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研究ピックアップ


農林水産政策研究

「少子・高齢化の進展と我が国の食料消費構造の展望」(PDF:1,601KB)

薬師寺 哲郎(農林水産政策研究 第18号)

少子・高齢化の進展の下で我が国の食料消費構造がどうなるのかを明らかにするため,家計調査の食料支出30分類全体にわたって,家計の1人当たり消費に影響を及ぼす要因として,出生年の違いによる「コーホート効果」,加齢に伴う「加齢効果」,時代の変化による「時代効果」の3つを取りあげ,さらに,価格と消費支出を加えて,過去におけるこれらの要因の分析を行い,これを基礎として,一定の仮定のもとに将来の消費を展望した。

その結果,これまでの消費の変化には,概してコーホート効果と時代効果の影響が大きかったことが明らかになった。これらを踏まえ,また,消費支出の一定の伸びを見込んで将来を展望すると,今後とも生鮮品から加工品へ,また,内食から中食へのシフトが進み,食の外部化が一層進むという結果となった。

 

地域におけるバイオ燃料生産の経済および環境の両立性評価 ―環境効率指標による分析―(PDF:380KB)

林 岳(農林水産政策研究 第18号)

地球温暖化などの地球環境問題は最近特に喫緊の課題となっており,経済政策も環境への配慮をなくしては国民の理解が得られにくくなりつつある。バイオ燃料の導入は地球温暖化防止に貢献するのみならず地域経済に一定の経済効果をもたらすことから,環境と経済の両立に貢献する産業とみなされている。しかし,バイオ燃料の諸効果については,環境面と経済面で全く別個に評価が行われ,両側面を統合して総合的な評価を行った事例は少ない。本稿では北海道十勝地方でバイオエタノールが生産されるケースを想定し,北海道内を影響評価の対象範囲として,産業連関分析を用いて地域経済効果とCO2 排出変化量を計測した。そして環境効率指標を用いて環境面への影響と経済面への影響を統合し,バイオ燃料の導入が地域における環境と経済の両立に貢献するものなのかを検証した。

分析の結果,十勝地方でのバイオ燃料生産はガソリンに比べCO2 の排出増加を極力抑制しながらより高い地域経済効果を求めることができ,バイオ燃料の導入が地域における環境と経済の両立性の確保に貢献しているという結論を得た。今後バイオ燃料をより環境にやさしい製品とするためには,域内で生産されるCO2 排出原単位が低い部門の原材料を多く投入する努力が必要である。

 

 

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農林水産政策研究叢書

「貿易自由化交渉の多層的展開期における農産物貿易問題の研究」

福田 竜一 著(農林水産政策研究叢書 第10号)

WTO体制の発足後,初の多角的貿易自由化交渉であるドーハ開発アジェンダ(DDA)が各国の鋭い利害対立によって停滞を余儀なくされる中,自由貿易協定(FTA)の多発化に表せられるように,貿易自由化交渉は多層的展開を遂げるに至った。FTAが多発化したDDAの立ち上げ前後からその終末期を迎える2007年末に至るまでの「貿易自由化交渉の多層的展開期」においては,FTAが多数締結されるといった成果が認められつつも,農産物貿易問題はこれまでと同様に部分的な調整を受けたにすぎず,なお再調整の余地を残したという限界点もあったと推察される。

本研究の第1の課題は,貿易自由化交渉の多層的展開によって農産物貿易問題が発生し,どのようにして調整されたのか,あるいは調整されていなかったのか,その成果と限界の解明を試みることである。第2の課題は,貿易自由化交渉の多層的展開によって農産物貿易問題が調整された結果,どのような経済的影響があるのかを明らかにすることである。本研究では交渉理論を援用した分析によって,農産物貿易問題が貿易自由化交渉全体に与える影響の解明を試みる。第3の課題は,多層的展開期における重要農産品の市場アクセス拡大の影響分析を,これまでの分析では必ずしも明示されていなかった関税割当制度(TRQ)やミニマムマーケットアクセス(MMA)を明示した一般均衡モデルを用いて行い,割当量の増大や枠内・枠外関税引き下げの影響を明らかにすることである。

各章の分析の概要とその結論は以下の通りである。

第1章では,多層的展開期に締結された2国間貿易自由化協定を対象として,農産物貿易問題の発生と調整への接近を試みた。多角的交渉では近い立場にある国同士でも,互いが直接対峙して交渉する2国間貿易自由化交渉において,農産物貿易問題が交渉の焦点の1つとなることがあった。農産物輸出国としての特質を有している国でも,一部にセンシティブな農産物貿易問題を抱えていることがある。そうした問題はこれまでの多角的交渉では必ずしも明確には現れなかったものの,FTAの多発化によって露呈された。他方FTAにおける農産物貿易問題は,GATT(貿易と関税に関する一般協定)規定の柔軟な解釈によって,またFTA締結に重点を置かざるを得ない事情を抱えた新興経済諸国の通商交渉方針もあって,交渉による問題の部分的調整が図られる余地があった。農産物貿易問題の国内における対立的関係に対しては,当局と利益団体の交渉段階からの密接な関係の構築,あるいはFTA締結による損害や影響を補償する措置など,各国それぞれの様式によって調整を図っていたことなどを明らかにした。

