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日時:平成23年12月16日(金曜日)15時~17時15分
場所:農林水産政策研究所セミナー室
講師:ヴァンサン・シャトリエ氏(フランス国立農業研究所INRAナント支所 経済研究部長)
欧州委員会は、平成23年10月12日に、2014-2020年の共通農業政策(CAP)改革案を提案し、この提案は、現在、農相理事会、欧州議会、EU加盟国において詳細に議論されているところです。このため、EUの農業大国であるフランスから講師をお招きしてセミナーを開催しましたので、以下概要をご紹介します。発表スライドについては、農林水産政策研究所のホームページに掲載しておりますので、ご参照願います。
1. 欧州農業の特徴
欧州、欧州農業は極めて多様であり、CAPも複雑にならざるを得ません。また多様な国のニーズに沿うためには、CAPと各国の農業政策が補完する必要があります。今やEUは27ヵ国となり、例えばGDP、人口、農村人口比率で比較しても極めて多様で、農業政策立案に重要な役割を演じる国がある一方で、ただ追随するだけの国もあります。人口密度を考えると、今後の農業生産増が可能なのは、フランス、アイルランド、ドイツの一部、ポーランドの一部と考えられます。1 人当たりGDPという視点では、東欧が低い水準にありますが、農業再編との兼ね合いで直接支払いをどの水準まで行うかという意味でCAP改革議論に影響を及ぼしています。雇用という面では、農業従事者の割合が高い国がありますが、現在失業率が高まってきており、農業の集約化・合理化とのジレンマを抱えています。農家の定義によって農業の見え方も異なり、つまり欧州の農家数は13百万ですが、5百万が農業生産の95%を、残りの5%を8百万が担っています。フランス、ドイツ、イギリス、オランダという農業大国では農家数は少なく、各国の利害が異なり、社会的に難しい問題となっています。欧州の農家数は減少しつつあり、例えばフランスの農家数は年率2.5%で減少し、規模拡大が進展しています。このため農業再編よりも国土整備や環境配慮が重要な課題になってきており、国土全体に農家が広がっていることがより重要な課題となっています。
2. 欧州の農産物市場の展望
近年世界の食料価格が乱高下してきており、農業政策の議論にも影響を及ぼしています。価格高騰により、特に穀物で、必要ないところにデカップリング直接支援を行っているのではないかというCAPへの批判があります。しかし農家にとっては価格乱高下がリスクとなっており、これをどのように安定させるかが大きな課題となり、農家経営の専業化と多角化で揺れています。またエネルギー価格変動も農業経営に影響を及ぼしており、エネルギーに依存しない農業への変革が求められています。
WTO交渉でEU農業は保護的と言われますが、最大の輸入国である一方で、輸出も多いという状況です。なおEUの農産物貿易収支は安定していますが、ワイン・加工食品など付加価値の高い産品の輸出を伸ばし、大豆・大豆ミールなど原料の輸入が増加しています。日本との関係では、豚肉、ワイン、チーズ等をEUから輸出していますが、輸出全体の5%に過ぎず、品目も限られています。アメリカとの農産物貿易収支は為替がEUに不利であったにもかかわらず、改善してきました。なおEUの農産物貿易の75%は域内貿易であり、フランスにとっても域内貿易が重要です。特徴的なことは、最大の貿易収支赤字国はイギリスですが、しばしば農業支援をすべきではないと主張しており、個人的に理解に苦しみます。オランダが、フランスを大幅に上回って最大の貿易収支黒字国です。
穀物については、需要面では、北アフリカへの輸出、バイオエタノール向けが増加見込みですが、生産面では、収穫面積について、温暖化の関係で草地の維持を優先し、耕地への転換を認めず、また単収についても欧州はGM作物に消極的であり、収穫量を飛躍的に上げることは難しいという課題があります。
乳製品については、生乳生産量は過去25年ほぼ横ばいで推移していますが、飼養頭数の減少と一頭当たり乳量の向上が進展しています。世界的に消費が増加しているチーズの輸出は増加見込みです。
食肉については、特に牛肉の生産が消費に追いついておらず、将来も輸入が増加する見通し。これは乳牛飼養頭数の減少が影響していますが、CAPには、自給率を向上させるという役割があり、農産物の生産と消費のギャップが5~10%以上に拡大するのはリスクと捉え、防止策としてカップリングも必要と考えます。
