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抗菌剤耐性:獣医療における抗菌剤の責任ある慎重な使用
 
Antimicrobial resistance: responsible and prudent use of antimicrobial agent in veterinary medicine
Rev. sci. tech. Off. int. Epiz., 2001, 20(3), 829-839
F. Anthony, J. Acar, A. Franklin, R. Gupta, †T. Nicholls, Y. Tamura, S.Thompson, E.J. Threlfall, D. Vose, M.van Vuuren & D.G. White(所属は抗菌剤耐性菌:概論の付録Aを参照)
 
OIE抗菌剤特別専門家グループが作成したこの報告書は、まだOIE国際委員会の承認を受けていない。
 
要約
 
畜産における抗菌剤の責任のある、かつ慎重な使用のガイドラインが、OIEが設けた抗菌剤耐性特別グループによって作成された。責任のある使用の目的は、抗菌剤の有効性を維持し、耐性菌または耐性決定因子の播種を避け、そしてヒトが食品を介して耐性に暴露されるのを避けることである。このガイドラインは抗菌性物質に販売承認を与える責任を持つ関係当局に対して中心的な役割を果たす。販売承認を与える前および後の要件を明らかにする。重要な点として医薬品製剤の品質および治療効果のコントロール、選択圧の評価、環境の保護、特異的および非特異的抗菌剤耐性のサーベイランスが含まれる。このガイドラインは動物薬企業、臨床獣医師、処方薬剤師および畜産家についても述べている。これらのグループのそれぞれの役割と責任を定義してある。
 
キーワード
 
抗菌剤耐性 - 関係当局 - 耐性の抑制 - 食品 - ヒト医療 - 国際基準 - 販売承認 - OIE - 公衆衛生 - 獣医療
 
緒言
 
この文書は、動物とヒトの両方の健康を保護することを目的に、獣医療における抗菌剤の責任のある、かつ慎重な使用のためのガイダンスを提供する。著者らは動物用抗菌剤の登録、製造、管理、流通および使用にかかわる各国関係当局、動物薬企業、獣医師、薬剤師および家畜生産者のようなさまざまなグループのそれぞれの責任を明確にする。
 
慎重な使用は主として販売承認手続きの結果および抗菌剤が動物に投与される場合にそれぞれの使用上の注意を実行することによる。
 
抗菌剤の使用とその条件に関連する多数の実践コードがさまざまな機関によって作られている。これらのコードを考慮し、いくつかの要素をこのガイドラインに含めた。
 
目標と目的
 
動物間の耐性菌の伝播を制限し、消費者の健康を守るために、家畜用抗菌剤の承認、製造、販売および供給、処方および使用にかかわるヒトはすべて合法的に、責任を持って、最大の注意を払うことが重要である。
 
抗菌剤:動物における細菌性疾病の治療および予防/コントロールの強力なツール
 
獣医療における抗菌剤の責任ある使用のガイドラインには、以下の目的で、動物における抗菌剤耐性菌の選択を防ぐおよび/または減らすことを意図する一連の実際的手段および勧告が含まれる:
 
a) 抗菌剤の有効性を維持し、動物における有効性と安全性の両方を最適化することを目的に、動物における抗菌剤の合理的使用を保証すること
 
b) 動物を健康に維持するために、倫理的義務と経済的必要性にしたがうこと
 
c) 動物のポピュレーション内の(耐性決定因子を持つ)細菌の伝達をできる限り防ぐまたは減らして、家畜に使用する抗菌剤の有効性を維持すること
 
d) 動物からヒトへの耐性菌または耐性決定因子の伝達を防ぐまたは減らして、ヒト医療に使用する抗菌剤の有効性を維持すること
e) 設定された最大残留限度(MRL)を越える残留抗菌剤による動物由来食品の汚染を防ぐこと
f) ヒトの消費を意図する動物由来食品の安全性を確保することによって、消費者を保護すること
 
獣医療における抗菌剤の責任ある使用
 
特別グループは、責任ある使用を以下のように説明している:
 
a) これら化合物を科学的および技術的に指示された使い方をするのは、必要な専門知識を持つ専門家の責任であること
 
b) これは獣医療の規範および畜産の規範の一部であり、病気の問題が認められた場合には、ワクチンの使用や飼養条件の改善のような疾病予防手段を考慮すること
 
c) 抗菌剤の使用法を、承認され意図された使用法に合わせることを目標にすること
 
d) (それが適当なら)生産の途中で食料生産動物から農場でサンプリングして、分離株を検査することを考慮し、問題が明らかになった場合には治療の調整を行うこと
 
e) 耐性のサーベイランスおよびモニタリング(細菌の培養および抗菌剤感受性試験)の成績にもとづくべきであること
 
以下のような関連するすべての専門家が対象になること:
 
