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農林水産政策研究所

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高齢者等の食料品へのアクセス状況に関する現状分析

プレスリリース

平成23年8月2日
農林水産省

農林水産省(農林水産政策研究所)は、平成22年度に開始した消費者ニーズの変化に対応した食品サプライチェーンの再編に関するプロジェクト研究の一環として、食料品アクセス問題の現状を分析しました。

1 「食料品アクセス問題」とは

我が国では、高齢者の増加、食料品店の減少の状況の下で、いわゆる「フードデザート(食料砂漠)」、「買い物難民」、「買い物弱者」問題が顕在化しつつあります。このような高齢者等が食料品へのアクセスに不便や苦労がある状況を「食料品アクセス問題」と定義し、この問題への対応方向の検討を目的として、不便や苦労の要因とその地域間比較、客観的な食料品店までの距離の現状、不便や苦労を軽減するために必要な取組を分析しました。それぞれの分析に対応する手法として、1)高齢者に限らず大都市郊外団地、地方都市旧市街地、農山村の3地域の住民に対する意識調査、2)国勢調査と商業統計のメッシュデータを利用した全国レベルでの消費者と食料品店の距離の分析、3)全国市町村に対する意識調査を実施しました。

2 現状分析のポイント

(1)食料品の買い物における不便や苦労の要因

  • 最も利用する店舗への距離が遠くなるほど不便や苦労が高まり、道路距離が1kmを越えると不便や苦労が大幅に増大(注:「不便や苦労がある」と回答する確率が大幅に上昇)します(別添第1図参照)。
  • ただし、自分で自動車を運転する場合は、不便や苦労が大幅に軽減されます(第2図参照)。
  • 以上の2点は、高齢者(注:65歳以上の高齢者)にも該当し、高齢者の場合には生活の自立度が高いほど不便や苦労が軽減されます(第3図参照)。
  • 高齢者に限らず、大都市郊外団地の子育て世代が不便や苦労を感じている場合もあります。
  • 近くに店舗はあるものの、品揃えで満足できず、結果としてより遠くの店舗に買い物に行くことになり、不便や苦労を感じる場合もあり、特に大都市郊外団地で顕著です(第4図参照)。

(2) 食料品店までの距離の現状(店舗までの直線距離が500m以上の人口)

  • 食料品販売店舗までの距離が500m以上の人口は、全国で1,400万人(11.0%)、うち高齢者は370万人(14.3%)(第1表、第5図参照)。
  • 生鮮食料品販売店舗に限った場合は、全国で4,400万人(34.7%)、うち高齢者は970万人(37.9%)(第1表、第6図参照)。
  • さらに、店舗までの距離が500m以上で、自動車を保有しない人口は、食料品販売店舗までの場合で260万人(2.1%)、うち高齢者は120万人(4.8%)、生鮮食料品販売店舗の場合で910万人(7.1%)、うち高齢者は350万人(13.5%)(第2表参照)。
  • 地域別に見ると、生鮮食料品販売店舗までの距離が500m以上の高齢者人口970万人の分布は、三大都市圏に約3割、地方圏に約7割。そのうち自動車を保有しない高齢者人口350万人の分布は、三大都市圏に約4割、地方圏に約6割。
  • なお、東日本大震災の影響を推計すると、被災地では食料品販売店舗までの距離が500m以上の人口割合が増加しており、特に海に面した平地で市街地が被災した地域は、震災前は食料品アクセスが比較的良かったが、震災後は大きく悪化しています(第3表参照)。

(3) 食料品アクセス問題の解決のために重要と考える取組

  • 住民の意識と市町村の意識には共通点があり、例えばともに大都市では買い物サポートサービスが、店舗まで比較的近距離な地方都市では新規開店や空き店舗対策が、店舗までの距離が遠い農山村では交通条件改善や移動販売店の充実が重要と考えられています(第4表、第5表参照)。

3 今後の対応方向

(1) 食料品アクセス改善の目標

  • 以上の分析から、食料品アクセス問題への対策の目標として、食料品への、1)物理的なアクセスの改善と、2)アクセスの質的向上により、健康的で豊かな食生活が送られることが目指されるべきです。

(2) 食料品アクセス改善の好循環プロセス(第7図参照)

  • 食料品アクセス改善は、1)食料品の買い物における不便や苦労を軽減させ、2)これが高齢者の食品摂取の多様性を高めるならば、3)高齢者の老化の遅延、自立度の維持に貢献します。4)高齢者については自立度が高いほど買い物の不便や苦労が低いため、さらに食品摂取の多様性を高める可能性があるといった好循環プロセスが生じる可能性があります。
  • 他方、5)買い物自体が、自立度を維持させ、6)さらに自立度が維持されることが多様な食品の摂取をもたらします(双方向の関係があります)。この点でも食料品アクセス改善は重要です。
  • 大都市では、食料品アクセスの条件の良い地域でも食品摂取の多様性が低い事例があり、高齢者の食品摂取の問題は地域コミュニティとの関連も指摘されています。

(3) 食料品アクセス改善の方向(第6表参照)

  • 国民に対する食料の安定供給のためには、地域における消費者への食料品に対するアクセス改善が必要です。基本的には民間事業者、地域住民のネットワーク、NPO等による持続的な対応が重要ですが、食料品アクセス問題の解決には、中心市街地・商店街の衰退、都市の郊外化、地域公共交通の脆弱化、コミュニティの希薄化、高齢者の健康と栄養問題など多様な政策課題の解決が必要であり、住民に最も身近な地方自治体に加えて、国においても関係府省が連携して取り組むべき課題と考えられます。
  • その際、大都市、地方都市、農山村では、それぞれのおかれた空間的条件(店舗までの距離)、経済的条件(事業の採算性)、社会的条件(人と人とのつながり)の特性に応じた対応が必要です。例えば、比較的商圏に恵まれた都市部では、小商圏をターゲットとしたコンパクト店舗の新規開店等、地方都市や農山村では相対的に強いコミュニティを活用したNPO法人と商店街の連携によるコミュニティバス、乗合タクシーによる交通支援、JA(生鮮品)と民間企業(コンビニ商品)による共同店舗運営、集落連携・統合による新たな農村コミュニティづくり等、全国各地で先進的な取組もなされており、その全国的な普及・啓発が課題です。
  • なお、東日本大震災の被災地では、今後被災者は避難所、仮設住宅、恒久住宅へと移り住むことになりますが、復興を遂げるまでの間及び復興後の食料品へのアクセスの確保が重要な課題です。

 

<添付資料> 高齢者等の食料品へのアクセス状況に関する現状分析(参考図表)(PDF:1,803KB)

お問合せ先

農林水産政策研究所

担当者:上席主任研究官 薬師寺
政策研究調整官 株田
代表:03-6737-9000(内線435、267)
ダイヤルイン:03-6737-9074、9076
FAX:03-6737-9098

総合食料局流通課

担当者:商業調整官 山田
調査員 上田
代表:03-3502-8111(内線4100、4102)
ダイヤルイン:03-3502-7672
FAX:03-3502-5336

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