バングラデシュで学んだこと【第42号】
関東農政局農村計画部長
山田耕士
皆さん、こんにちは。関東農政局農村計画部長の山田です。昨年の9月に着任しました。ちょっと?遅くなりましたが、どうかよろしくお願いします。前任地はバングラデシュです。JICA専門家として農村インフラ整備に関する技術指導をしていました。世界最貧国の一つであるバングラデシュは、観光地もなく、「地球の歩き方」も出版されていない数少ない国です。そこで、若干バングラデシュの紹介をさせてください。
バングラデシュはインドの東側に位置し、周囲をインドに囲まれています。気候は1年のうち10ヶ月が夏。特に4月、5月は日中の気温が40度を超えます。国土面積は日本の約4割です。国土の中央にはガンジス川が流れ、ベンガル湾に注いでいます。国土の大半はいわゆるガンジスデルタと言われる地域であり、洪水とサイクロンの常襲地帯です。ガンジス川はバングラデシュ国内でさらに2本の大河川と合流しているので、その流域面積は173万平方キロメートルで日本の国土面積約5倍、利根川流域面積の約100倍です。ガンジス川には河川堤防がない場所が多いと考えてください。このため、6月雨季に入ると河川水位の上昇とともに国土は洪水に覆われ、その約2割が3ヶ月程度水没します。このような地形の国に1億4,500万人が生活しています。
この洪水ですが、バングラデシュの人々は意外と冷静に対処しています。バングラデシュでは我が国の洪水にみられるように、河川堤防が決壊し濁流が押し寄せるというようなことはありません。洪水はひたひたと近づいてくるような状態です。ゆっくりと避難する時間があるのです。避難場所は道路の路肩です。バングラデシュの農村道路は、水没を避けるため、盛土構造となっています。氾濫地域では道路路肩に仮設小屋がならぶ光景が見られます。私が勤務していた農村インフラ整備を担当する役所の同僚は、「我々は洪水とともに生きている。」と言っています。洪水と闘うのではなく、洪水とうまく付き合っていくという意味です。また、ある地方事務所の技術者は、「洪水は資源である。」と語っています。確かに洪水は肥沃な大地を残すわけですし、洪水期に各地でできる湛水域では淡水魚の養殖が行われています。
さて、バングラデシュにはノーベル平和賞受賞者がいることをご存じでしょうか。グラミン(農村)銀行総裁、ムハンマド・ユヌスさんです。グラミン銀行は農村の貧困層の人々を対象に小規模融資を行う銀行です。ユヌスさんとグラミン銀行を世界的に有名にしたのは、貧困層を顧客としながら、高い返済率を維持するため、貧困層を組織化するという手法を示したことです。(村山真弓「開発におけるコミュニティと住民組織化」2004年3月、アジア経済研究所)。
ユヌスさんは、かつて教鞭をとっていたチッタゴン大学にほど近い村で竹の椅子を編む女性と出会い、彼女が5タカ(タカはバングラデシュの通貨単位、当時約15セント)の金がないために仲買人から高利で借金しなければならないこと、そのために儲けがわずかにしかならないこと、そこから、貧しい人々が高利でない資金を借りることができれば、すでに持っている知恵や技術を生かして、自らの生活を向上させることができると考えるに至ったことはすでに伝説として広く知られています。
貧しい人々に貸したお金は返済されないだろうという「常識」に対して、ユヌスさんとグラミン銀行は借り手の組織化で挑戦したのです。不利な立場を強いられている貧しい人々をグループ化して、人々の知恵や技術などの地域資源に着目して融資を行い、これをグループで担保する。それによってグループ内の連帯意識が醸成され、ローンに対する道徳責任が強化される。さらに返済されたお金は再投資され、地域経済の持続性の寄与につながっていきます。グラミン銀行の誕生は1970年代後半の動きですが、バングラデシュでは、現在においてもこうした小規模融資は、農村開発の重要な手法の一つとなっており、多くのNGOがこの手法を取り入れています。
こうした小規模融資については、実際には農村の人々に広く行き渡っていないという批判もあります。しかしながら、農村の貧しい人々にとって、自分たちの知恵や技術に対して融資が行われること、そしてこれを扱うグラミン銀行やNGOの眼差しは、希望であり、心の支えになっているのではと考えます。
ところで、我が国の農業・農村も、農業所得の激減、農業従事者の減少・高齢化、耕作放棄地の増加など危機的な状況にあるわけですが、こうした中にあって、全国各地では、住民の方々が主体となった地域再生の取組が始まっています。ここでは我が国の地域再生に係る取組を紹介しませんが、バングラデシュの農村開発においても、また我が国における地域再生の取組みにおいても、地域に固有の地域資源、地域の力を利活用することが、そのスタートラインとなっています。
バングラデシュにおける農村開発の姿は、我が国の地域資源を活用した地域おこしの動きが正しいことを示しているように思えるのですが、みなさんどうでしょうか。
(平成22年4月受稿)
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