第2章では,農産物輸出国としての立場から農産物貿易自由化を強く主張するアメリカのFTAにおける農産物貿易問題への接近を試みた。アメリカのFTAの交渉姿勢をみると,大部分の農産品,とりわけ自国の輸出農産品目で更なる貿易自由化を求めながらも,アメリカは農業利益団体間あるいは行政組織等の利害調整能力を欠くため,同時にセンシティブな農産品の例外化を強く求める姿勢もとらざるをえなかった。その結果として,アメリカは,砂糖や乳製品などに例外化措置,長期間の段階的な国境措置削減,あるいはセーフガードの導入などを盛り込ませており,それらセンシティブ農産品の利益団体の意見に十分配慮してFTAを締結していたことを指摘した。

第3章では,農業利益団体の政治的圧力が貿易自由化協定交渉に与える影響を,一般的な2国2財国際貿易モデルを用いて考察した。FTA交渉を想定した2国間関税削減交渉における国際貿易モデルを用いて,農業利益団体の政治的圧力に影響をうける政府による関税削減交渉が結果的に関税削減を不徹底にすることなど,政治的圧力が貿易自由化交渉に及ぼす影響の理論的帰結を明らかにした。

第4章では,米豪自由貿易協定(米豪FTA)を対象として,自由貿易協定交渉における農産物貿易問題を考察した。農産物輸出国のアメリカ,オーストラリア両国が,直接相対したFTA交渉では,アメリカのセンシティブ農産物の輸入アクセスの拡大等をめぐって交渉は紛糾した。米豪FTAによって,一定の農産物市場アクセスの改善が実現されたという評価を下すことは妥当だが,農産物貿易自由化を主張の基本に据える農産物輸出大国同士のFTAとしては不完全な内容に止まっていた。また一般均衡モデルの試算結果に交渉理論を援用した分析結果から,重要農産物の除外が交渉の結果を左右するインパクトを持ち,米豪FTAの合意妥結案にみられるオーストラリア側の譲歩の程度は必要以上であったことなどを指摘した。

第5章では,韓国のFTA締結拡大戦略と農業保護問題の関係をFTAの締結構造分析によって明らかにした。韓国はその経済構造の貿易依存度の高さから,DDA停滞と各国のFTA締結競争の激化に直面すると,FTA締結拡大を志向する戦略を打ち出すことを余儀なくされた。だが同時に農業保護主義は堅持したい韓国は,最重要農産品のコメはFTAから必ず除外する交渉方針を明確にした。しかし,一般均衡モデルの試算結果に基づくFTA締結構造の分析結果によれば,韓国がFTA締結拡大による経済的利益を享受することと,その農業保護主義を維持・両立することに困難が伴うことなどを明らにした。

第6章では,アメリカのFTA拡大路線に伴う各国への牛肉割当枠拡大がいかなる影響を及ぼすのかを分析した。TRQを明示的に表現することができるモジュールを一般均衡モデルに導入して分析を行い,通常のモデルがTRQをインプリシットにモデルに組み込んでいるという問題点を改善した。オーストラリアとニュージーランドという主要牛肉輸出国とのFTA締結によって,それらへの割当枠の拡大等が実現されるとすれば,すでにNAFTA (北米自由貿易協定)によってTRQが撤廃されているカナダ,メキシコからアメリカへの牛肉輸出に影響が出ることなどを示した。

第7章では,韓国のコメのMMA延長措置に伴う,割当枠拡大の影響と仮にコメの関税化を受け入れた場合の関税引き下げの影響を,MMAの仕組みを明示した一般均衡モデルを用いて分析した。韓国はこれまで締結したすべてのFTAでコメの除外を貫いているが,その背景にはMMAによるコメの市場アクセスの更なる拡大を余儀なくされていることもあった。今回合意されたMMAの更なる拡大によって,韓国国内でのコメ価格の10%程度の低落や生産減少など,その影響が小さくはないことなどを明らかにした。

多層的展開期における主なFTAでは農産物貿易問題がこれまでにない形で多様に発生した。特にFTA締結を優先した主要各国は,国内の一部利益団体の反発を抑えつつ,一部重要農産品目を除外するなどして,FTAによって生じた農産物貿易問題の部分的調整を図った。FTA交渉では決着がつかない重大な問題は,その調整の先送りないし進行中のDDAの決着に委ねるなどの措置をとるという,いわば「調整しないという調整」を図ることでFTAの締結拡大に成功していった。だがそうした農産物貿易問題の部分的調整が交渉全体に及ぼす影響は決して小さくなかった。さらにFTAで例外的措置が認められた重要農産品にあっても多層的展開期において市場アクセスの拡大から完全に逃れられた品目は少なく,一層の市場アクセス拡大の影響はやはり小さくはないと見込まれる。

貿易自由化交渉の多層的展開によって農産物貿易自由化は一定の進展を遂げ,その意義は大きい。だが同時にそれは不均質で部分的な進展でもあった。両者は表裏一体の関係にある多層的展開の成果と限界である。農産物貿易自由化を包括的で調和したものにするためには,少なくとも交渉が停滞していたDDAでの決着が必要不可欠であった。

 

 

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