に行われている。人間関係によってもたらされるキャピタル(資本)というよりは信頼関係と考えることが出来るが、日本の農山村ではある程度の水準が形成されているのが現実でる。そうした状況の中で、その大小を議論することには、少なくとも日本の農山村においては積極的な意味がないと考えられる。
(質問)
コミュニティファンドの形成について、NPOの例として志を共有する主体がノウハウを提供し、限られた閉じた中での融資というのはあるが、コミュニティファンドを少ない資金の中で形成することは難しいと考える。その設立・経営についてお聞かせ願いたい。
(回答)
コミュニティが何か経営活動を行う場合、資本金やつなぎ資金が必要でありお金が非常に重要になってくる。それをどのような形で手当てするのか。各地では、いくつかの基金を創り、それを原資にするというアイデアが出されている。例えば、CSR活動で大手企業が拠金した財団等が百万円くらいの小口の地域環境保全のための資金提供を行っており、コミュニティがそれを活用している例もある。また、我々が政策提言を行い実現されようとしているものに「ふるさと納税」がある。昨年6月から議論したもので、5千円の控除はあるが地方住民税の1割を自分の希望する自治体に寄付をすることが出来る。この制度が今年4月からスタートする予定であるが、これをコミュニティファンドの大きな原資にすることも考えられる。
(質問)
講演の最後にセンサスが非常に重要だという話があった。30年間統計の仕事をしてきてとてもありがたい発言である。センサス調査については、今後集落の代表者を見つけて行かなければならないが、適任者がいなくなっている。いなかでは見つけやすいが中間地域では非常に見つけにくい。集落が崩壊している中でどのように調査すれば良いのか。
(回答)
センサスの農山村地域調査はこれまでの集落調査の代わりに実施される調査で、今までは職員調査で行われていたが、2010年からは調査員調査に変更され、調査員が集落の代表者に面接をして答えてもらうことになる。そのためご質問のような懸念が出てきたと思うが、今回の調査では調査票はA4両面の一枚だけであり、質問も大項目で3、小項目でも7つのみと記憶している。調査員の負担を出来るだけ少なくすることが調査設計の際の一つの条件であり、その結果としての調査票である。ただ、これまで膨大な数の調査を行っていた集落調査がなくなってしまったので、引き続き職員による抽出調査が必要だと思う。
(質問)
集落では中核的な担い手をつくるための教育がなく、地域のリーダーが生まれにくい。現代社会を生き抜くため、お金を投じて大学へ行かせているため、地域社会を良くするためのお金の使い方が出来ていない。集落の社会資本を増やすための考えがあれば教えてほしい。
(回答)
これは非常に重要な問題である。農山村地域の教育についてダイレクトな回答ではないが回答したい。最近、旅行代金が払えず修学旅行に行かない高校生が、かなり増えているという報道もある。所得格差の問題が教育にまで影響を及ぼしている。農山村政策を考える上で、「田舎に暮らしたいが子供の教育のことを考えるとそれが出来ない」という声を聞く。それは教育の質を問題にしているのではなく、もっと素朴に、所得の問題である。例えば、農業で規模拡大して、夫婦二人で400万の所得を稼いだとしてもそれでは子供を大学にやれない。子供の教育の問題が住民の移動を制限している。これを真剣に考えないと農山村の発展はないと思っている。教育費の負担形態を変化させなければならない。親ではなく本人自身が払うような仕組みに出来ればある程度解決できるのではないか。親の居住地や職業による所得水準が子供の教育に影響を与えなくしなくてはいけない。欧米などではそうではない仕組みがある。例えば、オーストラリアではほとんどの大学が州立であり、その費用は卒業後税金で支払う仕組みになっている。そのことにより、自分のキャリアアップのために自分のお金で大学へ行くことにもつながる。尚、若者の農村志向も高まっている。田舎暮らしや二地域居住についてのアンケートを行うと団塊の世代にそれを望むという回答が多いが、もう一つのピークが20代に見られる。実現するかどうかは今後の課題であるが、20代の若者が農山村に暮らしたい意向を持っている。こうした世代の登場も認識した、農村移動をスムーズにする仕組みの構築が必要である。
(質問)
農協はやむを得ず合併を行っているが、農協の今後のあり方について何か考えがあれば聞きたい。
(回答)
難しい問題であるが、新しいコミュニティが農協の本当のあり方ではないかという論文を書いた。コミュニティ組織が経済活動を行い、財産を持つことができ、そして水平的に結合することを可能とする法人格というのは存在しない。農協法上の農協になればコミュニティが活動する上で一番良いと考えると、コミュニティは本来の農協そのものではないか。
現在、農協の実態は地域協同組合になっており、職能組合的に再編することは出来ない。農協を再度分割することは出来ないが、支所単位で決裁権を高めて協同原理がより生きるような仕組みをつくり、そのうえで部会組織として農業者を集めることが求められている。
(質問)
日本の人口は減少しているが、大都市に人口が集中し減少しているのは地方である。地方でも県庁所在地は増加しているが、周辺では減少している。その最終的なしわ寄せは限界集落に行っている。地方都市と集落がネットワークをつくるというイメージをもう少し説明してほしい。
(回答)
この4月から農林水産省で都市と農村に関する研究会が発足する。質問の答えについてはその中で明らかにされていくと思う。一つ言えることは都市の子供を1週間農村で生活させるというプロジェクトが始まったが、都市からの移動だけでなく農村内の子供も参加できる方が良いと考えている。
(質問)
限界集落をどうするべきか。
(回答)
いわゆる限界集落をどうするのかというのもホット・イシューである。「村おこし」に対して使われた言葉に「村おさめ」がある。現実的に閉村しなければならない集落も数多く生まれてくると思う。そのような集落に対して集団移転を持ちかけることは出来ない。かつての移転はふもとに幸せな生活が待っているという位置エネルギーを利用して行っていたが、今は高度経済成長時のエネルギーはない。集落はその場で村おさめを迎えざるを得ないことも今後増えてくると予想される。重要なことは集落が存在した歴史、持っていた技・技術、自然とのつきあい方という集落が存在した証もしくは特徴的なものを保存することである。アフリカには「一人の老人が亡くなるのは図書館がなくなるとの同じ損失である」ということわざがあるが、集落が無くなるのはそれ以上の損失であると思う。集落の記録を残すアーカイブ活動を国民的に行うことも必要ではないだろうか。
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