3. 2020年までのCAP改革案
以上の市場展望も踏まえれば、将来のCAPについては、国土・環境保全の側面が強調されがちですが、貿易を閉じずにEUとして食料輸入レベルを容認できる水準に押さえる、つまり食料自給や食料の独立性の保持も重要な課題です。そもそもCAPのルーツは、食料安全保障、農業生産性向上、市場安定、農家所得向上でしたが、その後主にEU財政規律や環境配慮等の観点から累次CAPを改革してきた歴史があります。
フランスは、その農業支援予算の8割がCAPからの受取りであり、これはCAP予算の2割に相当する最大の受取国であることから、CAP予算の維持が重要です。フランスはイギリス等と意見が異なりますが、EU財政への最大拠出国であるドイツと協議していく必要があります。競争力のあるフランスでも農業収入に占めるCAPの直接支払いの比率は高く、CAPなしでは農業経営が成り立ちません。CAP予算の内訳は、既に4分の3がデカップリング直接支払いであり、残りが農村開発と一部市場関連施策です。今回のCAP改革案について、当初CAP予算確保に危機感を募らせ、EUの市民社会の理解を得るために、2010年に一般公開討議を開始し、チオロシュ農業委員が、グリーニング化、つまり農家支援ではなく自然環境保持を主眼とすることを訴え、これが功を奏してほぼ予算維持を勝ち取りました。
市場対応では、介入買入制度の維持が盛り込まれていますが、例えば普通小麦の介入価格は約100ユーロ/トンと、現在の180ユーロ/トン程度の市場価格と比較して、実質的に意味のない水準であることは皆が理解しています。フランスは、条件不利地での酪農経営に貢献した生乳の生産割当制度の維持にこだわりましたが、廃止されることとなりました。今後は一部の地域で経営持続が困難となることを懸念しています。また酪農家は、今後タリス、ダノンといった乳業民間企業と契約を結ぶ必要がありますが、公的機関を介さないことに不安の声もあります。
支出の8割を占めるデカップリングは、財政支出予測が容易、農家に直接支払われる、市場動向に応じた生産決定という点がメリットですが、価格動向と関係のない補助金、農地価格の上昇、環境保護との関係が弱い、条件不利地での生産放棄の可能性という点がデメリットです。新たな直接支払いでは、総額の3割をグリーニング化に振り向けることとされています。なお農地の7%を、Ecological focus area(実質的休耕)にあてるとの条件案が、世界食料不足への対応の観点からも、フランスでは大問題となっており、最終的には4~5%程度に圧縮される可能性もあります。今回、フランスが強力に主張したことから、特定生産のためのカップル(生産関連)支払いが盛り込まれました。現在、直接支払い総額の5%までを充当することが可能とされていますが、WTO交渉は当分動かないため、10%程度まで上限を上げることが可能でしょう。また支払上限額について、30万ユーロと提案されていますが、フランスにはこれを越える農家は15農家しかなく、多額すぎると考えています。基礎的支払いについて、国や地域で単一の単価に改訂することは、フランスのように過去の生産実績に基づき、農家ごとに異なる単価を設定している国には難しい課題です。
4. 質疑応答
(1) 今回のCAP改革案の特徴について
キーワードは、公的支援として環境保全のための支払いとの位置付けを明確化、施策の簡素化、補完性の原則から各国により大きな権限を与えるとの3点です。
(2) 生産者と加工業者の付加価値分配について
農産物価格の更なる低下のための農業再編の余地は乏しく、非常に困難で短期で解決できる問題ではないと思われますが、今着手すべきとの共通認識があります。まず農家と食品加工業者との契約関係を強固なものとする、続いて農業者の組織化を進めていく必要があるでしょう。
(3) 改革案に対するフランス農業者の反応について
公的介入の優先順位付けをしなければなりませんが、生産関連直接支払いを行うべき、農業プロジェクトに革新性の観点で投資支援を行うべき、グリーニング化は重要である、農業は地元に根付く産業であり分権化が必要である、農業者の組織化が必要である等の反応があります。
(4) フランス農業の競争力について
フランスには、3,000の食品企業、31万の農家、4つの大手バイヤーのセンターが存在し、その力関係はアンバランスとなっています。例えば果実や野菜については、労働集約的な農業であり、特にフランスは人件費の問題を抱えています。このため生産者組合と消費者組合との直販で対応しています。
(文責:株田文博)