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近畿農政局

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大区画化等への取り組み経緯(紹介)

紹介1(農地・水・環境保全向上対策に係る地域での取り組み)

 現在、宮置地区では、有限会社 夢前夢工房が農地の大部分を集積し、中心となって農業経営を行っている。
 特に最近5年はその現象に加速がかかり、同地区以外も含め同社が管理する農地は30haから倍近くにまで増加している。
 同社の代表取締役は平成7年に同地区で約40aの面積で独立就農し、以降、農地を借り入れながら規模拡大を進め、平成11年に法人化し、加工や販売にも取り組むようになった。
 当初はお願いしなければ集まらなかった農地であるが、高齢化の進行に同社の信用も加わり、平成20年頃には地権者側から頼まれる形で同社が同地区の農地の約半分を集積するようになっていた。
 同時に「いつまで水路の掃除が出来るのか」、「地域環境の維持が出来るのか」といった高齢化に伴う不安を集落役員から聞くようになったことから、同社の代表取締役も自身の営農だけでなく、集落や地域のことを考えるようになった。転機の一つは、平成20年の試験運用から取り組んだ農地・水・環境保全向上対策で、農家と農家以外が連携する取り組みのため、同社と地域の連携が強まった。


地区での取り組み風景(用水路の掃除)
地区での取り組み風景(枝の伐採) 地区での取り組み風景(草刈りの準備)

 (自治会長談)
 地域住民に対して農地・水・環境保全向上対策への参加を呼びかけた当初は、地域の繋がりも希薄になりつつあり、非農家からは「なぜ、自分たちが農家の支援のようなことをしなければならないのか」といった反発も少なからずあった。
 しかし、地域のコミュニケーションをとることができる機会であり、地域の景観が保全できる取り組みである、というメリットを各役員が根気よく呼びかけ続け、徐々に住民の理解が深まってきた。

紹介2(農地・水・環境活動の一貫として小学校との連携による食育活動)

 農地・水の団体として活動している宮置資源保全隊が、農地・水・環境活動の一環として小学校の食育と連携することで、農地・水・環境の取り組みが小学校からも発信され、活動に対する地域住民への理解が促進された。

小学校との食育連携(田植え) 小学校との食育連携(田んぼの手入れ)

紹介3(地域のことが考えられる人・農地プランを作成)

 農家と農家以外が連携する活動としては、平成24年に作成した人・農地プランも一つの転機となった。
 人・農地プランの作成には、前年度に地域の活性化を目的に全戸を対象に実施したアンケートの結果も踏まえ、中心となる経営体とその取り組み方向を明記し、担い手だけではなく地域の人も一緒に、地域のことを考えられるように取り組んだ。
 アンケートについては、産業振興、地域の活性化、伝統文化の継承等の意見を求めたが、狙いとしては地域住民に自分の近所を見つめ直して貰うことであった。

紹介4(老朽化した用水路などの補修の検討)

 宮置地区のほ場は昭和45年頃に整備されたため、経年劣化により水路やけい畔の改修が必要となっていたこと、また、高齢化により用水路の溝掃除、農道等の草刈りが困難な状況となっていたから水路の改修、草刈りの軽減の検討を開始した。
 そこで平成26年に補助も受けた上での改修費用の見積もりを受けたところ、高額のため地権者からは反対、かといって農地を引き受けている有限会社 夢前夢工房で負担するにも高すぎる負担額であった。
 より負担の軽くなる手法の検討、行政への相談と模索する中で、行政から農地中間管理事業を上手く活用してパイプラインを導入するのであれば、地元負担が軽くなるかもしれない、という情報提供があった。


老朽化したコンクリート畦畔

管理労力がかかる用水路

紹介5(大区画化の推進及び高収益作物への取り組み)

 農地中間管理事業を活用するには、地権者の合意を得て農地を集積し、収益を向上させる必要があることから、平成27年にパイプラインの導入と大区画化、高収益作物の栽培を行うことで計画を進めることとした。JA兵庫西が高収益作物としてたまねぎ栽培を奨励し、取り組みの後押しとして定植機、収穫期、冷蔵施設など環境を整えてくれたことは、大きな励みとなり栽培を推進することができた。やはりJAとの連携は重要であり、JAの後押しがなければ進めることはできなかった。


たまねぎ栽培の取り組み

紹介6(鳥獣害対策への取り組み)

 宮置地区でも鳥獣害被害に悩まされており、対策として行政からの支援を受け獣害対策用の柵の設置を平成27年から始め、平成30年に地区全域の施工を完了した。
 施工することにより地区全体の被害が減少したことから、非農家からも賛同を得ている。


獣害対策用の柵の設置 1

獣害対策用の柵の設置 2

紹介7(先進地への研修)

 平成28年にはパイプライン導入のため、地域の役員会で但馬地域(豊岡市、新温泉町)に視察に行った。
 実際に見てみることで役員も実感が沸き、導入するメリットや導入に際しての疑問も出てくるので、視察は有効である。


