ホーム > 大津地域センター、東近江地域センター > 再発見!滋賀の伝統野菜 > 滋賀の伝統野菜:坂本食用菊
|
坂本の食用菊を見ると、人が食べる物でこれほど美しいのはほかにないのではないかと思うほど美しい食べ物です。観賞用としても十分に美しい菊を食材としてその色を残したまま、食べるのですから。 食用菊が栽培されている坂本は、大津市の西部、比叡山延暦寺の門前町として栄え、今も町には多くの寺院があります。坂本では、古くから各家の庭や畑の片隅に食用菊を栽培していたそうです。松尾芭蕉の句にも堅田で菊なますを出された際に読まれたものがあり江戸時代には、すでにこのあたりで栽培されていたことが伺われます。食用菊で有名な東北地方とは違い、関西では、食用菊といえば普通刺身のつまなどに、一輪添えるぐらいですが、坂本では、東北地方と同じように、小菊や中輪の菊をおひたしや酢の物にして食べます。 |
![]() |
|
坂本の食用菊は、東北地方で栽培されている「阿房宮」や「もってのほか」のように品種の名前はありませんが、大津市の滋賀里地域から真野地域にかけて、各地域に伝わるいくつかの品種があるそうです。今では栽培している農家が少なくなりましたが、9月下旬より花が咲く早生から11月下旬に花が咲く晩生まで、また、花の形も小菊から中輪まで地域によってさまざまなものがあったそうです。 坂本で、食用菊を作っている方にお話をうかがいしました。この方のお宅で作っている品種は、坂本に古くから伝わっていた中生種の小菊ですが、数年前に県の農業試験場でウィルス除去のため頂点培養により作った苗がもとになっているそうです。この品種は、小菊にしては花の大きさが3cm程とやや大きく、花弁が管状をしており花びらの数も多くボリュームのある花です。収穫期には畑に菊のよい香りがします。一つつまんでみて、かじってみると、観賞用の菊と同じように強い苦みがあります。 |
![]() |
|
食用菊は、主に畑で作いるため観賞用の菊とは違い病気が出やすく、作りにくいそうです。食用菊は、宿根草にもかかわらず連作を嫌い、一度作った畑は、最低5年間はあけなければ出荷できるようなものは育たないそうです。過湿に弱く、排水のよい畑が良く、よく開けた風通しの良い、日当たりの良いほ場が良いそうです。 栽培は、4月下旬に前年収穫した株の根より出た芽を摘み取り差芽をします。摘み取る芽は、茎から出た芽ではなく、根から出た芽を使います。うねの表面に川砂を敷いた苗床に摘み取った芽を差していきます。5月下旬から6月上旬にたい肥や鶏糞、油粕など基肥として畝の下の方に入れ、幅1m程の畝を作り、20~30cm伸びた苗を定植します。病気の予防とアブラムシなどの防除を月に2度ほど行い、7月の中頃まで、何度か芯を摘み茎の数を増やします。土寄せは、2回ほど行い、8月には、倒伏防止のため支柱やネットを張ります。9月の花の咲く前に、化学肥料で2回ほどに分けて追肥を行います。この品種では、10月下旬から11月上旬までが収穫期になります。収穫は花が十分に開いているものを花だけを手で摘んでいきます。 出荷は、摘取った花のままでも出荷しいていますが、花のままでの需要がそれほど多くないため、ほとんどは農協の加工場でゆで、冷凍保存しておいたものを出荷しているそうです。冷凍保存したものでも、味も色もほとんど変わらないそうです。 |
![]() |
| 食べ方は、摘み取った花びらの額の部分をとり、歯ごたえを残すように、多い目のお湯でさっとゆでます。ほうれん草と合わせてお浸しにしたり、酢の物、豆腐とあえてしらすあえにしたりして食べます。最近では、お寿司の具や漬物などにもするそうです。
坂本の食用菊は、さくさくとした独特の歯ごたえとうま味があります。生で食べたときの苦みはゆでると嘘のように消えます。ほうれん草のお浸しに混ぜると、黄色い色の美しさにもまして、菊自体が独特のうまみがあり、美しさと共に大変おいしいほうれん草のおひたしができます。 |
![]() |
|
食用菊は、少し前まではこの地域では自家用に多くの家で作っていましたが、宅地開発のため農地が減っていることや、毎年植え替えていかなければならないなどの手間がかかることから、年々作る農家は少なくなってきています。坂本では、食用菊を守るため坂本菊料理振興会を作り、苗の交換や技術の向上を図るなど坂本の食用菊の伝統を守っています。しかし、会のメンバーのほとんどが60歳以上の人ばかりで、なかなか若い人に受け継がれていないのが現状です。栽培面積も坂本地区全体で30a程度だと言われています。出荷も関西では、食用菊を食べる習慣があまりないことからか、市場にはほとんど出しておらず、坂本の門前の寺院に精進料理の材料として提供したり、土産物店で販売されるぐらいだそうです。 |
![]() |
| 坂本の食用菊を食べるまでは、食用菊は見た目や色合いだけで、味としてはそんなにおいしいものではないと思っていました。しかし、食べてみると、決してそんなことはなく、見た目ばかりか菊自体が大変おいしいものであるとわかかりました。黄色があざやかで、見た目も美しく、季節感もあります。坂本では、ちらし寿司に錦糸卵のように散らして食べるそうです。菊の花びらが散らされたお寿司はきっと美しいものだと思われます。ゆでたものをそのまま食べてみると、さくさくとした歯触りがあり、うま味もあります。この歯触りは、坂本の食用菊の特徴で、阿房宮にはないそうです。坂本の食用菊は、鮮やかな色、味、季節感、そして花を食べるという華やかさなど、現代にも受け入れられる多くの良い点をもっています。坂本の食用菊は、間違いなく歴史ある坂本の町が育てた守らなければならない滋賀の貴重な伝統野菜です。 | ![]() |
(平成13年11月取材)