3. 農村地域内外の企業やNPO等との連携による持続性の高い生物多様性保全活動に関する分析及び政策支援のあり方に関する研究
農村地域内外の多様な主体の連携による生物多様性の保全・活用活動のモニタリング・評価手法の開発
研究総括者
国際連合大学 上級客員教授 武内 和彦
研究の背景と目的
日本では農村地域の高齢化や人口減少が進む中、生物多様性を保全すると同時に、その活動を農産物の付加価値の向上に持続的に活用することで、地域を活性化させる取組が近年注目されている。
本研究では、農村地域内外の多様な主体の重層的な連携に基づく自然資本の共同管理を通じた生物多様性の保全・活用の仕組みづくりを研究する。また、生態的な側面だけではなく、社会的、経済的な側面からも活動を定量的、定性的に評価し、多様な主体の連携のあり方を検討するとともに、成果を重視した定期的なモニタリングと総合的な評価手法を開発し、政策提言につなげる。
研究の内容
(1)モニタリングと評価に関する国内外の研究動向の分析
国内外の先行的な研究および国際的な動向等を整理・分析し、日本の農村地域の状況とニーズに合ったモニタリングと評価に取り入れるべき要素とプロセスを分析する。
(2)生物多様性保全・活用活動のモニタリング・評価項目の設定
事例調査を行い、活動の類型化と類型別の課題の整理等をした上で、UNDPとSATOYAMAイニシアティブの指標を参考にしつつ、モニタリング・評価の項目を設定する。
(3)多様な主体と連携した生物多様性の保全・活用活動に関する国内のケーススタディ
生物多様性の保全・活用活動に関する生態的、社会的、経済的効果を定量的、定性的に評価する手法の検討を行う。また、多様な主体がそれぞれ行う活動の効果と課題を考察するとともに、連携のあり方と実態等を解明する。
(4)生物多様性の保全・活用活動のモニタリングと評価の手法の構築
モニタリングと評価の実施による成果と課題および多様な主体の連携によって生み出される成果と課題を分析し、生物多様性の保全・活用活動の改善を提案できるモニタリングと評価の手法を開発し、ガイドライン、マニュアル等に取りまとめる。
(5)総括的な研究成果の検証・とりまとめ
新しいモニタリング・評価手法を導入することにより、ケーススタディの対象とした活動はどのように改善されうるのか検討を行い、その有効性を検証するとともに、最終的な研究成果のとりまとめを行い、国内外に発信する。
期待される成果
生物多様性の保全・活用活動に関するモニタリング、評価の手法が開発され、ガイドライン、マニュアル等として整理されることにより、取組の促進、自律的で持続性の高い農業・農村の振興に資する。
農山村地域における生物多様性保全活動の価値評価および企業やNPO等との連携による経済効果の分析手法開発に関する研究
研究総括者
国立大学法人京都大学農学研究科 教授 栗山 浩一
共同研究機関
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社
研究の背景と目的
農山漁村と企業・NPO等が連携して生物多様性の保全を行う仕組みとして、生態系サービス支払制度(PES)が世界的に注目を集めている。農山漁村の生物多様性保全活動に対して企業・NPO等がその費用の一部を負担する制度であるPESの本格的導入のためには、生態系サービスの価値を評価し、企業・NPO等が負担すべき金額を算定する必要がある。
本研究では、農山漁村地域における生物多様性保全活動によって得られる自然資本としての価値を評価する手法を開発するとともに、農山漁村地域が企業やNPO等と連携して生物多様性保全活動に取り組むことの経済効果を分析することで、農山漁村地域における生物多様性保全活動を促進するための政策のあり方を提示する。
研究の内容
(1)先進事例の現地調査
農林水産分野の生物多様性の経済的連携を行う先進事例においても、PESを実現している事例は少ないため、PESを実現していない地域の現地調査を行い、実現するための課題を調査する。
(2)生物多様性保全活動の経済評価
(1)の結果をもとに、生物多様性保全活動の経済価値を評価する。仮想評価法(CVM)による評価は、先行研究があるため、本研究では複数の代替案別に政策分析を比較するため、代替案評価が可能なコンジョイント分析を用いて評価を行う。