― 行政的および科学的当局
― 動物薬企業
― 流通業者およびその他の抗菌剤を扱うヒト
― 獣医師、薬剤師および家畜生産者
 
規制当局の責任
 
販売承認を与えることに責任のある各国規制当局は、この承認の内容を規定し、獣医療における抗菌剤の慎重な使用を支持するために、製品のラベル表示を通じて獣医師に適切な情報を提供する上で重要な役割を担っている。
 
販売承認を与えるために必要なデータを提出することは動物薬企業の責任である。
 
獣医療における抗菌剤の使用には、安全性、品質および有効性の基準に合致した場合にだけ当局が与える販売承認が必要である。薬剤承認申請の審査には、食料生産動物に抗菌剤を使用することに由来する動物と消費者の両者に対するリスクの評価を含めなければならない。評価は個々の抗菌剤ごとに焦点を合わせるべきで、その活性成分が属す抗菌剤の系統に普遍化すべきではない。安全性の評価には食料生産動物に提唱される使用法のヒトの健康に対する影響の考察を含めるべきである。用量範囲または異なる治療期間が示唆されている場合には、各国当局が耐性の発生を最小限にする条件に関して承認された商品のラベル表示を指導すべきである。
 
規制当局は、可能なら耐性のコントロールに重要な貢献をする可能性を持つと考えられる新しい抗菌性分子製剤の販売承認手続きを促進すべきである。この点について国際的に受け入れられるガイドラインの作成が助けになるであろう。
 
有効な登録手続きを実行するのに必要な資源がなく、動物用医薬品の供給をほとんど外国からの輸入に依存している国は、以下のようにしなければならない:
 
― これらの動物用医薬品の輸入に対する行政的管理の有効性を検証すること
― 輸出国の登録手続きの信頼性を検証すること
― 輸入する動物用医薬品の品質ならびに推奨される使用法の信頼性を検証するために、経験豊富な当局との必要な技術的協力関係を作ること
 
輸入国の規制当局は製薬企業に対して輸出国の当局が発行する品質保証書の提出を要求できる。
 
すべての国が違法薬剤および模造薬剤の貿易、流通および使用と積極的に戦うためにあらゆる努力をすべきである。
 
抗菌剤の品質管理
 
品質管理は以下のように行うべきである:
 
― GMPの規定を遵守すること
― 活性成分として使用する抗菌剤の分析規格は公認されたモノグラフの規定にしたがうことを保証すること
― 市販製剤中の抗菌剤の品質と濃度(安定性)が設定された使用期限まで維持されることを保証すること 
― 飼料または飲水に添加する場合には、抗菌剤の安定性を保証すること
― すべての抗菌剤は、その安全性と有効性を保証するために、適切な品質と純度に製造することを保証すること
 
治療効果のコントロール
 
前臨床試験
前臨床試験は以下の目的で実施すべきである:
― その抗菌剤がin vitroおよびin vivoで耐性菌を選択する能力を評価すること。In vivo
試験の設計は現在検討中である。特定の場合には、前臨床試験で対象動物の細菌の耐性だけでなく、食品由来菌および/または常在菌に対する抗菌剤使用の影響も評価すべきである。
 
― 抗菌剤の治療効果を保証し、抗菌剤耐性菌の選択を制限するために必要な適切な投与量を設定すること
薬力学と対象細菌に対する抗菌剤の活性の確立
以下の基準を考慮する:
― 作用機序
― 最小発育阻止濃度および殺菌濃度
― 時間または濃度依存活性
― 感染部位における活性
 
薬物動態および有効抗菌性レベルを維持することが可能な投与量の確立
 
以下の基準を考慮する:
― 投与経路に応じたバイオアベイラビリティー
― 感染部位における抗菌剤の濃度および投与動物における分布
― 抗菌剤の不活化をもたらすであろう代謝
― 排泄経路
 