パイプライン視察 1

パイプライン視察 2

紹介8(役員会における話し合いの状況)

 この年度に役員会を21回開催し、農地中間管理事業の活用に向け、問答集を作成した。
 これは、行政やJAに任せず、地域の取り組みとして、地域主体で進めなければいけないと考えたからであり、皆で様々な想定を行い、回答を作成し、分からないところは役員が農林事務所や役場に出向き、場合によっては役員会に行政に来てもらって説明を受けた。


自治会役員会

 (自治会長 談)
 農地中間管理事業を活用したほ場整備の実施については、地域の担い手に対する批判的な意見もあった。
 しかし、担い手はボランティアで農地の保全をしているのではなく、農業により収益を上げる必要があること、ほ場の環境を良くすることで担い手の農業経営も持続可能となること、担い手が営農を継続することが地域の景観保全につながることなどを、まず役員が理解し、住民に対して説明することで、話が前に進み始めた。

紹介9(地域における話し合い)

 地域の中には、将来、家を建てたい人などもいるので、各種手続きの方法を周知するとともに、農業だけでなく地域全体の将来を見据えた設計を行った。
 役員から地域住民への計画の説明については、地域の過半の農地を管理する衣笠氏からは行わず、自治会の役員が行うようにし、同氏は未相続農地など地域外の者への対応にあたった。
 また、地域の総会等で反対意見が出た場合には、賛成派との間で感情的な口論になるケースがあるので、一旦役員で話を預かり、時間を置いた上で別途役員が訪問し、反対意見への丁寧な説明を行うことで理解を求める、という方法をとった。
 ほ場整備については、地区の全員が諸手を挙げて賛成したわけではなく、大部分は地区の将来を考えて渋々納得してもらった、というのが実情である。


ほ場整備前の地図



ほ場整備後の地図

 (自治会長 談)
 「大区画化により自分が所有している農地が分からなくなる。」、「将来、家を建てる必要が生じた際に所有地を返してもらえないのではないか。」といった住民の不安もあったことから、農地に関する手続きなどを自治会役員が理解し住民説明を行った。
 事務手続きが煩雑のため嫌気がさす地権者も少なからずおり、正直なところ大変だったが、担い手が前に出ると計画が頓挫すると考えていたので、地域のためと思って根気強く取り組んだ。
 相続手続きが行われていない農地の相続人の対応は苦労したが、特に地域外(遠隔地)におられる相続人の対応は非常に疲れるものであった。

紹介10(人・農地プラン)

 人・農地プラン(平成31年2月更新)における今後の地域農業のあり方として、中心となる経営体の取組の方向性及び地域住民の活性化に関する取り組みが記載されている。

今後の地域農業のあり方(地域の中心となる経営体とそれ以外の農業者のあり方)
取組事項 対応 コメント
  農家戸数74戸、総面積28haで、約83%の農地が中間管理機構へ利用集積され、中心経営体がその集積された農地を利用する。
複合化  中心となる経営体が、ひょうご安心ブランド認証を取得して消費者の求める安心安全な米づくりを進め有利販売に努める。
 また、うるち米、加工米、酒米、もち米、新規需要米等の契約栽培に取り組み将来を見据えた安定価格販売を目指す。
 中心となる経営体が、野菜+果樹などの収益性の高い農産物の生産・有利販売を目指す。
 中心となる経営体が、JAと連携して、玉ねぎ、ジャガイモ、小豆等の栽培を増やし高付加価値化を目指す。
6次産業化  中心となる経営体が、地域内の直売所で農産物や加工品を販売して経営の安定化を進め、それ以外の農業者が農産物を出荷し、販売する。
 中心となる経営体が、イチゴやトウモロコシ、果樹を中心とした収穫体験を実施して、観光業者との連携を図り経営安定に繋げる。
高付加価値化  中心となる経営体が、小麦、小豆、大豆、そば、米粉等を利用して、醤油、味噌、蕎麦、菓子等を商品化して高付加価値化を目指す。
 中心となる経営体が果樹などの農産物を利用して、加工品やスイーツの商品化により高付加価値化を目指す。
 中心となる経営体が、イチゴや果実を使ったケーキやスイーツを開発し、直売所で販売することで利益拡大を目指す。
新規就農の促進  中心経営体において積極的に農業研修者を受け入れ、地域内や市内での独立を目指す新規就農者の育成を図る。
 市内の新規就農者を集い、農地の斡旋やレンタルハウスの活用、直売所で有利販売して経営の安定化を図り育てていく。
 新規就農者等、若者の定住促進を積極的に行い、居住者の減少を防ぐ。
地域住民の活性  市民農園や生き甲斐農園を利用して、農業者や非農業者の交流、農産物の栽培や販売を通して地域活性を目指す。また、ICTを利用して、住民の防犯、防災、福祉、教育等の向上に取り組む。
地域の環境整備  農地水事業等を利用して地域住民が協力し合い、農業施設や地域環境の維持・向上を進めて行く。
 また、水路のパイプライン化や給排水の自動化、フォアスなどの排水対策を行い、作業の簡素化や収量の安定に繋げていく。
 また、地域住民の高齢化に備え、農道や水路等の法面草刈り作業が少なくなるよう防草シート等を利用し、カバープランツなどの植栽により地域景観の整備を行う。
学校教育との連携(食育)  学生や子どもたちに農業体験などを通じて、農業に対する理解や郷土に対する愛着心を高める。
その他「規模拡大」  農地の大区画化、用水のパイプライン化、フォアスによる排水システム、畦畔等の防草シート+芝栽培による管理作業の軽減をはかる事業に取り組む。また様々な企業と連携しICTやAIによるスマート農業に積極的に取り組む。
 平成31年設計、平成31年~令和3年に工事予定