(3)生態系サービス支払制度の経済実験
実験室にて農林漁業者と企業・NPOの連携を仮想的に構築し、被験者の行動を観察するといった経済実験を用いて、PESの経済効果を分析する。その成果をもとに、現地調査の実施地域で、農林漁業者を対象としたフィールド実験(社会実験)を行うことで、PESが農林漁業者に及ぼす影響を分析する。
(4)生物多様性保全の政策分析
以上をもとに、PESを導入し、農山漁村と企業・NPOの連携により生物多様性保全が実現したときの社会的効果を評価することで、今後の新たな保全政策について提言を行う。
期待される成果
農山漁村の持つ自然資本としての価値が評価されるとともに、PESを導入し、農山漁村と企業・NPOの連携により生物多様性保全が実現したときの社会的効果が評価されることで、今後の新たな農業環境政策についての基礎的な知見を得られる。
PDCAサイクルと多様な主体の参画・連携による生物多様性保全活動促進のための政策的支援に関する研究
研究総括者
国立大学法人 九州大学大学院農学研究院 教授 矢部 光保
共同研究機関
学校法人 法政大学
国立大学法人 静岡大学学術院
研究の背景と目的
農業・農村地域を取り巻く状況が厳しくなる中、行政による支援だけでなく、民間主体の参画・連携を進め、農業・農村の振興と生物多様性保全の両立に資する取組みを拡大させることが急務となっている。
本研究では、多様な主体の参画・協力下で進められている環境保全型農業による生物多様性保全事例を調査・分析し、農村内外の多様な主体のマッチングを推進し、農業・農村の振興と生物多様性保全の両立を図るための政策支援オプションを提案する。また、行政ならびに民間自らがPDCAサイクルによる結果のフィードバックを行い、取組みの成果を確認できる仕組みを構築する。
研究の内容
(1)民間による生物多様性保全活動とそれを支える制度・政策に関する海外調査
英国の民間企業・団体の生物多様性保全活動の取組み内容や動機、人材育成や資金調達方法および政府・自治体の政策的支援や関与の仕方について、調査を実施する。
(2)社会科学的視点による農業を通じた生物多様性保全活動に関する事例・実態調査とその類型化
民間団体・企業・行政の連携による国内取組み事例の調査を実施し、海外の状況と比較・整理し、農村内外の主体をマッチングさせるノウハウ等を明らかにする。また、結果をもとに活動のパターン化・類型化を図り、政策的支援オプションを提案する。
(3)自然科学的視点による生物多様性保全活動の評価と順応的管理を適用したPDCAサイクルのための枠組みの検討
自然科学的な見地からのアプローチとして、既に開発されている指標と評価手法を活用し、国内調査地で生物多様性保全活動の定量的な評価を実施する。また、保全活動を行う団体等へ成果のフィードバックを図り、支援策の必要性や方向性を提示する。
(4)環境保全寄付金付き商品に対する消費者行動予測モデルの開発と販売実験を通じた消費者による支援の実証実験
生物多様性とは直接関連のない環境保全寄付金付き商品に対するアンケート結果に基づき、商品属性や消費者属性との関連性を分析し購買行動を予測する。その結果に基づき、実際に環境保全寄付金が付加された商品の販売実験・検証・改良を繰り返し、より精度の高い消費者行動予測モデルを開発する。
(5)民間活力の導入による農業農村振興と生物多様性保全の両立に資する政策オプションの提案
(1)~(4)の結果を踏まえ、類型化されたパターンごとに必要とされる支援オプションを提案し、実際に保全活動を行うNPO等に対して活動や取組みに関するアドバイスを行い、研究と実践との相互フィードバックを図る。
期待される成果
多様な主体による生物多様性保全活動を類型化し、各類型に対する具体的な政策オプションが提案される。さらに、農業従事者やNPO等による取組み、あるいは行政支援による効果・成果を明らかにするため、PDCAサイクルに基づいて結果のフィードバックを行い、民間もしくは行政が取組みの成果を確認できる仕組みや方策が提案される。
お問合せ先
農林水産政策科学研究委託事業推進事務局
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