抗菌剤を併用する場合には、以下の点を考慮して妥当性を示すべきである:
― 薬力学(対象細菌に対する相加または相乗効果)
― 薬物動態(治療期間を通して感染部位におけるそれぞれの抗菌剤の相加または相乗効果を発揮する濃度の維持)
臨床試験
 
臨床試験は前臨床相で設定された治療の効能および用量の妥当性を確認するために実施すべきである。
 
以下の基準を考慮すべきである:
― 多施設試験を実施する場合に遭遇する臨床例の多様性
― 臨床試験のプロトコールがGCPを遵守していること
― 試験した臨床例が臨床的および細菌学的診断にもとづいて適格であること
― 治療の有効性を定性的および定量的に評価するためのパラメーター
 
抗菌剤が耐性菌を選択する可能性の評価
 
抗菌剤が耐性菌を選択する可能性の評価を裏付けるために、試験を行うことが適当であり、必要であるかもしれない。
しかし、これらのin vivo試験は実際の条件下で生じる耐性とは非常に異なる結果を示すことがあるので注意すべきである。したがって、判断には最大の注意を払うべきである。
 
動物用抗菌剤の販売承認を申請する者は、可能なら抗菌剤が意図する使用条件の下で対象動物種に抗菌剤耐性を発生させるかについて検査したデータを提出すべきである。
 
耐性を選択する可能性を減らすために、ある場合には、前臨床および臨床試験で対象動物の病原菌の耐性だけではなく、食品由来菌および/または常在(指標)菌に対する抗菌剤使用の影響も評価すべきである。
 
これらの場合には、以下の点を含めるとよい:
― 一定の用量を投与した動物の食品由来病原体の大多数が生息している可能性がある腸内の活性化合物の濃度
― 食品由来またはその他の耐性菌にヒトが暴露されるレベル
― 抗菌剤の系統内および系統間の交差耐性の程度
― ヒトの健康上懸念される病原体における耐性の使用前のレベル(ベースラインの決定)
 
抗菌剤の1日許容摂取量(ADI)、最大残留限度(MRL)および休薬期間の設定
 
a) 抗菌性物質のADIsおよびMRLsを設定する場合には、安全性評価にヒト腸内菌叢に対する
生物学的影響の可能性も含めるべきである。In vitroおよび/またはin vitro試験ならびに/あるいはヒト医療からのデータを用いて、消費者が摂取した残留抗菌剤が、耐性菌を選択して、また/あるいは病原菌のコロニー形成に対するバリア効果を弱めて、ヒトの腸内菌叢を混乱させる可能性の評価を行うべきである。
 
b) 各抗菌剤のADIと各動物由来食品のMRLを設定すべきである。MRLは公的に認めら れた検査機関がすべての食品が安全基準にしたがっていることをチェックできるために必要である。
 
c) MRLsを遵守した安全な食品の生産を可能にするために、抗菌剤を含有する各抗菌剤製品に休薬期間を設定すべきである。
 
休薬期間は以下の点を考慮して各抗菌剤製品について設定すべきである:
― その抗菌剤に設定されたMRL
― 剤形
― 対象動物種
― 投与量および治療期間
― 投与経路
 
申請者は食品中残留の規制のための検査法を用意すべきである。
 
環境の保護
 
提唱する抗菌剤使用法の環境に対する影響の評価を実施すべきである。抗菌剤による環境汚染を最小限に維持することを保証する努力をすべきである。
 
各動物用医薬品の製品特性のサマリー作成
 
製品特性のサマリーに抗菌剤を含む動物用医薬品の適切な使用に必要な情報を含める。これは各動物用医薬品製剤のラベルおよび添付文書の公式参照文書になる。このサマリーには以下の項目を含める:
 
― 薬理学的性質
― 対象動物種
― 治療の効能
― 対象細菌
― 用量および投与経路
― 休薬期間
― 配合禁忌
― 使用期限
― 使用者の安全性
― 使用前の特別な注意事項
― 未使用製品の適切な廃棄のための特別な注意事項
 
獣医療における抗菌剤の慎重な使用の条件は、とくにその薬剤または同じ治療薬の系統に属す他の抗菌剤のヒト医療または獣医療における重要性を考慮した安全性評価にもとづくべきである。ヒトの重大な疾患の治療に重要と考えられる抗菌剤は、代替薬剤が入手できないまたは不適当な場合にだけ動物に使用すべきである。このようなガイダンスを獣医師のために製品のラベルに記載することを考慮すべきである。
 