紹介11(地域自治会集会)

 平成31年3月、自治会集会において宮置地区の農地集積状況、集積した農地を大区画化することによる地域の将来構想、大区画化に伴うほ場整備の工事内容などを説明。


地域住民への説明会

紹介12(事業実施後の展望)

 地域が実施しているけい畔の除草作業を軽減するため、これまで実証実験してきた防草シートやムカデ芝の導入も考えている。


法面施工のムカデ芝 1


法面施工のムカデ芝 2

 有限会社 夢前夢工房においては、大型農機具による自動走行システムの利用、ドローンの活用など を農機具メーカーなどと組んで5年間の実証実験を計画している。
 現在は小さな区画での実験、ほ場整備が進めば大区画で実験を行うことで、比較検証が出来る。
 この山間の地域でGPSをキチンと拾うかも実験できる。他にはパイプライン化、フォアス、防草シート、高付加価値の農産物への取り組みなどを計画している。


ICTを利用した自動運転トラクタ

ICTを利用した自動運転田植機

 さらに、地域住民の生活にも貢献、ということでドローンを農業へ活用するほか、小学校の登下校の見守り、不審者の通報、災害対応などで使えるように、それに要する経費の実証実験をしたいとも考えている。

 (自治会長談)
 私たちは地域の将来のためになると思い、ほ場整備の取り組みに協力してきた。
 渋々納得してもらった方も少なくないので、担い手には後継者を育成し、しっかりとした農業経営を行ってもらいたい旨のお願いもしている。

紹介13(他の地区に伝えたいこと)

 (有限会社 夢前夢工房 代表)
 今、当地区が上手くいっているのには蓄積があるから、ということを知っておいてもらいたいし、危機感を煽ってでも、今、しておかなければ困ること、に対しての自覚がなければ前に進まない。
 3年間ドローンの実証をして初めて分かったことは、現状ではバッテリー交換や農薬の補充を道路の隅で行っているが、これでは効率が悪いので、作業を行う場所、発着基地をセットで整備する必要があることである。
 取り組みをしなければ分からないことがあるので、まず動いてみる、ということが大切である。
 また、夜間にドローンを飛行させ鳥獣害被害防止などを考えているのだが、夜間飛行させるにも法制度の整備が必要である。
 結局、当地区は農地・水の取組から合意形成までに10年ほどかかったが、現状を見ると、これでは間に合わない。
 まず、地域の中で話し合い、地域の将来を考え、見える形にすることが重要である。

 (JA兵庫西)
 地域の人々の年齢分布を図にして見ることからスタートするとよい。
 こうすれば10年後にはどうなるか、ということも想定しやすくなる。
 また、大区画化というのは方法論であって目的ではない、と言うことを皆が認識して取り組まなければいけないと思う。
 基盤整備後にどのような取り組み(経営)を行うのか、というビジョンをしっかり持つ必要がある。
 JA、市、県、国などからの支援はあるが、考え、実行するのは地域住民、という共通認識が重要である。
 その上で仲間作りは必要であり、強力なリーダーシップも必要となる。
 一人で実行するのは無理である。

 (自治会長)
 他の地区で健全な農業経営を行っている若手農業者数名から聞いたのだが、地区の自治会長の顔を知らない、と言うことだった。
 彼らは農地集積、大区画化に取り組みたいので協力して欲しい旨を地区の中で語るのだが、なかなか皆に響かない、と悩んでいた。
 彼らには、担い手が前に出ると利害が強まる印象があり、拒否反応を示す人が少なくないため、自分の理解者を少しでも多く作って、協力してもらうのが、面倒に見えて一番近道であり、担い手が地域と積極的に関わり合いを持つべきであると助言した。
 このような取り組みを進めるには、しっかりとした担い手と担い手ではない地域のリーダーが必要であり、両者が相互に理解し合いながら協力して話を進めなければ、なかなか上手くいかないと思う。

お問合せ先

近畿農政局兵庫県拠点

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