複雑な腸内菌叢への抗菌剤の接触を増加させ、したがって耐性遺伝子の選択および伝達の可能性を増加させる経口投与は注意して使用すべきである。特定の系統の抗菌剤は他の投与経路も同様に耐性の選択をもたらすことがある。製品のラベルに特別なコメントをすべきである。
 
市販後抗菌剤サーベイランス
 
耐性の発生と浸潤の調査と報告のために組織的なアプローチが必要である。
 
規制当局は抗菌剤に対する有害反応を、抗菌剤耐性に関連する効果の欠如も含めて、モニタリングし、報告し、記録するための医薬品監視プログラムを作成すべきである。この医薬品監視プログラムを通じて収集した情報は抗菌剤耐性を最小限にする総合戦略の一部にすべきである。
 
サーベイランスプログラム
 
食料生産動物における抗菌剤耐性菌の選択に及ぼす承認されたある抗菌剤の影響を評価する特定サーベイランスプログラムは、販売承認を与えた後に実行されよう。場合によっては、このサーベイランスプログラムで、対象動物の病原体の耐性発現だけでなく、食品由来病原体および/または常在菌も評価すべきである。このサーベイランスのプロトコールは、登録の過程で実施された安全性評価によって妥当とされる場合に実行すべきである。
 
特定サーベイランス
 
動物の細菌の抗菌剤に対する耐性のサーベイランスが不可欠である。関連当局は、抗菌剤と、動物およびヒトに病原性か否かにかかわらず、動物の細菌について優先順位を付けることが可能なリスクアナリシスの結果から作成したプログラムを実行すべきである。効率をよくするために、このようなプログラムを作成するために用いる方法(検査手技、サンプリング、抗菌剤および細菌の選択など)は可能な限り多く国際的レベルで統一すべきである(後述の、抗菌剤耐性:抗菌剤耐性の検出と定量化のための検査法の基準化と調和、および抗菌剤耐性:動物および動物由来食品の国内抗菌剤耐性モニタリングおよびサーベイランスプログラムの調和を参照)。
 
抗菌剤耐性の疫学的サーベイランスには、これらの医薬品のもっとも適切な処方を促すために、獣医師およびその他の承認されたユーザーが使用した抗菌剤の量に関する継続的な調査を付随させるべきである。
 
特定か否かにかかわらず、抗菌剤耐性のこの登録後サーベイランスの成績によって妥当とされれば、獣医療における抗菌剤の使用条件を変更すべきである。
 
獣医療に使用する抗菌剤の流通
 
関係当局は、可能なら、食用動物に使用されるすべての抗菌剤について、以下の点を確認すべきである:
 
― 獣医師またはその他の適切に訓練され、認定された担当者によって処方されていること
 
― 認可された動物薬の専門家によって配送されていること
 
― 認可/認定された流通システムによってのみ供給されていること
 
― 獣医師によって、あるいは獣医師またはその代理人の監督下で動物に投与されていること
 
広告のコントロール
 
抗菌剤の広告はすべて広告基準のコードによってコントロールされるべきであり、関連当局は抗菌剤製品の広告の以下の点をチェックしなければならない:
 
― 与えられた販売承認、とくに製品特性のサマリーに合致していること
 
― 各国の法令にしたがって、認定された専門家に対してだけ行われること
 
抗菌剤ユーザーの教育
 
規制当局、製薬企業、獣医大学、研究機関および専門家団体を含む、すべての関係する専門家に対するこの教育は、以下の点を中心にすべきである:
 
― 抗菌剤を処方する必要性を減らすための、疾病予防と管理戦略に関する情報
 
― 抗菌剤が、食料生産動物において、動物および/またはヒトに健康上の問題をもたらす可能性のある耐性菌を選択する能力
 
― 動物由来食品の消費者の安全を確保し、それによって公衆衛生を保護するために、畜産における抗菌剤の使用が、責任ある使用の勧告ならびに販売承認の内容および獣医師の助言にしたがっていることを監視する必要性
 
― 獣医師が抗菌剤を慎重に使用すること可能にする、関連する薬物動態と薬力学の情報
 
研究の発展
 
関係当局は以下の目的を持つ公的および私的研究を奨励すべきである:
 
― これらの医薬品の投与法と治療活性を最適化するために、抗菌剤の作用機序についての知識を向上させること
 
― 抗菌剤に対する耐性をコードしている細菌の遺伝子の選択、発現および伝播に関する知識の向上
 
― 耐性菌の発生によって生じる公衆衛生上の懸念を評価する、リスクアナリシスのコンセプト適用のための実際的モデルの開発
 
― 登録の過程で、提唱する抗菌剤の使用が耐性発現の早さと広がりに及ぼす影響を予測するためのプロトコールのさらなる開発
 
― 細菌性疾病をコントロールする代替法(ワクチン、飼養管理の変更など)の開発
 
動物用医薬品企業の責任
 
動物用医薬品の販売承認
 
以下の領域は動物薬企業の責任である:
 
― 動物用医薬品の品質、安全性および有効性を客観的に確立するために、各国規制当局が要求するすべての情報を提供すること
 
― GMP、GLPおよびGCPの規定にしたがって実施した手続き、検査および試験にもとづくこの情報の品質を保証すること
 
製薬企業は、実際的経験に照らして承認された適応の拡大を図るために、ヒト用医薬品で行われていると同様に、承認後試験の実施を奨励されるべきである。これは承認外使用の必要性を制限するのに有用であろう。
 
動物用医薬品の販売と輸出
 
動物用医薬品の販売と輸出については、以下の示唆がある:
 
― 公的に認可され、承認された動物用医薬品だけを、認可/認定された流通システムを通じてのみ販売し、供給すべきこと
 
― (輸出)国で販売が承認されているまたはその品質が規制当局によって証明されている動物用医薬品だけを輸出すべきこと
 
― 販売した抗菌剤の量を評価するのに必要な情報を各国の規制当局に提供すること
 
広告
 
以下の点は動物薬企業の責任である:
 
― 与えられた承認の範囲内で情報を広め、この宣伝が製品の処方および分配にかかわる認定された専門家にだけ届くことを保証すること
 
直接、家畜生産者に向けた抗菌剤の広告を行わないことを保証すること
 
教育
 
動物薬企業は前述の‘抗菌剤ユーザーの教育'の項で示した教育プログラムに参加する責任がある。
 
研究
 
前述の‘研究の発展'の項で示した研究努力に寄与することは動物薬企業の責任である。
 
薬剤師の責任
 
動物用抗菌剤を分配する薬剤師は獣医師の処方箋によってのみそうすべきであり、すべての製品は適切にラベル表示がなされているべきである。(後述のラベル表示の項を参照)
 
薬剤師は抗菌剤の責任ある使用に関するガイドラインを補強すべきであり、供給したすべての抗菌剤の以下を含む詳細な記録を保管すべきである:
 
― 供給日
― 処方した獣医師の名前
― ユーザーの名前
― 製品の名称
― バッチ番号
― 供給量
 
薬剤師は抗菌剤の責任ある使用に関する教育プログラムに参加すべきである。
 
獣医師の責任
 
抗菌剤の使用は良好な飼養管理に代わるものではなく、獣医師の重要な関心事は家畜における抗菌剤の必要性を最小限にするために、良好な畜産管理を促進することである。
 
良好な飼養管理の枠の中で、獣医師は再発性疾病の識別と疾病の予防およびコントロールの代替戦略の策定に責任がある。これには飼養条件の変更と、ワクチンが入手できれば、ワクチン接種プログラムが含まれよう。
 
抗菌剤は自身がケアしている動物にのみ処方すべきであり、これは以下のことを意味する:
 
― 獣医師は動物または動物群の健康について、生産者またはその代理人によって責任を与えられていなければならないこと
 
― この責任は、名義上ではなく、実際的でなければならないこと
 
― 動物または動物群は処方および供給の直前に見ていなければならない、または獣医師が動物の状態または動物群の現在の健康状態について、診断および処方するのに十分な最近のまたは頻繁な個人的知識を持っていること
 
― 獣医師は動物/動物群の臨床記録を保管しているべきこと
 
獣医師団体はメンバーのために、抗菌剤の責任ある使用のための動物種ごとの臨床ガイドラインを作成し、とくに製品の選択、疾病予防戦略および治療プロトコールに言及することが推奨される。
 
この領域における獣医師の責任は以下の通りである:
 
必要な場合の抗菌剤の使用
 
臨床における抗菌剤の適切な使用は、可能であれば、以下にもとづくべきである:
 
― 処方する獣医師の経験と地域における専門家の意見
 
― 適切な診断手順による正確な診断
 
ある場合には、臨床的疾病の発現防止と動物福祉のために、病原性細菌に暴露された可能性のある動物群を、正確な診断と抗菌剤感受性試験を繰り返すことなしに、治療する必要がある。
 
抗菌剤選択の判断
 
治療に期待される有効性
 
治療に期待される有効性は以下にもとづく:
 
― 獣医師の臨床的経験
 
― 関与している病原菌に対する活性
 
― とくに関与している病原菌の抗菌剤耐性プロファイルに関連する、その飼育単位の疫学的病歴。理想的には、治療開始前に抗菌剤プロファイルを作成しておくべきである。第1選択の抗菌剤による治療が失敗したら、または疾病が再発したら、第2選択の抗菌剤は微生物学的試験の結果にもとづくべきである。
 
― 適切な投与経路
 
― 最初の治療の結果
 
― 選択した治療剤が感染部位で活性を示すことを保証する既知の薬物動態/組織分布
 
― 予後
 
抗菌剤耐性の発現しやすさを最小限にするために、抗菌剤は感染症の原因でありそうな細菌を標的にすることが推奨される。
 
抗菌剤耐性菌を選択しないまたは制限すること
 
抗菌剤耐性を選択しないまたは制限することは以下に影響される:
 
― 抗菌剤の活性スペクトルの選択
 
― 特定細菌の標的化
 
― 抗菌剤感受性試験を用いる既知のまたは予測される感受性
 
― 正しい投与法
 
― 抗菌剤の併用
 
― ヒト医療および/または獣医療におけるその抗菌剤の重要性。ヒト医療および/または獣医療において、重大な疾病の治療に重要と考えられる抗菌剤は、他の治療法がないまたは不適当な場合にのみ使用すべきである。
 
― 投与経路
 
抗菌剤の併用
 
抗菌剤の併用は、治療効果を増大させるまたは活性スペクトルを拡大させる相乗効果のために行われる。
 
さらに、細菌がある抗菌剤に対して高度な突然変異率を示す場合に、耐性の選択に対する防御として抗菌剤の併用が行われる。
 
一方、抗菌剤の組み合わせの選択が悪いと、耐性の選択を増加させる場合がある。
 
抗菌剤を併用することに妥当性があれば、獣医師は選んだ抗菌剤の間に拮抗がないことを確認し、必要な時間にわたって有効治療濃度が維持されるように、それらの抗菌剤が同様な時間と濃度で感染部位に達することを確認すべきである。
 
選んだ抗菌剤の適切な使用
 
抗菌剤の処方箋には、投与法、用量、投与間隔、治療期間、休薬期間および用量と治療する動物数に応じて交付する薬剤の量を正確に指示しなければならない。
 
すべての医薬品は処方によるべきであり、メーカーの提供する製品特性サマリーを反映した販売承認の条件にしたがって使用すべきである。
 
ラベル表示の条件がいくらかの融通性を持っている場合に、獣医師は効果的に動物を回復させるのに十分な長期間ではあるが、食品由来および/または常在菌における耐性の選択を制限するのに十分な短期間の治療法を考えるべきである。
 
動物用医薬品の“ラベル表示外使用"
 
すべての医薬品は処方によるべきであり、販売承認の内容にしたがって使用されるべきではあるが、処方する獣医師は例外的状況にこれらを応用する自由を持つべきである。
 
抗菌剤の“ラベル表示外使用"は適当な条件下で許可されるであろうが、各国の現行の法令に合わせるべきである。このような場合に、投与法、投与経路および治療期間を含めて、責任ある使用の条件を決定するのは獣医師の責任である。
 
記録
 
入手可能な情報はすべて1つの書式またはデータベースにまとめておくべきであり、このような情報は以下のようにすべきである:
 
― 使用する医薬品の量のモニタリングが可能なこと
 
― 各畜産施設に供給したすべての医薬品のリストが含まれていること
 
― 医薬品の休薬期間のリストと情報の更新を可能にするシステムが含まれていること
 
― 抗菌剤感受性の記録が含まれていること
 
― 投薬に対する動物の応答に関するコメントが記載されていること
 
― 抗菌剤耐性による応答の欠如を含めて、抗菌剤治療に対する有害反応の調査が可能なこと。有害反応が疑われる場合には適切な規制当局に報告すべきである。
 
ラベル表示
 
獣医師が供給するすべての医薬品は以下の最小限の情報を含む適切なラベル表示をすべきである:
 
― 動物の所有者/飼育者または管理者の名前
 
― 動物が飼育されている施設の住所
 
― 処方した獣医師の名前
 
― 供給した日
 
― 「動物の治療専用」の文言
 
― 「子供の届かない場所に保管すること」の文言
 
― 休薬期間(0日の場合も)
 
ラベル表示はその製剤の使用期限または製造者が提供する重要な情報が曖昧であってはならない。
 
教育
 
獣医師団体は上述の抗菌剤ユーザーの教育の項に示した教育プログラムに参加すべきである。
 
生産者の責任
 
生産者は自身の農場における疾病の発生を予防し、健康および福祉のプログラムを実行する責任がある。それが適当なら、これらの義務を果たすために獣医師の助けを求めてもよい。農場で家畜にかかわるすべてのヒトが抗菌剤の責任ある使用の確保に重要な役割を担っている。
 
治療用抗菌剤製品は良好な管理、ワクチン接種および農場衛生を補足するものと見なすべきである。
 
抗菌剤および耐性菌の両方による環境汚染が最小限に維持されることを保証する努力をすべきである。
 
家畜生産者には以下の責任がある:
 
1.予防的処置(乳房炎対策、駆虫およびワクチン接種プログラムなど)をまとめた健康プランを担当獣医師とともに作成すること
 
2. 抗菌剤は獣医師の処方によってのみ、処方箋の記載にしたがって使用すること
 
c) 抗菌剤は承認/登録された、ラベルに記載された動物種に、記載された用量で、製品ラベルの指示またはその動物と生産場所に精通している獣医師の助言にしたがって使用すること
 
2. 耐性菌の伝達を避けるために、それが適当なら、病気の動物を隔離すること
 
3. 飼育施設における抗菌剤の保管条件をリーフレットおよび添付文書の記載に合わせること
4. ヒト(獣医師、ブリーダー、所有者、子供)と治療した動物との接触について衛生的条件に配慮すること
 
5. 動物由来食品中の残留レベルが消費者に対するリスクにならないために、提唱されている休薬期間を守ること
 
6. 余分な抗菌剤は、環境に安全な状況下で廃棄すること。一部使用した抗菌剤は使用期限内にのみ、処方された状況に対して、可能なら、処方した獣医師と相談して使用すべきこと
 
7. 細菌学的検査および感受性試験の記録をすべて保管すること。これらのデータは、その施設における抗菌剤の使用を最適化するために、担当の獣医師が利用できるようにすべきである。
 
8. 使用したすべての医薬品の、以下の点を含む、十分な記録を保管しておくべきである:
 
― 製品/有効成分の名称とバッチ番号
 
― 供給者の名前
 
― 投与した日
 
― 抗菌剤を投与した動物または動物群の識別
 
― 治療した動物の診断/臨床状態
 
― 投与した抗菌剤の量
 
― 休薬期間
 
― 試験室検査の結果
 
― 治療の有効性
 
9. 担当獣医師に疾病再発の問題を知らせること
 
結論
 
抗菌剤は動物とヒトの両方の多数の細菌性疾病をコントロールするために極めて重要なツールである。すべての国が責任を持って抗菌剤を製造し、販売し、配布し、処方し、供給し、使用するための適切なシステムを保有し、これらのシステムが適切に監査されることが重要である。
 
OIE抗菌剤耐性特別専門家グループは多数の国がこのガイドラインの多くの要素を直ちに実行することが困難なことをよく認識している。
 
この文書は各国がその可能な範囲に応じて、ただし妥当な期間内に、実行すべき枠組みを提供するために設計されている。ここに含まれるすべての要素を適切に実行するために、多くの国は段階的なアプローチをするのが適当であろう。
 
動物の福祉、健康および、ひいてはヒトの健康に不可欠な獣医療の継続的な利用性は、最終的に動物用抗菌剤の承認、製造、管理、配布および使用に係るすべてのヒトによる、これらの製品の責任ある使用にかかっている。

お問い合わせ先


動物医薬品検査所企画連絡室
担当者:企画調整課
代表:042-321-1841(内線321)
ダイヤルイン:042-321-1861

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